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いろいろと清算しよう

◆ 冒険者ギルド ◆


「お、お前! よくも置いていってくれたじゃん!」

「同感!」


 昨日はギルドに依頼達成報告をして、品を納品してから帰って即寝た。帰る途中で散々寝たけど、ここ最近はイベントが多すぎて精神もろともクタクタかもしれない。おかげでよく眠れて、今日も眠い。

 ここで依頼主の女の子と待ち合わせて結果を示しつつ謝る予定だけど、許してくれなかったらどうしよう。それはそうと、変なのが絡んできた。


「パーティメンバーを置き去りにして殺しかけた罪は重いじゃん?」

「それ今、ホンット言おうと思ってた!」


 うるさすぎる。そういえば、寝るのに必死でこいつらの存在を忘れていた気がした。無事に帰ってきたと思えば昨日の反省もなく逆恨み。私がどれだけひどい事をしたのかを、大声で吹聴したいんだろうな。

 少し前の私だったら、こんなのに絡まれたら怯えまくって最悪ちびってたけど今はなんか平気。自分の力に自信をつけたというのもあるし、ゴボウやバーストボアと戦ったせいもあるかな。これらに比べたら、この二人なんてキャンキャン吠える子犬以下だと思える。

 というか実際、ゴボウの手下二人のほうがよっぽど強いんじゃないかな。


「あくびしてんじゃねえじゃん!」

「だって眠いし。ていうか私を殺しかけておいてよく言うよね」

「は、はぁん? なんの話だか」

「都合の悪いところはすっとぼけて、私だけを悪者扱いか」

「とにかく報酬をよこせって話じゃん!」


 何なの、全然会話になってないんだけど。引きこもりにすら対話力が劣るってどうなの。要するに私にムカついているけど報酬だけはよこせって事か。

 パーティを組んでの依頼なんだから、それぞれ三等分されているはず。受け付けにいけば貰えるだろうに、つまりこいつは私の分もよこせと言っている。どういう神経してるんだろう。


「バーストボアを倒したのは私だし、解体したのもティカだよね」

「よくよく考えたら、お前が布団なんかに乗って浮いてるから目立ちすぎてたじゃん。だから、予定よりも早くバーストボアに見つかったじゃん」

「そーそー! ジャンが囮になるといってたのにお前が台無しにしたんだよな!」

「じゃあ、なんであの時にそれを言わなかったの?」

「言えば、その変なスタイルをやめたのかって事じゃん」

「出発前に指摘して下されば、やめてたよ? 言う機会なんていくらでもあったでしょ」


 この大ウソである。こういう啖呵はあの警備兵を倒した時から慣れっこだ。


「せ、先輩として後輩のフォローや現地の地形を活かした作戦を考えるので手一杯だったじゃん」

「先輩として後輩のフォローをする必要があるなら、言わなかった先輩の責任だよね」


 話せば話すほど破綻していってある意味面白いんだけど、さすがにこれ以上は面倒だ。ここまでくるとただの恐喝したいだけのチンピラだし、初のパーティがこんなのとかついてなさすぎる。

 先輩がどうとかいってるし、私みたいな小娘にすべてをもっていかれたのが気に入らないんだ。昨日は怯えてたけど、時間が経ってみれば腹の内が煮えくり返ったと。


「報酬もあげるわけないし、これ以上文句を言うなら強盗だと思って処理させてもらうよ」

「しょ、処理ってお前ぇぇ……」


もう返す言葉がないのか、下唇を巻き込んでプルプルと震えるくらいなら引き下がってほしい。


「上等じゃんッ!」


 うわ、剣を抜いてきた。だけど私の防衛本能をスウェットが拾ってくれて対応してくれる。剣を持っている腕を蹴飛ばしてからの回し蹴り。更にもう一度、お腹に入った蹴りで吹っ飛んでからジャンは仰向けに倒れた。

