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今度こそ帰ろう

◆ 王都 冒険者ギルド ◆


「魔術協会より派遣された魔術師アンガスだ。下らん時間を過ごすつもりはない、話があるなら手短に済ませろ」

「同じくエクソシストのナベルです」


 モノネがいるかと期待して、休日に足を運んでみたが期待外れのようだ。しかもすでに王都を発ったらしく、挨拶すら出来なかったことを後悔している。何故、もっと親交を深められなかったのか。

 そして今、ここで不遜な態度が見え隠れする二人がギルドの支部長という人物と対峙している。モノネが動けば失踪事件も大きく進展すると思うが、支部長が呼んだのはこの二人だ。あのローブに記された悪魔のようなマークには覚えがある。


「よく来てくれた。王国も手が回らないそうでな。早速だが――」

「無駄話は不要だと言っただろう。すでにこちらで大半は把握している。そちらは報酬だけ用意して待っていればよい」

「そうか。無粋だったな」

「ねーねー、解決できなかったらどうするー?」


 子どものようなギルドマスターが、熱気のこもった魔力をまとった二人に話しかけている。そんなギルドマスターを威圧するかのように、その熱を当てているようだがまったく動じてない。


「……我々を誰だと思っている」

「魔術協会の中でも過激派で有名な"アボロ"の人達でしょー? 結構嫌われてるよねー」

「我々を疎ましく思っているのは、何の成果もあげられない凡人のみだ」

「ふーん。じゃあ、成果を上げられなかったら二人も凡人だねー」

「ギ、ギルドマスター! せっかく来ていただいたのだから、そのような物言いは慎んで下さい!」

「構わんよ。子どもの戯言に揺れ動くほど矮小ではない」


 その言葉が本心から出たものではないことは、ある程度の実力者なら肌で感じられるはずだ。肌を焦がさんばかりの魔力が放たれているところが、アンガスの心情を物語っている。


「失踪事件か。こんな茶番で右往左往するとは、やはり世間は魔術協会の遥か後進を行っているようだな」

「一刻も早く、浮かばれぬ御霊を払いたい。すべては偉大なる大魔術士バーファ様の御心のままに……」


 魔術協会の過激派(アボロ)。高い実力と実績はあるが礼を欠いたやり方は、私の耳にすら入るほどだ。奴らを前にして冷静でいられるのは私を除けばたった二人のみという現状が、奴らの実力を裏付けている。ギルドマスターと支部長以外は、その身に照りつく熱気の正体すらも認識していない。

 防具を外し、だらしなく椅子に座り込む冒険者達の容態が心配だ。あの2人には早々に出て行ってもらいたい。


◆ ○×□△の街 ◆


 最後の交渉だ。これでダメなら、本当に逃げるしかない。布団に乗りながら、いつでも逃げられるようにはしてる。揉み手町長は相変わらず笑顔を崩さない。


「おじさんはこの街で何がしたいの?」

「王都との懸け橋、夢の街を目指しております。お客様にもぜひゆるりと、くつろいでいただきたく思います」

「私達ね、帰らなきゃいけないの。おじさんの目標と同じくらい大切なの。だから帰して?」

「そうですか。それならば当○×□△の街には魔術鉄道の駅がございます。そちらからお帰りいただけます」

「そうなんだ。ありがとう」


 すんなりと話が通ったな。一応、布団に乗ったままでいよう。アスセーナちゃんに目で訴えかけると、小さく頷いた。従えってことか。確かに害意がないと仮定すれば、このまま帰してくれてもおかしくない。反抗するのはまだ早いか。


「ご案内しましょう」

「それはありがたいけど、外の人達は何をしてるの?」

「外? 夜も更けていますし、人通りも少ないはずですが?」

「あ、はい」


 見ると、あれだけいた大勢の人達が綺麗さっぱりいなくなっている。幽霊なら当然の芸当か。でもなんか変。

 受け付けでお金を払うと、おばさんが猫なで声を出してお礼を言ってきた。あのレストランと同じだ。なんでここで優しくなるのさ。


◆ ○×□△の街 魔術鉄道の駅 ◆


「着きました。あちらからお乗りいただけます」

「案内ありがとう」


 友好的に振舞っておけば、帰してくれるかもしれない。アスセーナちゃんによれば、こういう場合は彼らのルールからはみ出さないほうがいいらしい。下手に足掻いて彼らの怒りを買えば、大変なことになる。さすがベテラン冒険者だ。

 町長に愛想笑いを向けつつ、列車とかいう乗り物を観察した。長い建物みたいな箱がいくつも連結されている。そこに車輪がくっついてるし、なんか変な乗り物だ。


「魔導列車……完成した暁には各町や国を結ぶ乗り物として活躍するはずでした。しかし魔術協会の技術不足に加えて欠陥が見つかり、日の目を見ずして廃止されてしまったのです……」

「この街では動いてることになってるんだね。なんだか物悲しい」


 冷たい車体に軽く触れる。もう動くことはないはずの列車君は何を考えているのかな。


――お客様を安全に送り届けたい

――お帰りのお客様がいらっしゃってる


「……私達を元の場所に帰してくれる?」


――お安い御用です


「皆、帰してくれるってさ。乗ろう」


 さすがのイルシャちゃんも少し躊躇したけど、遅れて乗り込んでくれた。レリィちゃんは怖いのか、ずっと私にくっついたままだ。この街も列車も、事情を考えると同情してしまう。だけど私に出来ることなんかない。せめてこの列車君にお仕事をさせてあげるくらいだ。


