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清算して眠ろう

◆ 王都 冒険者ギルド ◆


「というわけで、戻ってきた次第でありました」

「おかえりー。そこの二人もおつかれー」


 任務達成失敗どころか邪魔までしてくれた魔術師二人の周りをぴょこぴょこと周るギルドマスター。どうしてそこで挑発っぽいことするの。逆上して暴れ出したら責任とってほしい。


「結果を出せなかったけど、今どんな気持ちー?」

「うるさい、突き出すなら早くそうしろ」

「散々バカにしてきたくせにさー。自分がそうされると、ふてくされるんだよねー?」

「おのれ……!」


「ホッホッホッ……その辺で勘弁してやってくれませんかね」


 白い口髭を生やした丸顔のおじさんがやってきた。見た目が神官っぽいし、魔術師かな。これはお迎えにきたんだろうな。だとしたら突き出すわけにはいかないか。


「マテラ……推進派のジジイが何の用だ」

「法廷で、お前達二人の弁護をしてやろうというのだよ」

「それで恩を売ったつもりか。相変わらず推進派の草の根運動は涙ぐましいな」

「協会の上層部には、過激派のやり方を疑問視する者も多くてな。ほれ、少しは感謝する気にもなるだろう?」

「クソッ……!」


 推進派とかいってるし、こういうゴタゴタには絶対関わりたくない。組織になんて所属したくないな。同じ組織ですら、なんとか派に分かれて仲良くできないってなんか皮肉だ。


「というわけで皆さん、こやつらの引率はワシがやりますので。今回の件は本当に申し訳なかった。お詫びになるかはわかりませんが、魔術協会からの心づけがあります」

「わっは! お金! ギルドに寄付?」

「遠慮なく受け取ってくだされ。ワシらとしても、過激派が魔術協会のイメージとして定着するのは避けたいですからな。ホッホッホッ」


 ホッホおじさんがギルドマスターに渡したお金の額がすごい。当然、あれは私達に還元されるものだと思ってる。こういうことされると、推進派最高ってなっちゃう人もいるんだろうな。


「推進派さいこー」

「ホッホッホッ、それはありがたい。我々としても、事を荒立てずに魔術の素晴らしさを広めていきたいものです」


「おい、ジジイ。いつまで駄弁ってる」


 ギルドマスターが最高しちゃったよ。ぷっつん魔術師二人が待ちきれないみたいなので、そろそろ引き取ってほしい。こっちもやることがたくさんある。


「では皆さん、ご用があればいつでも魔術協会へ。それとそこのウサギのお嬢さん」

「なんですか」

「この二人が失礼したようだが、どうか魔術協会を誤解しないでほしい。我々は、お嬢さんみたいな特異性が高い人物とは積極的に交流したいと思っている」

「それがどうかしたんですか」

「今回の件はしっかりと上層部に報告しておくでな。ぜひとも、良い関係を築きたいものだ。ホッホッホッホッ」


 含みのあること言いやがってからに。優しそうな風体を装っているけど、やっぱり推進派だ。好奇に満ちた視線が私のウサ耳から足先まで、這うように動いていた。


「ホッホッホッ……ホッホッ。失礼、嬉しいとつい頬が緩んでしまって。ホッホッホッ」

「ばいばーい」


 待たせすぎた王国兵と一緒にホッホおじさんと魔術師二人がギルドから出ていった。私にとっての良い関係は一切かかわってくれない事だ。それ以外はない。私は私の好きなように生きる。組織に拘束なんて真似をするなら、さすがに本気を出すしかない。


「モノネさん。怒ってます? ウサギのお耳が鋭くなってますよ」

「あっと、いけない。別にあのホッホおじさんに殺意を向けたわけじゃないんだけどな」

「あの人、モノネさんの逆鱗にわずかに触れてしまったようですね」

「特異性がどうとかいうなら、アスセーナちゃんがいるのに何なの」

「魔導に携わるものとして、モノネさんがいかに異質に見えたかってことですよ」


「耳が元に戻りかけてる……」


 アスセーナちゃんと会話して、だいぶ落ち着いたかもしれない。ウサギ耳の刃化で、周囲が引きまくってる。指でつんつんしてるのはシャンナ様だけだ。やめてって。


「じゃあ、今回の報酬をねー。あれー、ギルド長? どうしたのー?」

「……魔術協会に依頼をした手前、私からも謝罪しなければいけません」

「あー、いいですいいです。責任なんか絶対に感じなくていいです。良かれと思ってやったけど、来たのが頭おかしい連中だったってだけ。誰も犠牲になってないから問題なし。以上」

