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温泉で疲れを癒やそう

◆ "スイートクイーン" 部屋 ◆


「大衆浴場?」

「はい。ランフィルドにはない、大型の入浴施設ですよ。温泉もあります」


 王都の事はアスセーナちゃんのほうが詳しい。実際、観光といってもどこに何があるのかわからなかったから助かる。でも大衆浴場は想像してなかった。要は大きいお風呂で知らない人達が、一同に介して浸かってる場所なんだろうな。知らない人と裸の付き合いになるわけだ。馴染みのない分化だし、抵抗がないといえばウソになる。


「その温泉っていうのは、体にいいやつ?」

「美肌効果に加えて疲労回復、滋養強壮の効果やいろいろ活性化しますね」

「そこまで効果がありすぎていいのか」


「温泉! いきたい!」


 すでに入浴セットを準備してる子達もいるし、私も悪い気はしないから行ってみよう。いつかみたいに背中の流し合いでもすればいいか。


◆ 天然温泉施設"マーマンの湯" ◆


 名前に突っ込みそうになったけど、あえてスルーしよう。美術館よりもたくさんの人でごった返してる。休憩所に食堂、それにマッサージをしてくれるところまであるな。あれ気持ちいいのかな。しかも手の平から淡い光を放ってるし、魔法のマッサージ?

 高い入館料を支払っていざ、大衆がひしめく浴場へ。どうやらここでは専用の服が用意されていて、それを来て館内でくつろぐらしい。ここにきて気づいたけど、これってスウェットを脱がなきゃダメだよね。


「モノネさん、スウェットを脱いでこちらに着替えるんですよ」

「別に義務じゃないよね」

「モノネさんも着替えようよ! 誰も襲ってこないからさ!」

「そういう心配はしてない事もないし不安が募る」


 この浴衣、それぞれサイズがあって私は一番小さいやつだった。なんとレリィちゃんと同じだ。これはもしかして、ちょっとごまかせばお子様料金でいけるんじゃ。


「アハハ、モノネさんは子ども料金でもいけそうだね」

「どうして人が気にしてそうな事いうの」

「それをやると衛兵がくるのでやめたほうがいいですよ。非番の方もあそこにいらっしゃいますし」

「浴衣を着ていて完全に一般人にしか見えないんだけど、どうしてわかったの」


 ティカの生体感知でようやく戦闘Lv25だとわかったんだけど。仕事の疲れをここで癒すのはさぞかし気持ちいいはず。私には味わえない至福の時だ。ていうか25って高いな。さすが王都を守護する精鋭か。


「あちらが男湯でこちらが女湯です。間違って入らないで下さいね」

「入るわけないじゃん」


 更衣室に着いた途端、いよいよこの時が来たかと緊張が走る。ここから先は何も守ってくれない魔境だ。もし魔物が襲ってきても成す術なく殺される。今の私はジャンとチャックにすら勝てない。手が震える。これだけ大勢の前でスウェットを脱がなきゃいけないなんて。


「マスター、僕がついてマス」

「ティカ、頼むよ!」


 そうだ、私にはティカがいる。いつだって一緒に過ごしてきた。魔導銃なら大体の相手を押さえられる。勇気を出して脱ごう。


「そちらの方? ペットの持ち込みは禁止されています」

「ティカァァァァァ!」


 無慈悲にも従業員にティカがつまみ出されてしまった。あまりにひどすぎる。こんな惨たらしい話があってたまるか。もし私が魔物に襲われて殺されても、あの人は罪悪感の欠片も感じないんだろうな。ダメだ、この状況でスウェットを脱ぐなんてとても。


「早く脱ぎましょう」

「やーーん!」

「やーーんじゃない! まったく……レリィちゃんを見てよ。おおはしゃぎしてもう先に入ったわ」

「子どもは何も知らない」

「達観してないで入ろう!」

「し、下着は自分で脱ぐからぁ!」


 強引に脱がされて、大浴場まで連行された。入った途端、むわっとした熱気が全身にくる。広々としすぎた浴場内にはいくつも浴槽があった。これは何を意図した浴槽の数なんだ。ケタラの湯、ショウガ湯、サンダーボルト湯と怪しさ満点だ。


「まずは体を洗いましょう。モノネさん、背中を向けて下さい」

「洗うとなった時に優先するのがそれなの」

「じゃあ、私はアスセーナさんの背中を流すね!」

「4人で輪になりましょう」


 リング状に並んで4人がそれぞれ背中を流し合って、傍から見るとなんだこいつらって感じになってる。実際、他の方々の好奇に満ちた視線がね。こう、くるんだよね。


「では前を向いて下さい」

「いやそれは自分でやるから」

「遠慮してるんですか?」

「なんでそうやってすぐ洗いたがるの」

「モノネさん、洗いやすそうですからね」

「それを言ったらレリィちゃんもでしょ」


 たまにアスセーナちゃんがわからなくなる。いや、わかった試しがないんだけど。今は頭を洗ってくれてるし、これはこれで気持ちいい。お湯で綺麗に洗い流してくれたのはいいけど、今度は肩叩きまで。


