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王都に入ろう

◆ 王都 門の前 検問 ◆


「……通ってよし! 次!」

「あの、観光で」

「身分を証明できるものを提示しろ!」

「ええと、えっと」


 並列で行われているものの、どこも長蛇の列が出来てる。持ち物チェックや身分チェックとか、王都へ入るのに苦労しているのも何人かいた。さすがに武器の類の没収はないみたいだけど質問攻めにあってる人がいて、うんざりだ。


「ランフィルドとは段違いの厳しさだなぁ」

「国王の膝元となれば、致し方ないのかもしれませン」


「次! そこの兎耳!」


 おっと、少し話し込んで反応が遅れた。忙しすぎてカリカリしているのか、ちょっと怖い。


「目的を言え!」

「冒険者ギルドでブロンズ称号授与の為に来ました」

「冒険者情報を提示しろ!」

「はい。新米の戦闘Lv26です」

「そんな事は聞いていない! 見ればわかる! ん、26だと……」


 ちょっと緊張をほぐすために、おどけたのに本当にお堅い。唾を飛ばしていちいち怒鳴りちらしてたら、もっと疲れるよ。私なら定形の質問をして次々とさばくな。いや、仕事熱心なのを否定しちゃいけないか。


「お前みたいな子どもが26だと? 冒険者ギルドに確認を取るから待ってろ」

「えぇー?」

「確認に行かせている間にいくつか質問をする。どこから来た?」

「え? それ聞いちゃうんですか?」

「当たり前だろう! それとも何か答えられない理由でもあるのか?」


 ここでウソをついて後で面倒な事になったら大変だ。こんな事まで聞かれるのは誤算だったな。なんか心なしか手元の武器を握り締めてるし、攻撃されたら大変だ。ここは正直に答えておこうかな。


「エイベールだよ」

「なに、エイベール……あ、あなたはディニッシュ侯爵! これはどうも、お疲れ様です!」

「お勤めご苦労さん。その子達は私の客でもあるから、その辺で構わないだろう?」

「は、はい! 失礼しました!」


 通過したディニッシュさんがフォローしてくれた。この人、私が出身を隠しているのを気づいているのかな。でもよく考えたら、どこから来たという質問だから別に間違いじゃないか。出身地を聞かれたわけじゃない。


「確認が取れたぞ。その子の授与は本当だ」

「そうか。ディニッシュ侯爵の客でもあるから、丁重にな」

「ゲェッ! どうも先程は失礼しました!」


 ゲェって。門番の二人が頭を下げた。仕事熱心なのは悪い事じゃないから、謝る必要もないけどね。アスセーナちゃんは当然のように顔パスで羨ましい。


◆ 王都 ◆


ランフィルドと違って高低差や高い建物がすごい目立つ。遠くにぼんやりと見える城を中心にそれらが密集していて、スケールの違いを見せつけられた。これ迷いそう。


「この地図の宿に行きなさい。ワシが代金を払っておこう」

「ありがとうございます。助かります」

「短い間だったが楽しかったぞ。それとな、何か心配事があったら遠慮なく訪ねなさい。こっちもワシの住所を記した簡単な地図を書いてやろう。待ってなさい」


「お前達、相当気に入られたな。滅多にない事だぞ」


 護衛の人が耳打ちしてくる。確かに上機嫌で地図を書いてる姿を見ていると、そう思えた。人当たりがいいし、誰でも気に入りそうなイメージがあるけどそうでもないのか。


「ワシの名を出せば泊めてもらえる。冒険者ギルドはアスセーナが知っているから問題ないな」

「はい。ひとまずは宿ですね」

「そうか。では達者でな」


 ガラガラと馬車が動き出し、別れ際に護衛も手を振っている。本当に短い間だったけど、ちょっと寂しい。


「称号授与ってさ、すぐ終わるの?」

「はい。ギルドマスターの部屋で済ませますね。ブロンズはその程度で終わりです」

「というと、アイアン以上になれば大袈裟な感じに?」

「シルバークラスになると、割と派手ですよ。ゴールドになればその国の王様も出てくるとか」

「上に行くほど重圧が激しそう」

「まぁまぁ、宿より先にギルドに向かいましょう。明日が支部長が不在の場合もありますからね」


 人の多さが段違いなこの王都で布団は間違いなく目立つ。仕方ない、歩こう。とならないのが私だ。大衆に気を使って歩くとかありえない。

 あ、でも浮いてる箒にまたがって移動してる魔術師っぽい人がいるな。あっちには犬っぽい魔物に乗って移動してる人もいる。こんなのランフィルドじゃ見かけなかったし、さすが王都だ。魔法で物を浮かせるくらい魔術師なら当たり前だっていつかの治癒師が言ってたけど、本当だった。


