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エターナルガーデンを見物しよう

◆ エターナルガーデン ◆


「ブラッディレオに、そちらはブロッフォ! もちろん歓迎です! こちらでぜひ保護させて下さい!」


 外から見たらドーム状の建物に、中は乳白色の壁で殺風景。ここがエターナルガーデンか。ディニッシュ侯爵の手紙もあったおかげで、あっさり信用された。

 アスセーナちゃんが王都から少し離れた場所にあるとか言ってたけど、だいぶ遠い。そりゃ魔物がたくさん収容されている施設が王都の近くにあったらいろいろまずいから、考えてみたら当然だ。といっても周囲は山と森に囲まれていて、外からも中からも割と堅牢な印象だった。おかげで苦労した。


「ブロッフォは希少種に認定されつつあるほど、数が減っていましてね。本来は大人しい魔物なんですが人間が刺激しすぎたせいで、敏感になって人を襲うケースも増えています」

「そんな魔物をあの自称魔獣使いは……」

「魔獣使い……? そいつはもしや、目が大きく描かれた仮面を被ってませんでしたか?」

「ここの身内かい!」

「事情を説明すると長くなるんで、とりあえずすみません……」


 白い防護服に身を包んだおじさんが、恐縮して片手を後頭部に当てる。防護服だらけのこの空間と、あのピエロに接点があったとは。


「ひとまず、こちらの二匹は責任を持って預かります」

「はい、お願いします」


「ここからいろんな入口があるけど、それぞれ魔物がいる場所に通じてるの?」


 イルシャちゃんとレリィちゃんが早くも見学ムードだ。もう一人の防護服の職員が二匹を連れていった後、入れ替わりで他の職員が来る。というかあの二匹、私以外にも従っているな。


「案内役のリザンネです。いい機会なので当施設の活動内容と目的を追って話させていただきます」

「はい! 質問です! さっきの二匹はなんで黙って従ってついていったんですか?」

「当施設内には魔物の興奮を鎮める音……周波を放っているのです。これもエターナルガーデンの英知の結晶ともいえる技術です」

「音……」


 あの魔獣使いも、鞭で音頭を取っていたっけ。魔物全部に通用する音なんてあるのかな。私の思慮が及ぶ領域でもなさそうだから、考えないでおこう。


「ではこちらのゲートから案内します。希少生物保護区域です」

「人間に乱獲されて絶滅寸前だったりする生物がいるの?」

「鋭いですね。他にも人間に害を与える魔物もいます」

「えぇ? そんなのも保護してるの?」


 ゲートを通ると、半円形状の部屋に対して透明の壁が丸く広がっている。その奥に草原風の部屋や岩場とか、それぞれの環境があった。丸い毛むくじゃらで一見、生物に見えないのもいる。キラキラと何かをこぼしながら移動している星型の生物。なるほど、弱そう。


「あちらの"スタードッグ"がこぼす結晶には希少価値があり、故に乱獲の対象となっています」

「あれ犬なんだ」

「ワンワン!」

「マジかー」


 透明の板越しから犬を主張してきた。人懐っこそう。


「"ウリモ"は生命力が弱く、繁殖力にも乏しい生き物です。放っておけば絶滅するのだから、という思想は当施設にはありません」

「あとはあちらの"デスグース"は素早くて猛毒を持つ危険な魔物です。駆除されすぎて種が減っていますね」

「それは減ってもいいんじゃ」


 なんだか言ってる事とやってる事がチグハグだ。結局、何がしたいの。それともう一つ疑問がある。


「あのさ、特殊な音で魔物を大人しくさせられるなら他の街にも配ればいいんじゃ?」

「莫大な維持費と設置費、時間がかかるので足踏みしているのが現状です。それにすべての魔物に有効なわけではありません。魔物によっても効き目が薄かったりしますし、対価と効果の兼ね合いの観点からも議論が続いています」

「そういう大人の事情ならしょうがないですね」

「魔術師の方に協力を仰いでみては? 魔術の世界ならば、革新をもたらす技術があるのかもしれませんよ」


 アスセーナさんの提案に、リザンネさんはメットの奥で表情を曇らせる。これはすでに打診したけど、こじれたな。


「……いい返事はいただけませんね。どうも私達の技術に懐疑的なようです」

「魔術協会ではなくて、フリーで活動されている方です」

「よく魔術協会だとわかりましたね」

「あの方々は魔術以外の技術に対しては閉鎖的な思想を持っていますからね」

「やはりですか……」


 いつかの治癒師ビルグみたいなのが多いのかな。魔術協会にとって、魔術以外の技術が進歩して自分達の立場がなくなるのを恐れていると聞いたっけ。気持ちはわからないでもないな。もし私と同じアビリティを持つ人が出てきたら、うわ。これこそ考えるのはやめよ。そもそもこれは技術じゃない。


