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別れの挨拶をしよう

◆ 王都 冒険者ギルド ◆


 ゴーレム暴走事件に関しては完全に隠蔽できなかったみたいだ。団長の人徳のおかげでほとんどの人は黙ってることにしたみたいだけど、一部はどうにもならない。冒険者から冒険者、依頼主への口コミだからせいぜい噂話程度で収まりそうではある。

 そもそもゴーレムの被害を受けたのがカロッシ鉱山と前の討伐隊くらいだから、そこまで拡大しないんじゃないかなと思う。一般の人が襲われてないのが不幸中の幸いかな。それはそうと報酬がたんまり入るわ、念願の宿泊代の支払いが終わるわで気分がすこぶるいい。


「モノネの姉御ォ! お疲れ様っしたぁ!」

「諸君も頑張ったね」

「あのゴーレムを手懐けるのを見て確信しました! 姉御は上に立つべきだと!」

「へー」


 それはすごい。モノネの姉御にはぜひ頑張ってもらいたいね。モノネの姉御には。ここにいるのはただのモノネだからね。


「モノネさん。王国騎士団の団長から言伝を頼まれました。あなたには特に感謝している。何かあれば可能な限り協力したいと」

「それは嬉しい」

「それとスイートクイーンへの支払いも完了しました。お友達も同時に支払いを終えたそうです」

「同時とか絶対ウソだ」


 レリィちゃんの宿泊代も含めて、ようやく肩の荷が下りた。これに懲りたらきちんとお金の勘定だけはしよう、うん。あとは3人を連れてランフィルドに帰るだけだ。残る問題はあるといえばある。それは。


「あの、アスセーナちゃんがどこにいるかわかります?」

「もうすぐ来ると思いますよ」

「そんなタイミングよく?」

「来ました!」

「ひゃんっ!」


 気配を殺して背後に回り込みやがって。やろうと思えば殺せていたんじゃないの。これだからシルバー子ちゃんは。ニコニコして私のリアクションを楽しんでるし。


「よくこのタイミングで来たね」

「モノネさんがそろそろお金を払い終えるだろうなーと思って」

「怖いんだけど。今まではシルバー的な依頼をやってたの?」

「それも含めていろいろですね。モノネさんはゴーレムの件で大活躍じゃないですか。また一つ、称号に近づきましたね」

「さすがにアイアンは無理でしょ」

「候補かなー」

「ひゃんっ!」


 袖をヒラヒラさせた七法守子ちゃんがまた奇襲してきた。なんでこの子らは私をびびらせようとするの。


「アイアンはねー、ゴーレム討伐みたいな普通の人じゃ解決できないような依頼をいくつもこなせばいいからねー」

「それってブロンズと同じじゃ」

「ブロンズはそれよりも簡単なやつだねー」

「じゃあ、これからはランフィルドで細々と活動しますね」

「そんなこといってー。どうせすぐやるはめになるんじゃないのー?」


 現実になりそうな事を言うんじゃない。実際、ゴーレム討伐だってまったくやる気なかったのにこれだもの。結果的にはよかったけどさ。

 もしあのゴーレム君を本気で倒さなきゃならないとしたら、絶対やばかった。あの固さはどうしようもなさそう。今の私はせいぜい戦闘Lv40ちょっとが限界かもしれない。まぁ生活する分には十分だからいいけどね。


