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王都の学園を見学しよう

◆ 王都立学園 学長室 ◆


「いやーはっはっはっ! まさかアスセーナ君が訪れてくれるとはなぁ!」

「すみません、突然押しかけて」


 豪華なソファーに座りながら、ここが勉強を教える人達を統べる者の部屋かと見回す。壁の代わりに本でも埋め込まれてるのかと思ったけど、案外シンプルだ。大きなデスクとソファーとテーブル以外はほとんど何もない。白髪まじりの学長はアスセーナさんに上機嫌で、お客の私達に見たことないお菓子を出してくれた。


「たった1年で君がここを卒業していった時は寂しかったよ。まさか冒険者になってるとはな。

それで目標は見つかったのか?」

「今はやりたい事がなんとなく見つけられて充実しています」

「学部が充実している我が学園で、それを見つけてもらえなかったのはこちらの失態だな。それで今日は見学という事だが、そちらは入学希望者かな?」

「違います」


 アスセーナさんよりも早く否定する。向こうも期待しちゃいないだろうけど、先手を打って損はない。


「今日はこちらのお二人が、それぞれ覗いてみたい学部があるそうです」

「そうか、それはお安い御用だ。熱心で何より」

「お薬の勉強するところはありますか?」

「料理的なソウルがほとばしってる学部があったら、見学したいです」

「あるぞ。では案内しよう」


 勉強の長だから、私みたいなちゃらんぽらんにいい顔しないかと思った。だけど華麗にスルーしてくれて、それこそ何より。


◆ 薬学部 研究室 ◆


「こちらで学んで卒業した生徒の中には、王宮の専属薬剤師になった者もいる」

「お薬! たくさん!」


 薬と勉強の匂いで眩暈がしそうだけど、興奮したレリィちゃんが並んでいる薬品に興味津々だ。白衣を来て研究に勤しんでいる人達が何事かと見てくる。


「これは何のお薬を作ってるの?」

「不治の病とされている"灰死病"の特効薬を開発中だよ。君は見学かな?」

「うん。灰死病ってなに?」

「体中に灰色の斑点が出来て、段々とそこから腐っていく原因不明の病だよ。大昔に遠くの国で大流行したんだ」

「ふーん……」


 浅学すぎて口に出せないけど、学園って研究もしてるんだ。あっちの部屋では講義をしていて、黒板にはわけのわからない図形とか文字が書かれてた。もう聞いているだけで寝れる。


「これならエアルミナの花も役に立ちそう……それとケタラの葉をすり合わせれば……」

「ん? んん? エアルミナ? ケタラはともかく、まさかあんなものが……」

「子どもの言う事だろ。それより今月中にレポートをまとめないとな」


「エアルミナの成分ね、役に立つよ」


 なんか言い始めたぞ、この子。邪魔にならないよう、さっさとどかそうと思ったら研究室の人達が手を止めたままだ。


「エアルミナか。待てよ、そうか……いや、いけるか?」

「子どもの発言を真に受けるな。エアルミナが調合に役立つなど聞いた事が」

「おい、今な。さらっと調合ルートを書いてみたが、これどうだ?」

「……なんだこれは。いやいや、これもしかして体の腐敗の進行を大幅に遅らせる事ができるんじゃ?」

「教授!」


 雲行きがおかしくなってるぞ。まさかこの場で、不治の病の特効薬をこの子が作るなんて事は起きないとは思う。でもそれに近い現象が起こりつつある。教授も巻き込んで、ガヤガヤと相談中だ。


「何故今まで気づかなかった! これは新発見だぞ!」

「その子は何なんだ? 子どもの気まぐれだろう?!」

「そうです気まぐれですレリィちゃん次いこう!」


 レリィちゃんの両脇を抱えて布団に連れ込んで研究室を出る。何か呼び止めてるけど無視。このまま騒ぎになったら面倒だ。アスセーナちゃんとイルシャちゃんはともかく、学長が状況を飲み込めずに走ってついてきてた。


