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盗賊の親玉と戦おう

◆ 盗賊のアジト前 ◆


 こっちは30人、向こうはたった3人。普通に考えればこっちの圧勝だ。だけどゴボウと残り2人の手下が未だ余裕なところを見ると、多分強いんだろうな。


「んだらぁ、オイ」

「へいっ!」


 ゴボウの曖昧な指示の意味がわからなかった。だけど、手下2人はそれを把握して向かってくる。私に向かって。


「しまった! 逃げろ!」

「と言われても」


「おせぇよ! 叩くのは弱いところからってなぁ!」


 棍棒男と斧男が舌なめずりしながら、すぐそこまで迫ってきた。覚悟を決めるしかない、これが役に立ってくれなかったら死ぬ。

 あの古びた剣を布団の中から取り出して握り、異常なほどの軽さを実感する。ギロチンバニースウェットみたいな働きをぜひ期待しよう。


「マスターに手を出すナ。魔導ほ……」

「それやめ!」

「了解しましタ」


 小さな人形の魔導砲の発射を片手で制して阻止する。どれだけの威力かわからないし、アジトの洞窟が掘られている崖を破壊するような威力なら落石被害で死ねる。


「いつかマスターのお役に立てるようかんばりまス」


 落ち込んでるけど、私のために何かをしようとしてくれたのは嬉しい。かわりに私がやってやろうじゃないか。


「てやぁぁ!」

「どりゃ!」

「甘い!」


 2人の斬り込みを難なく剣で受け流してかわす。上下左右からそれぞれ翻弄するように攻めてくるけど、この剣はすべてお見通しだ。時に剣を回転させて弾き、時に2人の攻撃を同時に受ける。

 剣が勝手にこいつらの相手をしてくれているから、私がやる事といえば適当に達人っぽいセリフを言うだけだ。しかもろくに鍛えてない私の体でこんな動きなんかできるわけないのに、なぜか体が軽い。剣だって軽い。これはいい。


「な、なんだコイツ! 意味わかんねぇ!」

「こんなバカみたいなのに押されるなんてな!」


「すごい……」


 フレッドさんや後ろにいる方々が見とれているのがわかる。私としてはいかにも達人みたいな振る舞いをしたいけど、向こうからしたら布団の上で剣を振るって粋がってる変なガキにしか見えない。

 それが余計に怒らせる原因になったのか、ますます攻撃は加速する。痺れを切らして盗賊達が布団を狙うも、私の剣に武器が弾かれて態勢を崩した。どこを攻撃しても同じ。


「よらば斬る。死にたくなければ故郷へ帰るがいい」

「クソッタレがぁ!」


「んだらぁ、もういいがぁ」


 ゴボウが手下2人の首根っこを掴み、左右に投げ飛ばす。草木の中に捨てられた2人はゴボウが怖いのか、投げ飛ばされた後も大人しくしていて動こうとしない。

 大人すらも快投するあの馬鹿力だけでも、今の今まで調子に乗っていてごめんなさいと謝りたくなった。あの大男の標的が完全にフレッドさんから私になってる。

 背負っている斧をがっしりと両手に握り締め、ガニ股で変な構えをとった。いや、待って。斧を右手と左手、それぞれ持ってる。片方だけでも大人が両手で振り回すのがやっとなくらい大きいんだけど。


「モノネや後方待機組みも逃げろぉぉ! そいつのスキルが来るぞ!」


「んだらぁ無駄だべがぁッ!」


 全員がゴボウのスキルの範囲を察したのか、あいつの直線状から身を引く。


「んだらぁ必殺! 午暴貫きッ!」


 突進の直前、風圧で森の葉や枝が揺れる。危険を感じた私に応えてくれたのか、布団から跳躍。


「んだらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 布団や掛布団、枕もそれぞれ散って逃げてくれる。上から見下ろしたゴボウの様子はまさに怪物だった。

