お針子4
「たった二十五で人生を決めようとするなんて早すぎると思ったけどね。お前にこの仕事は合っているみたいね」
「そうね、小さなころから綺麗なレースやフリルを使ったドレスが大好きだったし、自分が作ったもので着飾る姿を見たいって思ってたの」
「自分が着る側じゃないのがお前らしいわ。妹やいとこ達の様に着飾りたいという欲求はないんだものね」
「だって、私の外見じゃ着飾ってもたかがしれてるし。お母さんみたいな綺麗な金髪でも無いし、あの子達みたいに愛らしい性格もしていないし。私は裏方の方が気が楽なのよ」
目立って誰かに見初められでもしたら最後だと思ったから、私は常に裏方に徹していた。
醜くはないと思うけど、決して美人ではない。
母も妹も綺麗な顔立ちをしていて華やかだったけれど、私は父に似て地味だった。
栗色の髪にグレーの瞳、肌は白く体つきは華奢だけどそれだけ。
元の私にどことなく似ている。
髪と目を黒くして、ツーポイントの眼鏡を掛けてカバンの中には人形用のドレスのデザインを描いたスケッチブックがいつも入っていた。
「お前がその気ならお母さんの実家のパーティに出してやる事もできるのに。ワインの出来が良かったから、お祝いのパーティを開くんですって」
「パーティかぁ、お祖母様張り切ってるでしょうね。裏方の手伝いなら行ってもいいわよ」
父の援助のお蔭で母の実家も昔の勢いを取り戻していた。
やる気のなかった祖父たちも領地の経営に力を入れ始め、十年近くかけて行った荒地の開墾はようやく実を結び豊かな収穫が望める様になってきたのだ。
寒暖の差が激しい土地に植える作物を考え、ブドウと蕎麦を進めたのは私だった。
智也の母方の実家がブドウ農家で農繁期に手伝いに行っていた時、茶飲み話に聞いていたお義母さんとお義父さんの話が役に立った。
日本のブドウはワインに、蕎麦は粉にして小麦粉と混ぜおやきやクレープとして食べる。
痩せた土地でも比較的育てやすい蕎麦は、救世主となっていた。
「まさか実家でワインを作ることになるとは思わなかったけれど、お父さんとお前には先見の明があるのかしらね。ワインの事も店の事も」
「私は無いわね。お父さんみたいな商才もないと思う。お父さんが見つけてくれたフォルシオさんがやり手なのよ」
フォルシオさんは店での相棒だ。
店を開く時に父がスカウトしてきた職人さんだった。
狼の獣人の彼女はドレスを作るしか能がない私と違って、ドレス作りは当然の事、客集金近所付き合いとオールマイティに出来る美人で頼れるお姉さんだ。
年は三十八歳、旦那さんと二歳になる女の子と三人で暮らしている。
「フォルシオさん、自分でお店持っても十分やっていけると思うな。小娘に使われて満足してていい人じゃないと思う」
「そうだろうけど彼女は獣人だからね。この国で店をやるのは難しいと思うわ。お父さんがいてお前がいるから商売が出来るけど、ひとりではね」
「そういうのって納得がいかないわ」
「上流階級の人は特に獣人を見下しているからねえ」
「へーんけーん。フォルシオさんは腕もいいし、計算も早いし、おまけに美人だし」