表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/201

騎士学部を見学しよう

◆ 王都学園 騎士学部 訓練場 ◆


「私がメインで受講していた騎士学部です。こちらを修めた方が王国兵士に志願すれば、飛び級もあるんですよ」

剣術科、槍術科、魔獣討伐科など多岐に渡ります。学園祭なんかでは実演による演舞が毎年恒例ですね」

「今は4年生の実技訓練中だな。さすがにレベルが高い」


 この殺さんばかりに激しく剣で打ち合っている方々の中を卒業したんだ。どの人も汗を流して、本当に真剣だ。さすがアスセーナちゃんの思い出の学部。ウサギファイターとかいってるのが申し訳ない。



「なつかしいですね。この汗の臭い、熱気……皆さん、夢を持って励まれてます」

「あれよこれよと履修しては数日で修めていたそうじゃないか。3日目には講師ですらまるで相手にならなかった」

「講師にとってはなつかしくもなさそうだね」


 こっちの存在に気づいた講師が、ぎょっとしてる。なんでいるんだよと言わんばかりだ。そりゃ自分達が何年もかけて習得したのに、たかが3日で追い抜かれていい気分にはならないよね。


「学長、この中で一番有望な方はどなたですか?」

「誰だと思う?」

「意地悪ですね。私から見れば、あちらの銀髪の女の子が飛びぬけてますね」

「さすがだな」


 どの人もすごいと思うけど、確かにあの銀髪の子が次々と打ち合いを制してる。よく見たら訓練場の外に男達がいた。明らかに銀髪の子に視線が釘付けだ。モテモテか。


「彼女の実力からして引く手も数多だが、卒業したら王国騎士として腕を振るいたいそうだな」

「そうなんですか。それは素晴らしいです」


「おーおー、諸君やっとる感じか」


 ひどいのが来た。レポートは諦めたのかな。ポケットに両手を突っ込みながら、おぼっちゃんがぶっきらぼうに訓練場に入ってきた。生徒達が露骨に嫌な顔をしている。こりゃまた一波乱ありそう。


「で、先生。どいつに勝てば単位をくれる? 後は剣術学あたりでいいんだ」

「試験の内容は追って連絡する。それよりも出席日数が足りない者は」

「そういう事言っちゃう感じ? お前、確か平民な感じだよね?」


「またあの生徒ですか」


 アスセーナちゃんが剣の柄に触れる。やる気ですか。


「アスセーナ、抑えてくれ。彼の父親から、この学園に多額の融資をしていただいている。つまり怒らせると学園の存続自体が危ういんだ」

「そういう事ですか」


「あーもう、じゃあお前でいい感じだわ」


 おぼっちゃんが指名したのは有望視されている銀髪の子だった。うんざりした顔で、おぼっちゃんをかすかに睨む。諦めたのか、先生が銀髪の子に何か耳打ちをしていた。


「……では始め」


「そーれそれそれ! どうだ、ぼくの剣術はぁ!」


 素人から見てもへっぽこだった。おぼっちゃんが振り回した剣を適当に銀髪の子が受けている。剣がぶつかり合う金属音だけが訓練場に響いていた。


「オイオイ! ぼくの実力に手も足も出ない感じかぁ!」

「はぁッッ!」

「ぎゃっ!」


 ついにキレたのか、銀髪の子が逆襲する。一発でおぼっちゃんの剣をはたき飛ばした。おぼっちゃんはその衝撃が効いたのか、痺れた手を抑えている。


「……先生。私にはわざと負けるなんて出来ません。何より騎士として、恥ずべき行為です」

「し、しかしだな……」


「いだぁぁぁい! 痛い痛いよぉ! 何をするんだぁ! お、女のくせに生意気な感じぃ!」


 おぼっちゃんが尻餅をついて泣き言を喚いている。そして涙目で銀髪の子を指した。


「お、お前が卑怯な真似をするからこうなった感じなんだぁ!」

「何一つ恥じる行為はしていない」

「おい、クソカスの教師! お前もまとめてパパに言いつけてやる感じだからな!」

「お待ち下さい。単位ならこの私が認可します」

「学長、さすがに話がわかる感じだな」


 勉強とか努力とは無縁の人間だけど、だからこそ頑張っている人間はすごいと認めている。そして報われるべきだ。


「神聖な学び舎で不正を許すのですか、学長」

「ア、アスセーナ。わかってくれ、こうしないと我が学園は……」

「ここには大勢の生徒がいます。今、彼らに教えられるような行為をしていますか?」

「そ、それは、そうだ……」


 そうです、アスセーナちゃん。これじゃ、この学園はあのおぼっちゃんに支配されているようなもの。我が身のかわいさに公平性を捨てて、学ぶ意思のある生徒のモチベーションを削いじゃダメ。努力してない人間だからこそ言える。努力は報われるべきだ。


