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本当に今度こそ皆を帰そう

◆ ツクモポリスの街 宿 ◆


「モノネさん。モノネさん」


 誰かが布団をゆすっている。だけど残念ながら、この掛け布団が開かれることはない。私は極限に眠いんだ。何せ昨日は夜遅くまで、帰ろうと右往左往してたところでツクモちゃんと戦った。その上、頭が狂った魔術師の相手までしたんだから起きられるわけない。


「開かないわ……」

「これは恐らくモノネさんでなければ、開けられないのでしょう」

「貝みたい」


 この閉じられた貝が開くのは恐らく午後過ぎ。今はまどろんでいたい。おやすみ——


「じゃあ、スペシャル朝食は皆で食べましょ」

「モノネさんの分はありませんね」


「とっておいてくれるという慈悲がまったくない!」


 そうと聞けば、貝を開かざるを得ない。飛び起きたところで、二人にニヤニヤされた。何もかもが計算通りってわけね。仕方なさすぎるので、体に鞭を打って起きよう。つらい。


◆ 宿 食堂 ◆


 食堂のテーブルには総勢100人以上。元行方不明者達や物霊達、私達4人の他にあの狂った魔術師二人が同席してる。あれが暴れ出したらアスセーナちゃんに何とかしてもらおう。イフリート君は、事前に強化魔法をかけていたみたいで助かったみたい。それでも虫の息だったから、レリィちゃんの薬で応急処置はした。死んでいたらしょうがなかったけど、生きていたならまたしょうがない。


「うむ。皆の者、席についたようだな。改めて挨拶をしよう。私が――」

「そういうのいいから、昨日みたいにぞよってていいんだよ」

「ぞよっててって何ぞよ! わらわはこの街の」

「料理、冷めちゃう」

「うむ!」


 一番、涎を垂らしてるのは誰なのって話だ。いの一番にがっついてる。しまらない街の総大将はほっといて、私もいただこう。街で採れた卵をふんだんに使った卵料理づくしを。


「う、うますぎる!」

「出し巻き卵というのか? 卵のうまみと香りが凝縮されているようだ……」

「この街の食材あってこそね。卵やミルク、その他の農産物はこの街の魅力の一つといえるわ」

「おやまぁ、私の料理じゃお客さんがこないわけだわ」


 宿のおばさんも観念してる。レストランのおじさんもこれを機会に学んでほしい。といっても物霊なんだっけ。昨日のアレのせいで、魔術師二人が完全に口を閉ざしている。さっきから俯いて、目を合わせようとしない。あの威勢はどこにいってしまったのさ。


「早く……早く帰してくれ……まだ悪夢は終わらないのか……」

「バーファ様の御霊が囁いておられる……ここは危険だと……」


 威勢どころか、完全にトラウマになってた。あんなにおいしそうな朝食にも手をつけず、震えてる。


「お帰りですかぁ?」

「うおぉあぁっ!」

「やめなさい、町長」


 後ろに現れて、そんなセリフを吐くんじゃない。昨日もそうだったけど、物霊だから何でもありなんだな。この街においては無敵かもしれない。

 今回の件でわかったのは物霊は世間一般に認知されているアンデッドとは少し違うことだ。もう一つ、その特異性は魔術協会ですら把握してない可能性が高い。あの2人がたまたま知らなかっただけかもしれないから、断定はできないけど。何にせよ、私にとっては朗報だ。


「そ、そうだ。オレ達は無事に帰れるんだろうな?」

「彼らに害意がないことはわかった。この料理もうまい。だけどそれとこれとは別だ」

「私も配達の途中だったのよ」


 はーたんを含めた皆の意見はもっともだ。ツクモちゃんによると、ここは私達の世界とは隔離された場所だから、普通はどうやっても入れないし出られない。言ってしまえばツクモちゃん次第で、旅人を簡単に誘える。だけどあのナベルみたいな高レベルのエクソシストとなれば、その手の展開には慣れっこみたいで。


「アンデット特有の"死界"と判断していたが甘かった……私はなんて哀れなんだ……」


 とぼやいているくらいだから、こじ開けて入ってこられるっぽい。死界が何なのかは今のところ、どうでもいい。どうせアスセーナちゃんが知ってる。


「無事に帰すぞよ……」

「そうしてくれるとありがたい」

「帰ってしまうぞよ?」

「そりゃそうだ。オレ達にだってそれぞれ生活があるんだからな」

「……ぞよ」


 ぞよちゃんが寂しそうにしている理由はわかる。どんな形であれ、忘れられたこの街に外部の人達がきて嬉しいんだろうな。あの人達が帰ったら、また誰もいなくなる。これに関しては私も一肌くらいは脱ぎたい。


