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エクストラクリーチャーズ  作者: Crow.Online
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2話 食事とリハビリにて

 病室に入ってきたのは人外だった。人間ではなかった。だが、身なりは人間だった。違う部分といえば肌の色くらいだ。ピンク色だった。そうか、あのナース服がピンク色に見えたのは肌の色が透けていたからだったのか。

「高見くん!!バケモノだなんて・・・!彼女は同じ人間だよ!」

「・・え・・。」

人間。人間って何だっけ。俺は冷静になった。そうだ。人を外見なんかで差別しちゃいけない。きっとあのスローネさんて人は重度の火傷を負ってしまったのだ。外国人さんで。遥々海外から研修かなんかで渡日したんだ。その時事故に。そうに違いない。そうとしか考えられない。でもナース服。何が何だか。

「初めまして高見さん。私は看護をしているスローネです。」

「ハジ・・ハジハジ、ハジメマシテ。」

まだスムーズに喋れない訳ではない。緊張、驚愕、そして恐怖が重なり合って、口が上手く動かなかっただけだ。要するに、今の俺は猛烈にビビっている。

「佐倉先生からご説明があったかと思うけど、私は日本人からしたら俗にいう『エクスチャー』で、3年前くらいから高見くんの面倒を見てるんですよ。」

「ごめんね、スローネ。まだそこら辺の詳しい話はまだなの・・。」

「えぇ!!なんであたしを呼んだんですか?!」

「それはね、実際に見てもらったほうが早いんじゃないかと思って。」

スローネさん、あわあわしてる。人間なんだ。肌の色が違うだけで。別に患者という訳でもなく。俺の看病をしてくれていたのか。それなのに俺、『「バケモノ!」』だなんて・・。でも一体、どういうことだ?さっき佐倉先生の話してくれた映画と関係があるのか?『エクスチャー』って何なんだ・・?

 佐倉先生の口が開く。

「じゃあまず、『エクスチャー』について説明するね。」

佐倉先生による授業始まった。


 『エクスチャー』というのは『エクストラクリーチャー』の略語らしい。これは日本人が日本人特有の略し方の総称のようで、全世界的には『EC』と呼ばれるようだ。そしてこの『エクスチャー』は、金星から地球への移住のため飛来し、あるトラブルの発端から宇宙大戦の開戦、そして終結した。戦争期間はちょうど5年前、2013年11月4日から同年11月7日。わずか三日間の出来事だったようだ。

「宇宙大戦って割には、すごく短い戦争だったんですね。」

「戦争は戦争。死者も出ているんだから・・。それに宇宙人、『エクスチャー』との戦いなんて、当時の人類からしたら初めてだったし、大事(おおごと)にもしたくなるよ。」

俺が事故を起こしたほんの直後。こんなことが起っているとは。

「そして終戦後。あたしたちは本命の移住計画のため、地球の、各国の代表から許諾を貰いました。中には反感を買う人も。でも今はこうして不自由なく生活できているんです。」

「へぇ〜。」

何も言えなかった。話が壮大すぎて。

「あたしが日本に来た時には大体の法律が組み上がっていました。『NC』の方々は物事を迅速に解決して、素晴らしいと思います!」

「あ、『NC』ってのは『ナチュラルクリーチャー』のこと。私たちのことね。」

「自分たちのことは『ナッチャー』とかで略さないんですか。」

「んー、私たちは『人間』って言葉があるしねぇ。」

「そして、あたしたち『エクスチャー』は『人間』として、この地球で生活して良いということになりました!」

 聞いた話の感想は、凄かった。うん、凄かった。映画の話でなくて驚いた。びっくりした。そんな感想だ。おそらく、俺は状況を飲み込めていないんだろう。でもまぁ、ゆっくり消化していけば良い話だ。佐倉先生とスローネさんとの長話中にも病院食をせっせと片付けていた俺は、『エクストラクリーチャーによる外来種生物の駆除』の話をしている頃にはとっくに食べ終わっていた。


 5日後。11月12日。今日は歩行のリハビリテーションをする日だ。ようやくベッドを抜け出して、移動は車椅子で。病院内だが外出も許されるようになった。佐倉先生とスローネさんは俺が大体回復してしまったので、別の患者さんの治療に回されてしまったようだ。悲しい。まぁでも、無事に歩けるようになって、会いに行って驚かせよう、と、そんな意気込みで右足から歩み出す。

「いてぃ〜。」

まだ足に負担はかけられないな。筋肉が悲鳴を上げているよ。

「高見さ〜ん!」

こ、この声は!!ス、ス、スローネさん!!会いに来てくれたんだね!?

