ブロンズの称号を貰いにいこう
◆ 王都 冒険者ギルド ◆
授与後は観光にすぐ行くために、4人で訪れた。受け付けカウンターがいくつも並び、床は綺麗なタイルがしかれている。ランフィルドやエイベールとは比べ物にならないほど広い室内に、たくさんの冒険者がいた。
和気藹々みたいな空気があまりない。少なくともランフィルドみたいに、談笑してる人ばかりじゃなかった。ちらほらとこっちに気づいた人達が、布団ご一行に視線を向けてくる。
「受け付けにいって魔晶板の冒険者情報を提示すれば話が進みますよ」
「じゃあ、行ってくるね」
「お前、冒険者か?」
布団で移動した先に、男が立っていた。この風体だから文句言わないけどいい加減、見た目で判断されないのはちょっと面倒だな。改める気はないけど。
「そうだよ」
「ここら辺じゃ見ない顔だな。魔術師か? 初めてなら、わからない事だらけだろう?」
「いや、これからブロンズの称号授与があるから問題ないです」
「ブロンズだと?」
周囲の空気が明らかに変わる。どことなく男を疎ましがっているように見えた。ヒソヒソと話して、いい雰囲気じゃないな。なんとなくだけど私にはこの男の正体がわかる。ティアナさんとガムブルアのインパクトのせいで、すっかり忘れてた。
「お前みたいな奴がか? 冗談だろう」
「冗談じゃないんで、そこをどけて下さい」
「グルァァァァ! てめぇぇザイードさんになめた口きいてんじゃねえぞぉぉぉ!」
またなんか来た。モヒカン頭のひょろなが男がずかずかと大股で来る。やっぱり、ザイードか。となると、あそこにたむろしているのがザイード一派ね。全員がこっちの成り行きを、ニヤつきながら注目している。どれもガラが悪そうで何より。
「お前みたいな奴がブロンズだぁ? おい、お前ら!」
「ザイードさん、聞きましたよ」
「こんなふざけた格好をしているガキがブロンズなんざ、誰が信じるんだぁ?」
わらわらと一派らしき連中が集まってきた。イルシャちゃんとレリィちゃんにはアスセーナちゃんがついてる。こいつら、アスセーナちゃんを知らないのかな。目もくれてない。
「お嬢ちゃん、虚勢を張りたい気持ちはわかる。俺にだってそんな時期はあった。
でもな、実力も見た目も伴ってない奴が口に出来るほど甘いもんじゃねえんだ。特に称号はな」
「だから本当だって言ってるでしょ。ウソついてどうするのさ」
「ザイードさんにマジなめた口きいてんじゃねえぞぉぉ! グルアァァ!」
「落ち着け。お嬢ちゃん、戦闘Lvはいくつだ?」
「はい、26」
「ハハハハッ! やっぱりな! ちなみに俺は28だ!」
「ハハハッ! こりゃ傑作だぁ!」
大して変わらないんだけど。傑作とか笑ってる取り巻き諸君はボスをバカにしてるのかな。ツンツンヘアーを撫でながら、ザイードが心底おかしそうに笑っている。もう行っていいかな。
「ホンットによぉ、冒険者ギルドもアホかっつの。こんなもんに称号ってなぁ。ますます冒険者の質が落ちるじゃねえか」
「そういう心配をするなら、人の邪魔してるあんた達の素行を改めたほうがいいんじゃないの? もし私が依頼を登録する為に来たのに、こんな連中が下品に笑って誰かに絡んでたら間違いなく引き返すよ」
「は? ザコに限って称号を貰って粋がって死んでいくんだ。クソみてえな基準で与えられた称号を妄信してなぁ。俺はそれが我慢ならねえんだよ」
「そういう基準が気に入らないなら、冒険者をやめてフリーでやればいいと思う」
「てめぇぇぇザイードさんにマジなめた口ききすぎだろぉぉがぁぁぁ!」
モヒカンうるさい。アスセーナちゃんがにんまりして見守ってる辺り、こりゃ楽しんでるな。仮にもシルバークラスなら、こういう乱れた秩序を正してほしい。ウサギファイターに任せるんじゃなくて。
「だいぶ前にブロンズの称号を与えられたフレッドとかいう奴もそうだった。女連れでヘラヘラして、実力もないくせに粋がってな。なぁお前らぁ! そんな軟派な連中に冒険者をやる資格はねえよなぁ!」
「ないな!」
「男は腕っぷし一本! ザイードさんみたいな硬派じゃなきゃ務まらない!」
あぁ、モテない組ですか。ザイードさんのカリスマの正体がなんとなくわかった。モテない組、僻み組の中でも一番強いってだけだ。現実から目を逸らして、お山の大将を気取って周囲を恫喝しているだけ。
「男は腕っぷし一本ね……。はー、これはアレと同レベルだ」
「どういう意味だ?」
「この前、キゼル山を通ってね。そこのボス猿が、暴力だけで大将を気取っていたんだけどさ。ちょうどそれを思い出しちゃった」
「てめぇ、俺を激昂する大将と同じだと……!」
「これ以上、マスターの邪魔をするなら僕が相手になろウ。暴漢どモ」
「なんだ、こいつ……」
相棒が怒り心頭で魔導銃を出し始めた。暴発されても困るから、私が何とかしないと。
