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先輩の活躍を見よう

◆ エターナルガーデン ◆


「ここの施設の課題は餌ね。上質なものを用意する必要はないけど、栄養の偏りが見られたわ」

「イルシャちゃんの料理愛は魔物だろうと関係なしなんだね」


 熱く語る彼女を布団に乗せつつ、入口に向かう。ここまでくるとイルシャちゃんの分の報酬もほしかったな。しばらくは金銭面をどうにか工面しないと。


「リザンネさん。魔獣使いと名乗ってたドゥッケってここの施設で働いていたの?」

「はい。彼は優秀な職員でしたがコミュニケーションに問題がありましてね。段々と奇行が目立つようになって、独自の理論で魔物を強引に操ろうとしたんです」

「そこまでは何となく想像つくなー。あの仮面の大きな目もそれだったのか」

「魔物との視線を制すれば大半は言う事を聞くといって、防護メットの上に大きな目を書くようになりましたね。確かに魔獣同士では視線が互いのコンタクトが重要ですから」

「思えば鞭の音で魔物を操っていたのも、ここの技術と通じるものがあるなぁ」

「そんな事までしていたんですか? さすがというか……惜しい人材でした」


 ティカに神業とまで言わせていたっけ。実力も知識も技術も十分、足りないのは人格だったか。いくら優れていても、それ一つで台無しになるのはストルフを思い出す。私からすればもったいないなと思う。だからこそイルシャちゃんとレリィちゃんには真っ直ぐに育ってほしい。


「そういえば鞭といえば、もう一人いますね。有名な使い手が」

「アスセーナちゃんが言うなら冒険者?」

「はい。ちょうど私達と同じくらいの歳だと思います。なかなか面白いアビリティを使うみたいですね」

「人格者であってほしい」


「ジェシリカ、よく来てくれた。久しぶりに頼もうと思ってね」


 入口で所長が誰かと話してる。彼がジェシリカと呼んだその子は、薄い緑色の髪型で顔の左右からクルクルと巻いた髪を降ろしてる。竜巻みたいだ。あれいちいちセットしてるのかな。アスセーナちゃんと似た感じのやや吊り上がりの目が、きつそうな印象を受けた。歳は私と同じくらいかな。もっと上かも。


「はぁ、こんな辺鄙な場所まで来たのだからもっと報酬を弾んでもらいたいものですわ」

「どうにも予算がギリギリでね」

「で、今回はどれをどうにかしてほしいんですこと?」

「案内するよ」

「お待ち、そこの方々はどなたですの?」


 おっと、補足された。敵意はないけど、怪しんではいる。口を噤んで、人見知りが激しそうなタイプと見た。


「彼女達は見学の冒険者さ。紹介するか?」

「あれが? 失礼、そうは見えませんわ」

「兎耳の子はともかくとして、アスセーナは知ってるだろう?」

「えぇ、シルバーの……そんな方がここに?」

「ちょっとした事情でこちらに用があってね。ついでに見学をしてくれたんだ」

「イメージとだいぶ違いますわ……」


 訝しる彼女にアスセーナちゃんが手を振ってフレンドリーさをアピールしてる。近づいてきて自分の背丈やら服装と見比べたジェシリカさんにニコリと笑顔で迎えた。


「初めまして、アスセーナさん。私、冒険者のジェシリカですわ。お会い出来て光栄ですことよ」

「どうも、ジェシリカさん。"陥落姫"の噂は聞こえていますよ。素晴らしい実力をお持ちだとか」

「シルバーの称号をお持ちのあなたに評価して貰えて光栄ですわ」

「これからお仕事なんですね。頑張って下さい」


 アスセーナちゃんに対して刺のある言い方だ。白いロングスカートのバトルドレスという、お嬢様っぽい服装からして良いところの娘に見える。立ち振る舞いもどこか上品だ。私もいいところのお嬢様だから匂いでわかる。なんちって。


「そちらのおかしな服装をした子も冒険者ですこと?」

「こんにちは。駆け出しのウサギファイターです」

「ウサギファイター? なんですの、それ……」


 意外にも私に興味を示し始めたぞ。布団をつっついたり、下から覗き込んでる。いや、こんな変なのがいて無関心でいるほうが普通は無理か。でもきっとここまでだ。私がブロンズの称号を持ってるなんて夢にも思わないはず。


「わたくし、こう見えてもブロンズの称号は確実と評されてますのよ」

「それはすごいね。じゃあ、今回の依頼を終えたらまた近づくわけだ」

「まぁあなたもめげずに活動なさる事よ」

「はい、精進しまーす」

「あの、モノネさん?」

「いいから」


 どうも知らないっぽい。今までの言動からして、プライドが高そうだから私の称号については黙っておいたほうがいいな。無理に対抗する必要もなし。

 ここでもし私が称号をちらつかせるとしよう。そしたら「あなたが称号にふさわしい冒険者とは思えませんわ! 決闘よ!」なんて展開になるのは見えている。


「いやー、まだまだ冒険者としてわからない事だらけなんだよね」

「当然ですわ。このわたくしでさえ、やっと称号目前ですもの。あなたなら後何年かかるかしら?」

「さぁ、見当もつかない」

「フン、仕方ありませんこと。今日は特別に先輩として、私の仕事ぶりを見せて差し上げますわ」

「え? でも手の内は晒したくないんじゃ」

「後進の育成は先輩の義務ですの」

「確かにそうだね」

「アスセーナさんも特別にどうぞ。所長、この子達に見学させてあげるから案内して」


 所長の案内で猛獣区域に着く。ジェシリカさんが腰に身に着けていた鞭をするりと外して握る。魔獣使いに続いて2人目の鞭使いだ。あっちは直接、攻撃してくることはなかったけどこっちはどうだろう。