 さっきからチラチラとこっちの口論を伺っていた他の冒険者達も、いよいよ集まってくる。私はあの女の子に謝りたいだけなのに、なんでこんな面倒な事に。


「す、すげぇな。子どもとは思えない体術だよ」

「ギンビラ盗賊団のボスを倒したのがあの子だぞ。俺達の出番なんかまったくなかった」

「何者なんだ……」


 また悪目立ちしてしまったかもしれない。うっかりやっちゃったけど、また面倒な事になったらどうしよう。


「ジャンのやつ、散々注意を受けてきたのにこりゃもう冒険者登録抹消だろうな」

「君、気にするな。後の事は俺達がフォローしてやる」

「ありがとうございます」


 なんだか結果的に手を、じゃなくて脚を出した私に大して融和ムードだ。皆が優しすぎて、ジャンとの温度差がすごい。チャックはというと、顔面蒼白で棒立ちしている。ああいう腰巾着はよりどころがなくなると、思考停止しちゃうのかな。


「ギルドのねーちゃんよう! 今のは確実にジャンが悪いだろう?」

「え、えぇ。いつ止めようか悩んでいましたが、まさか剣を抜くなんて……」

「何年も冒険者をやってるのに、後輩が次々と結果を出すもんだから拗らせちまったんだろ」

「ごめんな、お嬢ちゃん。昨日の時点で止めたかったが『そいつらとパーティを組むのはよしな』なんてただの妨害だろ」

「あのジャンが引き下がるわけないしな。あんなのでも同業者の仕事を邪魔しちゃ悪いと思ったのさ」


 冒険者達が口々にジャンを非難している。どれだけ嫌われてたのさ、こいつら。何はともあれ、これで面倒なのと関わらなくてすむなら助かった。


「何の騒ぎだ」

「ゲッ! 支部長だ……」


 ヌッとギルドの二階から降りてきたおじさんを見て、軽く怖気づく。体格こそ他の冒険者とそう変わらないものの眼帯黒ひげに海賊衣装、威風堂々という言葉が似合いすぎる男前。サーベル持って戦いそう。


「ルーカ、説明しろ」

「は、はいい……」


 ルーカと呼ばれた受け付けのお姉さんが、しどろもどろになりながら説明している。一癖も二癖もある冒険者を相手に流暢に喋っているだろう、あの人が狼狽していた。


「そうか。ジャンとチャックの冒険者登録を消せ。起きたら、二度と冒険者ギルドに近づくなと言っておけ」

「かしこまりました……」

「し、支部長ぉぉ! 俺もですかぁ?!」

「聴こえなかったのか? お前もだ」

「俺は攻撃してないし、ジャンのやつにいつも振り回されてただけなんだよぉ! 見逃してくれ!」

「そうか」


 支部長が一歩寄るとチャックが後ずさりして、もう限界だと言わんばかりに呼吸が荒くなる。よっぽどあの支部長が怖いんだな。

 確かに顔立ちも濃すぎるし、支部長だって知らなかったら普通に海賊にしか見えない。


「冒険者ギルドの創設者である冒険王グレンは一人で偉業を成し遂げたわけではない。

何度も死にかけて仲間や支援者に助けられながら、新大陸や新種を発見したのだ」


 今でも称えられるほど、冒険王の名前は私でも知っている。でも冒険王が創設者なのは知らなかった。他の人達は驚きもしないし、冒険者の間では常識みたいだ。


「冒険の楽しさを知ってほしい、少しでも助けになればいいと冒険王は引退後に仲間達と共に冒険者ギルドを作った。その意思は今でも受け継がれていると信じている。君らに食や住をここで与えているのは冒険王の"今も生きる意思"だ」

