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チンピラを懲らしめよう

◆ 王都 冒険者ギルド 決闘場 ◆


 後退しながらも、ザイードは両手の拳をガシガシと打ち付けている。怯えてはいるけど、まだ戦う気だ。仕方ない、きっちり最後までやるしかないか。


「はぁっ!」


 間合いを詰めてからのトゲトゲナックルパンチ。ウサちゃんのおかげで拳の連打を余裕でかわせる。息をつく暇もない攻撃だけど、さっきから攻撃ついでに床にパンチしてるのが気になる。

床を破壊するほどの威力なのはわかったから。


「いい感じに暖まってきた……! 俺のアビリティは殴れば殴るほど拳の威力が上がる! ヒットした際の手ごたえによって威力もアップする! つまり今の一撃でがはッ……!」


「動きながら喋ったら舌噛むよ」


 ガラ空きのボディーにウサパンチ。一瞬だけ白目をむくけどまたすぐに復帰してからの蹴り。横跳びしてかわしたついでにこっちも頭に蹴りをヒットさせて、今度こそグラリとザイードの体が揺れた。


「その連打、いいね。じゃあこっちもやってもらおうかな……ウサパンチ連発!」


 頭、お腹、肩、胸の複数個所にドカドカと入るウサパンチ。連打の威力でザイードが宙に浮いてた。


「試合終了! そこまでだ!」


 真面目そうな美人の支部長が試合終了を宣言する。これがなかったら、危なかった。とっくに気絶したザイードがボロ雑巾みたいに、はらりと床に倒れる。そうか、これはやりすぎというアレね。


「勝者! モノネ!」

「ふー、威張るだけはあったかもね」


「ウソだろ……ザイードさんが手も足も出ないなんて……」


 手下達の絶望がひしひしと伝わってくる。そりゃそうか。何せここにはザイード一派以外にも、他の冒険者達もいる。今まで幅を利かせていた集団のボスがウサギ娘にコテンパンにされたとなれば、存続も危うい。


「めちゃくちゃ強いな、あの子!」

「ザイードの腰巾着ども! 夢から覚めたか?」

「お前らのボスは、あんな恰好をした子どもに負けたんだぞ!」


 嬉しいのはわかるけど、自分が勝ったわけじゃないのに調子に乗るのは小物臭いからやめなさい。あんな恰好とか言うな。


「では条件通り、ザイード一派には制約を課そう。破ったとみなした場合は即冒険者資格をはく奪。場合によっては違約金も発生する。これは国からも法の範囲で認められているので、逃げた場合の説明は不要だろう」


 美人支部長が鉄の仮面を被っているかの如く、表情を変えずに淡々と説明する。それが余計に威圧的なのか、一派の皆さんが誰一人として支部長をまともに見ていない。さて、私が課した過酷な条件だ。こいつらにとっては辛い日々が待ってるはず。


「一派はこれまで迷惑をかけた相手にきちんと謝罪をする事。場合によっては損失させた資産の弁償を行う事、出来なければ自首する事」

「そ、それはいいんだがどうやって返済すれば……」

「弁償できない場合は許してもらうまで、何らかの手段で奉仕する事」

「うぅぉおあぁ……」

「今後一切、他人への迷惑行為を禁止する。当たり前の話だが、お前達の場合は特に厳しく取り締まる。冒険者諸君はこいつらに何らかの迷惑行為を受けた場合は、遠慮なく報告しても構わない」

「むしろ今までそういうのが黙認されてたのが問題な気がする」

「こちらも逐一、冒険者のトラブルに構っていられないからな。その為の決闘でもある」


 言われてみればその通り。この条件だと、いろいろ弊害があるのはわかってる。例えば他の冒険者が仕返しで、一派に嫌がらせされたなんて嘘の報告をする場合もあるだろうけど知ったこっちゃない。今まで好き放題やってきたんだから、それくらいの報いは受けてほしい。それを避けるには、生まれ変わったつもりでひたすら善行に励むしかない。


「以上だ。異論は認めない。では解散!」


 美人支部長が、つかつかと速足で去っていく。実直にして事務的、お堅い。人のこと言えたもんじゃないけど、ご結婚はされてるのかな。


◆ 王都 冒険者ギルド ◆


「モノネさん、とんだトラブルだったね」

「まぁ誰かがいつか、やらなきゃダメな案件だったからいいかな」


 ギルド内で一息つく。すでに珍獣観察が始まっているのか、周囲の人だかりがやばい。冒険者どもに囲まれてる。


「こう言っちゃ何だけどさ。決闘があるなら誰かザイードに挑めばよかったのに」

「出来る事なら決闘なんて避けたい人が多いんですよ。仕事でもないのに怪我するデメリットを背負って対人戦なんて割に合いませんからね」

「そこは、さすがのグッディナイトだよね」


「ザイードは王都の冒険者の中でも指折りの実力者だからな……」


 冒険者の一人が、力なく呟いた。激昂する大将よりは弱いけど、それなりに強かったからね。アスセーナちゃんの言う通り、決闘なんて本来はバカらしい。そんなものが必要にならないように活動するのが当たり前だと思う。


