王都に戻ろう
◆ エターナルガーデン ◆
「モノネさん。ブロンズの称号を持っている事を黙っていて大丈夫なんですか?」
「ウソは言ってないから責められる筋合いもなし。興味を持たずにスルーしてくれたらバレないよ」
「そこのウサギさん、わたくしの戦いをご覧になったでしょう?」
腰に両手を当てて得意げな笑み。アスセーナちゃんの言う事はもっともだけど、出来ればトラブルはもう嫌だ。だから、この場を凌げればいい。
「凝視してました。すごすぎて理解が追いつかなかったです」
「そう……。ちなみにわたくし、全然本気を出してませんの」
「戦闘Lv38相手に本気を出してないの?! すっごーい!」
「38? よくレベルを知っていましたのね」
「いや適当に言っただけです当たってたんですかやったー!」
ふふんと前髪をかきあげてご機嫌だ。満足されたようなので私達はこれでお暇しよう。
施設内も十分に見回ったし、思い残す事はないはず。
ところがジェシリカさん、どうも布団から兎耳の先までしげしげと観察しておられる。
これ以上、興味を持たれたらまずいかも。
「あなた……本当にただの冒険者?」
「どこからどう見ても普遍極まりない冒険者ですが?」
「その恰好といい、浮いている布団を含めて普通には見えませんわ。気になりますわね。後で冒険者ギルドで確認しましょう」
えっ。
「すみません実はブロンズの称号を持ってるんです」
「なんですってぇぇ!?」
ダメだ。ここまで興味を持たれたら、もう隠せない。あのギルドの個人情報公開、絶対やめるべきだと思う。依頼主にとっては都合がいいけど、よからぬ人間にまで私達の素性が知れるのはよくない。この子がよからぬ人間とは限らないけど、こうして簡単に調べられちゃうのは問題です。
「あ、あなた、が、ブロンズ……」
「そんなにショックを受けられたら、こっちもショックだよ」
「く、悔しいですわ! なぜ、なぜゆえに! なぜですことのよぉ! はっ……そういえば、ザイード一派を従えた兎少女ってまさか……」
「ここでようやく気づかれた」
さて、どうくるかな。私としては決闘コースが濃厚だ。この子と戦うとなると、あの鞭が怖すぎる。あれには絶対に当たりたくない。当たった時点でいろいろ失う気がする。
「あなた! あなたはそれでいい気になってるのでしょうけど! 称号なんてあくまで称号でしかないことのですのよ! ンギギ!」
鞭にかじりつくほど悔しがられたら、こっちとしてもかける言葉がない。言葉がおかしいし、それさっきエンドヒヒさんが打たれまくってた鞭だよね。汚くないですか。
「あの、多分シャイナ様の気まぐれだから気にしなくていいと思うよ」
「後進の育成だなんて……このわたくしに恥をかかせて!」
「それについては本当にごめん。でも話を勝手に進めたのはそっちなのは忘れないで」
「今日のところはわたくしの負けですわ! 所長! ごきげんよう!」
つかつかと速足で行っちゃった。まるで嵐が過ぎ去った後の静けさだ。そこまで目の仇にしなくても。いや、私みたいにちゃらんぽらんに冒険者をやってる人間にはわからないんだろう。なんだかあの子からは並みならぬ執念めいたものを感じたもの。
「仲よくなれると思ったんですけどねぇ。モノネさんが称号を隠すからですよ」
「これはもうどのタイミングで明かしても変わらなかった。でもあの子、アスセーナちゃんにもどこか対抗心を燃やしてたよね」
「そうなんですか?」
「『シルバーの称号をお持ちのあなたに』なんて前置きがわざとらしかった」
「モノネさん、よく観察してますね」
ザイードもそうだけど、冒険者の中にはそういうのを気にするのもいるとつくづく学んだ。私みたいなアビリティ一筋と違って、あの子には真っすぐ育ってほしい。
「さっきも言ったように悪い子じゃないんだ。ちょっと素直になれないところがあってね」
「大丈夫ですよ、所長。ジェシリカさんとは仲良くなれそうな気がしますから」
「そうか。同じ冒険者同士、仲良くしてほしいよ」
ちょっとピリピリしすぎな気がする。あんな風にとがってたら余計にトラブルを呼び寄せそう。
「じゃあ、そろそろ王都に戻ろうか。所長にリザンネさん、貴重な経験どうもでしたー」
「こちらこそ、また来てほしいくらいだよ。どうかね、当施設で」
「すみません、冒険者やっていたいんで」
「そうか。気が変わったらいつでも来なさい」
布団に乗って強引にお別れをする。危険なお誘いはふっきらないとね。そしてイルシャちゃんとレリィちゃんを置き去りにしそうになる。でも、アスセーナちゃんにはすぐ追いつかれてすぐ布団にダイビングしてきた。
◆ エターナルガーデンから王都への道 ◆
