魔石管理士になろうか
◆ エターナルガーデン ◆
レリィちゃんの言う通り、マグナムドラゴンは不調だった。結構やばい病気の早期発見らしくて、職員達がレリィちゃんを囲んでちやほやしてる。今は数人の職員が治療を行っている様子。あの防護服って耐久性バッチリなのかな。戦闘Lv81の攻撃とか防げるのかな。
「……至らないな、我々は。君がここに来てくれなかったら、危うかった」
「これから勉強すればいいんです」
「レリィちゃん、悪気はないんだろうけどフォローとしてはどうかと思うよ」
「いや、事実だからな。病気も魔物の生態も知らなければいけない事だらけだ。当施設の最終目標達成は何代先になるか……」
「何代って……」
「所長ー! 物資をお届けにきましたぁ!」
ハルピュイア運送のはーたんが、元気よく翼を振っている。所長が軽く手をあげて反応してから、また顔に影が差した。
「ハーピィ族と人間はうまくやっているだろう。ここら辺ではあまりいないが獣人族も皆、そうだ。種族の垣根など関係なく、共存している」
「エターナルガーデンの理念……それは魔物との共存でしょうか?」
「さすがだな、アスセーナさんは。まぁ知る者は知っているか」
「素晴らしイ!」
ティカが突然、大声をあげて所長に近づく。いつにない自己主張の激しさだ。
「き、君は」
「この施設の理念、大変深く感激いたしましタ! このティカ、微力ながら出来る事があればお手伝いしまス!」
「それはありがたい。機会があったら頼むよ」
軽くあしらわれたけどティカは満足気だ。魔物と判断されて保護されないか心配だったけど、所長も空気を読んでくれたな。それにしてもいきなりどうしたんだろう。
「しかし、反対する団体も少なくないですからねぇ。彼らの言い分も一理あるのですけど」
「その通り。魔物に親しい者を殺された者にとっては妄言どころか、侮蔑とすら受け取るだろう。私がもしその立場なら、彼らと同じ主張をしていたかもしれん」
さりげなく所長に近づいて、防護服に触れた。この人は嘘を言ってないし、本気でその願いを叶えたいと思ってる。胡散臭い施設だなと勘ぐってごめんなさい。
「私に何かしたのかね?」
「わおっ! さすが戦闘Lv60!」
「よくわかったな。やはり只者ではなかったか」
指先で触っただけなのにバレた。この人なら、避ける事も出来ただろうな。ウサギファイターの時点で普通じゃないから、そりゃバレるか。すでにここの身内が魔獣使いとかいって、奇行に走ったくらいだし。
「その服装はギロチンバニーかな? アレも謎が多い。いずれ保護して研究対象としたいものだ」
「それはすごいですね」
「モノネおねーちゃん、フォローとしてはどうかと思う」
「隙あらば反撃か」
「かの英雄が踏破した獣魔の森……我々もいずれはな」
ん? 獣魔の森って踏破されてるんだ。英雄って、あの英雄かな。私が知ってる話と違う。
「その英雄って闘技大会を七連覇したとかいう? 殺されたんじゃ?」
「バカを言ってはいけないよ。ギロチンバニーは恐ろしい魔物だが、彼ほどの者は殺せんよ。戦闘Lvに関しては今一、定まっていないらしいがな」
「そうなんですかー……」
「マスター、どうも変ですネ」
キナ臭いけど、ここでそれを追求してもね。むしろ知らないほうがいい気がしてきた。なんだか怖い。
「所長、こちらにいらっしゃったんですか。空調の調整がうまく働いていないようです。このままでは各エリアの魔物の体調にも影響するかと」
「ホーイは何をやっている。魔石管理士の手にも負えないのか?」
職員が慌ただしい。四六時中、この人達は働いているんだろうか。寝食はあるだろうけど、どういう勤務形態なんだろう。
「保護する魔物の数が増えるにつれて、彼もコントロールが難しくなっているようです」
「それは困ったな。二等魔石管理士でダメならば一等か特級ではあるが……」
「コネも予算もないですね」
次々とピンチな展開が巻き起こる。この施設も結構ギリギリのところで維持してるのかな。
「このままだと魔物達がやばいんですか?」
「やばいな。エリアによって適した気候を維持できなければ、死に絶えてしまう」
「魔石で何年も魔物達のエリアに適した気候を維持してきたんですよね?」
「そう。だが些細な調整は魔石管理士が直接、魔石に魔力を送り込んで調整せねばならん。ホーイは優秀な魔石管理士だが、彼の手に負えないとなると本当にまずい……」
「わかりました。私がやってみますけど、期待しないで下さいね」
「君は魔石管理士なのか? 等級は?」
「違いますけど、嫌ならいいです」
