王様に会おう
◆ 王都 冒険者ギルド ◆
「お招きいただき、感謝します」
「表をあげよ……って言われる前にあげちゃダメよ!」
お昼前に叩き起こされて、イルシャちゃん達から特訓を受けている。王様に無礼な態度をとらないようにと、ありがたい特訓を。しかも冒険者ギルドだから当然、大勢の冒険者がいる。人が多いところのほうが特訓に向いているとかいう理屈だ。帰りたい。
「いいじゃん。いつ顔をあげたってさ。本当にそんなことで怒るの?」
「国で一番偉い人に庶民が変な態度をとったらどうなるか……不敬罪で死刑台に送られても文句は言えないわ」
「そんなことで庶民を惨殺する器じゃ、この国もこれまでだね」
「屁理屈はいいから続きをやるのよ。モノネさんが殺されたら私……」
「そ、そうです。大変なんですよ。プ……クスクス……」
アスセーナちゃんが、明らかに笑いを堪えてるんだけど。これ絶対、大袈裟なやつでしょ。大体、人を呼び出すなら予めどんな用件か伝えておくのが常識だ。プレッシャーを与えやがって。冒険者達が面白がってるし、いい見世物だ。
「まずはそのふざけた服装も、どうにかしたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。ふざけてると思われたら死刑台送りかもな」
「あ?」
「すみません」
調子に乗ってからかってきた冒険者を睨みつけたら、萎縮して大人しくなった。こんなチビでも、それなりに箔がついてきたもんだ。このスウェットを脱げとか、冗談でも言っちゃいけない。脱いだら死ぬやつだから。
「モノネさん。そのスウェットもそうだけど、まさか布団に乗っていくつもりじゃないでしょうね」
「歩いたら途中で眠くなって倒れて、不敬罪に問われて殺される」
「眠くならないように、薬をあげる」
「ありがと。でも後でね」
レリィちゃんの嬉しい心遣いだけど、終わったらまた寝る予定だからこれは飲まない。まったく捗ってないイルシャちゃんの特訓もいよいよ佳境というところで、騎士達が入ってくる。
「迎えにきたぞ」
「というわけで行ってくるね」
「モノネさん! 本当に大丈夫?!」
「アスセーナちゃんがついてるからね。平気だよ」
「私、行きませんよ?」
「はい?」
「呼ばれてませんし。それに王様とは何度も会ってるので、今更改まって話すこともないんですよね」
待って。こんな無礼千万なチビが王様のところへ行くというのに、クスクス笑ってたの。私が殺されたらどうするの。アスセーナちゃんにとって、私はその程度の存在だったの。悲しい。この特訓といい、友情というものを疑いたくなる。
「それと王様を守るロイヤルガードには気をつけて下さいよ。代々王家に仕える家柄の方々で、実力ではゴールドの冒険者に迫るという話です」
「なるほど。つまりアスセーナちゃんでも勝てないわけだ」
「勝ーてーまーすぅ!」
「はいはい」
ゴールドに匹敵するなら普通にアスセーナちゃんより強いはずなんだけど。ムキになるなら、無駄に脅かさないでほしい。
「行くぞ。それと言葉や態度には細心の注意を払えよ。場合によっては二度と外の光を拝めなくなるからな」
「なんて仕打ちだ。私が何をした」
昼寝前の仕返しなのか、騎士の一人が露骨に脅かしてきた。呼びつけておいて、気に入らなかったら監禁が権力者様のトレンドかな。もう早く済ませよう。
◆ 王都 城門前 ◆
「まず布団と剣、それから弓矢を置いていってもらう。そこの人形もな」
「ティカは物じゃないよ」
「お前が使役しているのだろう? 攻撃手段に使われでもしたら大変だからな」
服を脱がされるんじゃないかってくらいチェックされまくってる。魔力チェックまでされて、魔力値8という恥ずかしい数値まで暴露された。誤作動か何かを疑って2、3回チェックしてた。帰りたい。
「ま、まぁ珍しい数値ではあるな。これなら安心だろう」
「これが高かったらどうなるんですか」
「場合によっては謁見は中止になるな」
出来るだけ攻撃手段を取り除いてから、城へ入れるという徹底ぶり。宮廷魔術師とかいう人が、一定の魔力値以下の人の魔法を封じる結界を張ってるらしい。魔術協会にも所属していない実力ある魔術師と聞いて、アンガスとどっちが強いかなとほんのり考えてみた。
「後はアビリティだな。これに関しては封じる手段が未だに確立されていない。お前のアビリティについて話してもらおうか」
「布団とその他少々を操るアビリティです」
「……本当だな? 嘘をつけば、虚偽罪に問われる場合があるが、その答えでいいんだな?」
「はい」
嘘はついてない。こんな質問をしたところで、全部を明かす奴なんていないのに。あらゆる無数の物を操れようと、私の感覚ではその他少々。はい、感覚の違いで終わり。ゴーレム君はその一つに過ぎない。
「その他少々というのは、例えばどんなものだ? いくつある?」
「数えたことないですね。本とか本棚とか、大したものはないです」
