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過去を振り返ってみましょう

「皆、次は何して遊ぼう?」


「もういいよ。何やってもアスセーナが勝つし面白くない」

「みんな! こんなの抜きにして、あっちで遊ぼうぜ!」


 かくれんぼ、かけっこ、泥棒ごっこ。いろんな遊びをするたびに皆が離れていく。人よりもちょっと足が速くて他人の行動を分析して隠れ場所を予測できるからって。仕方ないので手加減しても、それはそれでつまらないと言われる。そして私は誰とも遊ばなくなった。


「アスセーナ、音楽をやってみたらどうだ?」

「絵を描いてみればいいのよ」


 気を利かした両親が薦めるがままに何かを始めた事もあった。確かに楽しい。そのうち、家の外にまで漏れた音楽を聴いた人が訪ねてきた。その人は音楽界隈では有名な人らしくて、私をスカウトしたいと言っている。

 断る理由もないのでついていくと、見た事もない設備だらけだ。そんな中で演奏をしていると、偉い人達が才能があるとか歴史に残るだとか絶賛してくれて嬉しい。私が頑張ると友達は離れていくけど、大人は喜んでくれる。それを糧に頑張った。

 だけどなんだか、とても疲れる。嬉しい反面、どこかやりがいがない。やっぱり同年代のお友達がほしい。両親にそう願ったところ、王都の学園への入学を勧められた。高い入学金を払ってくれた両親の為にも、まずはお友達を作ろうと決心する。


「き、君は私を侮辱しているのかね?!」

「そんな事は……。でもこの公式、間違ってますよ」


 そんな決心とは裏腹に、いきなり問題が起こってしまう。間違いを指摘して細かく説明してあげた後、教授は何も言えなくなっていた。講義を受け始めて3日目の事だ。学んで吸収するのは楽しかったから、とにかくいろんな単位の修得に励む。


 君はもう卒業に足りていると学園長に告げられたのは、入学して1年目の事だった。もっと勉強したかったというより、お友達も出来てないのが心残りだ。やっかむ人もいたけど、私にちやほやしてくれる人も多い。だけど誰一人として、それ以上近づいてこようとはしなかった。


「素晴らしいよ。君は当学園の誇りだ」

「私も教授として鼻が高い! どうだ、このまま私の研究室で働かんかね?」

「今日は騎士団の方がお見えになってるな。毎日、君への勧誘が絶えなくて困るなぁ! ワッハッハッ!」


 私が頑張ると喜んでくれる人達がいる。嬉しいはずなんだけど、心の底から喜べない。わかってる。この人達は私の友達じゃないし、結果を出したから機嫌がいいだけだ。


 音楽の人達もそうだ。別に私個人なんてどうでもいい。結果を出す人間がほしいだけ。そうとわかっていても、頑張るのをやめられなかった。やめた途端、この人達すら私から離れていく気がしたから。だからとにかくいろんな分野に手を出しては結果を出した。


「お父様。どうすればお友達が出来るのでしょうか」

「ど、どうしたんだ。その喋り方……」

「あっ……。いろんな偉い人とお話しているうちに癖になっちゃった。こうしないと嫌われそうだから……」

「アスセーナ……」


 お友達。それを手に入れてどうしたのか、自分でもわからない。寂しいのか、それともステータスにしたいだけなのか。自分が何かになりたがっている事に気づく。剣の達人にでもなればいいのか。それとも音楽家や画家、医者か。何でもいいから自分というものが欲しい。どこに腰を落ち着ければいいのか。


 王都を歩いているうちに冒険者ギルドの建物が目につく。冒険者、聞いた事はあったけどよく知らない。興味本位で説明を聞いてるうちに自然と登録してしまった。冒険をすれば、見聞が広がるかもしれない。西へ東へ、誰も踏み入った事のない場所へ。とにかく駆けたけど、これといって何も変わらなかった。ここでも私が結果を出すたびに賞賛してくれる人達がいる。


「アスセーナちゃんねー、すごすぎるからいきなりシルバーの称号をあげちゃうよー。

すっごいよねー。それで授与式はお城でやるみたいだから来てねー」


 ギルドマスターと名乗る方に呼び出されて、言われるがままに城でシルバーの称号を貰った。これの前にブロンズ、アイアンの称号があるらしいけど、私はそれらを飛び越したらしい。未踏破地帯の踏破や国の問題解決に取り組んだおかげか、王様を始めとした身分違いの貴族まで出席した派手な式だった。


