ブロンズの称号を貰ってお祝いをしよう
◆ 冒険者ギルド ギルドマスターの部屋 ◆
危うくホテルに戻って寝るところだった。受け付けにいって魔晶板を見せたら一発で称号授与開始。ここにはあの女性支部長とフードで顔を隠した怪しげな人がいる。アスセーナちゃんの言う通り、ブロンズなら簡単に授与が終わりそう。
「私が王都の冒険者ギルド支部長クラリスだ。こちらがギルドマスターのシャンナ様だ」
「よろしくー」
フードを被った人はギルドマスターだったのか。ていうか小さい。そして軽い。私とどっこいの背丈な上に声からして女の子だ。
「称号の授与はギルドマスターの認定が必要でな。
どの冒険者にも、近場のギルドマスターが勤める場所に赴いてもらう事になってる」
「他にもあっちとかそっちにもいるからねー。"七法守"なんて呼ばれてたりねー」
「はぁ……なんかすごそうですね」
「……シャンナ様はフレンドリーな方でな。気軽に声をかけるといい」
クラリスさんがちょっと呆れてる。七法守、また新たな単語が出てきた。よく見たらあのシャンナ様のローブ、サイズが合ってない。袖まで腕が通ってない。絶対、子どもじゃん。
「モノネちゃんさー、面白いよねー。短期間でこれだけ実績を上げた人なんてほとんどいないのにー」
「そうなんですか。誇ります」
「普通、そこ謙遜とかする場面なのにさー。いいよー、気を使ったりするの面倒だもんねーわかるー」
「あの、シャンナ様」
「あ、ごめーん。授与の理由はさっき言った通りで、あとなんか面白そうだからー?」
ちらりと覗かせた顔があどけない。エメラルド色の前髪が目を覆い隠さんばかりだ。わかるよ、散髪とか面倒だもんね。
「じゃあねー、冒険者モノネにブロンズの称号をあげるよー」
「はい。ありがとうございます」
名前:モノネ
性別:女
年齢:16
クラス:ウサギファイター
称号:ブロンズ
戦闘Lv:34
コメント:がんばります。
相変わらずクラスとコメントがひどい。でもこうして情報が充実していくのを見るのは好き。戦闘Lvは激昂する大将の戦闘Lvが反映されている。討伐に参加していたアスセーナちゃんを始めとする冒険者達の情報から算出されたのが34だ。ティカが35前後といっていたし、妥当なところかな。
「説明しよう。これからはブロンズの称号を持つ冒険者を指定した依頼を請け負う事が出来る。そうでない依頼に対しても依頼人がお前を指定する際には、一定の金額を上乗せして支払わなければならない」
「つまり、同じゴブリン討伐でも普通の冒険者よりも多くお金が貰えるって事ですか?」
「そうだ。ただし指定されていなければ従来通りなので、注意しろ」
「私から勝手にゴブリン討伐を引き受けても変わらないって事ですね」
「そう、だからこれからは必然的に依頼の難易度が跳ね上がる。依頼人の期待も増すから、より責任重大だ」
この重圧よ。私としてはそろそろこの辺でいいかなと思ってる。お金もだいぶ溜まったし、引きこもるには十分すぎるくらい。小説のネタもあるから、ここらで一度作品にして仕上げたい。
なんだかんだで気がつけば冒険者ライフを満喫していたな。下手したら死んでいたものを、私とした事が。
「これを聞いて尻込みする者もいるし、重圧に耐えられなくてやめてしまう者もいる。
期待に応えようとして殉職した者もいる。確かに容易な道ではないだろう」
「そ、それはわかりますね」
「お前がどんな目標を持って生きているのかは知らないが、これだけは忘れないでほしい。今まで貰った感謝の声を思い出せ。そして何より……絶対に死ぬな。死ぬくらいなら逃げてもいい」
鉄の表情が少しだけ和らいだ気がした。多分、こうして見送った人が何人も辞めたり死んでいるんだろうな。固そうに見えるけど、この人だって人間だ。何も思わないわけがない。
「まぁぼちぼちがんばります」
「そうか」
「あとさー、ちょっといいー?」
シャンナ様がおもむろに私をスウェットの上からペタペタと触り始める。人に触れれるのになれてなくて、くすぐったい。
「これは全然鍛えてないよねー。魔法でもないしー。アビリティかなー?」
「どうでしょうね」
「えいっ!」
「ちょっ!」
いきなりスウェットをまくられた。防衛本能が働いたのか、慌てて身を引く。お腹丸出しにされて恥ずかしい。
「ごめんー。すごい反射神経だねー。直接、体とか見たくてさー」
「授与が終わったし、もう帰りますね」
「うんー。またねー」
船長といい、上にいくほど変なのが多いのかな。アスセーナちゃんだとか、アレな子を引き寄せる何かが私にあるのかもしれない。私自身がアレという可能性は排除だ。
◆ 王都 冒険者ギルド ◆
「ブロンズだ!」
「ブロンズですね!」
「ブロンズ!」
魔晶板を見せびらかせて、各反応を楽しむ。全員が喜んでくれて、こっちも嬉しい。これからは変なのが絡んできても、魔晶板を見せつければ解決してくれるかな。信じてるぞ、ブロンズ。
「マスター、おめでとうございまス」
「ありがと」
「つきましては、僕から提案がございまス」
「何かな?」