「な、何を! お前も女のくせに! アスセーナっていったな、お前も覚えたぞ!」

「卒業生の私が断言します。今のあなたに習得できる単位はありません。まずはきちんと学んで下さい。

貴族も平民もここでは平等です」

「お前が卒業生? こんな女が卒業できて、ぼくに出来ないわけない感じ!」

「……話が理解できないんですね」

「う……! な、なんだ! やる感じか!」


 アスセーナちゃんの本気の怒りが出ている。これ以上、怒らせると大変な事になりそう。気圧されたのか、おぼっちゃんがカクカクとマヌケな動きで後退していた。


「そうだ。貴族のおぼっちゃんだか何だか知らないが、これ以上好き勝手な真似はやめろ」

「私には1秒だって惜しいの。邪魔しないで」

「オレにも夢がある。金持ちの道楽なら他でやれ」


「グ、ググー! こいつらー!」


 アスセーナちゃんが生徒達に勇気を与えた。ここにいる全員が権力に抗っている。おぼっちゃんはもう居場所がないと判断したのか、すでに訓練場の出入り口にまで逃げていた。


「覚えてろ……絶対パパに言いつけてやる感じだからなぁ!」


 捨てセリフと共におぼっちゃんが走り去っていった。皆が冷静になったのか、まずい事を言ってしまっただの後悔している。確かにこのままじゃ、権力でどうにかされてしまう。


「……はぁ。アスセーナ、君のおかげで吹っ切れたよ。報復が怖いが、当学園は屈せずに戦おう」

「報復として考えられるのは、資金援助打ち切りですね」

「やはりか……」

「それにしても彼の父親はなんという貴族なのですか?」

「ガムブルア伯爵だよ。多方面に幅を利かせていて、逆らえない者が多い」

「あっ」


 可能性の一つとして考えるべきだったね。いやしかし、これは本当にまずい。これは私達の事がバレるのも時間の問題か。


「……アスセーナさん、ありがとうございます」

「あなたの正義を後押ししたまでです。彼に凛として挑んだ姿勢、かっこよかったですよ」

「ほ、本当ですか?」

「はい。それにもうすぐ卒業ですね。騎士になっても、今の正義を忘れないで下さい」

「は、はい……」


 銀髪の子の顔が赤い。アスセーナちゃんに褒められたのが、そんなに効いたのかな。照れ屋さんめ。まともに顔を見てないほどだ。


「皆さんも、それぞれ志すものはあると思います。己の正義を確固たるものにして下さい。

自分の信念を裏切らず、道を突き進みましょう」

「はいっ!」

「あの人がアスセーナさんか……さすがに雰囲気からして違うなぁ」

「めちゃくちゃかわいいんだけど?」

「お付き合いしたい」


 一部、邪念が入り乱れてるけど生徒達にはいい刺激になってる。でも私は知ってるからね。ついこの前まで、自分が何をしたいのかがわからなくて何故か私なんかに興味を持って家宅侵入してきた事を。私は優しいし空気を読んで黙っておいてあげる。かっこつけ屋さんめ。

 そしてここの生徒さん達、世にも珍しいウサギファイターがいるというのに目もくれない。別に嫉妬してるわけじゃないけど。


「学長、今後どのような手段で報復されようとも屈しないで下さい。私が手を打ちます」

「君が味方なら、これほど心強いものはない。しかし、国は対処してくれんのかね……」

「多方面に融資できるほどの人物なら、国への納税額も高いでしょうね。だから切るに切れないんでしょう」

「ううむ……」


 私達の身の安全もそうだけど、まずはあの子だ。お布団で近づいたら、なんかぎょっとされたけど気にしない。なんだこいつ感が凄まじいです。


「あのおぼっちゃん、あなたに逆恨みしてくる可能性があるけどさ。私が守ってあげるけど、どう?」

「き、君が? 気持ちは大変ありがたい。でも問題ない、自分の身は自分で守る」

「あのおぼっちゃんのお父上はなんか腕の立つ奴を雇っていたけどなぁ」

「これでも騎士学部トップを自負している。将来は誰に見せても恥ずかしくない、由緒正しい騎士になるつもりだ。こんなところで躓く気はないさ」


 将来を見据えて、芯もしっかりしてる。この眩しさ、半端じゃない。名残惜しいけど、本人がそこまで言うなら強制できないな。私達は私達でしっかり警戒しよう。


◆ ティカ 記録 ◆


やはり 面倒な事態に なってしまっタ

どうして こうも マスターの行く手を 阻むものが多いのカ

ガムブルア 及び その息子

このような連中が いるから いつまでも


危ない 僕としたことが また 我を忘れるところだっタ

自分の 怒りの沸点が どうにも 気になル

これは やはり 僕の過去と 何か 関係があるのカ


引き続き 記録を 継続

「いいなぁ、私も学園に入ればよかった」

「年齢制限はないのでいつでも入学可能ですよ、イルシャさん。最高齢だと御年60歳の生徒もいらっしゃいます」

「すっごい! 心はいつまでも元気なのね!」

「入学金だけで貯金をほぼ使い果たして大変そうですけどね」

「やっぱり現実は厳しい……」

(やはりマスターの生体反応がなイ……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