お針子11
「な、なんで聖女様がうちみたいな店に注文をくれるのよ」
「うん。実はさ、聖女様のお忍び用のドレスを作ってほしいんだ」
「お忍び用」
「そう。私とミランともう一人の同僚で聖女様へお贈りしたいと思ってさ」
なんだか変な展開になってきた気がする。
なんで護衛騎士が聖女様へプレゼント?
「なんでフランがお忍び用のドレスを贈ったりするわけ?」
ファルシオさんも首を傾げながら、似顔絵描きを続けている。
絵はとっても可愛い女の子になっている。
少しだけふっくらとした頬、愛らしい笑顔。これが聖女様ならまさに癒しだ。
「聖女様は街の様子をご覧になりたがっていてさ。でも護衛が大がかりなものになってしまうだろ? だからお忍びでお出かけになれないかと思ってね」
「思ってねって、それフランが考えてるだけの話なの」
期待していた分がっかりも大きい。本当に聖女さんが私の店に注文をくれたのかと思ったのに。
「いや、いつかはまだ決まっていないけど。実際にお忍びで街には出られそうなんだ。で、急に話が決まった時に着る服が無いとお気の毒だろう、殿下が用意されるかもしれないけれど念の為私たちで用意しておこうかと思ってね」
それはそうだと思うけど、なんでフラン達がプレゼントするの?
「フランの気持ちは分かったけど、寸法は分かるの?」
ドレスを作るにはサイズが必要だ。
背丈に着丈袖丈、バスト、ウエスト、ヒップ。最低限でもこれだけは必要だし。
体にぴったりとしたものを作るためには、もっと細かく採寸しなければいけない。
「ああ、分かる。聖女様付きの侍女の方に聞いてきたから」
一枚のメモを取り出して、フランはこれでどう? とばかりにニコリと笑う。
「あら、本当に小柄なのね。ふんふん。結構胸があるのねえ。その割に腰回りは若干細めね」
この世界の女性と比べれば若干細め。子供でもがっしりとした体形が多いこの世界では聖女様は華奢な部類に入るだろうけど、日本人感覚だと標準よりややぽっちゃり位かな、今の子みんな細いからなあ。
「サイズはいいけど、でざ…どんな意匠にするの。希望はあるのかしら」
顧客リストの束を取り出し、サイズを写す。
頭の中で日本語を使ってるから、ここに無い言葉もついつい口に出そうになる。
「まずは用途、街歩き用の軽めの物。貴族用ではなくていいのよね」
「ああ。お金持ちの御嬢さん風とでも考えてくれればいいかな。おっとりとした方だし町娘風では浮いてしまうだろうから」
御嬢さんは街歩きはしないと思うけど、という突っ込みは我慢して。
「聖女様の好みは」
「ドレスを一着お借りしてきた。これは聖女様が初めてご自分の好みでドレスを作られた時の物だ。変わったドレスだろう。メリットが興味あるんじゃないかと思ってこれを選んだんだ」
得意そうにフランが見せてくれたドレスに私は息をのんだ。
「このドレス」
「変わった刺繍だろう。聖女様が職人に指導されたそうだよ」
「聖女様がこれを」
胸のところにスモッキングがしてあってその下をリボンできゅっと締める様になっている。
「聖女様は自分にはこの世界の洋服は似合わないからもっと軽い形にして欲しいと希望を出されたそうなんだ」
この世界のドレスはエンパイアラインの上に大仰な布を巻きつけた様なデザインかベルラインのガウンと呼ばれる物の下にレースやフリルを何枚も重ねたパニエを付けるデザインが多い。ガウンはスカートの前か後ろのどちらかがA型に開いていて中のパニエが見える様になっているものもあるけれど、基本的には何枚も布を重ねたデザインが多くどちらかといえば背の高い女性向きだから小柄な聖女様には確かに似合わないだろう。




