3話 退院。そしてコンビニにて
清々しい朝だ。この病室から眺める外の風景は美しいね。太陽は相変わらず眩しいし、遠くで見える深緑の葉を纏う木々たちはダンスしているようにユラユラしている。それにあの二羽の黄色い鳥。小さくて可愛いなぁ。二羽とも重なって四つの翼が生えた1羽のようにも見えるが。
「高見くん!!」
俺はゆっくり振り返り、大きく返事をする。
「はい!!」
「いよいよ退院の日を迎えましたね!!!おめでとう!!!」
「はい!!!」
退院する俺を見送りに佐倉先生、スローネさん、須川さん、その他俺の看病してくださった方々が病院エントランスまで来てくださった。退院ってこんな感じなんだなぁ。
「まずどこに行けばいいかわかってる?」
「わかってますよ!立河市役所からの立河避難所ですよね!」
「それがわかってれば大丈夫。その松葉杖、ちゃんと返しに来てね!」
「高見さん!本当に回復して良かった!いつでも会いに来てくださいね!」
「もちろんですよ!スローネさん!」
バイバ〜イと手を振る。俺もみんなも。こんなに別れが悲しいのは、高校の卒業以来か、それ以上だ。もっとここで休んでいても良かった。両足できちんと大地に立てる時まで待っても良かった。でも、俺はそこから飛び出したい意欲があった。居ても立っても居られなかったんだ。文字通りに。先週、家族全員に電話を掛けた。繋がらなかった。誰一人として。自分を拒否しているのか。俺のことを忘れてしまったのか。まさか、死んで・・。いや、嫌なことは考えないようにしよう。とりあえず、自分のことは自分で解決する。これから向かう立河市役所には、佐倉先生からすでに連絡してある。所要の手続き、そして俺は避難所生活をして、お金を貯めて、直接親に会ってこようと思う。そんな流れだ。大学?友達?それらは余裕があったらでいい。まずは、身寄りをしっかりとしたい。
佐倉先生たちは俺が見えなくなる所まで手を振ってくれた。そして随分と病院から離れた。市役所は病院から駅を挟んで反対側にある。まずは立河駅に向かうことにした。
「歩くと・・思ったよりも遠いな・・。」
車に乗るようになってからというもの、常に外の移動は便利な小型軽自動車だった。それに立河へ上京してきたのもごく最近といったところなので、細かな地理にも詳しくない。というか、俺が5年前に見た景色と若干違うような。
「喉が・・。乾いたな・・。」
俺は潤いを求め、駅への通り道で見つけたコンビニエンスストアに寄ることにした。入店すると馴染みのある音楽が鳴った。ここでは変わりはなかった。だが入店後に異常な違和感が俺に攻め入ってきた。
「うわぁ・・。」
人は驚くと、それ同等の発声をしてしまうものだ。これは俺の見解だが。それなりの『世界の変化』がはっきりとこの時現れたのだ。
まず一つ目。店員さんとお客さん。そこにいる人たちはみんな、カラフル、色とりどりであった。立河病院にいる、エクスチャーであるスローネさん含める看護師さんはみんなピンク色であったが、今この場にいる人たちはピンク、青、紫、黄色、そして我々『人間』、というより日本人の肌色が散りばめられていた。衝撃だった。30秒ほど固まった。信じられなかった。信じなくちゃいけないことだったが、真実だった。スローネさんの言っていたことは。本当に現実で、夢ではなかったのだ。以前、スローネさんから『人種』について教わった。エクスチャーには色んな『人種』がいると。今は文字通り色々な肌の色の方々がいるが、エクスチャーの考古学者の話では、昔は青色と赤色しかいなかったとかなんとか。とても興味深い話だ。そして驚きの情報がある。エクスチャーの肌の色に、緑色は存在しないらしい。例外として、緑色の子供が誕生することも少なくないが、何かの障害を持ち、短命だそうだ。人間の歳にして二十歳くらいまで成長した子は、『神人』になれるという伝説があるくらいである。緑色の宇宙人、いてもおかしくはないと思うのだけれどね。
驚いたこと、二つ目。陳列商品。俺が大学生をしていた頃と比べれば、3分の2が異なる、見慣れない商品があることだ。そりゃあ5年も経ってればパッケージやら、ペットボトルの形くらいは変わっているだろう。生活用品が多種、不便無く置かれ、食品はほぼ冷凍食品。新聞紙含め雑誌類、電子化。見慣れないボタン電池。そして、『保護ネットボックス』。前述から説明していこう。この生活用品の種類の多さといったら、簡単に言えば、ここのコンビニに住めてしまうほどに必要なものが揃っている。もはや無いものなんて無いのでは無いのかと、それほどまでに全部ある。おかしいなぁ、こんなにあったかなぁ、調味料まである。素晴らしい。