「そこの魔術師二人さん。今回は殺しかけてスッキリしたから許してあげる。今回はね?」

「わかった、わかったから早く帰してくれ! 頼む!」

「お帰りですかぁ?」

「あぁあああっ!」


 テーブルの下に潜むんじゃない。段々、おどろかすのが趣味になってきてるでしょ。そういうことばっかりやらないようにきちんと注意しないと。これからこの街は生まれ変わるんだから。


「うーん、こう言ったら何だけどあの人達にお咎めなしってどうなの?」

「イルシャちゃんのご意見はもっとも。はい、アスセーナちゃん」

「あの方々は冒険者ではない以上、ギルドでの対処はできません。今回の暴走を皆さんに証言してもらえれば、王国に引き渡して処分を下していただくことは可能です」

「それでいいんじゃない?」

「ですが魔術協会が黙ってないでしょうね。特に過激派(アボロ)といえば、どこでも腫物に触れるような扱いを受けています。報復を恐れて、無罪に処される可能性が高いです」

「王国も情けないわね! 国として恥ずかしくないのかしら!」

「いや、そうすると決まったわけじゃないから。私としては一応、引き渡すつもりだよ」


 大人の事情ってやつだけど、だからといってやらないわけない。私達だけじゃなく、あの人達も殺されかけたからね。正直いってもう魔術協会とか関わりたくないけどね。


「ごちそうさま。街に関しては後でね。ツクモちゃん、列車に向かおうか」

「行先はどこにするぞよ」

「ギルドに報告とかいろいろあるから王都かな」


「お帰りですかぁ?」


 お帰りです。これがトラウマになってる人が多くて、ビクッと体を震わせてる。では行方不明者ご一行、列車で帰還します。


◆ 魔導列車 ◆


 全員が乗り込んだのを確認してから、早朝一番に出発する。眠くて寝たいのを我慢しつつ、ガタンという発車の感触を体感した。今度こそ、帰れる。快調に走り出した列車が森の中を突っ切ったと思ったら、風景がするっと切り替わった。


「あ、あれは王都じゃないのか?」

「本当に帰ってきたんだ!」


 確かに王都が遠くに見える。さっきまでツクモポリスの街だったのに早い。もう少し寝られると思ったのに。


「帰ってこられたけど、皆にはいろいろ喋ってもらうことがあるからね」

「口止めしないのか?」

「何を?」

「あの街を、あの子どもをかばうならオレ達を口止めする必要があるだろう?」

「下らない。そこまで言論統制するつもりもないし、恨みつらみで喋ったところで問題ないよ。まぁ、でも。卵料理、おいしかったよね?」

「おう……そうだな」


 実際はイルシャちゃんの腕によるところが大きいけど、素材の良さは本物だ。たまたま条件とやり方が悪かっただけで、街のポテンシャルは十分にある。それどころか、この世界に存在しない幻の街なんてキャッチフレーズは絶対に武器になるはず。


「魔導列車が動いてる……大昔、協会が捨てたはずの魔導列車が……」

「奴らの力は魔術を超えているのか? だとしたら我々、魔術師の未来が危ぶまれる……」


 どっちが上とか下とかで争っても仕方ない。お互い、出来ることをやればいいと思うのだけど。そんな理屈が通じたら、過激派なんてやってないか。



◆ ティカ 記録 ◆


今度こそ 一件落着

ツクモポリスの今後ですが これは未知数

拉致された方々の恨みが 深ければ 発展への 妨げになル

過激派にしても 今後 トラブルにならないと よいガ

がんばるぞよ


?!

気のせいか 何か 入り乱れたようナ

引き続き 記録を 継続


「アンデッドねぇ。この実話怪談本に書かれてるのが本当なら人知を超えてるね」

「有名なのは幽霊船ですね。数百年前に沈んだとされる豪華客船が今でも海を彷徨っているとか」

「そっちの霊はさすがにお手上げかな。まぁ船に乗らなきゃそんなのに遭遇することもなし」

「幽霊馬車の話はご存知ですか? 霧の中、首がない馬が蹄の音を立てて」

「さっきから怖がらせようとしてるみたいだけど、無駄だと言っておく」

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