皆でゴーレム討伐にいこう
◆ 王都 冒険者ギルド ◆
ここ最近、ジェシリカ一家にかかりっきりだったから自分の借金を減らせてない。そろそろ気合い入れて借金を終わらせようと依頼を物色する。私宛てに来てるのは相変わらずゴーレム討伐と失踪事件の調査だけだ。このゴーレム討伐がものすごい報酬だし、宿泊費を払ってもお釣りがくる。でも誰一人として解決できてないやばい依頼だからご遠慮しよう。
「……王都まで迫っていると?」
「はい、冒険者ギルドのほうで招集をかけて討伐隊を編成していただきたいのです。王国軍との合同作戦を希望します」
「わかりました」
王国兵とギルド職員の不穏な会話が聴こえてきた。やばい雰囲気がだだ漏れてる。これは一度、食事にいくふりをするべきか。
「皆さん、緊急依頼です。先日から出ていたゴーレム討伐ですが、その対象が王都にまで迫っています。
王国騎士団との合同作戦になる予定で、報酬は追って支払います。参加希望の方はいらっしゃいますか?」
「戦闘Lvに制限がないなら参加するぞ」
「オレ達のパーティも参加の方向で一致した」
回避しようと思ったのに向こうからきやがるとは。皆さん、とてつもないやる気を見せている。どうして死ぬかもしれない戦いに対して意欲的なのか。私にはそこがわからない。よほど腕に自信があるのか、戦闘狂なのか。
「ゴーレムか……こりゃモノネ一派として引き下がれんわなぁ。お前ら?」
「もちろんっすわぁぁ! オレ達もド派手に暴れてやりましょうやぁぁ!」
「相手はたかが一匹ですよ! 王国軍なんか必要ねぇわ!」
なんとか一派の皆さんもやる気だし、私は食事にでも出かけよう。イルシャちゃんは今頃どうしてるかな。もうホテルの支配人にとって代わってそう。レリィちゃんは万病に効く万能薬でも作ったかな。ギルドのドアをそーっと開けて逃げよう。
「モノネの姉御が先陣を切ってるぞ! ものすごいやる気だ……!」
「そうか! ウサギファイターがいたか! これなら百人力だな!」
「ザイード一派にウサギファイター、そしてここにいる冒険者が加わればゴーレムだって倒せるな」
クソッ、そうきたか! なんで当然のように人が戦いたがってると決めつけるの。あんた達に私の何がわかる。もう、もう、もう。
「モノネさん。メアリー達の件だけでなく、ゴーレム討伐にも加わっていただけるなんて素敵ですわ。さすがはブロンズの称号を手にしただけはありますのね」
「ジェシリカちゃんからそんな皮肉が出てくるなんてショックだなぁ」
「相手は何人もの人間を返り討ちにしている怪物ですの。ストーンゴーレム、体が岩だらけで生半可な攻撃じゃビクともしませんわ。放置すればもっと犠牲が増えるとは思わなくて?」
「王国軍と合同作戦を実行するほどの化け物なの?」
「戦ってみればわかる……。何せ奴には痛覚も感情もない。つまりそれによる怯みもなく、純粋な暴力をゴリ押ししてくるんだ……」
王国兵の人が意気消沈気味だ。これまでも討伐に向かったんだろうな。私は正義の味方でもないし戦いが好きじゃないけど、もしイルシャちゃんやレリィちゃんが犠牲になったらどうするだろう。そうならないためにも、皆は必至なんだな。仕方ない。
「やります、やりますよ。そのかわり、私の宿泊費を全額免除できるくらいの報酬をよろしく。それくらいじゃないと参加しないよ」
「どの程度の金額ですか?」
「お、職員さんが太っ腹だ。このくらいなんだけどさ」
「わかりました。成功の暁にはスイートクイーンのほうに直接、支払わせていただきます」
「話が早すぎて助かります」
この依頼を果たせば、借金というしがらみがなくなる。そうなれば晴れてランフィルドに帰れるし、奮闘するしかない。でもあわよくば、私が出るまでもない流れになってほしい。
◆ 王都前 ◆
騎士団、冒険者達の即興パーティが出来上がる。特に銀の鎧に身を包んだ王国騎士団は圧巻の一言。ずらりと綺麗に並んだ鎧の騎士達が迫るだけで、そこらの魔物が逃げ出しかねない迫力だ。この国の精鋭部隊みたいだし、クルティラちゃんが入りたがってるんだっけ。先頭にいる騎士団長がマントをなびかせ、冒険者にもその圧力は伝わっている。
「す、すげぇな……あれが王国騎士団か」
「毎年、100人以上の入団希望者がくるらしいが合格者はわずか数人と聞いたぞ」
「そこから更に振るい落とされるんだっけ……オレは冒険者でいいや」
「冒険者諸君。この度はゴーレム討伐に協力していただき感謝する。同じ我が国を愛する者として、共に明日の太陽を拝もう」
騎士団長に続いて他の騎士達も私達に敬礼する。一糸乱れぬ動きだ。ああいうのって練習してるのかな。本で読んだけど厳しい軍隊だと規律を暗記させられて、大声で復唱するらしい。食事の時間も決まっていて、1秒の遅れも許さない。私からしたら、それで生きているといえるのかと思うけど世界が違うと考えればそれまでだ。
「作戦の一環として、そちらの代表者と息を合わせたい」
「こちらのウサギファイターことモノネさんですわ。この中で唯一の称号持ちですの」
「ほぉ、それは頼もしい」
「ジェシリカちゃんがそういうことする子だとは思わなかった」
フフンと言わんばかりに笑ってやがる。家族を救ってあげた恩を仇で返しおって。唯一の称号持ちというけど、アスセーナちゃんはどこにいったのさ。なんで肝心な時にいないの。他の称号持ちはどこにいるの。どうして出てこないの。ねぇなんで?
