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二人それぞれ勝とう

◆ ガムブルアの屋敷 2階 ガムブルアの部屋の前 ◆


 かれこれ3分ほどですか。元傭兵のガトレンドと名乗ったこの男との戦いはそこそこ楽しい。大剣の扱いだけでなく、ジャケットから暗器を取り出してあの手この手で命を取ろうと必死です。口からの吹き矢、片腕にしのばせた毒入りの針、なるほど。

 この貪欲なまでの命に対する執念は、今後の参考にしなければいけませんね。傭兵は冒険者とは程遠い存在。だからこそ、学べるものも多々あります。戦争に介入する冒険者の話も聞いた事がありますが、この方は傭兵業のみとの事。お話しているうちに、知らない世界への見聞が広がってワクワクします。本当はもっと楽しみたかったのですが、そろそろ終わらせないといけません。


「あなた、強いですね」

「そう言って貰えると少しは気が楽になるね。あんたくらい強い奴はなかなかいなかったよ」

「という事は少しはいたんですね。はぁ、それはショックです」

「戦場での勝敗は個々の強さじゃ決まらんからね。最後はきっちり殺らせてもらったさ」

「怖いですね」


 モノネさんを真似して、すこしおどけてみました。本気じゃないとバレてますね。ガトレンドさんが少しもリアクションしてくれません。


「傭兵をやめてみれば、こんなにきつい相手が待ってるんだもんな。楽して稼げねぇもんだ」

「それなら傭兵を続けていればよかったじゃないですか」

「戦争がなけりゃ商売も出来んさ。お前らと違って、フリーになればただの人殺しだ」

「私達だって人くらい殺しますよ」

「へぇ、そりゃ意外だな」


 必要とあれば盗賊くらいは殺します。生かしていくにはデメリットしかない人間もそうです。果たして、この人はどうなんでしょう。


「じゃあ……殺してみせてくれるか? ハイドブレードッ!」


 大剣の大薙ぎ払いに続いて、空圧の刃。ストルスさんのスキルに似ています。なるべく屋敷を傷つけるのはどうかなと思ったので、ここは素直に受けましょう。どれだけ威力が高くても、それを殺す方法はあります。


「パリィ」


「づッ……! 弾かれたってなぁ、オイオイ……」


 力の流れが単調で、簡単に弾けます。パリィならば物理的な要素をはらむ攻撃ならば理論上、防げないものはありません。加えてハイドブレードは一言で言えば隙だらけ、でしょう。鼻先に剣を突きつけて、ひとまずは勝負ありの体裁を整えました。


「まだやりますか?」

「まいったなぁ。こっちも仕事なんだよなぁ」

「仕事ならば、いくらでもあるでしょう」

「……そうだな。こんなところで捨てる命なんざないわ。まいった、降参だ」


 大剣を落として、両手をあげました。降参、それが本気ならばもうここで終わりなのですが。


「……わかりました。ではついてきて下さい。然るべき場所に突き出します。後ろを向いて下さい」

「わかった」


 手をあげたまま、彼が背を向け始めます。両手には何も持っていませんし、一安心です。となっちゃうと、素早く彼のかかとが飛んできます。回し蹴りですね、しかもそこには小さな刃がついてるとなれば。


「はい、いただきました」

「……やっぱりダメか」


 バックステップだけで軽くかわせました。往生際が悪いという解釈も出来ますが、彼が生きてきた世界ではこれが当たり前だったのでしょう。だからこそ今日まで生き延びてこられたのかもしれません。今日までは。


「そうですね。残念ですが、ここで終わりです」


「ぐあッッ!」


 依頼とはいえ、罪なき若い芽を摘み取ろうとする野蛮性。口約束だろうとそれを守らず、隙あらば逆襲する危険性。本当に残念ですが、生かしておけばこの人は悪戯に命を奪うでしょう。ですので首筋を狙い、一太刀で終わりです。結局、鮮血で汚してしまいました。


「容、赦……ねぇ、な……」

「戦場ではあらゆる事態を想定しましょう」

「げ、ぷッ……」


 何か言おうとしたのでしょうか。事切れました。出来るだけこうなってはほしくなかった理由はもちろん、決して気持ちのいいものではないから。もう一つは。


「こんなの、モノネさんにだけは絶対に見せたくないな……」


 彼女にだけは嫌われたくない。だからアスセーナはお友達に相応しい生き方をしたい。


◆ ガムブルアの屋敷 地下 大広間 ◆


 ライガー、戦闘Lv40。虎の顔から不自然に生えた象の牙みたいなのから雷を放つやばい魔物だ。こんなものがあんな牢で大人しくしていたんだ。あの魔獣使いのおかげかな。その当人は割られた仮面をつけて、必死に逃げる鞭を追いかけている。鞭君、魔獣使いに触れられないでと命令しておいた。


「バニーイヤーで雷が放たれる直前の空気の流れさえ読めれば……!」

「魔導銃で片目をヒットさせましタ! 視界が制限され、動きが鈍くなってまス!」


「ウソなのねん……あのライガーは下手な規模の軍隊なら壊滅に追い込めるほどなのにん……」


 バニーイヤーがなかったら、危なかった。いくらスウェットと達人が速くても、雷の速度には敵わない。でもこれは言ってみれば、実際のギロチンバニーならかわせたという証明にもなる。ドラゴンの首すら斬り落とせるという逸話があるなら、あんな虎だっていけるはず。


「速いけど、こっちのほうが速いッ!」


 クルティラちゃんがどうなってるのかわからない以上、ここで決めさせてもらう! 二、三度くらい床を跳ねて翻弄し、視線が泳いだところで狙うは首!