「コルリさんの時は歓迎と称して飲み食いの集いを開いてましタ。その、お祝い事があればそのような催しを開こうかト」
「お祝いね。皆、どうしてくれる? 祝ってくれる?」
「祝っちゃう! ちょうどいい店見つけたからね!」
「王都に来て間もないのにその審美眼はどうなってるの、イルシャちゃん」
ともあれ、そこでどこを観光するかもゆっくり決めよう。私達は自由だ。張りつめて討伐の作戦を練っている人達がいる横で、はしゃいでしまった。でもウサギファイターの噂がすっかり広まっているのか、絡んでくる人はいない。
「あれがブロンズ? ふざけてやがるな。少し言い聞かせてやるか」
「やめとけ。ザイード一派を壊滅させたウサギ娘がアレだ」
「あれがどういう戦いをするんだよ?」
「格闘戦だよ。とにかく速くて何より勝負勘が優れてる印象だった」
「全員がほぼワンパンだったな」
「ウソだろ……」
こうして噂は広まっていくのか。人生という勝負から逃げてた人間に、勝負勘が優れてるなんてもったいないお言葉です。
◆ 王都 焼き肉店"マグマキング" ◆
鉄板の上に焼かれている肉、肉、肉。たちのぼる香りだけでノックアウトされそう。この店の鉄板焼きというコンセプトは、ランフィルド食祭で私達が焼きメンでやってたのと似てる。
それをこの店は客に焼かせているんだから、発想には限界がない。これなら誰でも簡単に焼けるし、何なら好みで焼き加減も調整できる。イルシャちゃんじゃなくても目から鱗だ。
「ね、コレよ。本当にさ」
「あまりの事態に語彙もなくなったね」
「もう食べていい?」
「あ、まだ焼きが甘いわ! こっちはもう一度ひっくり返してから! そっちはあと14秒ほどね!」
「いただきます」
「こらぁ! アスセーナさん!」
「通は片面しか焼かないで食べるんですよ」
「良い子は絶対に真似しないで! 特にレリィちゃん!」
真似しかけた小さな子どもが、寸前のところで止められる。
イルシャちゃんが片手に肉が乗った皿を持ち、次々と肉を投下していた。
「これとこれは焼けてる! これもいい!」
「う、うまっ! いっ!」
一口サイズの肉の脂分が口の中にじゅわりと広がる。柔らかく噛めて喉にするりと落ちた。焼きメンとは違ったコンセプトな上に、こんなにおいしいなんてイルシャちゃんも悔しいだろうな。
「これは後2秒! こっちは6秒!」
「あのさ、イルシャちゃん。気持ちはわかるんだけど、せっかく自分で焼けるんだから各自でやってみない?」
「で、でもそれだとおいしく食べられないよ?!」
「焼きすぎたり、焼きが甘くても次から気をつければいいよ。何よりそのほうが楽しく食事が出来ると思う」
「楽しく……そうね。私ったら大切な事を見失っていた。ごめんね……」
「これをヒントにして、来年のランフィルド食祭に活かせそうだからポジティブにいこう」
相変わらず、料理愛が強すぎて周りが見えなくなる。その威力は、流れで来年も手伝う宣言をしてしまったほどだ。でも来年はストルフみたいな変なのがいないだろうから、少しは気楽に出来るか。あれ、でもあの人ってランフィルドにいるんだっけ。
「それで観光はどうします? 私のお勧めは王都学園なんですよね」
「えー」
「レリィちゃんが興味を持ちそうな薬学部なんかいいじゃないですか?」
「行きたい!」
「では予定の一つに組み込みましょう」
「ウソでしょ……」
楽しい観光なのに、なんでお勉強の聖地を見学しないといけないのか。とっつかまって一緒に勉強させられそうなイメージばかりが思い浮かぶ。
「卒業生の私がいれば、すぐ見学の許可が出ると思います」
「モノネおねーちゃん、楽しみだね!」
「そう、だね」
パクパクと焼肉を食べながらはしゃぐレリィちゃんを前にしたら、とても嫌だなんて言えない。ショックすぎて、気がついたら私が乗せた肉が焦げてた。
◆ ティカ 記録 ◆
ついに マスターが ブロンズの称号を獲得
なんとも 感慨深イ
マスターが 何かに認められるのは 僕にとっても 至上の喜びデス
別に 偉くなって 有名になってほしいだとか
偉業を成し遂げてほしいなどという 願望はあるにはあるが それが本懐ではなイ
ただ マスターが 何らかの形で 認められてほしいというのは かねてからの願イ
これからは より一層 気を引き締めて マスターと共にせねバ
あの ギルドマスターの少女 マスターにとんだ真似を しやがりましタ
悪意は 感じられませんが 飄々とした立ち振る舞いからして
その気に関係なく どう転ぶか わからなイ
マスターにとって いい存在で いてくれると ありがたイ
引き続き 記録を 継続
「ギルドマスター"七法守"って、どういう人達なの?」
「冒険者ギルドの最高幹部達です。それぞれの担当地域を管轄してますね」
「法守って割には、ザイード一派みたいなのは取り締まらないんだね」
「あまり上が出てきて取り締まりすぎると、冒険者そのものが減る弊害があるんですよ」
「あぁ、厳しくしすぎるとしらけちゃうよね。わかる」
「支部長もシャンナ様も恐らくそこを危惧されているのではないかと」
「シャンナ様はそこまで考えてなさそう」




