お針子8
そう考える方が自然な気がする程の不自然さだった。
「なんかずっと同じで成長も衰退もしていない感じなんだよなあ」
色々な人が暮らす街だから、色んな文化が入ってきてはいる。
服装は特に住んでいるところの特色が出る。
グロリオーサの東側の町や村に暮らす人たちと南側、海側に住む人たちでは少し服装が違う。
隣の国から来た人なんか、服装ですぐにわかる。
「私の考えすぎかな。お店の入れ替わりとか結構激しいし」
「お嬢様、着きました」
ガタンと馬車が揺れ、ドアが開く。
「ありがとう」
「今日はお戻りは」
「今日はこっちの家に戻るから迎えはいいわ。明日お母さんを連れてきてね」
「かしこまりました」
「私は店にいるから、家でお茶でも飲んでから帰りなさいな」
「ありがとうございます」
馬車が去るのを見送りながら、店の中に入ると賑やかな笑い声がした。
「あれ」
知っている声だけど誰だろう。
首を傾げながら奥へと入ると作業場に幼馴染が座っていた。
「フラン来てたの。いらっしゃい」
「お久しぶり。お茶いただいてるよ」
機嫌よさそうに笑う幼馴染のフランはお城で護衛騎士の仕事をしている。
背が高く、艶のある栗色の髪を一つにまとめ騎士服を着ている姿は凛々しくて女性にしておくのが惜しい程の格好よさだ。
騎士になってからというもの休日でもドレスを着ることは少ない。装えばかなり見栄えのする美人なのに、本人は着飾ることより剣の腕を磨くことが大好きなのだ。
「今日は休みなの?」
アイロンの準備をしながらフランに尋ねる。
護衛騎士の休みは不定期だ。夜勤も早出もある。
「今日は休みだ。しばらくメリットの顔を見ていないなと思ってさ」
「こんな顔でよかったらいくらでも見てくださいな」
おどけて言うとフランは豪快に笑いだしつられてフォルシオさんも笑う。
「メリットさん。午後に採寸希望の予約が入りました」
「わ。ドレスかな」
「ええ。この間御嬢さんのドレスを作られたルミエナ様のご紹介だそうです」
「おお、ルミエナ様。ドレス気に入ってくれてたもんねえ。やったね。ファルシオさんの腕を気に入ってくれたんだよ」
ルミエナ様は王都でも有名な魔道師の奥様だ。
旦那様は王宮の魔道師を束ねる魔道師長の役職についている。
魔道師といえば変わった人……というイメージがあるけれど、ルミエナ様の旦那様は魔道師らしくない魔道師として有名な方だった。
「ルミエナ様って、魔道師長の奥様だよな」
「そうだよ。フラン魔道師の方々と仲好かったりするの」
騎士と魔道師って仲いいんだろうか。相容れない感じがするけどどうなんだろう?
「どうだろう。騎士の上の方々とは仲がいいんじゃないか。うちの部隊は庶民が多いから相手にされない」
「ああ、魔道師って貴族が多いんだっけ。ルミエナ様は気さくな方だったよ。ね、ファルシオさん」
「はい。とても優しかったです。ご自宅に伺った時も私にお茶を出してくださって」
「そうなんだ」
獣人だというだけで、門前払いする家もあるから貴族のお客の対応は基本的にファルシオさんはしない。ルミエナさんはたまたま私が留守の時に店に来たからファルシオさんが対応するしかなかったのだ。
「じゃあ予約のお客様もファルシオさんにお願いした方がいいね」
「それは、あの」
「大丈夫だよ。傍には私もいるし」
ファルシオさんは腕がいいのだから、獣人だからなんて尻込みする必要はないのだ。