◆ 調理学部 実習室 ◆


「こ、こちらの卒業生の中には宮廷料理人になった者もいる」


 走らせて疲れさせちゃった。息を切らしながら説明させて、申し訳ない。そしてここでは、調理の講義中っぽい。いい匂いがする。


「あそこに書かれているレシピ通りに生徒が作るのね。どれどれ……ほぉ、これは涎物の品だわ」

「講師は高名な方をお招きしているから、必然的に品のレベルも上がるというわけだ」

「あの品、ソースを選べるようにしたほうがいいんじゃ? 例えばあの一種類だけだと、人によっては重たく感じると思うの」

「あの講師の方はな……」

「あの肉料理なら、例えばレモンをベースにしたソースも合いそうね。それにオニオンベースもいいかも」


「ゴホン! 私のレシピに何か文句でも?」


 ほら、神経質そうな顔した講師が怒った。調理している生徒の間から覗き込んで、口出しはまずい。


「いえ、ただこうしたほうがより多くの人に楽しんでいただけるかなと」

「何だね、キミは」

「見学ですけど、この肉料理はまだまだおいしくなると思います。仕込みの段階で肉を……」


「見学終了! 気にしないで頑張って下さいっ!」


 今度はイルシャちゃんを無理やり抱えて布団に放り投げる。だいぶ雑だけど、急いで退散。また学長を走らせてしまった。


◆ 学園 廊下 ◆


「はぁ、はぁ……あのね、二人とも。私達は見学の分際なの」

「ごめんなさい。熱くなりすぎたわ……」

「……しかし、灰死病に関しては興味深いな。そこの子についてなんだが、ぜひ我が学園に」

「すみません、そういう話はまた今度という事で」


 もしレリィちゃんがこの学園に入りたいというなら、私に止める権利はない。

でも今、騒ぎを起こすわけにはいかないというのはわかってほしい。


「皆さん、きちんとした見学が出来て嬉しいです」

「それどこ見て言ってんのアスセーナちゃん」

「ご希望の場所がなければ次は……」


「だからさぁ、お前のレポートをよこせっていってる感じじゃないんだよ?」


 廊下の奥に二人の生徒がいる。金髪おぼっちゃんヘアーが一人の生徒になんか執拗に迫ってた。


「単に書き写させろって言ってる感じ」

「そういうのは自分でやったほうが身につくと思うんだけど……」

「お前、ぼくに上から目線な感じ? ぼくを誰だと思ってる感じ?」

「こ、このレポートは数ヵ月も前から苦労して書いたんだ」

「お前、確か平民な感じだよね。パパに言いつければ、どうなるかわからない感じ?」

「う……」


「学長。あそこにいる腹糞悪いのは何?」


 学長に聞いても、苦い顔をしてしばらくは答えなかった。見た目や発言からして、金持ちの家の息子なんだろうな。優等生ばかりのイメージだったけど、どこにでもあんなのはいるわけだ。


「あれは貴族の息子でしてな……」

「権力を傘に着て、やりたい放題なんですね。アスセーナちゃんは誰だかわかる?」

「さぁ? 私が在籍していたのはずいぶん前の話なので……」


「最初から素直によこせよって感じ」


 とか喋っていたら、おぼっちゃんヘアーが男子生徒からレポートを取り上げた。とられたほうは悔しそうに涙をにじませている。

 学長の態度からして、多分逆らえない立場の人間の息子なんだろうな。学長には悪いけど、これを静観しろというのも無理な感じでして。


「はぁー、これで単位も安泰な感じ……わぁっ!」

「このレポート、すごい字がいっぱい書いてるね!」

「な、なんだお前! 誰様の感じだよ!?」


 布団で移動しておぼっちゃんの横について、レポートをつまんで見せてもらう。文字は読めるけど意味はわからない。変な図形に加えて、そんな内容が列挙されていた。


「あの人が頑張って書いたのに、あなたが写して提出したら台無しなのはわかる?」

「それがどうしたって感じ! 平民の人生よりも、ぼくの人生が優先されるべきな感じだろ!」

「高い金払って卒業するだけでいいなら、最初から学長に大金渡せばいいじゃん。学園に通う時間が無駄じゃない? あんたのパパも気が利かないなぁ」

「なっ! なぁぁぁっ! おい、学長! こいつをつまみ出せって感じ!」

「レポート君、そいつには絶対触れられないで逃げて。持ち主の元に帰ってね」

「あっっ!」


 レポートがおぼっちゃんの手から離れて、持ち主の生徒の元に戻っていく。きょとんとする生徒におぼっちゃんが振り返って、怒りの形相だ。いや、お前のものじゃないからね。


「お前ぇぇ! つ、掴めない! なんでだよ! クソッ! この! あぁ! 待てぇぇ!」


「レ、レポートが飛んでいった?!」

「しばらく待ってたらちゃんと戻ってくるからね。安心して」 

「はい、ありがとうございます……?」


 疑問符がとれないようだけど、説明するのもだるい。ヒラヒラと飛んで逃げるレポートをおぼっちゃんが追いかけていく。邪魔者がいなくなったところで、この子を安心させよう。


「先にレポートを提出するところに移動しても大丈夫だよ。絶対、帰ってくるから」

「ど、どうも……あの、あなた達は?」

「ただの見学だから気にしないで」

「そうなんですか。じゃあ、教授の部屋に行ってきます!」


 別れ際に一礼をして、生徒もいなくなる。数ヵ月の執念がこもっていたのか、レポート君もあのおぼっちゃんには絶対に触られたくないようだった。絶対に捕まらないはずだ。


「はぁぁぁ……。面倒な事にならければいいが……」


 学長が床に膝を落として落胆した。何か深い事情があるようで。


◆ ティカ 記録 ◆


人の学び舎 神聖な雰囲気が 漂いまス

知識をつけて 人々に貢献できる 人間になル

研究を通じて 未来へ 繋げル

ぜひ マスターにも 学んでほしいのですが マスターには マスターの道があル

恐らく マスターと学業は 相容れぬ運命があるようで

それならば 運命に 従うのも ひとつの道


あの貴族の息子 あれ自体は取るに足らぬ存在ですが

どうにも 気がかりな事があル


引き続き 記録を 継続

「学園では選択した学部の単位を4年かけて習得するのです」

「さっきの人もレポートがどうとか言ってたわね。あれも単位に必要なの?」

「はい。教授によっては課題を出してレポートを提出させます」

「勉強って大変なんだね」

「レリィちゃんなら、恐らく最速で卒業できるかと」

(マスターの存在が消えタ……?)

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