一部外装が違うだけで、エクスチャーも使う用途が同じ様だし、より充実した感じだ。食品は、レジで精算した時に電子レンジで加熱する。おにぎりも、パンも、何もかも。冷凍食品が5年の間にどれほどの進化を遂げたのかは気になるが、まさか汁物までもが冷凍食品になるとは思いもしなかったよな。次に、電子化した情報書誌類、『電子ページ』。これは以前、佐倉先生が得意の授業のために、一度だけ持って見せてくれた。この『電子ページ』は、エクスチャーが開発した簡易電子書籍端末だ。完全なる外来品で、世界も大変称賛した技術だったようで、日本で初めて採用したのは俺もよく読む『毎回新聞』の毎回新聞社。『「毎回毎回新しい情報を!」』をモットーにして、いつも面白い記事を書いてくれる。そんな『電子ページ』は非常にエコで、紙はもちろん使用しない。細かな部品と大半が強化プラスチックで出来ている。難しいことはわからないが、購入して端末を台から外した時、数えて36時間くらいで電源が落ちる。充電は家でも可能らしいが、俺は知らん。それ専用の充電器があるのだろう。翌日再購入する際は来店する必要が無く、端末のネットワークから情報が買え、その端末を所持していればコンビニ、駅などで充電が無料。しかも1秒かざすだけで良い。非常に便利だ。まぁ俺は親から買ってもらえなかったスマートフォン一台で事足りるものだが。流石に、端末は全社共通では無い為、その企業の情報しか見ることはできないが、最新技術が詰まった一品と言える。陳列した書誌の中では、エクスチャー用になのか日本語辞典や日本語学習本などが目立つ。そんな簡易電子書籍端末などを動かす動力が、新ボタン電池『エクスBB』。この『エクスBB』は様々な大きさの物があり、今見る感じだと、M、S、SS、SSSがある。こちらもエクスチャー開発の物で、使い方はリチウムイオン電池と同様。充電式だ。どれくらいの電力がこのボタン電池の中に蓄えられるかは、今度試してみたいところだ。そんで持って膨大な蓄電、神速な充電時間のため、今現在は単三電池や単四電池といった筒状の『乾電池』は廃止されてしまったようだ。エクスチャー、恐るべし。今の携帯電話も全て『エクスBB』が使われているのだろうか・・。そして次に、『保護ネットボックス』。こちらは惜しくも金星から持ち込まれてしまった外来生物の『捕獲器』である。使い方は簡単。その生物に向かって、投げて、当てるだけだ。すると当たった方向に細かなネットが噴出し、生物を無事に捕獲できるというもの。まるで某電気ネズミの登場するゲームだ。一度捕まえてみたかったんだ、伝説のポ○モン。外見は同じ大きさだが、こちらもサイズがあり、L、M、Sがある。意外にLサイズのボックスが多い。大型の生物が徘徊でもしているのだろう。横には『緊急用』と書かれたスプレー缶が並んでいた。
そんなこんなで三つ目は『価格が異常に安い!!』。水が30円!?冷凍おにぎりも30円!?もう五個ずつ、いや、水は重いから一本でいいか!
「すみません!お願いしま〜す!」
高らかに声を上げると洗い物をしていた紫色エクスチャーの店員さんが駆け寄って、お会計してくれた。
「水が一点、おにぎりが5点で、合計180レクスになります〜。」
「は〜い。180円、と。」
小銭でピッタリ180円を出す俺。すると、
「・・。ちょっとお兄さん。これ、旧日本円じゃないのよ!」
「え・・え・・?」
「とりあえず、これじゃ買えないから。なんかクレジットカードとかないのかい?」
焦る俺。レレレレクスって何?そんなの佐倉先生から教わってないよ・・。手元が狂い、松葉杖を倒す。
「ク、クレジットカードならあります。」
通れ、通れと願いながら店員さんにカードを渡す。ぴーーーーっ。
「・・ダメだね、一度ATMからお金下ろしていらっしゃい。次はちゃんとレクスで払うことね。それに、『紙』はあまりECに見せちゃダメよ?」
俺は財布に入っているキャッシュカードで、コンビニ内のATMで現金を引き出せるか試してみた。見たことも無いエラーが出た。『今使われているカードは使用できません。差込方向をよくご確認の上、もう一度お入れ直しください』。うん、方向は正しい。てか間違えることなとないだろ。カードが使えない。日本円が使えない。一文無し。なんだこれ。ナンダコレ。買うはずだった水とおにぎりを元あった棚に戻し、俯きながら退店すると、先ほどの紫色エクスチャー店員さんが追いかけてきた。水とおにぎりを一つずつ渡された。
「大丈夫?お兄さん・・。これ奢りだから・・。」
「・・大丈夫です・・。」
コンビニから少し離れ、立ち止まり、水を口に含んだ。飲んだ同量の涙が出た。