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ランフィルドに帰ろう

◆ 王都より南 ◆


 そよ風を受けながら、帰り道を急ぐ。キゼル山をひとっ飛びした先にあるのはエイベールだ。行きの時は猿軍団との戦いがあったから途中にあった村に泊まったけど、今は真っすぐ行ける。空からならすべてが見渡せるし、迷うこともない。のんびりとサンドイッチをかじりながら、風景を楽しめる。


「モノネさん」

「のどかすぎて寝たい」

「モノネさん、あの」

「寝るかな」

「迷ってますよね?」

「はい」


 看過されちゃしょうがない。午後を過ぎた頃にはエイベールに着く予定だった。魔晶板(マナタブ)で確認しながら進んでるし、迷うわけない。そんな慢心が仇になったのかな。エイベールがまったく見えない。キゼル山を越えたところまではわかるんだけど。


「行きの時はこんなに森が広がってなかったし、どこから間違えたかな」

「あまり変なところに行って国境を越えちゃうと大変ですよ」

「わかってる。だから必死になってるんだって」

「うっかり未踏破地帯に踏み込んだら」

「アスセーナちゃんに何とかしてもらう」

「ひどい!」


 ひどくない。この中で一番戦闘Lvが高い人を頼るのは当たり前だ。からかい半分で未踏破地帯とか言うのが悪い。レリィちゃんがウトウトして、イルシャちゃんを膝枕にしつつある。私も寝たい。


「いやこれ絶対おかしいって。道は絶対に間違えてないって」

「日が落ちる前にどこかで腰を落ち着けたいですね。私もこの辺りには見覚えがありません」

「えー、本当なんでこんなところに来ちゃったんだろう」

「あ! あそこに街が見えますよ!」

「エイベールかな?」


 確かに森の中にうっすらと街らしきものが見える。かなり大きな街だけどエイベールにしては規模が小さい。間延びした道に平屋ばかりの建物が目立つ。やっぱり知らないうちに変なところに来ちゃったかな。


「はぁ……私の布団さばきのせいでこうなっちゃったからね。悪いけど、今日はあそこで一夜明かそう」

「乗せてもらってる身で責めるわけないじゃない。知らない場所なら、それはそれで楽しみましょう」

「あそこが街の入口みたいですね」


 アスセーナちゃんが指した先に木製の門がある。きちんとあそこに降りて入ろう。


◆ ○×□△の街 ◆


 木製の門の前には誰もいない。壁で囲われてはいるものの、小さいブロックを重ねて積み上げられただけで王都の城壁に比べたら頼りなさそう。やっぱりここはエイベールじゃないな。どこに迷い込んでしまったのか。


「門番っぽい人はいないのかな」

「しかも簡単に開きますよ」

「なんだか古臭いなぁ。なんていう街だろう?」

「上に書かれていますが、文字がかすれていて読めませんね」


 門番すらいないお粗末っぷりで、なんだか不安だ。粗末な門をくぐると、華やかさも欠片もなかった。建物がちらほらあるだけで、後は道がずっと続いている。一応の舗装はされているものの、ガタガタで足場がよろしくない。かなりの田舎に来ちゃったな。


「アスセーナちゃん、この街に来たことある?」

「ないですね。だからこそ、誰かに聞きましょう……と思いましたが、人が見当たりません」

「皆、寝てるのかな」

「モノネの街とかいう名前だったりして」

「私だからって何を言ってもいいと思ってるでしょ。イルシャちゃん」

「ごめん」


「この辺りに生体反応はありませんネ」


 私の冷静な分析だというのに。それはそうと、誰もいないなんてあり得るのかな。もう少し進んでみるしかない。


「……誰ともすれ違いませんね」

「あそこにレストランがあるわ」

「相変わらず目ざとい」

「オープンって書いてあるから、人がいるはずよ」


 まだ夜には早いし、お腹もあまり空いてないけどしょうがない。あの白壁の平屋レストランに入ろう。飾りも何もなくて外観が殺風景だ。入口の上に申し訳程度にレストランと書かれてるだけだし、よくこんなの見つけられたな。中に入るとテーブルが数個あるだけで、そこまで広くない。だけどテーブルクロスもきっちりしているし、営業している雰囲気は出てる。


「……いらっしゃい」

「4人です」


 店の人らしきおじさんが椅子に座ったまま、本を読んでる。そんな状態で不愛想にいらっしゃいだ。これじゃ、入ってきてすみませんと言いたくなる。


「何よ、あの人。お客さんが来たのに案内もしないなんて」

「適当に座れってことでしょ。さてメニューメニュー……うーん」

「ラインナップは普通ね。レリィちゃん、何か食べたいものある?」

「カレーライス」

「お、私のカレーと勝負ってわけね」

「なんでそうなるの」


 料理脳すぎる。というかあまりに普通すぎて、どれでもいいというか。私も適当に選んでしまった。


「店員さん、注文決まったわ!」

「あいよ」


 店員がのそっと立ち上がって、かったるそうに歩く様にイルシャちゃんがご機嫌斜めだ。注文を言い終えるとおじさんは無言で厨房に引っ込んでいく。炎龍と違って、ここからだと厨房が見えない。