「でも布団はやっぱり目立つかー」

「振り返って通りすがらなかった人はほとんどいませんね。いいんです、特異性こそ実力者の証ですから」

「まぁ悪い事してるわけじゃないからね」

「見える範囲だけでも、飲食店にそそられる……!」

「じゃあ、夕食はその辺の店で食べようか」

「ッしゃぁ!」


 イルシャちゃん、気合い入れて喜びすぎでしょ。私もお腹が空いたし、そそられるけどさ。夕方も近いし、今日は食事が終わったら早々に休みますか。疲れが出すぎている。


「ふぁぁぁ~、それにしても広いねぇ……ん?」

「モノネさん、どうかしましたか?」

「あ! あああぁ!」


 雑踏の中に見覚えのある人の後ろ姿が確認できた。忘れもしない、長年お世話になったあの人。結果的に私が冒険者をやるきっかけを作ったあの人。見逃すわけない。何をするにしろ、ひとまず話を聴こう。


「皆、しっかり布団に捕まっていてね! ティアナさぁぁぁぁん!」


「へ? あ、あれぇぇ!? モ、モノネお嬢様ぁ!」


 突然のことで3人をビックリさせているけど、この機会は逃すまい。当然、向こうも走り出して逃げる。


「こらぁ! 逃げるんじゃない!」

「ふ、布団?! 布団って!」

「これもあなたのおかげでもあるんだよっと!」

「きゃん!」


 後ろから抱きついて確実に捕まえた。抵抗されるかなと思ったけど大人しい。薄いピンクのセミロングは変わらないまま、メイド服だけが違う種類になっていた。まさか王都にいるなんて。


「さて、説明を要求する」

「お嬢様こそ、お部屋にいるんじゃ……」

「あなたが私のおこづかいを盗んだせいで冒険者にならざるを得なくなった。私からの説明は以上」

「そ、その件は大変申し訳ありません! いつか、いつかお返しします!」

「信じてあげたいし、両親の待遇がひどかったなら責められないな」

「そうなんですよ本当に!」


「ティアナ! 何をしている!」


 咄嗟にティアナさんから離れる。新しい雇い主かな、でっぷりとした体形に光を反射する頭。その横に生えた申し訳程度の髪の毛。高級そうな服を着ているその人がジロリと私達を睨む。そして護衛と思われる人が二人。

 大剣を背負った男と目が見開かれたような仮面を被ったピエロみたいな奴が、雇い主を守るようにして立っている。待って、あのピエロ。あいつがまたがっている魔物って。


「なんだ、その子どもは? 知り合いか?」

「いえ、全然知らない子です」


 ティアナさんが素っ気なく私から離れて、雇い主の男の元へ行った。私のお金を盗んだのは許せないけど、それでも何年も一緒にいた仲だ。それなのにこの手の平返しって。


「買い物は済んだのか?」

「はい」

「ならば、とっとと帰るぞ! ワシの食事は夜19時きっかりと決まっておるだろうに! フゥンッ!」

「申し訳ありません! すぐに帰ってご用意いたします!」

「貴様ごときがワシの時間を搾取するなよ。拾ってやった恩も忘れるな。フゥン!」


 行き場がないティアナさんを雇ったのが、この感じ悪い雇い主か。いちいち鼻息を噴き出して、癖のあるおじさんだ。

 ティアナさんも気になるけど、用心棒らしきピエロ仮面が乗っているあの魔物も無視できない。あれは間違いなくブラッディレオだ。左目に傷跡があり、私達が倒した個体よりも少しだけ大きい。明らかにあれだけ風格が違う。