「ギロチンッ!」


 イヤーギロチンがしなって、ライガーの首に食い込んで通過。切断された虎の頭が床にドスンと転がった。叫んだ甲斐があったのか、対ライガー戦の勝者は私達だ。


「マスター、やりましたネ」

「だね。速いし雷は怖いし、二度とこんなのは相手にしたくないな」


「ギ、ギ、ギロチン、バニー……ギロチンバニー……」


 逃げる鞭を追う事も諦めて、魔獣使いが大広間の隅で震えていた。

ちらりと見ただけで、壁に背中を押し付けて逃げようとしている。


「今から私の言う事を聞いて。ウソついたり黙ったら、そこのライガーと同じ運命を辿るからね」

「うひっ……!」

「ここで大人しくしていてね。鞭君、こいつを縛り上げて」


「いぎぎ! 痛い、きついねん! もっと優しくしてねん!」


 自分の鞭で縛られるのも屈辱だろうけど、逃げられても困る。そのままブラッディレオに乗せて連れていこう。レオちゃんはご主人様がこんな状態で、どう思ってるんだろ。


「言う事を聞いてくれるね。これで私も魔獣使いかな?」

「ギロチンバニーに歯向かう魔物なんて、未踏破地帯でもなきゃいないわん……」

「私がギロチンバニーだ」

「ひゃーー! 怖い怖い!」


 イヤーギロチンを伸ばして脅かしてみた。確かにこれじゃ化け物だ。自重する気はないけど。


「あのバカおぼっちゃん、これだけ大きな戦いがあったのに出てこないね」

「クルティラさんと同じ場所に反応がありますから、いるのは確かなんですよネ……」

「まさか何事かとびびって、出てこないだけだったりして」

「そこまで小心者でしょうカ」


 迷路の奥にある鉄の扉の前に着いた。この奥にバカ親子含めた3人の反応がある。罠の可能性も考えて一度、扉を開いたらすぐに引こう。あのおぼっちゃん、戦闘Lv1だけど用心するに越した事はない。じゃあ1、2の3で扉を開放!


◆ ガムブルアの屋敷 地下 監禁部屋 ◆


「動くなッ! なんてね」


「ひぎゃあぁ!」


 扉を開けたと同時にマヌケな悲鳴を上げて、すってん転んだ奴がいた。腰が抜けているのか、うまく立てずにもがいている。


「ひっ! ひいー!」

「ねぇ、どうしたのさ。そんなに驚かせちゃった?」


「……さっきから激しい物音に怯えていてな。ここから出ようとしなかったのだ」


 鎖付きの手錠に繋がれたクルティラちゃんのほうがピンチのはずだ。ハイハヒ言いながら、おぼっちゃんが床を手でかいてまだ慌てていた。


「ところであんたのお父さんはどこにいるの? 生体感知でいるのはすでにわかってたんだけどさ」

「マスター、そこデス……」

「……あ」


 隅でお尻を向けて丸くなってるのがそうか。頭を抱えてなんかブツブツ言ってる。


「ワシは終わらんここで終わる男ではない何の為に強い用心棒を雇ったワシを誰だと思っている……。ワシはカリスマと呼ばれ歴史に生きる男だと周囲に称えられているのだこんなところでブツブツブツ……」


 あまりに丸すぎて、オブジェかと思った。息子のリアクションを見習いなさい。


◆ ティカ 記録 ◆


戦闘Lv40のライガーにも 完勝できるとハ

ギロチンイヤーのおかげでも ありますが 確実に成長していル

マスターのアビリティの成長に応じて スウェットと 達人剣のポテンシャルを

高く 引き出せるようになっていると 仮定して よいでしょウ

クルティラさんは 外傷が目立ちますが 命に別状はなさそうデス

あとは ガムブルアと 息子 この二人を 野放しにして いい理由はなイ


引き続き 記録を 継続


「ううーん、やっぱりダメ。やめたほうがいい」

「マスター、どうされたのですカ?」

「前はアビリティで商売をやって楽にお金を稼げないかなーと思ってたんだけどさ。よく考えたら甘かった」

「そんな事はありませン。情報を集めて計画を立てればきっと成功しまス」

「いや、何かあった時にクレーム入るし責任とか面倒だなーって思うとね」

「思慮が及ばず申し訳ありませんでしタ……」

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