 この頃には冒険者ギルドと国の繋がりは大体把握していたけど、これじゃ学園にいた時と変わらない。誰かに喜んでもらえるのは嬉しい。でも、こうじゃない。こうじゃないと何度思ったか。身分が上の相手なので精一杯の愛想を振りまき、とにかく上品に見せる。授与式が終わった後、尚も私は何者にもなれてないとわかった。


「お前、称号を貰って勘違いしてるんじゃないだろうな。あんなものは数人のお偉いさんが認めたってだけなんだぞ」

「えぇ……」


 この頃から、冒険者ギルドに行くたびに本格的に絡まれるようになった。最初は下手に出ていたけど、エスカレートしていく一方だ。ある日、私の中で何かが切れた。


「偉い人の耳に届くほどの偉業を成し遂げたのですよ。偉業を成し遂げた人が偉業を認めた意味、わからないんですね」

「なっ……!」

「すみません。ちょっと自慢しちゃいましたね。気に障ったなら謝ります」

「このアマが! やっぱり調子に乗ってやがんな!」


「面倒ですね。ではこの場で私に文句がある人は手を上げて下さい。まとめて決闘でお相手しましょう」


 この決闘のルールはありがたかった。何か揉め事が起こったら、これをやればいい。ついでに徹底して実力の違いを見せつけて圧勝すれば相手は何も言えなくなる。言いたい事を言えて決闘を終えた後、私の中に今まで感じた事のない快感があった。私は自分で自分を抑圧していたんだ。

 言いたい事があれば言えばいい。やりたい事があればやればいい。あとは自分が何かになればいい。それで目的は達成できる。こう考えた時には盗賊程度の殺しにも躊躇しなくなってきた。最初は抵抗があって取り逃がしかけた事もあっただけに、これは大きい。


 おかげでランフィルドという街からの盗賊に悩まされているという要請も、迷いなく引き受ける事が出来た。あそこにはブロンズの称号を持つ冒険者がいると聞いているし、私がいなくても解決できるだろうとは思ったけど。


「さすがアスセーナさんだ。君がいたら、俺達なんかいらなくなっちゃうなぁ!」

「あの若さで凄まじいもんだ」


 この街の冒険者のレベルは王都よりもだいぶ低い。ブロンズの称号を持つ方はともかく、これでは盗賊相手といえども苦戦するかもしれない。シュワルト辺境伯の力なら、どうとでも戦力を集められそうなものだけど彼はどうやらそっちには力を入れてないみたいだ。それはこの街の潤いを見ていればよくわかる。だからこそ守らなきゃいけない。

 だけどいざ盗賊の討伐戦だというのに、辺境伯が妙な依頼を出してきた。何でも罪を帳消しにするために、一人の女の子が盗賊討伐に参加するから様子を見てくれという内容。おかしな依頼だと思いつつ、最初はすぐに助けに入る予定だった。


「なに、あれ……」


 そう呟いた時、頭目のゴボウがウサギの恰好をした少女に斬られて倒された。辺境伯には悪いけど人の命がかかってるし、長々と見物する予定はなかったはずだ。だけど見せられた。いや、魅せられた。あれほどの腕を持ちながら、あの珍妙な恰好。強い。そして強烈な違和感もある。気になる、あの子は誰だ。


「私が解決してしまうと、モノネさんに課せられたクエストの意味がなくなってしまうからです」


 本当は見とれてしまったとは言えなかった。このモノネという少女、いつも寝起きのテンションだ。言ってしまえば常に抜けていて、それでいて本人は気にしていない。相手が辺境伯だというのに、緊張感なんて微塵も感じられない。もし怒らせたら取返しのつかない相手だというのに。

 この子は何者なんだろう。いや、何者ですらないのかもしれない。それでいてあの強さ。無意識のうちに彼女を凝視していた。


「直接、君の活躍を見た警備隊の者達も興味津々だよ。もちろん私もだ」

「そ、そうですか」

「わたしもですよ」

「え?」


 何故そう言えてしまったのかもわからない。この日から私の中をこの少女が独占するようになってしまった。胸が高鳴り、気持ちが落ち着かない。何をしても集中できない。日を追うごとに増大する彼女への好奇心が抑えられず、自宅の割り出しに成功。居てもたってもいられず、開いている窓に向かって跳んでいた。

「ティカってさ、私が寝ている時はどうしているの?」

「寝ていまス」

「寝れるの?!」

「目を閉じて心を閉じて眠りの完成デス」

「そ、そ、そうなんだ」

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