「頑張ってるみたいですね!その調子です!」

俺は短い期間ではあるが、スローネさんの見た目に対する偏見は無くなっていた。最初はこのような人たちと生活できるのかとも思ったのだが、ただ肌の色がピンク色の『人間』であった。何より、この人は美人だ。

「はい!ちょっとずつですけど、歩けるようになったみたいです!」

そして俺は左足を歩み出す。すると、変な音がした。

「アデデデデデ!!!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫です!すみません、心配させちゃって。」

スローネさんの肩を借りず、自力で立ち上がる俺。そしてすぐに肩を借りず強がったことに、後悔。

「あはは。本当に頑張っていますね!これならすぐに歩けるようになりますよ!」

「いやぁ、ありがとうございます!」

「そうそう、これを佐倉先生から預かっていたんですよ!」

スローネさんは看護服のポケットからあるものを取り出す。それは自分にとって懐かしくも、よく馴染みのある物だった。

「これは・・。」

「携帯電話!高見さんのでしょ?佐倉先生が『「高見くんの意識が戻ったら返してあげましょ。」』って言ってたの忘れてて、あたしが預かっていました!」

若干、佐倉先生の声真似していたような。かわいい。ってかこのケータイずっとスローネさんの元にあったのか。ズルいぞ!

「それとお財布も!」

おぉ、俺の持ち物だ。しかし、財布の方は自分の記憶の『物』よりかはずっとボロボロに痛んでいた。

「・・・。」

「・・ごめんなさい。事故のことを思い出させちゃったかな。」

いや、全く持って思い出せない。よくドラマとか漫画とかで頭痛がして『「お、思い出した・・!」』とか言うのだろうけど、全くだった。俺はスローネさんに笑いながら、正直に言った。

「いえ、全然思い出せません。」

「・・なら良いのだけど・・。」

スローネさんは俺に気をかけてくれる。優しい人だ。俺は今までこんなにも親切にしてもらったことがあっただろうか。思い出せても、両親くらいだろう。そうだ。あとで父さんにも、母さんにも、兄さんにも連絡してやらないと。ケータイも戻ったことだし。

「このケータイ、ちゃんと動くかな。」

「あ!その携帯電話の充電器!忘れてました!すぐに持ってきますね!」

そう言うとスローネさんはすぐさま走り去ってしまった。スローネさんの走る後ろ姿を見て思った。あの看護服、裸のまま着ているのではないか、ピンク色の肌が透けすぎではないか、と。ちょっとして、なんとなく財布を開いた。うん、お金もちゃんと入ってる。『高見直人』と名前が書かれた免許証も入ってる。でもこの免許証、色んな人が見て、触ったのだろう。少しベトベトしていた。

「高見直人さん!!サボっちゃダメよ!!あと5メートル頑張りましょう!!」

熱血の理学療法士、須川さんが帰ってきた。よぉし、頑張るか!


 本日のリハビリメニューが終わり、スローネさんから携帯電話の充電器を返してもらった。病室に戻って、早速このガラパゴス携帯電話の充電を開始する。1分くらい待って、起動ボタンを押す。

「・・よし!」

起動した。何の異常も無い。電話帳もそのままのようだ。父さんの電話番号・・。

「あった。」

緊張からか、躊躇する。何せ、5年もの長い年月が経っているんだ。でも、無事を報告しなきゃ。

 俺は携帯電話の『掛ける』ボタンを押す。ポチッと。プルルルルルルルル。

「・・・。」

プルルルルルルルル。

「・・・。」

プルルルルルルルル。

「・・・。」

「『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。』」


「・・うん?」

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