ハーピィ達の悩みを解決しよう
◆ ハルピュイア運送 王都支部 ◆
ここはランフィルド支部よりも大きい。はーたんの人数も多い。抜け羽も多い。それだけにあっちとは比べ物にならない忙しさだ。王都内だけじゃなくて、ここから各街へと配送してるから当然か。こんな中じゃ確かに冒険者の手も借りたくなるのかもしれない。
「よく来てくれました。私、王都支部長のオウギといいます」
「よろしくー!」
「でっけーフクロウ!」
「シッ! 失礼なこと言わないの!」
クートの言う通り、オウギという人はフクロウみたいな翼と丸い目が特徴的だ。パメラさんや討伐科の二人といい、はーたんによって結構違う。そんなオウギさんは優しく微笑んで私達を物色した。
「皆さんにやっていただくのは私達の手、じゃなくて翼が回らない仕事です。当支部は他の支部と比べて仕事量が段違いでして、そうなると必然的に不在の数も増えるんです」
「時間を指定しておいて、送り先の人がいないっていうアレだよね。本当、意味わからないよね」
「そうなんです。ですので現在、不在で自宅にいらっしゃらない方へ荷物をお届けしていただきたいのです」
「どこの誰かもわからない人の居場所なんてわかるわけない」
「そこで様々な場所へ行ったり多くの人と出会った冒険者の方々が頼りなんです。さすがの私達も王都中の人を把握していないので困ってるんです」
「まさか王都外まで足を運べというんじゃ」
「それは大丈夫です。届け先にある街の支部で荷物を預かってもらえるので」
「なるほど」
めちゃくちゃハードなんですけど。詳細を依頼書に書かない理由がわかった。最初からこんなもん書いてたら、誰も引き受けない。やけに報酬がいいと思った。こうなると子ども達には、荷物だけに荷が重い。こなせるのは私とジェシリカちゃんだけだ。
「それとですね、もし不在だった方を見つけたらがっつり注意してほしいんです。屈強な冒険者の方に言われたら、相手も目が覚めると思います」
「私達を使ってそこまでするか」
「こっちとしても死活問題なんですよ。苦労して届けたのに不在だった場合、お隣さんに荷物を預けてもらってたんですけど……。
中には荷物の中身を消費される方もいて、他人の善意に期待するやり方にも限界が見えましてね。本当、いい加減にしないと本気を出さざるを得なくなるので……」
「支部長はハーピィ族の中でも8指に入るほどの強さと獰猛さだからね……」
部下のハーピィの一人がフォローしてくれたけど、なんで8指なのさ。あぁ、はーたんの足の指の数か。わかりにくい。やっぱり本気出したら超強いのか。ハーピィ族を怒らせてはいけないというのに、不在者どもはまったく。
私の場合、配達日には必ず家にいる。物が届くのを心待ちにしている以上、すっぽかすなんてありえない。自分でした約束を破るのは人として最低だ。いや、いつも家にいるんだった。
「こちらで預かっている荷物を保管している場所へ案内します」
「ひとまずそれを指定された住所まで届ければいいんだよね。いいよ」
「やってくれますか。今まで引き受けてくれた冒険者にはどうも逃げられてばかりで困っていたのですよ」
そんな依頼ばっかりだ。でも疑問が残る。
「そうならそうと依頼書に書いたらいいのに」
「ですから書いたら書いたで誰も引き受けてくれないんですよ」
「騙し打ちみたいなことしないで」
そういうことするから、ますます誰も引き受けないんじゃ。どうもあっちのはーたんといい、おちゃらけてる。私に言われたくはないだろうけどさ。
◆ ハルピュイア運送王都支部 倉庫 ◆
「こちらが不在者へ配達する予定の荷物です」
「結構、多いね」
「もちろんすべて配達して下さいとは言いません。こちらに配達先の住所が記載されているのでお願いしますね」
オウギさんが配達役のハーピィを連れてきた。この子に荷物を運んでもらって、私が不在者の居場所を突き止めればいいのか。普通に家にいればそれでいいけど、そうでないとなったらどうするの。よく考えなくてもムチャクチャな依頼だ。そりゃ逃げる。
「スズメでちゅん。配達しまちゅん」
「よろしく」
「ちゅんちゅん!」
「スズメェ!」
「君らとメアリーちゃんには別の仕事があるらしいから、あっちで説明を受けてね」
雑用もやることがたくさんあるらしくて、子どもの人手もほしいらしい。こっちは私とジェシリカちゃんの二人で不在者の元へ行く。一人だけだと舐められる可能性もあるから、特に威圧に向いてそうなジェシリカちゃんがいれば頼もしい。
「あなた、まさかこのわたくしに脅しかけさせようと考えてるんじゃないですこと?」
「そんなことないよー」
「怪しい」
なんて勘だ。なんでわかった。まずは一軒目にいってみよう。
◆ 王都 民家 一軒目 ◆
「うーい」
「こちら、先日配達しようとした荷物でちゅん」
「おー、これ待ってたんだー。この前は忘れちゃっててさ、ごめんな」
普通に家にいた。当たり前だけど、普通のおじさんだ。謝ってくれたし、これは案外すんなり終わるかも。