「1秒でも遅れたら、わかってるな? フゥンッ!」

「はい! ガムブルア様!」


 その名前に私とアスセーナちゃんだけが反応する。期待通りの人相と人格である意味安心した。そして大剣男も強そうだけど、ビッグアイ仮面のピエロだ。あいつ、ずっと私達二人を見ていた気がした。その後ろ姿を見送って完全に見えなくなった後、ようやく相談できる。


「ティカ、あのピエロ仮面って生体登録済みだよね」

「はい。間違いなくあの時、ブラッディレオをけしかけた人物デス」

「はぁ……嫌な予感は当たらなくていいのに」

「どう致しますカ」

「どういたすも何も、スルーだよ。あっちにロックオンされた感じがあるけど、だからって手を出せる相手でもないし」


「ね、ねぇ。何の話?」


 不安にさせたくないからギリギリまで黙ってたけど、ここまできたら話すしかないか。


◆ 王都 ホテル"ムーンクィーン" ◆


 宿っていうかホテルだった。部屋がべらぼうに広くて、明らかにロイヤルスイートな雰囲気を出してる。王都を見渡せる高さにあるこの部屋からの眺めが絶景だ。お城もハッキリ見える。当初はギルドに行く予定だったけど、さすがに皆が疲れているから急遽変更。お腹も空いたし。


「……そうなんだ。私達の街がそんな奴に狙われていたなんてね」

「ごめん。危険なのにつれてきちゃって。でも大丈夫、王都観光は絶対にするからさ」

「別に責めてないわ。ね、レリィちゃん」

「その為のこの服だもんね」


 私とアスセーナちゃんが用意した特別製の服だけが頼りだ。いざという時がこなければいいと思ったけど、雲行きが怪しい。今のところ、あのデブハゲに私達の正体が割れてないと思いたい。


「あのメイドの方、わざとガムブルアと名前を呼びましたね。モノネさんに素っ気なかったのも頷けます」

「そうかもしれない。あの人、あいつのところにいて幸せなのかなぁ」

「……どうでしょうね」


 出来れば一度話し合いたいけど、障害が多すぎる。相手は貴族だし、それにあのボディガードっぽいのも気になる。


「あの仮面の方、もしかしたら"魔獣使い"と名高い人物かもしれません」

「魔獣使い?」

「魔獣の知識に精通していて、巧に操る事からそう呼ばれた有名な冒険者です」

「冒険者かい!」

「ただ、あれほど目立つのに冒険者としての活動を行っている話は聞いた事がありません。それだけに謎が多いんですよね」

「大剣を持った男のほうは?」

「見た事ないですね」


 自分の身を守らせているからにはどっちも強いんだろうな。さすがに護衛に関しては抜かりない。


「さ! モノネさんもアスセーナさんも、そろそろお腹空いたでしょ? 食事に行きましょう!」

「へ? そうだね」

「さっき、気になるお店見つけたからさ。今日はそこでいいよね?」

「いいよ。私もお腹空いたし」

「王都はどれも名店揃いですよ。おいしくない料理を出す店はすぐに潰れちゃいますからね」

「期待爆発だね!」


 気を利かせてくれたのか、はたまた天然なのか。イルシャちゃんが食いっ気ムードにしてくれた。悩むなんて馬鹿らしい。食って寝て明日は冒険者ギルド。授与が終わったら楽しく観光。せっかくの王都なのに、楽しまないでどうする。


◆ ティカ 記録 ◆


ディニッシュさんの おかげで 快適な王都生活を おくれそうデス

身分が高いと 人格も比例するのカ

いや あのガムブルアを見ていると そうとは思えなイ

肥え太った肢体に 脂ぎった肌 普段から不摂生を 繰り返しているのでしょウ

贅の限りを尽くしている そんな人物像デス

早くも 出会ってしまった事が 裏目と 出なければよいのですガ


あのボディガードの二人 魔獣使いはともかく 大剣の男 戦闘Lvを抑えていまス

衝突するとなれば 面倒かも しれなイ


引き続き 記録を 継続

「そういえば、王都には学園があるんだっけ」

「そうですよ。武術から学問まで、幅広く学べる場だけに狭き門です」

「苦労して入学して、更に勉強という苦労をする……考えただけで恐ろしい」

「モノネさん、もしかしてそれを再認識するために質問しましたね?」

「そ、そんな事ないよっ」

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