4話 駅、質屋にて
立河駅内に入った。別に電車に乗るわけではない。ただ市役所へ向かう通り道なだけだ。俺は一文無しである恐怖に駆られた。このまま市役所の手続きで問題などあったらどうしよう。誰とも連絡が取れないし。誰かに相談しようにも、道端で人に声をかけることさえも怖い。笑われたらどうしよう。心が折れてしまう。でもこのままじゃ、死んでしまう。進むしか、ないんだ。
駅には多くの人がいた。十人十色とはよくいった言葉で、そのまんまだった。色んな色を見ているうちに、頭がクラクラしてきてしまう。それでも俺は前に進む。歩む人々の靴音が木霊する。その中、俺の突く松葉杖だけが、規則リズムに反した、反グラーバリゼーションを起こす。それでも俺は前に進む。皆がこちらを見ている気がする。それでも前に進む。皆が笑っているように見える、こちらを見て。それでも前に。皆は俺がお金がないことに笑っている。それでも前に。レクスを知らないことに笑っている。それでも。『エクストラクリーチャー』を知らないことに笑っている。前に。前に。前に。・・・・・・。椅子がある。ちょっと休もう。
おにぎりが喉を通らない。お腹空いてるのに。どうしたんだろう。水で流しこもう。・・・。美味しいな。この水。ペットボトルのラベルを見てみると、『生水』と書いてあり、原材料名は軟水、産地は短野と記載されていた。安心の短野、南アプルス。美味い。元気が出た。ゆっくりしているうちに自然と見上げ、駅構内の様子がはっきり見えてきた。
『紙』で貼られていたり、ぶら下がっている広告は全て電子化されていた。そういえばコンビニで、『「『紙』はあまりECに見せちゃダメよ?」』と言われたような。技術の進歩の他に、何か問題があるのだろうか。そしてレクスというお金の単位。う〜ん。
「!?」
そうだ!そうだそうだ!メール!佐倉先生のアドレスを教えてもらっていたんだ!俺は抱えていた松葉杖を脇に置き、携帯電話を取り出した。取り出した瞬間、通行人が数人こちらを見たような気がして、左手でケータイを隠すように本体を開く。なんだよ、ガラケーがそんなに珍しいかよ。電話帳から『立河病院 佐倉先生』を選び、メールを作成する。えぇと、『「先生へ、レクスっていうお金の単位って何ですか?俺、1レクス足りとも持っていないのですが。」』と。しばらく、5分ほどすると、返信があった。
『「ごめんごめん!教えてなかったね!レクス(^ ^)」』
本文はこれで終わっていた。いやいやいや。早く教えてくださいよ。俺、このままじゃ何も買えないんですから・・。返信ボタンを押し、返信メールを作成する前に新たなメールを受信した。
『「レクスはラテン語で『王』という意味があって、エクスチャーたちの旧住言語にもちょうど『ルール』という意味の言葉があって。絶対的という意味合いで類似していた為に採用された全世界共通の通貨単位なの。」』
えええええ!!全世界共通!!??じゃあアメリカでも使えるのか、あのお金は。続いて受信。
『「高見くん、旧日本円持ってたよね?その旧日本円、銀行でレクスに換金できるから持って行きなよ!じゃあ私は仕事があるので!♪( ´θ`)ノ」』
佐倉先生。あなたは最高です。大好き。俺は早速、銀行へ向かうことに決め、立ち上がった。
駅を出ると質屋を見つけた。ひょっとしたらここで換金出来るのではないかと思い、窓口で質問してみる。
「すみません。旧日本円をレクスに換金することはできますか?」
「大丈夫ですよ〜。」
陽気なお兄さんは答えた。良かった。一安心だ。だがここで肝心なのはレートである。コンビニでは旧日本円で100円だったおにぎりが30レクスだった。手元には約35000円を持っている。単純計算でザッと、11200レクスっていうところか。
「いくら分、換金なさいますか?」
質問に質問で返してしまうが、
「あの・・。1レクスは何円になるのでしょうか?」
すると、こう返答してきた。
「え、1レクスは1円ですが・・。」
!!!おおお!!本当かい!?