「モノネさん」

「ジェシリカちゃん、どうしたの?」

「わたくしはどうでもいいのだけど、メアリー達がまた会いたがってますの。機会があれば、またいらしてもいいんですのよ」

「そうだね。いつか来るよ」

「ジェシリカさんが家族のために奮闘してたなんて私……感動しました!」

「……あなたにそれを話した記憶がありませんわ、アスセーナさん」

「片手間に知りました」

「あなた、怖いですわ……」


 ジェシリカちゃんに恐怖を与えるんじゃない。どうせ調べたくせに。完全にストーカーだ。さすがの陥落姫も不思議シルバー子ちゃんとは距離を置きたがってそう。


「じゃ、イルシャちゃんとレリィちゃんを迎えに行こうか」

「レリィさんは新薬を発明してますし、イルシャちゃんは次期総料理長候補として活躍してらっしゃいますね」

「そう。本人達が幸せなら邪魔しちゃ悪いね」

「薄情です!」

「そういうなら、迎えに行っちゃいけない雰囲気出さないで」


「喋ってないでとっととお帰り」


 ジェシリカちゃんが冷たく突き放し始めた。つかつかとギルドのドアを乱暴に開けて出ていく。そんなに寂しい思いをさせちゃったのか。またいつか遊びにくるよ。


◆ 王都学園 薬学部研究室 ◆


「その子をッ!」

「連れていくといのかッ!」

「阿吽の呼吸で叫ばないで」


 教授と生徒達が絶望に打ち震えてる。なんかゾンビみたいに寄ってきて怖い。不健康そうな人が多いから、余計にそう見える。


「どうしてだ! もうすぐ人類を救うかもしれない新薬が出来るかもしれないというのに!」

「とか言ってるけど、レリィちゃん」

「わかんないからまた今度ね」

「わかんない?!」

「もっとお勉強しないと」

「それならここで!」

「はいさようなら」


「まぁってくれぇ~!」


 これ以上、亡者どもの元に置いておけない。去り際、後ろから引き留める声が呻き声みたいに聴こえた。


◆ ホテル"スイートクイーン" ◆


「イルシャ総料理長、行ってしまわれるのですか?」

「ランフィルドには私のお店があるからね」


 本当に出世するんじゃない。なんで借金返済で一時的に採用してた子を重要ポストに置いてるのさ。本当に一流ホテルなの。


「これからはマーノス、あなたが総料理長を務めて」

「し、しかし私などでは……」

「もういいから。その人が元々の総料理長でしょ、わかってるから」

「あ、モノネさん」


 どいつもこいつも才能を発揮しやがってからに。これからディニッシュ侯爵のところへ挨拶にいかないといけないんだ。こんな茶番を続けている暇なんてない。あの人にはかなりお世話になったから、最後くらいは挨拶しないと。


「いい勉強になった。皆も元気でね。支配人さん、また来るかもしれないわ」

「イルシャちゃんさえよければ、いつでも歓迎するよ。今度、王都に来た際には宿泊費も格安にしてあげよう」

「だって、モノネさん」

「また未払いにならなきゃいいけどね」


「さようならー! またなー!」

「当ホテルはいつでも営業してるからなー!」


 今度こそ、ちゃんと本当にきちんとお金を意識しよう。ホテルの人達総出で見送ってくれて、気持ちがいい。私、何もしてないし関係ないけど気持ちいい。むしろ迷惑かけた。


◆ ディニッシュ邸 ◆


「そうか。明日には発つのだな」

「すんごいお世話になりました」

「お嬢様、私の件について改めてありがとうございます」


 王都での一番の収穫はティアナさんの件かな。いろいろあったけど、お互い不幸にならずに済んでよかった。そしてディニッシュ侯爵がいなかったら、ガムブルアの件でどうなっていたか。

 私達があいつの屋敷に突入した際にはいろいろと裏で図ってくれたみたいで、おかげで何の疑いもかけられずに済んでる。この人と偶然、出会わなかったら地味にやばかったんじゃ。


「シュワルト辺境伯によろしくな。今度、チェスでも打とうと伝えておいてくれ」

「わかりました。ガムブルアの件は解決したと伝えて安心させてあげたいです」

「そうだな。今夜は泊まっていきなさい」

「唐突すぎません?」

「いいではないか。年寄りへの最後の恩返しだと思ってくれ。イルシャちゃんには厨房を与えよう」

「きたぁ!」

「専属シェフさんのメンタルを心配してあげて」


 なんだかんだ言って寂しいのかもしれない。強引に押し込まれる形で、私達はディニッシュ邸で王都での最後の一夜を明かすことにした。専属シェフの顔が青ざめてるのを他所に、イルシャちゃんが何か作ってくれるみたいで楽しみ。王都、いろいろあったけど楽しかったな。もう少し近ければ頻繁に来るんだけどね。


◆ ??? ◆


 もう何日経っただろう。一向に進んでいる気配がない。思えば初日からおかしかった。あそこからだ。あそこを通ってからすべてがおかしくなったんだ。だったらあそこへ行けば帰れるはずだ。そう考えたが、これはどういう事だ。


「お帰りですかぁ?」

「お、お前なんでここに!」

「夜も更けてきましたし、今夜は宿へお泊りください」

「だからぁ! オレ達は帰りたいんだ! 何回も言ってるだろ!」

「そうですか。ではこちらへどうぞ」

「今度こそ、帰れるんだろうな!?」


「やめておけ!」


 仲間の一人が静止する。そうだ、このやり取りも何回目になるだろうか。そもそもこいつはなんでここにいる。あそこからここまで、かなりの距離があるはずだ。いや、どうだろうか。もしかしたら近いのかもしれない。もうわからなくなってきた。


「当○×□△の街自慢の宿のお食事は季節の素材を活かした料理です。必ずご満足いただけると思います」

「ダメだ……」


 耳が痛くなる。頭がおかしくなりそうだ。こいつを斬り捨てても逃げても走ってもどこにも行きつかない。ここはどこなんだ。夜の闇がより一層、オレ達を威圧するかのようだった。朝日を拝んでも悪夢からは覚めない。何せここは。


「○×□△の街にご意見があれば何なりとお申し付けください。お帰りの際は○×□△名物の魔術鉄道をご利用ください」


 ここは、何なんだ。


◆ ティカ 記録 ◆


王都 様々な出会いが ありましタ

ゆるりとした 観光とは いきませんでしたが

マスターも 概ね 満足されている様子

ディニッシュさん クルティラさん ジェシリカさん

どの方々も 素敵でしタ

僕も また王都へ来たいと 願えるほどデス

イルシャさんにレリィさんも 将来の選択肢が 増えたようで

彼女達にとっても いい経験になったはズ

それにしても マスターではありませんが ものすごい才能デス

よからぬ連中の耳に 入らなければ よいのですガ


引き続き 記録を 継続

「ランフィルドにも温泉を作ればいいのに」

「温泉が沸けばいいんですけどねー。それに国への申請もありますし大変みたいですよ」

「大人は申請だの許可だの、お堅いなー」

「体に悪かったら大変ですからね。それに温度も重要ですし、工事の際に」

「うん、許可と申請は大切だねよくわかった」

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