「……ひとまず、向かおう」
通路を進んで階段を上がって、なんか重要そうな部屋に向かってる気配。私みたいな部外者を入れちゃいけない雰囲気だ。
◆ エターナルガーデン 空調管理室 ◆
魔石からチューブみたいなのが放射状に延びて、それぞれ壁に繋がっている。見たところ、魔石がいくつかあるな。赤いの火魔石でエメラルド色が風魔石か。あとは氷魔石、これは私もお世話になってるからわかる。違うのは大きさだ。とても一人じゃ持ち上げられない。
「あ、所長。すみません、うまくいかなくて。明日までには何とかしてみせます」
「それでは君の魔力が尽きるだろう。無理をしなくていい。後はこちらのモノネちゃんがやってくれる」
「こちらのって……この子ですか?」
視線が兎耳にいったのを見逃さなかったぞ。別にいいんだけどさ。
「君は魔石管理士?」
「違いますけど質問いいですか?」
「いいけど……」
「今まではうまく働いていたんですよね? つまりホーイさんに落ち度があるという事でいいんですよね?」
「悔しいけど、そうだな」
「わかりました。やってみます。魔石君、魔物達を快適な環境で過ごさせなさい。今までやってきた事だから覚えてるよね」
「……なんだって?」
そりゃなんだっての一つも出るよね。だけど説明するより結果を見てくれたほうが早い。チューブがそれぞれのエリアに繋がっていて、その壁に設置されているランプが赤色から青色になる。わからないけどこれでいいのかな。
「お、おぉぉ?! すべて正常に戻った?!」
「私としては、この仕組みのほうが摩訶不思議です」
「信じられない……どんな魔法を使ったんだ?! 教えてくれ! なぁ!」
「ちょ、離して下さい」
「金か? いくら出せばいい? 教えてくれ!」
「ホーイ、落ち着け。モノネちゃんが困ってる」
「す、すみません」
興奮する気持ちはわかるけど、説明しても理解してくれるかどうか。一言、こういうアビリティですで終わりだけどさ。今更だけど、あまりベラベラとアビリティの詳細を話したくない。知られてないに越した事はないからね。さて、ここはどう答えようか。
「そういうアビリティなんです。詳細は答えたくないんで」
「アビリティ……。ジェシリカちゃんが持つようなものとはやや違うな」
「誰ですか」
「なるほど、先程の君の行動に合点がいったよ。そうか、アビリティか」
「見破っても口外しないでくれるとありがたいです」
「まぁ確実な事は言えないがね」
戦闘Lv60の強者になると、感づくから怖い。ホーイさんが私の周囲を周って舐めるように観察してくる。苦労して習得した魔石管理士の資格だろうし、プライドを傷つけてないかな。
「しかし、これはお礼をせねばならんな。報酬を渡そう」
「ホントですかやったー!」
ティアナさんにほとんどお金を渡しちゃったから、この臨時収入は大きい。この重さからして結構な金額だ。魔石管理士になろうか。とか妄想してたら、また別の職員が走ってきた。
「所長! 魔物達への食事についてですが……」
「何か問題が起こってのか?!」
「すべて解決しました! イルシャという少女のおかげです!」
「なんと?」
どいつもこいつも活躍するんじゃない。もう全然見物じゃないな。騒ぎになる前に帰ったほうがいいかも。
「それと所長、ジェシリカさんがお見えになってます」
「お、そうか。そういえば彼女に依頼していた事があったな」
「ジェシリカってさっき言ってた人?」
「そう、君と同じ冒険者だ。悪い子じゃないんだが、あまり刺激しないようにな」
「わかりました。退散します」
ここ最近、立て続けにクソ野郎続きだったからナーバスになってる。所長達がいい人達だったから、この余韻を忘れたくない。そもそも依頼されて来たって事は普通にお仕事だ。邪魔しちゃ悪い。
◆ ティカ 記録 ◆
このような 施設があったとは やはり この世は 素晴らしイ
平和への一途な思い これを成就せずして 何が成し得るのカ
反対する者達に負けずに 貫いてほしイ
引き続き 記録を
あぁ! マスター! マスターが活躍をしたのだっタ!
この場に マスターがいなければ 大変な事ニ!
マスターが 平和への貢献をしタ!
やはり マスターとなら 共に歩めル!
引き続き 記録を 継続!
「はーたんってさ、あの翼で生活してるのがすごいよね」
「翼の先にインクをつけて文字を書いたり料理の味見をしたり、いろいろ出来るようデス」
「待って。翼を料理の中に入れてるの?」
「道具を使うとかえってやりにくそうですからネ」
「ちゃんと洗ってるよね……」




