13話 AECR-7。ECDにて
モンスターが姿を現した。静寂と共に。
「・・すごい・・。」
「ちなみにそれ、正真正銘の日本製だよぉ!」
にんまりと大樹さんが言った。遂に世界の技術もここまで来たというのか。そのトカゲロボットは約20秒という速さで変異が完了したようで、まるで生き物のように動き出した。足の関節をグイグイ動かし、体を覆っている金属が擦り、独特の音が発せられる。
「これは、何に、どうやって使えば・・?」
「対EC捕獲ロボットだ。野生の特定エクスチャーをこれで捕獲する。」
ディンさんが説明を始める。
「このAECR-7はもはや、生き物と言っていい。」。その言葉から、このアルバイトが超の付く特殊なものだとわかるだろう。AECR-7は捕獲ロボットとされているものだが、生物の探索に加え、生物を見つけると闘ってくれるという。・・闘うって?
「特定外来エクスチャーは金星から持ち込まれたってのは知ってるよね?」
「はい。飼育してたり、食用にされていたりした生物が、逃げたり、逃しちゃったりしたんですよね。」
「そこまで分かっているのであれば問題はなぁい!高見くん。特定外来エクスチャーを実際に見たことは?」
「・・。無いですね。」
「・・いやいや、無いことはないでしょう。テレビとかネットとかで、調べなくても、ニュースとかで嫌でも情報は入ってくるはずです。」
そうか。俺はここでも説明をしておかないといけないか。5年もの眠りを・・。
俺は大体の事情を3人に伝えた。AECR-7はとても退屈だったようで、ふと目をやると座り込んでボーッとしていた。かわいい。
「なるほどぉ。そんなことがあったのか。」
「ん?大樹さん、先程、ちゃんと面接をしたんですよね?ちゃんと。」
「ん〜?あぁいやいや、君達二人の心境を代弁してやっただけさぁ!」
「・・5年か。そういうと、あの戦争を体験していないのか。」
「そうなりますね。」
・・・。なんだか神妙な空気になっちゃったな。自分はそんなに気にしていないけど。あ、よく見たら大樹さんもあんまりこの話に関心はなさそうに見えるな。マイペースぅ!
「高見くんはじゃあ・・、学生になるのかな?」
「・・そこがまだはっきり分かっていないんです。大学を見に行ってみたら、大学どころか、その地域ごとなくなっていたので。」
「・・・。」
「ほぉ。君はどこの大学なのかね?」
「私立の一王子文理大学です。」
「知らねぇなぁ。」
悲しいなぁ。
「キャンパスは?」
「・・一王子だけです。」
「残念だが、一王子市はベルシュタークの流れ弾に当たって陥落したよぉ。実際にそこに居た市民の多くは死んだ。」
「大樹さん!!!」
詩織さんが大声を上げる。正直、驚いた。
「いやいやいや、この一件。真摯に受け止めてますから!実際に大学を見に行って、その、更地の状態を見て。何があったのかは、色んな方に聞いたので。」
大樹さんは第一会議室の時から飲んでいるお茶を服む。
「この話はもういいでしょう。高見さん。あなたがここの求人に目を付けたのはあなたにとっても、私たちにとっても、とても幸運なものとなるでしょう。あなたは探し物のためにお金を得る。私たちは若い、現場班の力を必要としている。こんな偶然、なかなか無いのですよ。」
ディンさんは強引にだが話を終わらせ、手を差し伸べてきた。
「私はディン。君と同じ現場班担当だ。よろしく。」
ニカッと笑う薄青いフェイスは、やんわりと戸惑う俺の心を包んでくれたような気がした。そして、いつの間にか敬語が溶けていて、少しだけ心の距離が近づいた気もした。
「じゃあ、特定外来エクスチャーを見に行こうか。こっちだ。」
展開早いな〜。え、見れるの?