◆ 王都 民家 二軒目 ◆
「おう」
「こちら、先日」
「てめぇ、今頃配達しやがってよぉ!」
「ちゅんっ!」
二軒目にして逆ギレされた。チンピラみたいな風貌で、いかにも不在とかやらかしそうな奴だ。スズメちゃんが完全に翼を丸めて怯えている。
「ちょっと待ってよ。配達日にいなかったのはそっちでしょ」
「はぁ? いたけど? まさかいちゃもんつける気? あん?」
「ジェシリカちゃん、なんとかして」
「やっぱりわたくし頼みですのね……。あなた、これまでもそうやって何度もしらばっくれてますのね。全部、ハルピュイア運送のほうで記録されてますわよ」
「は、はぁ? そんなわけねーし……」
お、いいぞ。この独特の冷たさがより相手を突き放してる。さすがのチンピラも、魔物相手に鞭を振るう女王様には逆らえないか。
「このまま続けば、あなたが直接運送のほうへ出向いて荷物を取りにくるハメになりますわ」
「ふざけんな! んなことしたらどうなるか」
「……どうなりますの?」
「う……! わ、わかった! 次からはちゃんといるから!」
睨みを利かせて終了。多少、強引でもこういう役目は冒険者が適任だ。はーたんが直接これをやると問題になりそうだし。私達はあくまで同行者だからね。
◆ 王都 民家 三軒目 ◆
「……出ないちゅん」
「ついに不在か。私の出番だね。めんどくさすぎるけど」
ドア、塀、次々と手を当てて家主がどこへ出かけたのかを探る。いつかの切り裂き魔の時と同じ要領だ。
王都外に出て行っていた場合はまずいけど、この家主は王都内にいた。こっちも居場所を突き止めた後はジェシリカちゃんの氷の威圧で終了。この調子で端正すれば、不在者も減りそう。
◆ 王都 民家 四軒目 ◆
「こ、こら! こんな時間にくる奴があるかぁ!」
「オタック、お客様?」
ごく普通の一般家庭だ。だけどなんでこの人、慌ててるんだろう。そこへ母親と思わしき人が出てきた。
「あら、配達? ご苦労さんね。オタック、あなたへの配達物よ。何かしら」
「へ、部屋で開ける楽しみがなくなる! 君らもホントご苦労だった、じゃあね!」
強引に会話を打ち切ってドアを閉められた。唖然としているとドアの奥から母親の悲鳴と怒号が聴こえてくる。中身が気になりすぎるけど、そういう情報には触れない。ガールドールだかそんな名前が書かれてたけど、深くは追及しないでおこう。やけに大きな人形だったなぁ。
◆ ハルピュイア運送王都支部 倉庫 ◆
「はぁ……疲れた……」
「クタクタですわ……」
「お疲れ様です! おかげ様でほとんどの不在者宛ての荷物がなくなりましたよ!」
調子に乗ってあれもこれもと配達したのが間違いだった。すっかり夜中に差し掛かろうとしている。さすがに子ども達も疲れて、休憩室で寝ているらしい。悪いことをした。
「それぞれ言い聞かせたので、不在は減ると思いますわ」
「それとさ、オウギさん。不在が続く人から追加料金を取る制度みたいなのを考えたら? 人間ってどうしても、痛い目をみないと学ばないこともあると思う」
「それも検討しましょうかね……出来ればそういうのはやりたくないですけど……」
もちろん経験談を踏まえた提案だ。当たり前のものに感謝はなかなかしない。失ったり痛い目にあって初めて気づくこともある。はーたん達の優しさがあるからこそ、いい加減な連中を野放しにしてしまった。
「スズメもたくさんお仕事したちゅん! でも、怖かったちゅん……」
「あなたは臆病なところがあるからね。うーん、確かに舐められっぱなしというのもダメねぇ」
「まだまだ王都外にはいけないちゅん。先輩も行方不明になってるちゅん……」
「それについてはすでに捜索が始まってるから……」
「行方不明? 何の話ですの?」
ジェシリカちゃんが首を突っ込んだけど、嫌な予感がピリピリする。ピリピリしすぎたから、さっさと子ども達を起こして帰ろう。話し込んでいるジェシリカちゃんには悪いけど、行方不明になってる先輩には悪いけど。今は自分の借金だけでいっぱいなんです。
◆ ティカ 記録 ◆
ハルピュイア運送の 意外な苦労デス
ハーピィ族の 怖さを知れば 不在など しないはズ
しかし 彼女達は 強引な手段を 用いていなイ
人と共存する意思が強い 証拠でもありまス
今回の 不在者に関しては 生体登録をしたので 今後 役立てるかもしれませン
行方不明の件 これは なんとなくですが 捨て置けない案件
どことなく 薄気味悪さを 感じまス
あの ガールドールという荷物と共に 気になる案件
あれは 一体 何だったのカ
引き続き 記録を 継続
「王都の物件ってどれも高いねぇ」
「それなりの立地条件だから当たり前ですわ。わたくし達が住んでいるところでさえ、高い家賃をとられますのよ」
「ランフィルドがどれだけ恵まれているのかよくわかったよ」
「でもランフィルドにはマーマンの湯はありませんわね?」
「なるほど、これが立地の差か」