「では次、猛獣区域です」

「怖そう」

「絶対に襲われないのでご安心下さい」


 トンネル状の通路を歩いて、次の区域へ着いた。形は変わらないし、さっきの区域と同じでエリアが区切られている。ただ一つだけ違うのは見るからに、これに襲われたら一溜りもないだろうなという魔物達がいる点だ。


「あちらの"テラゲイター"はギガゲイターの上位種で戦闘Lvは55です。数多の冒険者を葬った魔物の一匹ですね」

「40に勝ってホッとしてる私には刺激が強すぎる」

「た、高いですね……私でも勝てるかどうか」

「はいはい」

「あ、あちらで洞窟の奥から目を光らせているのは"深淵の隠遁者"、戦闘Lv62です。その姿を見せる事なく冒険者を皆殺しにする超危険ネームドモンスターです」

「ついにネームドモンスターまで来ちゃったし、そんなもんどうやって捕まえて隔離したんですか」

「それはさすがにお教えしかねますね。フッフッフッ」


 笑うんじゃない。その気になったら、すぐそこにある王都なんて滅ぼせそうなんだけど。あそこで寝ている大きいデブドラゴンの戦闘Lvとか知りたくもない。一方、ティカさんは生体登録に勤しんでいた。実直で何より。


「あちらの戦闘Lv81のマグナムドラゴンはいつも寝ていますが、ひとたび起きると爆撃でも起こったかのように暴れます」

「レベルだけは聞きたくなかった」

「あれは私でも勝てるかどうか……」

「なんでいちいち白々しいのさ、アスセーナちゃん」

「なんでそういう事いうんですか! 私にだって勝てない相手くらいいますよ! 何せまだシルバーなんですからぁ!」

「わかった、ごめん。信じる」


 ムキになってきたから、さすがに身を引こう。まぁアスセーナちゃんも無敵じゃないからね。ちなみにこっそりティカが、今のアスセーナちゃんの戦闘Lvを教えてくれたけど10くらいになってた。そこまで露骨に下げてアピールしなくても。


「あのマグナムドラゴン、病気かもしれない」

「レリィちゃん、何をおっしゃる」

「ちょっと苦しそうじゃない?」

「そ、そうかな?」


「……上司と相談してみます。皆さんはここで待っていて下さい。すぐ戻ります」


 あらら、リザンネさんが真に受けてくれた。もし病気ならそれは大変だし、治さないといけない。だけど、そうなると言い出しっぺのレリィちゃんがあの戦闘Lv81のところへ行かなきゃいけないかもしれないわけで。それはやっぱり保護者として許しちゃいけないっていうか。


「所長のゲールだ。リザンネが言っていたのは、そこの子か? 本当に子どもだな……」

「話を聞いてから判断するのも遅くないと思います」

「その通り。常に多角的な視点を持ち続けてこそのエターナルガーデンなのだ。それこそが目標にも通じる」


 リザンネさんが所長のおじさんを連れてきた。この人があの魔物を捕まえてるのかな。だけどティカの生体反応だと戦闘Lv60らしい。20以上も差があると、さすがに捕獲は無理に思える。いや60って。


「さぁて、そこの子ども……名はなんと言う?」

「レリィ」

「レリィちゃんか。一緒にきてくれるかな」

「皆も一緒でいい? モノネおねーちゃんは戦闘Lv34だから」

「そうだな。万が一の場合、君を連れて逃げるにはちょうどいい」

「万が一とかあるんですか」

「何事にも想定外というものはある」


 さすがに多角的な視点をお持ちの方だ。この展開が想定外すぎて、私に多角的な視点を持つのは不可能と思った。私とか一瞬に食べられそうな魔物相手に、どうしてイルシャちゃんはワクワクしているのかな。あなたはさすがにお留守番だよ。本当に。


◆ ティカ 記録 ◆


エターナルガーデン その趣旨が 理解しかねますが 悪いものではないと信じたイ

これだけの設備と技術 それに人員 一体 どのようにして運営が 成り立っているのカ

興味が 尽きませン

マスターには悪いですが 今回ばかりは 僕の好奇心が 収まりそうにもなイ

どうして こんな気持ちになっているのカ


引き続き 記録を 継続

「髪が伸びてきたわ。そろそろ散髪しなきゃ」

「そんなに伸びてるようには見えないよ、イルシャちゃん」

「見栄えもあるし、お客さんに粗末な姿は見せられないからね」

「自分の姿を客観視して、改善に努める……これこそが人としての在り方」

「逆にそこまで自分の容姿に興味が持てないものなの?」

「前髪は切ったよっ!」

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