10話 隣人。消失した大学にて
事情は、一王子駅で知ることとなる。立河駅で乗った中心線低尾行き。車中ではあらゆる広告という広告に『日本、復興へ』と書かれ、『一王子市』と思われる町の写真が印刷されていた。まさに、狭島県の『原爆ドーム周辺』だ。何もない。更地の写真であった。
「まさかな。」
とは思った。だが二つ駅を越し、街並みがどんどん変化していく。次が一王子駅というところで、すでに建物らしきものは見当たらなかった。そうして、目的地へと着いた。
旧一王子市役所が消失してしまった為、一王子駅の横に仮設市役所が建造された。とても簡易的で、二階建てのプレハブのようだ。駅構内、仮設市役所前にはビカビカと掲示板が羅列。全て、死亡者、行方不明者の名前だ。
「・・・。」
言葉は出なかった。出るはずもない。こんな光景。まさか自分の目で、間近で見られることになろうとは。俺は我が母校について、探索した。校舎は駅から徒歩で5分程度のはずだが、見慣れない空間が俺を迷わせる。元校舎があった場所に辿り着くと、金属製の看板が地面に打ち付けられ、油性ペンでこう記載されていた。
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一王子文理大学関係者各位
時下ますますご清祥の事とお慶び申しあげます。本校校舎は宇宙大戦の際、奇しくも戦争被害に遭いました。再建の目処は未だ立っておりません。詳しくは本校ホームページにて御確認願います。また、本校在籍生徒及び所属教員は以下から問い合わせ下さい。
一王子文理大学 生活課
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急いで書いたような乱文から、その状況が読み込める。内容も正直、めちゃくちゃだ。ずっとここにあったのだろうか、この立て看板は。塗装が剥げ、少し錆び付いていた。俺は看板に書かれた電話番号を携帯電話に登録し、その場を後にした。
俺は文字通り何にもない一王子市をしばらくブラつき、我が住まいのある立河市に帰ってきた。もう何も予定がないと言えば嘘になるが、思いつく中でやることはやってしまったような気がする。一王子文理大学生活課への電話は・・。後回しだ。そこには『知る』恐怖に怯えた俺がいた。俺の所在がどうなってしまったのか。それの居場所は。立河駅を降りた俺は、ふと『信感質屋』に顔を出してみることにした。昨日、ちょっとした騒動になったから、不審に思われるかもしれない。だけど、ジーグさんと仲良くなって、この世界について知ることができて、エクスチャー間の争いなども・・。自分よりもこの世界の偏狭について、知りたいことがたくさん、山ほどあった。
「あれ・・。」
『信感質屋』は閉店していた。まだ夕方前のはずなのに。店前のシャッター横に『電子ページ』が置かれ、こんなメッセージが流れるように表示されていた。
《本日は急用につきお休みとさせて頂きます。申し訳ございません。》
・・・まぁ、そうだよな。昨日は何億レクス相当の『紙』を手に入れてしまったんだ。ジーグさんは知り合いのいる考古学研究所に持っていくと言っていた。今日はどうやらそこに行っているのだろう。諦めがつき、俺は帰路に着いた。
家に帰ると、隣人も同時に自宅に着いた様子だった。そう言えば、挨拶をしていなかった。隣人が4-3号室のドアノブに手を掛けた時、声をかけた。
「すみません。」
「はい・・?」
気の抜けた声をしたお隣さんは、20代半ばの男性だった。あまりに長髪であったから女性の方だと思った。少し残念。
「あの、昨日隣に越してきた高見と申します。」
「あぁ、そうなんですね。なんか昨日は気配を感じたから、誰か入居したのかなって思ってたんですよ。」
ちょっとだけ微笑む隣人。良かった、いい人そうだ。こうした隣人とは仲良くしておいた方がいいもんね。おかしなトラブルは避けたい。
「僕は佐久間と言います。何卒、よろしくです。」
そう言うと彼は自宅へと帰っていった。歳も同じくらいだし、俺と同じ境遇なのだろう。いや、俺の方がもっと異例か。せっかく4-3号室の佐久間さんに挨拶したんだ、この勢いで4-6号室の方にも挨拶しておこう。そんな流れで4-6号室のインターホンを鳴らす。ピンポーン。よく聞くようで聞かない電子音がインターホンのスピーカーから出てくる。・・・。・・・。・・・・・。どうやらまだご帰還ではないようだ。また今度でいいかな。そう思い、ドアを離れると、目の前にやや高身長の女性が現れた。
「あの・・。何か御用ですか・・?」
どうやら、ここの家の人らしい。
「あ、昨日、隣に越してきた高見と言います。」
「は、はい・・。新井です・・。」
何だろう。謙虚な人だなぁ。
「あの・・、もういいですか・・?」
「あ、すみません。引き止めちゃって。おやすみなさい。」
新井さんは引きこもるように奥へ消えていった。ん〜、ま、挨拶できて良かったかな!俺も部屋に戻ろう。佐久間さんと新井さん。俺とは違い、宇宙大戦の被害によって避難してきた者たち。みんな、そういう人たちがここに来ているんだ、と、そう思わされた。新井さんはビジネススーツに身を纏ったアラサー、という感じだ。仕事帰りなんだろう。
自宅に戻り携帯電話を早速充電。確認すると二通メールが届いていた。二通とも佐倉先生だった。
『遅いよ〜( ・∇・)お疲れ様、部屋の感じはいかが?♪( ´θ`)』
『松葉杖、返してね』
という内容。俺よりも松葉杖が大事か、佐倉先生。とりあえず、返信をしておく。
『十分に身を置ける部屋です!松葉杖は時期に返します!』
松葉杖、そういえばもう必要がないかもしれない。立河駅から20メートル。全くもって使わず、よもやお荷物とさえ思えたからだ。明日あたり、返しに行こう。
明日は11月17日、土曜日。この改めた環境で、俺は何とか生き抜かなくてはならない。今はとにかく情報が欲しい。午前中に買ったシャケ弁当と一缶の初めてのビールを飲みながら、そう思った。うん?ビール?もう未成年じゃないんだから別にいいだろう?
10話記念ということで、コメントを残したいと思います。私は趣味でこの『エクストラクリーチャーズ』を認めているため、毎日投稿をしたいのは山々ですが、自身の都合で、それは難しいと判断しました。時期は空いてしまいますが、自分の好きなペース、都合の良いペースで、この『エクストラクリーチャーズ』の物語を綴っていきたいと思います。このフィクション作品が多くの人に読んでいただけるよう精進致しますので、これからも応援の程、よろしくお願い致します。