「じゃ、じゃあ全額お願いします。」
複数の札をバサバサ、複数の銭をジャラジャラ出す俺。すると、だんだん質屋のお兄さんの顔が興ざめていく。
「ちょ、す、すみません!!少々お待ちください!!それとお札の方は隠してください!!」
そう言われ、奥へと消えていってしまったお兄さん。な、なんだ?とりあえず、隠そう・・。お札だけを胸のポケットへグリグリとねじ込んだ。お金に目を目線を置いている間に、奥から店主と思われる人がズカズカとやって来る。まるでサ○エさんのようなクローバーマークの髪型で、丸メガネ。随分とずんぐりむっくりで、ドングリのような体型だ。
「き、君!!シッ!・・旧日本円の札を何枚持っているかね・・。」
「え、・・えーと。」
「天月店長、ここでこの話は・・。」
「そ、そうだな・・。君!!奥に来てくれ!!」
なんだなんだ。どうした。
小さな会議室のような、オフィスへと案内された。扉を開けると目の前に足の低い長机と左手に大きい二人用ソファー。右手には一人用のソファーが二つ。奥には大きな『電子ページ』で、『一に信用、二に感謝を』と大きな文字で壁に掲げられていた。
「ささっ。お座りください。」
大きい二人用のソファーに座らされた。フッカフカだぁ。
「まずは、私は天月と言います。この『信感質屋 立河店』のオーナーを任されております。」
そう言われ、俺は思わず立ち上がってしまった。
「ぼ、僕は高見と言います。」
「いやいや高見様。お座りください。ささ、お茶でも飲んで。酒井!」
遠くから酒井と思われる人の返事がした。窓口の人だろう。お茶はすぐに運ばれてきた。暖かい、ほうじ茶だろうか。出されたので、飲んでみる。う〜ん、美味い!
「さて、高見様。本題なのですが、旧日本円の、それも紙幣の方を換金するということで・・?」
「はい。そうなんですけど。どうしてそんなに慌てているのかな、と。」
「いやいや高見様。ご冗談がお上手ですね。この様な高価な物を提示して、慌てない人などおりませんよぉ。」
うむ。どうやらこの世界。『紙』が大変高価な物らしいな。さて、どういうことか。
「それでは高見様。お持ち頂いた旧日本円の紙幣は何枚ございますでしょうか?」
「そうですね・・。」
そう言って、胸元からクシャクシャになった一万円札2枚、五千円札1枚、千円札8枚を取り出す。
「おおおぉぉぉ!!!如何にも!本物の旧日本円紙幣!一枚、拝借してもよろしいでしょうか?」
返事の代わりに千円札を一枚渡すと天月さんは白手袋を装着し、デジタルカメラの様な物を右前ポケットから取り出し、それを通して鑑定し出した。
「あの・・・。天月さん。それ、なんですか?」
「ん?あぁ、これは『電子ルーペ』でございます。これ一つで顕微鏡クラスの微細な文字さえも拡大して見ることができます。」
へえぇ〜。ドラ○もんの道具みたいですなぁ。これもエクスチャーの発明なんだろう。
「いえ、これは紛れもない『人間』の発明でございます。でもまぁ、後続機はエクスチャーの技術が加わっておりますが。」
どうやら心の声が駄々漏れていたらしい。
「終わりました。」
ゴクリ。本物だとわかっていても、緊張して息を飲む。
「これは、紛れもなく、本物ですね。いやはや、4年ぶりに再会できるとは思いもしませんでしたよ!!」
天月さんはウキウキしている。そんなに珍しいか、これ。ドア横で待機している酒井さんも目をキラキラさせている。
「そんなに・・。すごい物なのですか・・?」
「いやいや高見様。これは非常に値の張る物でございますよ!」
「金額にすれば・・?」
「いやいや高見様。これは兆までとは言いませんが、億は下らないでしょう!」
億。億ってなんだっけ。一、十、百、千、万、十万、百万、一千万・・・。ん〜数え間違えたかな。一、十、百・・・。あぁ!もう!うるさいな天月さん!今勘定してるんだから価値について騒がないでくれ!あと『「いやいや高見様。」』ってもう口癖になってるぞ!
「ではでは、高見様。お聞きしたいのですが。」
お!ついに換金か!いやでもそんな大金、どうしたらいいか!
「この物、どこで盗りました?」