「息を合わせるといっても私、別に冒険者の隊長でもありませんし」
「君のスキルや戦術を教えていただきたい。ゴーレムに有効打があるならば、君が起点になる」
「そういう話ですか」
ウサギファイターの魅力を存分に語り、要するに斬ったり矢で打ったりする以外の攻撃方法がないと説明する。ネズミ戦の時みたいにティカの魔導砲でのフィニッシュも視野に入れよう。この中で魔導砲以上の威力を持つ攻撃を放てる人がいればいいんだけどね。魔術師もいないし、ジェシリカちゃんのアビリティもゴーレム相手には無力だ。
「面白いな……今度、手合わせを願いたいものだ。それに魔導砲か。それなら確かにゴーレムを完全に停止させられるかもしれん」
「あとはちまちまと削っていくしかないんじゃないですかね。いくら強固な岩といっても、衝撃を与え続ければいつかは壊れるでしょう」
「ふむ、わかった。ではまとめよう」
私の死ぬほど雑な説明でよかったのかな。騎士団長が有能なら、うまくまとめてくれるはず。そもそも戦いなんて素人の私が判断していいところじゃない。
でもそれを言えるわけもなく。冒険者の戦闘スタイルやスキルを洗い出し、どう攻めるかを騎士団長がまとめてくれた。後はこの即興部隊でどこまでやれるかだ。
「それにしても相手がストーンゴーレムでよかった。もし鉄やそれ以上の鉱石ならば、いよいよ手に負えない」
「ストーンゴーレム以上がいるんですか?」
「アイアンゴーレムなんかは全身が鉄で出来ている。マグマゴーレムなんかは全身が溶岩だ」
「ゴーレムの定義について問いたい」
聞かなきゃよかった恐怖情報はすっぽりと忘れて、今はストーンゴーレム討伐だ。引っかかるのがこのストーンゴーレム、なんか魔物にしては特殊な印象がある。生物じゃなければ何なのか。私が知る由もない。
「ゴーレム……ですカ」
「ティカ?」
「マスター、一つ提案がありまス」
魔導砲以外の提案となると、それ以上の作戦かな。いや、これはそうじゃない何かだ。どことなくティカの顔に影が差した気がした。
◆ ティカ 記録 ◆
ゴーレム 魔術によって誕生した いわば魔法生物
討伐対象の ストーンゴーレム 自然発生のケースも 否めませんが
そうでなければ 生み出した 術者がいるはズ
僕には なんとなく この事件の全貌が 見えル
しかし それを語るには 早計カ
なぜ 僕は いたたまれない 気持ちになっているのカ
引き続き 記録を 継続
「瞬撃少女は面白いなー」
「マスター、それはどのような小説ですカ?」
「どんな相手も一撃で倒しちゃう女の子の話だよ。ドラゴンだろうが魔王だろうが一撃、本気を出せば神も倒せるの」
「すごいですネ……もしそんな人物がいれば、悪さをする者もいなくなりそうデス」
「ところがお話の中では次々とその子に挑む奴がいるんだよねー。バカだなーって思う」
「なるほど、人の愚かさを丹念に描いた物語なのですネ」
「たぶん違う」