「ギルド内での問題はご遠慮願います。こういった揉め事の際には決闘ルールをお勧めします」
女の人のギルド職員さんがやってきて、すごい事務的な口調で諭してくる。このチンピラどもにも動じず、表情も動かさない。まるで鉄の人形みたいだ。これが王都のギルド職員か。
「決闘ねぇ。こんなガキに、そんな度胸あるわけ……」
「そうだよね。じゃあ、やろうか」
「……あぁ?」
「いい加減、つけ上がらせるのも面倒だしね」
「あいつ、本気なのか? ザイードに決闘を挑むのかよ……」
ギルド内がいよいよ騒然となってくる。これは結構恐れられてるな。当のザイードは眉間にすごい皺を寄せて、ガラの悪さを強調してた。
「お前で何人目かわかんねぇよ。俺に決闘を挑んでから、二度冒険者ギルドに来なくなったのは」
「おい、お嬢ちゃん! やめとけって! あいつは称号こそないが、称号持ちを返り討ちにした事もあるんだ!」
「負けた奴の中には冒険者ギルドの近くを通りかかるたびに、発狂して叫び狂ったのもいるらしい……」
「最近じゃ、自分から一派に入りたがる奴もいるよな」
おー、怖い怖い。そんな自分への賛美にザイードはすっかりご機嫌だ。じゃあ、その自信をへし折りましょう。
「もちろん、今すぐやるよなぁ?!」
「私は一人でいいけど、そっちは全員でかかってきていいよ」
「はぁぁ?!」
「二度も言わせんな、サル。頭にきてるから、全部まとめてコテンパンにしてやるって言ってるの。
この私の楽しい王都観光に水を差しやがって……ボス猿と同じように退治してやるから」
「ッ……!」
ギルド内が一瞬だけ静寂に包まれた。あれだけ威張っていたザイードどころか、一派や他の冒険者も黙っている。伸びて刃になりかけている兎耳に視線が集まっているのに気づくのが遅れた。
「それにしても……」
「なんだよ?」
「一派の皆さん、揃いも揃ってギルド内にいるなんてすごいね。お仕事ないのかな?」
一派の皆さんが殺る気満々でそれぞれ武器を握った。
◆ 王都 冒険者ギルド 決闘場 ◆
「腕が、腕が斬られたぁぁ! 降参、降参する!」
「もう無理だぁ、戦えないィ……」
「痛ぇよぅ……化け物だ、あいつ化け物だぁ!」
腕っぷし一本が聞いて呆れる。何十人といた手下達が試合開始と同時に襲ってきたものの、誰一人として私に当てられない。みぞおちを始めとした急所にパンチや蹴りを入れただけで大体沈む。ちょっと剣で撫でてやっただけで、大きな傷が出来て根を上げる。
「ま、マジ、て、てめぇぇぇ! ザイ、ザイードさんに近づくんじゃ……うごぁぁッッ!」
「だからうるさい」
ひょろながモヒカンがいくらかマシだったけど、一発も二発も変わらないか。首筋と脇腹にそれぞれ高速で一発ずつ入れて終了。すぐにうずくまって痙攣し始めた。そういえば、観戦してた冒険者達の言葉がまったく聴こえてこないな。
「な、何者なんだよ……」
「知る限り、どこの武術でもない……そもそも速すぎて理解が追いつかん」
「あれでブロンズだって……?」
あの人達までびびらせるつもりはなかった。でもしょうがないよね、そこで棒立ちして顔面蒼白なサルが悪いんだから。
「さてと、残るはボス猿一匹のみとなりました。これならキゼル山の猿のほうが、まだマシだったかもね」
「グッ! て、てめぇ!」
「手下だけで楽勝だとでも思ったんでしょ。やられている間に加勢しなかったし、その程度にしか思ってなかったわけだ」
「強すぎる、強すぎんだろぉがよぉ!」
すでに外野で怪我の手当てを受けていたり、まだ呆然としている手下達に加えて後ずさりするザイード。でもきちんとトゲトゲのナックルをつけた拳を構えた辺り、やる気みたいだ。ただ勝つだけで、こいつは私の邪魔をしないようになるのかな。
「な、なんだよ、その耳……」
またしても兎耳が刃になってたみたいだ。さすがに殺したら台無しだから、今は自重しよう。防衛本能と同じく、怒りすぎるとよくない動きをするな。
◆ ティカ 記録 ◆
ランフィルドでは 皆さん仲よく いい雰囲気でしタ
こちらは どうやら 猿山の模様
まぁ キゼル山と同じく ボス猿を退治すれば 大人しくなる可能性もあるカ
ザイードは 戦闘Lv相応の実力がありますが 激高する大将には 及ばなイ
手下達も 平均が 8程度
総出で挑んだのに 負けたとなれば もう言い訳は できなイ
マスターに 絡んでしまったのが 運の尽キ
敵う道理が なイ
引き続き 記録を 継続
「気になったんだけど、魔術師ってあまり見かけないね。シーラさんとエイベールのタックの相棒くらいしか知らない。あ、後はいつかの治癒師か」
「あまりいないからこそ、重宝されます。何せ殲滅力が段違いですからね。その分、敵に回したら怖いですよ」
「あまりいないなら、敵に回す機会も滅多にないよね」
「そうですね。あまり心配する事でもありません」
「だよねー」




