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下水道にいこう

◆ 王都 冒険者ギルド ◆


「あの規模のアジトを一人で壊滅……ですか」

「詳細は王都の兵隊さんがしてくれるから、そっちに聞いて下さい」


 本当はティカの活躍が大部分を占めるんだけどね。実直そうな受け付けの人も、さすがに驚いたか。こっちで一応、出来るだけ具体的な説明をしたから信ぴょう性はあるはず。今更だけど、達成しましたとウソついて報告してもその場ではわからない。報酬だけ持ち逃げする人とかいそう。


「生活費を残して後はこれだけ返済に当てる、と」

「さすがマスター。商人の親を持つだけあって、お金の勘定がうまいデス」

「それ真面目に言ってるのか何なのか。さすがにいい加減にやれる状況じゃないからね。苦痛でもやるしかない」

「おかげで生活費だけでもかなり潤いましたネ。さすがはブロンズの称号といったところでしょうカ」

「そう、いつもならこの時点でしばらくは引きこもるんだけどね」


 イルシャちゃんが形式上、犠牲になってるから早く解放してあげないといけない。あそこに定住しそうな雰囲気しかなかったけど、解放してあげないといけない。ところでアスセーナちゃんはどこいった。


「大きい収入ではあったけど、さすがにこれだけじゃまだまだ足りないな。残る依頼はネズミ退治にゴーレムに……。ゴーレムってレリィちゃんの家にあった本に載ってた情報しか知らないな」

「自立可動している物質の魔物デス。体が岩だったり何らかの鉱石なので、生半可な攻撃では止まりませン」

「達人剣でも斬れなきゃピンチだよね。ね、そこんところ、何とかなりそうかな。達人剣君」


――未知である以上、何の断定も不可能


「わからないから、何も言えないってさ。こういうところが達人っぽい」


 経験豊富そうなのに、ゴーレムとは戦った事がないのかな。どっちにしても、ゴブリンとは訳が違う。となると現実的なのはネズミ退治だけど、ジェシリカちゃんが引き受けていたっけ。などと考えていたら、3人の冒険者が入ってきた。どことなく臭う。


「いやー! 疲れたなぁ!」

「あれだけ倒せば、十分だろ! 誰だよ、オレ達にネズミ退治なんて出来ないとか言ったのは!」

「陥落姫様だろ?」


 あぁ、ジェシリカちゃんと揉めてた3人か。止められてたのに結局、引き受けたんだ。臭うのは下水道からその足で帰ってきたからだね。入浴してからでも遅くはなかったはず。


「お疲れ様です。ジェシリカさんの姿が見えないようですが?」

「あー、彼女はまだどこかにネズミがいるかもしれないからって言ってな。まだ探索してる」

「そのうち帰ってくると思うから、先にオレ達だけでも清算させてくれ」

「はい、では3人分の報酬をお渡しします」


 報酬を受け取るなり、テーブル席について賑やかにお金の使い道について盛り上がってる。あの3人、本当にジェシリカちゃんとパーティを組んでいたのかな。どういう経緯で組んだのかはわからないけど、置いてきたメンバーに対して素っ気なさすぎる。これはちょっと気になるな。どれ。ささっと近づいて、槍使いの衣服に触れる。


――鞭使いジェシリカのおかげで、窮地を逃れた


 ほうほう、やっぱり彼女は強い。楽勝ムードで帰ってきてるけど、普通にピンチだったんだ。別の一人の鎧に触れてみる。


――ジェシリカが先頭を歩き、大群に遭遇。手に負えない数だと判断した主は彼女に撤退を提案する


 なるほど、手に負えないならしょうがない。それからそれから?


――彼女は拒否。倒し漏らした鼠を後方で倒せと指示するが主達は逃亡。


 おい。


――主達は物の数匹、討伐した程度。こんな主など守りたくない。


「鎧君にめちゃちゃ嫌われてるじゃないですかー!」

「なんだよ、さっきから……うあっ!」


 さすがに背後に立って指先で触る私に突っ込んだか。でも私が例のウサギだとわかったみたいで、出そうになった言葉を飲み込んだ。怖くないよ、普通のウサギだよ。


「ウ、ウサギファイター! オレ達に何か用かよ?」

「決闘は断るからな!」

「決闘でぶちのめしたい衝動に駆られてる」

「な、なな、なんだって!?」

「ジェシリカちゃんを置き去りにして逃げて来たでしょっていってもどうせシラを切るんでしょ?」

「へっ……?」


 言葉を失ったか。普通は知りようもない事実だし、そりゃ沈黙するよね。そしてこの沈黙が答えだ。周囲の人達も、マジかよこいつらみたいに囁き合ってドン引きしてる。


「モノネさん。今の話は事実ですか?」

「そうですよ、職員さん。ジェシリカちゃんが防波堤のごとく先頭に立って、3人が後ろで倒しもらしたネズミを退治。だけどびびった3人はそのままジェシリカちゃんを置き去りにして逃げて来たとさ」