「ひどい接客ね。これじゃお客さんがこなくて当然よ」

「これなら無理に入らなくてもよかったかな」

「まぁまぁ、もしかしたらすごくおいしいかもしれませんし……」

「これじゃおいしいものも、おいしくなくなるわ」


 注文をしてからかれこれ30分が経過した。まったく料理がこない。イルシャちゃんがすごい顔をしてついに立ち上がる。


「おっそい! そもそも本当に作ってるのかしら! 全然、匂いもしないし音も聴こえないし!」

「も、もう少し待ってみよう」

「さすがに限界よ! 文句いってくる!」

「穏便にね……」


 料理のことでイルシャちゃんを止められる者はいない。ここはしばしの暴走を見守るしかない。だけど、すぐにイルシャちゃんが早歩きで出てきた。


「誰もいないんだけどッ! お客さんをほったらかして、どこにいったのよ! ありえないわ!」

「材料を取りにいったんじゃないかな」

「ふざけないで!」

「ごめんとしか言えない」


 別にふざけたわけじゃないんだけど、謝るしかない。怒り狂ったイルシャちゃんが店内をチェックし始めてる。テーブルの埃を指ですくってまで、何をどうするの。


「イルシャさん、厨房の調理器具などの状態はどうでしたか?」

「それが……」


「お待たせしました」


 さっきの店員が厨房からヌッと出てきた。今まで怒ってたイルシャちゃんもこれには唖然とするしかない。注文した料理を次々とテーブルに並べ始める店員を、まじまじと見てる。


「今までどこにいってたのよ?」

「申し訳ありません。こちらの不手際です、さぁ温かいうちにお召し上がり下さい」

「そ、そう」


 さっきとは打って変わって丁寧な物腰でさすがにびっくりする。何にせよ、料理が出てきたんだから食べよう。どれどれ、味は料理の修羅が満足いくものかな。


「……んー」

「おいしいですよ」

「普通、ね」


 まずくはない。おいしくもない。これほどコメントに困る料理もなかなかない。アスセーナちゃんだけがバクバクと食べ進めている。レリィちゃんがまたなんか粉をかけてた。味がつく粉かな。


「お味のほうはいかがでしょうか?」

「普通です」

「モ、モノネさん」

「お世辞を考えるのが面倒なくらい普通すぎてもうね」

「そうですか……」


 肩を落として、うなだれてしまった。さすがにお世辞を言っておけばよかったかな。本当にさっきのは何だったのか。もしかしたらあの不愛想な人と似てるだけで、別人かもしれない。


「次はもっとおいしい料理を提供いたしますので、またのご来店をお待ちしております!」

「うんうん、その心意気いいよ。まずこの料理だけどね」

「はい、長くなりそうなんで失礼します」


 さすがに料理講座まで付き合ってられない。イルシャちゃんを引きずって店を出た。一応、残さず食べたしいいよね。


「もう、あれだけ意欲がある人なんだから絶対に料理がうまくなるわよ」

「そういう問題じゃなくて、当初の目的を忘れないで」

「そ、そうだったね。あ、人がいるじゃない」


 牛を連れた道行く人がいる。あの農業っぽい人に宿の場所とか、いろいろ聞いてみよう。


「ちょっとごめん。この街に宿ってあります?」

「……あー?」

「宿です、宿」

「歩いてたらあるだろ」


 はい、案内終了。超めんどくさそうに対応した後、おじいさんはまたとぼとぼ歩き出した。偏見だけど、田舎ならこんなものだと信じるしかない。


「じゃあ、布団で進みますか。歩いてたらあるだろあるだろっ」

「モノネさん、ヤケにならないで」

「なんかダレてきた。もう今日は寝たい」

「今日一日、それしか言ってないでしょ……」


「宿に温泉があるといいですねっ!」


 アスセーナちゃんのポジティブを見習いたい。温泉付き宿か、確かにそうだといいな。私もすっかりマーマンの湯のおかげで温泉の虜になったみたいだ。考えるだけで体の芯が温まる。


◆ ティカ 記録 ◆


魔晶板(マナタブ)上では 王都より南の位置のはズ

キゼル山と エイベールの中間あたりで 合っていル

つまり マスターの布団さばきに 問題はなイ

問題は この街

あの店員や 牛を連れたおじいさんに 生体反応は あっタ

しかし どうも 引っかかル

アスセーナさん もしかしたら 気づいているのカ

やけに 明るく振る舞い 不安を感じさせないように しているのカ

いや これは 平常かも わからなイ


引き続き 記録を 継続

「雑誌にマスターのことが書かれてますネ」

「ファットみたいな記事だったらどうしよう」

「兎耳がチャームポイントのウサギファイター。その実力はゴールドクラスにも匹敵するとのことデス」

「盛りやがって」

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