「動き出しますね」

「アンデッドの街か……この列車も理屈不明のまま動いてるけど、帰してくれると信じてるよ」


 甲高い汽笛と共に列車が動き始めた。当たり前だけど、他に乗客はいないみたい。


◆ 魔導列車内 ◆


 なんとかの街が遠のき、窓の外はひたすら森の風景だ。揺れる車内で私達は無言だった。そろそろ寝ていいタイミングかな。起こしてくれるかな。


「本当にこれで帰れるの?」

「列車君を信じるしかない」

「でも動いているのは幽霊の力じゃ……」


――必ず乗客を目的地に送り届ける


 動力はわからないけど、列車君はマジだ。こうしてお客さんを乗せて走るために作られたのに、スクラップ扱いだなんてあんまりだからね。嬉しくてたまらないんだろうな。応援したいぞ。レリィちゃんもさっきまで怖がってたのに、今は窓にべったりと張り付いている。こんな面白い乗り物なんだし、ぜひ他の人達も乗せてみたくなるね。


「アスセーナちゃん、あの街は100年前に実在したんだよね」

「はい。王都の西側の山脈付近に存在しました。当初は王国の目玉となる予定でしたが、立地の悪さ等が祟って次第に寂れていったようです。あの町長さんのテンションからして、街に相当期待していたみたいですね」

「あのレストランも宿も微妙だったけどね……」

「ノウハウがないせいか、次第にあんな風になったのかはわかりませんけどね。何にしても、国に見捨てられた街が亡霊となって彷徨う事態です。放っておくと更なる犠牲者が……あ」


 犠牲者。あ、そうか。もしかしたら失踪事件とか騒いでいたのは、あの街のせいなのかな。いや、でもそうだとしても私にはどうすることも。


――次は○×□△の街。次は○×□△の街


「は? いや、ちょっと待ってよ。列車君。話が違うでしょ」

「どうしたの?」

「列車君、私達を元の場所に送り届ける約束でしょ!」


――出来ない。許されなかった


 そんな列車君の心変わり通り、窓からあの街の駅が見え始める。走り始めてわずかの間に何があった。今、列車君と対話できるのは私しかいない。


「何があったのさ。ねぇ」

――怖い、罰せられる

「誰にさ」

――あの、お方、に


「……ここってあの街の駅だよね」


 イルシャちゃんが愕然とするのも無理ない。元の場所に帰るつもりが、また戻されたんだから。列車君が駅に停車した後は、もうピクリとも動かなくなる。


「モノネさん。列車の声を聴いたんですよね? なんと言ってました?」

「私達を元の場所に返したくない奴がいるみたいだね。列車君がそいつにびびってこうなった」

「なるほど。大元がいるのならば、話は早いです」

「いつもなら絶対回避したいところだけど、今回は別かなー」


 私の中から、かつてない怒りが沸々と込み上げてくる。物霊使いとして、初めて物に頼み事を拒否されたことじゃない。列車君をこんな街に幽閉同然に閉じ込めている奴への怒りしかない。そして、そもそもな段階の疑問がある。


「アンデッドなんて初見だし定義も知らないけどさ。なんか引っかかるんだよね」

「お帰りですかぁ?」


 列車を出たところで、あの町長が笑顔で出迎えてくれていた。


「帰りたかったんだけど、またここに着いたよ。あんたの仕業?」

「そうですか。夜も更けてきましたし、今夜は宿へお泊りください」


「もう何なのぉ……」


 イルシャちゃんが泣きそうになるのも無理はない。私が納得いかないのは、まずティカの生体感知に引っかかったところだ。アンデッドなんだから、生体も何もあるはずがない。反応がロストしたのにも、何か理由があるはず。だけどそれは、この町長と支離滅裂な会話をしたところで得られない。


「では、こちらへどうぞ」

「はいタッチ」


 宿へ案内しようとする町長の服に触れる。きちんと触れるし、ゾンビとかでもなさそうだ。じゃあ、この町長は何なのか。服の声を聴こう。


「何も聴こえない。じゃあ、試してみるかな。おじさん、転んで」

「当○×□△の街自慢の宿のお食事は季節の素材を活かした料理です。必ずご満足いただけ……うぉっ!?」


 町長の足がもつれて転び出した。違ったらどうしようかと思ったけど、これで確信した。普通の人間やアンデッドなら、私の指示に従ったりはしない。


「モノネさん……。この町長、もしかして」

「物霊だよ。人間の幽霊なんかじゃない」

「それ、どういうこと?!」


「と、当○×□△の街への、ご、ご要望は……」


 よろよろと立ち上がりながらも、この物霊は健気に町長をやっている。さて、いよいよ決着をつけたいところだ。


◆ ティカ 記録 ◆


人に作られながらも 打ち捨てられた 悲しい列車

僕の中で 何が 起こっているのカ

打ち震え 目元が熱く たまらない気持ちになル

マスター この街を救えるのは あなただけデス

どうか お願いしまス


引き続き 記録を 継続

「棚に置いてるものが何の前触れもなく落ちてくることってあるよね」

「ありますね。ですがそれは少しの振動が加わり続けたことによって、気づかないほど微細に位置がずれた結果でしょう」

「チッ、イルシャちゃんと違って面白くない」

「えっ?」

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