◆ 猛獣エリア ◆


 さすがに私達が中に入るわけにもいかないから、ガラス越しに彼女の活躍を見る。今回の依頼は最近、暴れて興奮気味の魔物を鎮めるという内容らしい。討伐でもなくて鎮めるというのが難しそう。きっと彼女にしか依頼できない理由がここにある。ジェシリカさんが鞭を軽く数回振ってから、堂々と対象の前に立つ。


「陥落姫なんて異名がついてるのに、称号を貰えてないんだね」

「強ければ称号という世界でもありませんからね。もっとも彼女の場合、実力は足りてそうではありますが」

「相手の魔物はエンドヒヒ、戦闘Lv38の魔物だよね。名前からしてやばそう」

「ネームドモンスターに指定されている個体もいるほどですからね。激昂する大将を上回るほどです」


 激昂する大将よりは小さいし、毛深くて弱そうに見える。だけど見た目で判断できない怖さがあるんだろうな。ジェシリカさんが鞭で地面をはたくと、エンドヒヒが歯茎を剥き出しにして威嚇している。そして次の瞬間。


「イィィー!」

「は、速ッ……!」


 飛びかかり攻撃を寸前のところでジェシリカさんがかわすけど、ヒヒの追撃は止まらない。鞭を振るいまくってバリアみたいに防御してるけど、ヒヒは巧に距離をとってくる。しかも投石までやりだして、ますますジェシリカさんの防御がきつそう。石をはたき落してる間にヒヒが隙あらばと、腕を伸ばして攻撃してくる。


「あれれ、ピンチじゃない?」

「でもジェシリカさんも何とか応戦できてますね。魔物も鞭の軌道をなかなか読めないようです」


「仕方ありませんわね……プリンセスビートッ!」

「イィ?! イギッ!」


 鞭が地面を跳ねまわって、まるで波打っている。より不規則になった鞭の一撃がついにヒヒの頬にヒット。だけど大したダメージになってない。追撃がくるぞ。


「イ、イィ!」

「動きが鈍りましたわね……こうなったらもう虜ですわ」

「イギャッ! イー……」


 腕、足にペチペチと当てていくうちにヒヒが段々と大人しくなる。ダメージは少ないはずなのに、何がどうなってるんだろう。そしてついにヒヒが地面に寝っ転がって、うっとりし始めた。


「イィン……」

「いい表情ですこと。もっと差し上げますわ」

「イヒィンッ!」


「アスセーナちゃん。なんか説明できないけどこれ、すごくふしだらな気がしてきた」


 ヒヒが鞭で打たれるたびに目を細めて、体をうねらせている。そしてついには成すがままで、這いつくばって自分から鞭に打たれにいってた。


「卑しいお猿さんですわ。ですが今日はこれで終わりにしますの」

「イイー!」

「悪い子にはこれで終わりといってるんですのよ」

「イ……イィン」

「そう、大人しくしていればまたご褒美をあげますわ」

「イィ……」


「いつ見ても、彼女のアビリティは打たれ……いや、感心する」


 今の所長の気持ち悪い肯定は忘れられないと思う。すっかり鞭で打たれたがっているヒヒを見て確信した。彼女のアビリティは不潔です。


「彼女の鞭は痛みと共に快楽を与え、やがてその虜にしてしまう……怖いアビリティなんですよ。だから男性のファンも数多くいるとか」

「その才能を冒険者に活かしてくれてよかった」

「モノネおねーちゃん。どうして冒険者で活かしてよかったの?」

「子どもに見せちゃいけないなら、最初に言ってほしかった」

「ねぇどうして?」


 しつこく食い下がるレリィちゃんへの誤魔化しに対応しながら、ガラスの向こうを見た。「どう?」と言わんばかりのジェシリカさんがこちらを見ながら、鞭を巻いてまた腰に着けて戻す。これは感想を考えておかなきゃ。褒めて持ち上げておくか。すごいのは事実だからね。


◆ ティカ 記録 ◆


冒険者ジェシリカ あの性格では 他者との衝突も 度々ありそうデス

マスターは 気転を利かせて うまくかわしたようですが

ブロンズだと バレたら面倒な事に なりそうデス

あのアビリティ 僕には まったく理解できず マスターの反応も 疑問ダ

強力なのは確かですが どうして 口ごもるのカ

一度 ヒットさせてしまえば 大幅に 相手の戦力を削げる 強いアビリティで

言葉も 出ないと 予想

マスターのアビリティのほうが 遥かに強力だと 後で褒めよウ

これで 問題はないはズ


引き続き 記録を 継続

「今更だけど私達が住んでる国ってなんていう名前だっけ?」

「モ、モノネさん……知らないんですか?」

「だって聞いたことないよ」

「ウソでしょう……」

「誰も知らないと思うよ。誰も」

「そんな、何故……」

「なんでだろうね?」

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