「そう言ってくれると気が楽になる。すまない」


 結局、頭を下げちゃった。辛気臭いのが嫌なだけだし、悩んでもいいことない。行方不明だった人達も本当に無事だし、王国兵と一緒にゾロゾロと出ていった。

 これから洗いざらい、あの街について話すのかな。さて、そうなると国がとる行動はどれかな。いち、あいつはやばい。街と一緒に消すしかない。に、解決したしウサギ一匹くらいどうでもいい。さん、ご褒美を用意してお待ちしてます。パッと思いつく限りで、このくらいか。

 現実的なのはいちとさん。いちを実行するなら、私にすり寄って街へ案内させたところで騙し討ちくらいやるかな。いろいろ考えられるけど、考えてもしょうがない。思考終わり。


「それでモノネちゃんとアスセーナちゃんねー、報酬もあげるし、実績もぐぐんって上がったよー」

「ぐぐんとありがとう」

「マスター、大勢の騎士がギルドに近づいてきまス」

「なんですと」


「冒険者モノネはいるか?」


 ゾロゾロと大量にお出ましだ。穏やかじゃなさすぎる。しかも騎士団の人達だ。国の最高戦力まで揃えて私をどうするつもりか。


「あのウサギの恰好をした少女がそうだ」

「あの子か。おい!」

「つーん」

「み、耳を伏せて……我々を前にこの態度。なるほど、確かに大物かもしれん」

「アレは本物じゃないはずだが……」


 ひと眠りしたいのに、次々と邪魔が入る。さっきのホッホおじさんのせいで、私は少し機嫌はよろしくないんだ。最高戦力を揃えて脅しかけても屈しない。


「先程の者達に伝え忘れていてな。お前も城へ連れてくるようにと、国王陛下直々のご命令だ」

「つーーーん」

「おい、いい加減にしろよ」

「やめておけ。あのゴーレムを手懐けた奴だぞ。騎士団長も一目置いているし、手荒な真似はするなとも言われているはずだ」

「仕方ないな……。悪いようにはしない。城へ来てほしい」

「その前にひと眠りしていいですか」

「こ、この……!」


 別におちょくってるわけじゃない。本当に眠いんだ。寝ようと思ってたところに、この人達が来ただけ。だから私は悪くない。あれ、でもちょっと待って。国王陛下とか言った?


「国王陛下って王様のことですか」

「そうだ。滅多にないことだぞ。断れば不敬に問われる可能性があるが?」

「断らないけど、ひと眠りだけは譲れませんね」

「マスターの安眠を妨害するならば、容赦はしなイ」

「なんだこいつは……これもゴーレムか?」


 違うけどゴーレムってことでいいや。なんでこの私がウトウトしながら、こんな鎧まみれのいかつい人達の相手をしなきゃいけないの。ゴーレムけしかけるぞ。


「どうしても、眠らなければならないのか?」

「あのですね。こちとら夜中まで戦ってほとんど寝てないんですよ。やっとこさ解決して帰還したと思ったらこの仕打ちですよ。感謝してるなら、もう少し気をつかってほしいですね本当に」

「うむ……まぁ。もっともだな。では騎士団長を通じて、陛下に掛け合っていただこう」

「おい、正気か」

「仕方ないだろう……怒らせてつむじを曲げられたら元も子もない」


 ヒソヒソと何をご相談なさってるんですか。考えてみたら、この人達もお仕事でやってるんだ。私に出来ない労働に勤しんでいるんだから、少しだけ優しくしてあげてもよかったかもしれない。


「では午後過ぎの運びでいいか?」

「それはわかりませんね。下手したら夕方になるかもしれません」

「お、お前……本当にいい加減に……」


 ダメだ。眠気のせいで、すごいこと言ってる。冷静に考えたら王様に呼び出されるってすごい事なんだけど、眠すぎてどうでもいい。


「ではこちらから迎えに……」

「いいな。絶対に……」


 なんか言ってるけど、もう頭に入ってこない。寝る。


◆ ティカ 記録 ◆


やれやれ 気が休まるところがなイ

マスターの 許可さえあれば 自由な安眠を 約束できタ

魔術協会のマテラ 魔力だけならば アンガスよりも 遥かに劣るが

油断は できなイ

マスターを 利用しようと 考えているならば 僕も本気を出そウ

新たな力にて 迎え討とウ

気がかりなのは 国王ダ

国のために マスターを利用するのカ

そうなれば やはり 何も 変わらなイ

結局 幾年経とうが 人は 変わらなイ


モノネ はやく まちに かえってくるぞよ


ん やはり 何か おかしイ


引き続き 記録を 継続


「……ある日、引きこもりの少女が夜中にふと目を覚ましました」

「一切そんなことないかな」

「こんな時間に目を覚ますなんて。と思った直後、体が動きません。必死に眼球だけを動かし、見渡すと――」

「私に置き換えて実話怪談風に怖がらせようとしても、無駄だといっておく」

「せめてオチは気になりませんか?」

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