森に生えている太い木は何かにかじり取られたように次々と折り倒され。雑草が生えていた地面には二本の馬車の車輪の跡みたいなのが太く残っている。


「ふぅー、着地成功」

「クッ……後方組みは無事か?!」


 剣を持ったまま、華麗に着地できてちょっとした達成感。ゴボウの突進はフレッドさんが言った通り、後方の人達にまで届いていた。逃げ遅れてゴボウの突進をかすった人が吹っ飛ばされて、倒れている。フレッドさんの一声がなかったら、もっと被害が大きかったはず。


「んだらぁ、よぉく知ってたんがぁ。これで何度、隊商もろともぶっ飛ばしだがぁ」


 ゴボウが後方組みには目もくれずに私達のほうに振り向く。今のスキルに斧が必要な要素があったのか聞きたいけど、正直怖すぎてあまり頭が回らない。

 今の手持ちは本棚、さっきの奇襲と違ってこれをブーメランしても多分あの斧で叩き割られる。次に剣、あの巨体と斧に立ち向かえるほどの強さがあるのかわからない。だったら頼れるのはギロチンバニースウェット。


「んだらぁ!」


 巨体に似合わない瞬発力で、また距離を詰めてきた。振りかぶった斧の一撃を跳んでかわし、追撃もテンポよくかわして。死角になっているゴボウの真上から肩に向けて剣を突き刺した。


「んだぎゃぁぁぁぁ! いで、いでぇぇぇ!」


 勝手に動いてくれる中、なるほどと思った。まずは肩を壊して武器の使用を制限する。その制限を見逃さずに間髪入れずに背後に着地。今度は足首を狙う。足首を斬られたゴボウは態勢を維持できずに、ズシンと音を立てて倒れた。


「すっげぇ……まるで演舞でも見ているかのようだ」

「何なんだ、あの少女は……」


 旅人や隊商を護衛もろとも壊滅させ、討伐隊すらも手に負えなかった怪物に土をつけているのがこんな引きこもりの少女なんだから、そりゃ驚く。いや、引きこもりかどうかまではバレてないか。


「いかにも普段から動いてなさそうに見えるのに……」


 バレかけてた。


「どうする? 降参する?」

「だ、だれがぁぁぁ!」


 残っていた片方の腕でゴボウは最後の抵抗を試みる。結果はもちろん、足腰も断たれた腕力だけじゃ届くわけない。私がバックでかわした後、斧が空しく空振るだけだった。

 まだ元気ならしょうがない。その腕すらも肩に斬り込みを入れて、封じる。


「んぎゃぁぁ! ま、待つだがぁ! い、命だけは!」

「あんたに命乞いした人達もいたと思うんだけどさ、助けた?」

「助けただがぁ! 助げだぁ!」

「ウソつけー」


 命根性が汚いとはこの事か。散々好き放題暴れておいて、自分が窮地に立つと見苦しく喚く。やられる覚悟がないなら、大人しく引きこもってればいいのに。働く覚悟がないのに職についてもしょうがないのと同じだ。


「モノネ、お手柄だ。まさか君がこんなに強いとは思わなかったよ」

「まぁ、こっちもいろいろかかってるんで」

「ん? どういう事だ?」

「こっちの話。それより手下2人もろともしょっぴく?」

「あっちの2人は殺したよ」

「うえぇ?! あ、そうだよね。討伐だもんね」


 当たり前だけど、殺しにきたんだ。でもいくら救いようのない人間でも、殺しただの何だのは慣れない。ぬるま湯に浸かりきったお嬢ちゃんには刺激が強すぎる。


「だけどゴボウは別だ。拘束した後、ある程度の手当てをしてから運ぶ」

「殺さないの?」

「こいつにはいろいろ吐いてもらわなきゃいけないからな。生け捕りは諦めていたけど、君のおかげで何とかなってよかったよ」


 さっきも情報がどうとかいってたっけ。盗賊に何を言わせるつもりだろう。私が知るところじゃないか。 私以外が事後処理を手早く進める中、ぼんやりと考え事をする。布団君はゴボウの攻撃をかわして緊急回避、これは私の思考通りに動いてくれたって事かな。長い間、私の持ち物になっているとそれだけ精度が上がるのかもしれない。