「そろそろお湯に浸かろう!」

「体も十分、洗いましたからね。これはマナーですよ、たまに洗わないで入る方がいるので困ります」


 確かに汚い体でお湯が汚れたらまずい。皆が使うところだからこそ、皆で協力して綺麗に使わないとね。そして早速、お湯に足を入れてみたけど即戻した。


「あっつ! 熱すぎ!」

「これがいいんですよ。熱いのは体が冷えてる証拠ですから、遠慮せずに入りましょう」

「だから熱くて入れなうわぁぁぁ!」


 アスセーナちゃんに脇を抱えられて、湯船に入れられた。子どもか。熱すぎて暴れるも、シルバーの称号から逃れる術もない。スウェットがないと、こうも無力なのか。それがわかったなら体を鍛えようとならないのが私だ。肌が密着した状態が続いて、最初は死ぬほど熱いと思ったお湯にも段々と慣れてくる。


「あー……熱い」

「モノネさん、本当に小さいわね。私でも持ち上げられそう」

「私でもってイルシャちゃんは重い鍋とか振るってるから、ムキムキでしょ」

「ムキムキだなんて失礼ね。触ってみればわかるから、ほら」

「立派な肉付きです」

「あ、レリィちゃん。泳いじゃダメですよ」


 子どもはこういう場所で泳ぎたくなるものかな。私はそもそも泳げないから、泳ぎたいという欲求がない。このまま滋養強壮の効果を実感していたい。体の芯から温まってきて心地いい。


「ここ最近、くたびれ三昧だからこういうのもいいね。はー……」

「モノネさんはよく働いてますからね」

「私が働いている……」

「ブロンズの冒険者だなんて、誰でもなれるわけじゃないのよね?」

「大半が称号を持たない方々ですからね」


 労働という意識をあえて除外してたけど、確かに働いているな。まさか冒険者が天職だなんて思い上がるつもりはないけど、私はどうしてここまで来たんだろう。あのジェシリカちゃんも優秀っぽいのに称号はまだ貰ってないみたいだし。


「そういえば王都にはいつまで滞在する予定ですか?」

「特に決めてない。心行くまでかな。3人はどうするの? 帰りたいなら帰るけど」

「そうね。あまり長居するとパパやママに悪いし……」

「モノネおねーちゃんと一緒なら、いつまでもいいよっていってた」

「あまりに信頼されすぎて重い」


「では次はサウナに行きませんか? 炎魔石が作り出した暑い部屋です」


 見ると、汗だらけの女性達が疲れ切った顔をして出てきた。そしてかけ湯で体を流した後、水の浴槽に躊躇いなく入ってる。あれはどういう催しなんだろう。促されるままにサウナとやらに入ると、そこは別世界だった。暑いなんて言葉じゃ片付かない。灼熱だ。


「発汗、水風呂のサイクルでいきましょう。疲労回復効果抜群ですよ」

「ごめん多分5分もたない死ぬ」

「私は平気」

「イルシャちゃんは炎の申し子だからね」

「ありがと!」

「皮肉がぁ……」


 体中の水分がなくなるんじゃないかってくらい汗が流れ出る。こんなところに子どもを長く置いておくわけにはいかない。発汗して疲労回復効果抜群とか言ってる2人を残してレリィちゃんと一緒に早々に退散した。

 こうなった後の水風呂はさぞかし気持ちいいんだろうと期待を込めて入ろうとしたら、普通に冷たくて無理だ。


「きちんと体を洗い流してから入るんですよ!」

「あ、はい」


 アスセーナちゃんがサウナのドアを開けてわざわざ忠告してくれた。あんな灼熱の空間を形成して、疲労回復を図る文化か。慣れたら気持ちいいのかな。水風呂に足だけつけて座り、プラプラさせる。


「レリィちゃん、ここのお湯って本当に効果あるのかな」

「わかんない」

「効果があると聞けば、なんだかそんな気になってくるよね。それで幸せになれるなら十分か」

「あの2人、遅いね」

「まさか倒れてないよね」


 こっそりサウナのドアを開けてみたら、すごい談笑してた。たくましすぎるでしょ。あの2人なら、どんな環境でも生きていけそうだ。灼熱コンビを置いて、私達は露天へと向かった。


◆ ティカ 記録 ◆


生体反応登録 戦闘Lv1 生体反応登録 戦闘Lv25

生体反応登録 戦闘Lv1 生体反応登録 戦闘Lv1


ふむ ここには ほとんど 民間人しかいなイ

ちらほら 冒険者も いますが アスセーナさんの存在を考えれば

マスターへの危険は なさそうダ


さて 暇ですネ


引き続き 記録を 継続

「マスター、手紙が届いていまス」

「どれどれ……。『駆け出しの冒険者です。布団はどうやって浮かせているのですか?』だって。魔力だと答えればいいのか」

「マスターに興味を持つとは、見どころのある駆け出しデス」

「あ、続きがある。『私が計算したところ、布団の可動性を考慮すればかなり高度の……』めんどくさっ! どこが駆け出し!」

「駆け出しなのは冒険者だけだったのですネ……」

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