「はい、私もギルドで働く際には徹底して教え込まれました」

「だが、そんな冒険者ギルドでかえっていざこざが起こるのであれば本末転倒だろう。問題を起こす者には出ていってもらう」


「でも、そのガキに平手打ちされるわ今もジャンが蹴り飛ばされたんですよ!」


 今までジャンの言いなりだったくせに、保身だけは立派な事で。だけど支部長がそんな腰巾着を一瞥しただけで、チャックはまた萎縮した。


「俺を見くびるなよ、五流。剣を抜いた直後にこいつは蹴られているな」

「え?! な、なんでそれを」

「乱暴に鞘から剣を抜けば大きな音も出る。そいつが蹴られる寸前に出た音がな。つまり正当防衛と見ていいだろう」

「航海していた頃、優れた五感で万物の息吹を感じ取って未来の天候すら予想していたのですよね……それが支部長のアビリティ」

「あまり過信できるものではないがな、ルーカ。昨日、こいつらを見かけた時点で邪な企みをしているなとは感じたが」

「十分じゃないですか。私の説明なんかいらなかったくらいですよ」


 チャックや他の冒険者達がこの人を前にすると、怖気づくのはその力があるからか。ウソをついたり変な事を考えていたら見破られるし、そんな人と一緒にいたらそりゃ心労も半端ない。私も出来るだけ目を合わせないようにしよう。


「お前達の素行は前々から知っていた。願わくば思い直してほしかったが、どうやら限界のようだな」

「反省します! しますから!」

「出ていけ。自分で出来ないのなら手伝ってやろう」

「おわぁぁっ! ま、待ってくれぇぇああああぁぁっ!」


 ジャンを片手で担ぎ、チャックの腕を掴んで強引に入口まで連れていってそれぞれ外に放り投げるようにして追い出した。鎧を着ている人間を軽々とあしらうパワープレイ。そしてあのやばい能力。

 こんな人なら引く手も数多だろうに、ギルドの支部長にとどまってるのが不思議だ。


「それにしても、あの二人の企みがわかっているなら止めてあげてもよかったのでは」

「それ以上に、そこの少女に対する安心感があったからな。むしろきついお仕置きをしてくれると確信していたよ」


 あなたは神様か何かですか。天候どころか未来まで予測して当ててるじゃないですか。あなたはこんなところにいるべきじゃない。


「騒がせてすまなかったな。モノネというのか。変わった装備だな、耐久性は薄いがすさまじい潜在能力を感じる」

「装備、ですか」

「君のような若い子が様々な活躍をしてくれるのを楽しみにしているよ。

そう、冒険者とは未知への探求。バーストボアはすでに認知されて久しい魔物だが、君にとっては冒険だっただろう」

「はい、まぁ……」

「先程のような連中もいて、嫌な思いをする事もあるだろう。しかし同時に喜びも知ってほしい」


 さっきとは打って変わって笑顔を見せてくる。怖そうな人だなと思ったけど、案外そうでもないのかな。でもさっきの意味わからない能力が怖い。私が引きこもりやってたのも見破られそうだから。


「探求心があれば、やがて未知へ辿り着く。諸君、冒険を楽しんでくれたまえ。何なら航海をしてもいい。ただし、航海だけに後悔だけはしないようにな! ハッハッハッハッ!」


 うっわ。一人で大笑いしながら二階に戻っていった。他の人達は引きつってるんだけど。


「豪快な方でしたネ」

「あの人、この変なスウェットを見てきちんと装備っていったね。怖い」

「マスターの力を見抜いているのかもしれませン」


 アスセーナさんといい支部長といい、なんだか偉い人に注目されつつあるのは気のせいかな。悪い気はしないけど、本当に疲れた。


「あの、モノネさん? 食材調達を依頼したイルシャよ」

「あ、先日はどうも」


 疲れてる場合じゃなかった。アホ二人のせいで忘れかけてたけど、本命はこの子だ。この前とは違って強気なイメージが消えて、しおらしさが感じされる。


「調達してくれたから態度を変えるわけじゃないけど、先日は強く言い過ぎた。ごめんなさい」

「いえいえ、こっちこそごめんなさい。解体してるから、受付でどうぞ」


 ぺこりと頭を下げてから、イルシャと名乗った女の子が受け付けで手続きを始める。私と変わらなそうな年なのに食べ物屋をやっているとは、大したもんだ。ジャンじゃないけど、ご馳走してもらえないかな。