「うーむ。まぁいいか。陛下直々のご命令でなければ、もっと責めていたところではあるが」
いつかの警備兵の悪夢がよみがえる。これも場合によってはまさに門前払いかな。面倒だからしてほしかった。懐疑的にジロリと一瞥してきた後、兵士がなんかため息を吐いて立ち上がる。
「入城を認める。少しでもおかしな動きをすれば、すぐに取り押さえるからな。後は城内のスケッチも禁止だ。こちらが認めた場所以外には立ち入り禁止。謁見の際には、陛下とはこちらが指定する一定の距離を保ってもらう」
「わかりました」
おおまかにまとめると魔法の才能がなくて、武器がないとほとんど戦えない人のみが入れるのか。布団まで取り上げれるとは思わなかった。布団で何が出来ると。
「それと特例でその服装は認めるが、本来ならば王族との謁見に相応しい正装をするのが常識だぞ」
「わかりました」
いきなり庶民を呼びつけておいて、正装だなんて無茶振りだもんね。これでウサギファイターは格闘戦以外が不可能になりましたとさ。イヤーギロチンがあるけど、あえて黙っておく。手の内を明かしていいことはない。
◆ 王の間 ◆
「陛下、こちらが冒険者モノネです」
「うむ。下がってよいぞ」
無駄に広い室内に偉そうな玉座が二つ。白髪が目立つダンディーなおじさんと、きつそうな目つきで牽制してくる女性がそれぞれ座っている。あれが王様と王妃か。
その左右には若い男女が二人ずつ。鎧騎士みたいなのから二刀流っぽい人と、レパートリーに事欠かさない。あれがアスセーナちゃんが言っていた王族直属の護衛か。ティカがいたら戦闘Lvがわかったのに。すごい睨んできて怖い。
「お待たせしました。私が冒険者モノネです」
「話に聞いていたより、ずっと幼いな。年はいくつだ?」
「ピチピチの16歳です」
「貴様、ふざけた返答をするな」
二刀流の人がずいっと前へ出てくる。別にふざけたつもりはないんだけど、何が気に入らなかったの。
「よせ。王族、貴族でもなければ当然だ」
「しかし……」
「平民と知っておきながら呼びつけた私が、作法について説法するとでも?」
「申し訳ありません」
これはいい展開だ。でも二刀流が納得いかなそうに、ずっと眉間に皺をよせている。その顔は不敬罪だね。
「改まるまでもないが私がユクリット王国の王フィリップスだ」
「王妃のシトゥーラです。あなた、かわいい恰好をしているわね」
「お褒めの言葉、ありがたき幸せです」
「あら、いい言葉。それなりにお勉強してきたのね」
きつそうなのは目つきだけだった。表情を崩して微笑んでくれる。短期間の特訓の成果だね。イルシャちゃんにお礼を言って、おくのはやめよう。調子に乗って特訓を再開されても困る。
「突然、呼びつけてすまなかった。以前から家臣達の間で、おぬしが話題になっておってな。噂通り、奇抜な恰好だな」
「お褒めの言葉、ありがたき幸せです」
「う、うむ。ところで私は冒険者という存在を軽んじていない。中にはおぬしのように、国に大きく貢献している者も多い」
「お褒めの言葉、ありがたき幸せです」
「んむ」
さすがに連発しすぎたか。口籠った王様の代わりに二刀流が凄みを利かせてくる。なにさ、やんのかコラ。やりません。
「遥か遠方には、冒険者を政策の中心に取り入れて発展に成功した国もある。我が国もそれに倣おうと考えているのだ」
「それは素晴らしいお考えですね」
「お褒めの言葉、ありがたき幸せね。フフッ」
王妃様が茶化してきやがった。堅苦しくなくて、ずっと気が楽だ。どんな用件か知らないけど、思ったより無茶振りっぽい事を言われずに済みそう。
「そこでだ。おぬし、王国の専属となる気はないか?」
「ないですね」
「……詳細だけでも聞いてくれんか」
「貴様ァッ……!」
私は無茶振りを断っただけだ。どんな用件かと思えば、つまらない。ちょっとしょぼくれた王様がかわいいけど、二刀流はかわいくない。やんのか、コラ。帰ります。
◆ ティカ 記録 ◆
またもや 爪弾きとは 温泉施設といい 僕に優しくなイ
暇を持て余した際には 戦闘Lvを チェックしてしまウ
門番 それぞれ戦闘Lv 22と23
同行した騎士達が 大体 32前後
王国の兵隊 騎士ともに かなり 鍛え上げられていル
騎士団長ともなれば 40はいくかも しれなイ
アスセーナさんが 言っていた ロイヤルガードは 遠すぎて 拾えなかっタ
マスター 無事だろうカ
無礼な 発言をして 拘束されたことを 想定して 僕の中で
一度 解決に至る 行動を まとめよウ
引き続き 記録を 継続
「自分の足を誰かが掴んでいる。少女は起き上がろうとしましたが体が動かなく」
「もういいよ。怖がらせたいのはわかったからさ」
「モノネさん! こっちは準備が出来ましたー!」
「あれ、アスセーナちゃん? なんでそっちにいるの? 今、こっちで……いないし」
「モノネさんこそ今、誰と話していたんですか?」
「出発するしかない。深く考えないのが私のモットー」