エターナルガーデン、改めて上から見るとすごい施設だ。外周だけでもどれだけ距離があるんだろう。冒険者ギルドや魔術協会といい、世の中には不思議な組織が盛りだくさんだ。
「楽しかったですね! 王都に戻ったら、どうしましょう?」
「私としてはね、王都美術館に行きたいと思ってる」
「王都美術館、そうですか……え?」
「ウソ!」
「モノネおねーちゃん、具合悪いの?」
アスセーナさんが絶望の底に沈んだような顔をしている。イルシャちゃんが料理でも失敗したかのような顔をしている。この反応は予想してなかった。レリィちゃんに至っては薬まで用意し始めてる。
「いや、あのね。小説ってさ、文字だけの世界とか勝負だけどそれでいいのかなって」
「モノネさん、さては先日のカレーが原因ですか!」
「偏見は捨てて聞け。それでね、私の小説に絵を入れたらどうかなって思ったの。それで一口に絵といってもいろいろあるでしょ。だからね」
「やっぱりあのカレーは挑戦的すぎたんだわ……」
「だから聞け」
「はい、お薬!」
「どいつもこいつも」
「マスターが芸術鑑賞をするのだから、美術界には更なる躍進が期待できるでしょウ!」
「雑だけどフォローありがとう」
収集をつけるのにどれだけかかるのさ。アスセーナちゃんが深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、イルシャちゃんが手の平に字をかいてそれを飲み込む。レリィちゃんは白い粒の薬をってそれはやめなさい。慌てて取り上げる。
「すみません。モノネさん、本気なんですね。てっきり"幻惑の夢魔"に取りつかれているのかと」
「怖いネームドっぽいやつの名前出さないで」
「王都美術館ですか。いいと思いますよ、私のお勧めは思想派で有名な」
「あ、そういう事前知識なしで楽しみたいんで」
「美術館かー。なんか刺激されていいレシピ思いつきそう」
「そうそう、そういうふわっとした感じで楽しんだらいい」
「ではお昼をすませたら、美術館に向かいましょう。おや、あれは?」
アスセーナちゃんが地上を歩いているジェシリカさんを発見。行先が王都なら、布団じゃ追いつくか。
見つかると面倒だからここは迂回してやり過ごそう。上を見上げなければ見つからない。
「背中を伸ばしてリラックスしてますね。目が合いました」
「はい、逃げよう」
「あ、あなた! 称号を持っているからってそんな楽してぇ!」
追い越して逃げたと同時にすごいスピードで追いかけてくる。鞭を地面に振るいながら、威嚇してくる。そして速すぎる。
「乗せてあげてもいいのでは?」
「この布団、4人用なんだ」
「誰がそんなものに乗りたいですってぇ!」
「聴こえてるし」
「アスセーナさん! あなたもですってよぉ!」
「私が何かしたんでしょうか……」
布団使いの威信にかけて、ここは追いつかれるわけにはいかない。布団君を加速させてジェシリカさんを振り切ろう。
「お待ちぃぃ!」
「待ってどうするんだろう」
「わたくしのほうが上だという事を思い知らせて差し上げますわ! はぁ、はぁ……」
そういう決闘に繋がりそうな展開になるなら遠慮します。このレースはどうやら私の勝ちみたい。ついには彼女が見えなくなるくらいに振り切ったところで、王都が見えてきた。今度こそのんびり観光できるといいな。美術館には小説のヒントどころか、新たな表現方法さえ生みそうな何がある。そう確信している。
それにしても彼女、最初は優雅なイメージがあったけど今ので親近感すら沸いた。ということでジェシリカさんなんてよそよそしい。ジェシリカちゃんでいこう。
◆ ティカ 記録 ◆
ジェシリカさん 負けず嫌いなところは アスセーナさんと似ていル
冒険者として やっていくには 必要な資質かも しれなイ
しかしながら マスターと張り合おうなどと 無謀にも 程があル
ジェシリカさんが 優秀なのは確かだとしても まだ称号が 貰えない理由があるはズ
まず性格 いや 数々の問題児が 冒険者の資格すら 剥奪されてない時点で これは除外
やはり すべてを兼ね揃えた マスターのような方にこそ 称号が 相応しいという事カ
更には 美術にまで 関心を示しておられル
僕は信じていた マスターは必ず大成すると それが 証明されてしまっタ
引き続き 記録を 継続
「世界の国々大辞典を読んだ。はぁ……世の中が広すぎる」
「地中深くにある国、水の上や中にある国、空に浮かぶ国。炎の中にある国……どれも人智を超えた環境ですネ」
「ふわふわの中でつい眠りたくなる国……どうして私はここに生まれなかったんだろう」
「そのような国が、どのようにして成り立っているのカ……」