「す、すごいわ。あんなに丁寧に解体されてるなんて……」

「えぇ、私も初めて見ましたよ。モノネさん、期待の新人ですね」


 受け付けのルーカさんが私の評価を上げている。悪い気はしないけど、かゆくなる。こんな私に期待かけていいんですか。


「ありがとう、モノネさん。これでお客さんも喜ぶと思う」

「念のためにいっておくけど、解体したのはこの子だよ」

「初めまして、ティカといいまス」

「どうも……」


 曖昧に返事をしてちょっとだけ頭を下げる。なにこれみたいな視線は感じられるけど、私自身もティカについてはよくわかってないので説明できない。どうしようかと思ったけど、特に突っ込まれなくてよかった。

 ていうかティカが割と受け入れられているのは、冒険者の中にも魔物を相棒にしてる人がいるからかな。あ、でもそれって確か許可とらなくちゃいけないんだっけ。


「そうだ、よかったら私達のお店にこない?」

「そ、それはつまり!」

「あの冒険者には無料でご馳走なんてしたくなかったけど、あなたにならいいわ」

「いいってことですか!」


 食べ物一つで小躍りしてしまう自分がいる。最初はツンツンしていて、きつそうな子だなとか思ってごめんなさい。親子でお店を切り盛りしている子が、悪い子なわけないよね。

 他人に感謝された上にご馳走になる、これが支部長が言っていた冒険者の喜びか。この子とお近づきになれば、今後もご馳走してくれるかもしれない。不幸が続いた後は良い事が起きるもんだ。


「あの解体は本当に美しいわ。依頼人である私が調理関係者だと意識した上で必要部位に分けられてるの」

「だってさ、ティカ」

「光栄デス」

「特に背骨なんだけどね、これダシを取る際に非常に重要なんだけど下手な解体をする人は軽視しがちなの。何故かっていうと骨なんて大体は捨てる部分だし、そうでなかったとしても肉がまばらについた雑な骨が残ってね」


 すごい早口で言ってる。そういえば私、眠かったんだ。この子の途切れないトークでまた思い出してしまった。


「ちょっと、聞いてる?」

「ふぁい……」

「煮込む時にね、まず……」


 良い事の前には少しだけ乗り越えなきゃいけないものがあるらしい。悪い子じゃないんだ、ちょっと周りが見えなくなってるだけ。かなりツバ飛んできてる。


◆ ティカ 記録 ◆


マスターの 初仕事だというのに とんだ悪漢と 関わってしまったものデス

ギルドも 少しの配慮を利かせて 止めればいいものを

気がかりなのは あの二人が マスターに受けた仕打ちを 警備隊に 密告した場合

また面倒な事に なりそうデス

ギルドから 叩き出したところで あの無法者は野放し

よって しばらくは 警戒の必要が ありまス

マスターに 何かするようであれば 魔導砲での排除も 検討すル


引き続き 記録を 継続

「ティカ、魔力って結局何なの?」

「人の体内に備わってる力で、個人によって量が違いまス。

魔術師と呼ばれる方々は基本総量が大きく、魔力を何かしらに変換して打ち出してますネ」

「私の魔力で何かしらに変換する事は?」

「一定の総量に満たなければ、ほぼ何も生まれませン。ですから魔術師は絶大な存在なのでス。

先の討伐戦でも、魔術師がいれば造作もなく終わっていたほどデスネ」

「ふーん、努力だ何だいうけど才能がすべての世界もあるんだね」

「厳しいですが、そうですネ」

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