「情けない話だが、あいつと決闘をして確実に勝てる自信がある奴はここにはいないだろう」


「……まったくだ。腰抜けにも程があるぜ」


 その声に反応して、人だかりが割れた。その奥に立っていたのは包帯だらけのザイードだ。杖をついて歩くのもやっとみたいで、見た目がかなり痛々しい。あれだけボコボコにしたのに、もう動けるんだ。さすがに恐れられるだけはある。


「何? まだ何かあるの?」

「あるさ……」


 この張りつめた表情、食いしばる歯。さてはまだ懲りてないな。課した条件すら忘れたんだ。いいよ、かかってきなさい。


「俺を……俺を手下にしてくれぇ!」


「は?」


 どどん、と土下座を始めたザイードさん。おたく、これはもしかして新手の奇襲の前兆かな? 体が痛いのに杖を手放して、無理してない? そして、一派達も後ろで土下座してた。


「あんた……いや、姉御の強さに心底惚れた! 俺がお山の大将だってのも納得した! 俺は一からやり直す!」

「あのね、何か企んでる? って、企んでる奴に聞いてもしょうがないか」

「決闘のルールは絶対だ! 誓ってもう迷惑はかけねぇ!」

「俺は、いや俺達は今からザイード一派じゃねぇ! モノネ一派に組する!」

「待て」


 ざわつく、ざわつく。誰だってこんなもん、何か企んでるとしか思わない。


「あのさ、言っておくけどザイード一派じゃなくても制約は有効だからね?」

「そんなものはわかっている! もちろん姉御が提示した条件もすべて満たす! それなら手下にしてくれるか?!」

「アスセーナちゃん。こういう場合ってどうするの?」

「さぁ? 面白いので手下にすればいいと思います」

「適当ぶっこかないで」


「ア、アスセーナァァァァ?! もしかしてシルバーの?!」


 今頃気づくんじゃない。明らかに私よりも目立つでしょうに。


「本物かよ! これはすげぇ! まさかアスセーナもモノネ一派だったとは!」

「そうなんですよ。私も決闘をしたら負けちゃいましてね」

「本当、ふざけてると二度と布団に乗せないよ?」

「え? でも私、戦って負けましたよね?」

「それは事実だけど決闘じゃない」


「事実ぅぅ!?」


 やだ、帰りたい。恐れおののいて、わなわなと震えてる。一派だけじゃなくて、他の冒険者も。


「さすがに冗談だろ?」

「いや、でもあの強さならもしかするとな」

「これはとんでもない勢力がきちまったな……」


「一派とか出来ないんで、皆さんは安心して冒険者ライフを満喫して下さいね」


 などと言ったところで流れは変えられない。ザイードさん、そんな殊勝な性格なら初めからそうして下さい。まだ寝首取りの可能性を捨てたわけじゃないから、警戒はさせてもらうけど。


「姉御! 俺、強くなりたいんです! どうやったら強くなれますか!」

「まずは私が提示した誓約に従って」

「お、俺も気になる! こっちは誓約とかないから教えてくれ!」

「いや、ちょっと」

「対ドラゴン戦について論じたい」

「知りません」

「体はどこから洗うのか」


「グルァァァァ! モノネの姉御がお話しようとしてんだろうがぁぁぁぁぁ!」


 モヒカンうるさい。今なら、毎日腕立て伏せ1000回やったとか適当な事を言っても信じそうな空気だ。それと、どさくさに紛れて変な事を聞いてきた奴は要チェック。当然、ティカの生体登録は済んでいる。


「じゃあ、お前らぁ! 今日からは励んで罪滅ぼしだぁ! 気合い入れっぞぉ!」

「「「おう!」」」


 ザイード一派が一列になってギルドから出ていく。あいつら、マジなのかな。モテないからって私のところに来られても困るんだけど。


「今度、一緒に討伐に行かないか?!」

「疲れたんで今日は帰ります」


 全員を布団に乗せて退散しよう。騒がしくなってきた時はこうするに限る。ん、そういえば何のためにここに来たんだっけ。


◆ ティカ 記録 ◆


ザイード 近接戦闘においては 優れた才能の持ち主デス

道を間違わなければ 冒険者でなくても 身を置けたはズ

そんな彼も ついにマスターの魅力に 気づいてしまっタ

猿に続いて チンピラのボスとは さすがに喜んでいいのかどうカ

集団のトップに立つのは 必ずしも いいとは 限らなイ

下が 悪さをすれば 当然 マスターが 責任をとるはめになル

ましてや チンピラ集団 問題しかなイ

慕うのは勝手だが 組織として 認めるわけには いかなイ

マスターも そんな 面倒なのは 嫌がるはズ

何より マスターには 僕がいれば 十分


引き続き 記録を 継続

「王都のギルド支部長が女性なのは意外だったな。でもなんかこう、鉄の女って感じ」

「冷たいように見えますが、根はとても優しい方ですよ。舐められないようにあんな風に振舞ってるのでしょう」

「実はすごいかわいいもの好きだったりして?」

「心の中では本当は皆と仲よくしたいのかもしれません」

「ありえるねー」

(こんな風に噂されてしまうから、より厳しく徹しているのかもしれませン……)  

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