「デ、デタラメだ!」


 今更遅い。最初に何言ってんだこいつみたいな態度をとっていれば、私の証言が妄言になっていたものを。今も下水道で奮闘しているジェシリカちゃんを置いて、金の話か。


「デタラメだというなら、これから私が下水道にいって確かめてくるけどいい? デタラメなんだよね?」

「う、えっと、それは」

「もしジェシリカちゃんが万が一の事態になっていたら、わかるよね?」

「いや、いやいや……陥落姫様だぞ? あれだけ偉そうにしてたんだから、一人で何とかしてるだろ……」

「話をすり替えるな。こういう異物が混入しやすいのも冒険者制度の弊害かな。学園みたいに試験でもやればいいのに」

「異物だと……!」

「一丁前に怒るくらいにはプライドがあるなら、今すぐ下水道にいってジェシリカちゃんを助けてくれば?」


 実際に試験制度なんか導入したら、まず私が弾かれるんだけどさ。そしてここまで煽ったのにまだ動こうとしない。苦い顔をしているけど、また下水道に行くのは面倒だし怖い。そんなところか。その気持ち自体は否定しないけどね。


「冒険者を信頼しているから依頼する人がいる。その冒険者がこの様じゃ、他の人達に対する信頼にも影響するよね。今、依頼があるのは皆が積み上げてきた実績があってこそじゃないの? それをあんた達が台無しにしてどうするのさ」

「……でもよ、怖かったんだ。あんな大群、どうしろってんだよ……」

「偉そうな事を言えないといいつつ、言ってしまった。職員さん、私がネズミ退治を引き受けるよ」

「か、かしこまりました」


 急に振られて狼狽する職員さんがかわいい。普段がお堅いからそのギャップがね。


「ソルジャーラット……日を追うごとに数を増やして、作物や器具にも被害が出ています。単体の戦闘Lvは2程度ですが、すばしっこくて知能も高いです」

「完全な全滅以外の討伐は無意味だね。むしろ中途半端に倒しても、学習されて手強くなる可能性すらあるかなー」

「そ、そうなんですよ。さすがブロンズの称号……」

「さてと、ジェシリカちゃんが心配だから行くね。そこの3人、どこから下水道に入ったか教えなさい。あと戦っていた場所もね」

「わかった、教える……」


 すっかり意気消沈している。私だって好き好んで下水道に行くわけじゃないけど、さすがに知っている人が死ぬかもしれないとなれば見過ごせない。寝覚めをよくするためにも、助けにいくしかない。ジェシリカちゃんは嫌がるかな。別に嫌われてもいいや。


「レリィちゃんにネズミ殺しの薬でも貰えばよかったかな」

「万が一、打ち漏らした際に薬への耐性がついてしまうと厄介デス」

「なるほどね。ていうかこれ、何気に失敗したら大変な事になるんじゃ」


 今頃気づいても遅い。重い腰をあげる気分で、教えてもらった下水道への入口に向かった。噂ではネズミ達を束ねるボスがいるらしい。


◆ ティカ 記録 ◆


あの3人 戦闘Lvは14程度 実力は申し分なイ

しかし 大群となれば 単純な戦闘Lvで判断するのは ますます危険

あれだけ 怒っていたジェシリカさんが 彼らと パーティを組んだというのに

なんという 仕打ちを したものダ

臆病風に 吹かれて 逃げ出したくなる事は あるだろうが それを実行すれば

それなりの結果が待っていル

とはいえ ジェシリカさんの性格や コミュニケーションの取り方が

災いした可能性も あるので 一概には 判断できなイ

さて ソルジャーラット これまでの戦いの中で この生体感知がもっとも重要なものとなるはズ

このティカ 微力ながら 奮闘しまス


引き続き 記録を 継続

「イルシャちゃんってケーキとか作れないの?」

「スイーツはパティシエさんの仕事だからねー。単純に料理とひとくくりには出来ない奥深さがあるらしいわ」

「見た目も普通の料理以上に重要になってきそうだもんね」

「そうなのよ。そこがどうも苦手で、暇な時はガラス越しにパティシエさんのお仕事をずっと見てる」

「何だかんだで料理とひとくくりにしてないその心よ」

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