前述したように、この建物はドーム状になっていて、大半は体育館のような天井の高い、広いスペースの管理室がある。どうやらそこにエクスチャーを収監しているという。ディンさんの後を追い、「管理室」に入る。想像以上に広い空間で、屋外に比べてとても空気が澄んでいる。何より、第一印象は目の前に「森」が生い茂っている『自然』がそこにあり、天井は天窓。日が傾き、眩しい日差しが俺の顔を直撃する。
「生物のストレスになるから、あまり大きな音は立てないでね。暴れ出すと厄介だから・・。」
「はい・・。」
正直、ビビっていた。パッと見は、生物は確認できない。どうやら隠れているんだろう。遅れて、AECR-7がヒョコヒョコ追ってきた。
「こいつ・・。」
「あぁ。AECR-7は君の護衛だ。邪魔だと思っても付いてくるよ。まぁでも、今この場では頼りになると思うよ。」
「はぁ。」
何気無い返事をすると、AECR-7はピクッと反応し、辺りを警戒し始めた。人間以外の生き物の視線でも感じ取ったのだろう。
「ここは基本、野放しだ。野放しすら出来ないほど凶暴なエクスチャーは、そもそも外で人間に危害を加えてしまうので、その場で駆除する。ここは人に対して『イタズラ』程度の悪態を持つ生物、又野生特有の弱肉強食バランスに多大な影響をもたらす生物の生態を観察する為に、一時的に収監しているんだ。」
「すごいですね・・。」
驚きで、その程度の感想しか出てこない。
「ここは主に、陸上に住まう者が入れられる。地を這う虫も、空飛ぶ鳥も、全て。水棲生物に関しては、隣の別館に収監しているね。あとで案内してあげるよ!」
この立河環境保護センターはドーム型の建造物が二つ存在する。どうやらもう一つがその水棲生物の管理所なのだろう。きっと大きい水槽が並んでいるんだろうなぁ。
「別館は、ここは海からも遠いし、川もここから近い田増川しかないのと、そもそもまだ淡水系の大きい異常が報告されていないから、捕獲担当の高見くんには関係ないかもね。」
・・なんか大きなフラグが立ったような・・。って捕獲担当ってディンさん!?
「あれ、聞いてないの?君は特定外来生物の捕獲と駆除担当!私も現場班だけど、雑務と後処理があるからね。とりあえず、『コレを捕まえて』って指示があったら現場に向かい、捕まえて、ここに収監する。私はその捕獲生物の特徴をデータ化して、『チームいとう』に提出する。」
あの二人は『チームいとう』と呼ばれているんか。
「まぁ、この施設関係者だけだけどね。」
へぇぇ!!!すごい話だ。アルバイトと言っても、こんな仕事、他では見つからない。俺はここでしっかりやれるだろうか。楽しみと不安が同時に込み上げてくる。特殊な仕事。これもディンさんの言っていた『運命』であり『偶然性』なのだろう。
「あれ?君ってアルバイトなの?」
へ?
「たぶん、契約社員って形態になると思うけど。」
ん〜?というと、俺はここに就職してしまったということなのかな?
「まぁ特定外来エクスチャーの捕獲に資格はいらないし、こんな危険な仕事、誰も選ばないからね。」
え・・。ちょっと待って。と、脳から口へと言葉を伝達する間に、立ち並ぶ樹々の隙間からとんでもない速さでエクスチャーが飛んできた。俺は目を離していたので確認は出来なかった。AECR-7が守ってくれるまでは。だが、吹き飛ばされたその見たことのある容姿は、俺が二度見したことで漸く知覚することができる。猿だ。
「どわぁああぁ!」
AECR-7は口からビームを発していた。どうやらこれで猿から俺を守ってくれたのだろう。波動が伝わり、俺も吹き飛んでしまいそうだ。・・あの猿、死んでないだろうな。ってかビームて!危ないだろ!気づくと、俺は倒れこんでいて、ディンさんが手を差し伸べてくれた。
「大丈夫!?危なかったね・・。あれは地球で言う、見ての通りの猿だね。地球名では『ポルタメント』って呼ばれてるんだ。」
俺は、今更ながらとんでもない夢を見ているのではないかと、そう感じた。