 剣が勝手に戦ってくれたのはよくわからないな。他の剣でも一律同じ強さで戦ってくれるのかどうか。

あの声はこの連れている人形の事もあるし、剣の意思? 何にせよ剣とギロチンバニーのコンビネーション、土壇場でうまくいってよかった。


「マスターのご活躍、感服いたしましタ」

「あんたも助けてくれてありがとね」

「いえ、まだまだ及びませン。お役に立てず、悔しいデス」

「その気持ちがまずありがたいよ。これからもよろしくね、ティカ」

「ティカ?」

「名前がないと不便だからつけてみた。地下で出会ったからね」

「気に入りましタ。以後、ティカでよろしくお願いシマス」


 髪をすぐ後ろで縛ったポニーテールの辺りで、なんとなく女の子を連想した。人形に性別はないだろうけど。安直すぎて嫌がられるかなと思ったけど喜んでもらえて何より。

 ティカは自分の名前が気に入ったのかわからないけど、照れくさそうにモジモジして体をくねらせている。こうして見ると結構かわいいかも。


「よし、町に帰るぞ! 今日の英雄を囲んで、盛大に盛り上がろうじゃないか!」

「おおぉぉ!」


 それはもしかして、食べ物にありつけるという話か。拘置されてた時もおいしくない食べ物が出て来たし、急にお腹が減ってきた。鳴る、お腹が鳴る。


「もう決着がついたのですね」


 いつからそこにいたのか、林の中から女の子が出てきた。草もほとんど揺らさずに、気配さえない歩き方。もしかして盗賊の仲間かと一瞬思うも私とそう変わらない歳かな。どうも違うように見える。


「さすが皆さん。特にフレッドさんがいれば、何の心配もないとは思いましたが……」

「来ていたのか、アスセーナさん!」

「遅くなってしまってすみません」


 肩よりも少しだけ長い金髪の二つ結び、澄んだ水色の瞳。やや吊り上がってきつい印象があるけど、嫌味を感じさせない抑揚と声。盗賊の隠れ家があるような場所に似合わない清潔感。凛とした佇まい。一言でいうとお上品だ。


「アスセーナさんだ……」

「まさか加勢に?」

「本物か? あ、後で鎧にサインしてもらえないかな」


 討伐隊のどよめきが半端ない。私と比較するのはおかしいけど、皆の彼女に対する信頼度が段違いだ。だけど尊敬はもちろん、畏怖の感情すら抱かれてるように感じるのは気のせいかな。


「せめて事後のお手伝いをさせて下さい。精一杯がんばります」

「そ、そんな! 来てもらっただけでもありがたい!」

「がんばります」


 その後の彼女の手際といったら、30人分の仕事を一人でやってのけた。死体なんか触れない私と比べて、綺麗な顔をして平然とやってのける様は見とれるしかなかった。


◆ ティカ 記録 ◆


マスターの お役に 立てず 無念デス

しかし めげる事は ありませン

マスターと一緒にいる事によって 力の高まりを わずかに 感じまス

これが マスターの力に よるものなのかは わかりませんガ


マスター 初めて 戦闘をしたとは 思えない戦果デス

臆する事なく 敵にも余裕を 見せられる メンタル 感服しましタ

そして 貰った ティカという 名前

本当に嬉しイ

どうして こんなにも 幸福を感じているのか 自分でも わかりませン

今は ただ 喜びしか 感じられませン

これからは この名を 堂々と 名乗りまス


「マスター、冒険者とはどのような方々なのですカ?」

「フリーで生きて生計を立てている人達だよ。冒険者ギルドに所属してお使いや魔物討伐をこなしてる」

「冒険をしているから冒険者、なるほド。人生が冒険なのデスネ」

「といっても優秀な人もいて、中にはギルドからブロンズからプラチナまでの称号を貰ってる人もいるよ」

「それならば、マスターも称号をもらってもいいはずデス。自由に人生を冒険しているマスターなのですカラ」

「褒めてるのか皮肉なのか」

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