村に恩返しをしよう
◆ 王都より南の村 ◆
「モノネさん達、どこに行ってたんですか。早くしないとなくなりますよ」
「うますぎる!」
「止められないとまらない!」
こりゃ確かになくなりそう。村人達が早速、イルシャちゃんの手料理の虜になってる。中毒なんじゃないかと心配になるほどだ。
「商人の方から味噌を少し分けてもらって助かったわ」
「まぁ守られたり泊めてもらったりで私は何もしてないからな。礼だと思ってくれ」
商人さん、太っ腹すぎる。自分の商売もあるだろうに、ここまでしてくれて護衛した甲斐があった。大きな鍋に入ってるのはスープかな。野菜がコトコトと煮込まれてる。
「これは……味噌野菜スープ!」
「豚肉の出汁が効いてるから、豚スープかな」
「豚汁でいいんじゃないですか?」
「汁ってなんか汚い」
「ちょっと辛くなるスパイス入れる?」
味噌のスープが辛くなっておいしくなるのかな。物は試しだ、レリィちゃんを信じてやってみよう。
「うんまい! 味噌だけの平坦な味わいもいいけど、こっちは刺激的!」
「どれどれ、貴族の舌を満足させられるかな? おぉ、なかなかいけるな。今度、シェフに作らせよう」
「貴族でもこういう料理を食べるんですね……」
「毎日、豪勢な料理ばかり食べてると思われてるな。実は意外と諸君らと変わらないぞ。豪勢な料理はたまに食べるからいいものだ」
「そうなんですか。ワインを片手にステーキでも毎日食べてるイメージでした」
「そういう者がいるのは否定せんけどな。そんなもんはあっという間にブクブク太って早死にだな」
ガムブルアも早死にしないかな。いや太ってると決まったわけじゃないけどさ。どうもさっきのブラッディレオを放った奴が、ガムブルア関連な気がしてならない。いや、こんなにおいしいものを食べてる時くらいはこんな事を考えたくないな。
「君達と違うのは金を持っていて使用人もいて、不自由ないくらいだな」
「だいぶ人種が違いますね」
「後は強い護衛もいる。だが今回は君達がいなかったら、途方に暮れていたな。な? 金や地位があろうと、どうにもならない時もあるのだ。下手をすればあっさりと死ぬ」
「その為の私達です! ディニッシュ様には何人たりとも指一本触れさせません!」
「とまぁ、頼もしい限りではあるな」
お金と地位があれば出来る事は大幅に増えるけど、根本的には変わらない。結局、どこまでいっても同じ人間なんだ。今は偉そうに振舞っていても、後でどうなるか。ガムブルアもいつか身につまされる日が来るといいな。
「おじいさん、その病気ならこれを飲み続けていれば治るよ」
「ありがとよ。確かに少し楽になったよ」
「オラの腰痛に効く薬はねえか?」
「これ」
あっちではレリィちゃんが薬屋をやっていた。何でも薬で治るものかな。だとしたら治癒師も真っ青だ。これでこの村の健康状態も良くなればいいけど。
「魔物避けのお香の作り方を書いておくね。簡単に作れるから便利だよ」
「こんなに小さいのに、大したもんだな」
「そうでしょ。レリィちゃんは天才児だからね」
「うんうん、かわいいもんだ」
私とレリィちゃんが同時に頭を撫でられた。私も含まれてたのか。いや、なんでアスセーナちゃんも撫でてくるの。ニッコリしないで。
「若い衆はほとんど王都に行っちまったからなぁ。久しぶりに賑やかになって元気が出たよ」
「この村の農作物もまた国にとって貴重な資源。何か悩み事があれば聞くぞ」
「実は……」
ディニッシュさんが村長と難しい話を始めた。私も負けてられないな。久しぶりにアレをやるかな。以前よりも発想力が増した私を見せてやりましょう。
「皆さん、何か壊れた道具を持ち寄って下さい。私が直してあげます。でも部品がないものは無理です」
「壊れたもの? このひん曲がった鍬でもいいのか?」
「はい。鍬君、元通りになってね」
「おぉぉ!? 何だ?! 直ったのか?!」
「はい。もっと自分は戦えるといってるので長らく愛用してあげてくださいね」
「じゃあオラはガタがきてる荷台車!」
「こっちは便所!」
「えっ?」
道具だけで済むかと思ったら家の建てつけだの、挙句の果てには便所に案内された。こんなかわいいもんになんて場所を直させるんだ。言い出したのは私だけど。
家も何もかもが長年、使い古されていて本当にボロボロだった。雨風に負けない家、通気性がしっかりした家、それぞれの注文に合わせてお願いしていく。当初は家なんて大きいものには何も出来なかったけど、やれば出来るものだね。
「刃こぼれした包丁が新品同様に!」
「わお!」
「わおって、おめぇがやってくれたんじゃねえのか?」
「そうですね」
達人剣と同じく、ひどい状態だった包丁も新品として生まれ変わった。ここにきてまたアビリティが成長したのかな。どういう条件でパワーアップしたんだろう。この包丁はかなり使い込まれたらしくて、持ち主を相当気に入っている。
達人剣と共通するところがあるとしたら、古くて使い込まれたという点だ。そして物がいい状態である事がもう一つの条件かもしれない。あくまで予想だけど。
「うちにも来てくれ!」
「次はうちに!」
「うちのばあさんを新しく!」
「それは無理です」
このままだと村中を駆けまわる事になるな。私、やっちゃったかも。
「よく見たら、さっき私が直した家もほぼ新品だ」
「村中が生まれ変わったようですね。この調子でがんばりましょう」
「もう夜も遅いし……」
「さぁさぁ」
アスセーナちゃんに布団ごと押されて、引く手も数多な私は観念して一軒ずつ見てまわる事にした。考えてみたら長年、住み続けた家なんだから達人剣や包丁と同じく新品になる権利もあるか。
「こ、こりゃたまげた! 村が生き返っていく!」
「こっちまで若返ったようじゃ!」
「めでたい! 君は一体、何者なんだ?」
「こんな旅人なら、毎日歓迎したいね!」
村中がおおはしゃぎしてる。物だけじゃなくて人も生まれ変わったみたいだ。さすがにおばあさんは新しくできないけど、使い込めば物は応えてくれる。
裏を返せば、大切に扱わないといつか大変な目に遭う可能性もある。それが"物霊"だ。こうなるといつまでもウサギファイターじゃいられないな。物霊ファイター、いや。ない。
「はー、疲れた……一通り終わったかな」
「モノネさん、すっかり人気者だね」
「モノネおねーちゃんのおかげで皆、嬉しそうだよ。あっちでおばあさんが新しくなった昔の服を着て踊ってる」
「ひっ!」
ミニスカートで踊りまくってるおばあさんを大急ぎで視界から外した。しかも、さっき嫁を新しくしてくれと頼んできた人のおばあさんだ。横でおじいさんが青ざめた顔してる。まぁ本人が幸せならそれでいいと思う。
「お年寄りばっかりの村なのに、活気づいたなぁ」
「生命の源は元気ですからね。心まで年老いてはダメなんです」
「役に立ててよかった。さてさて、本当にもう疲れすぎたから寝るよ」
夜も更けたし、各々が一晩だけお世話になる家に入っていく。人数分も布団がないだろうから、雑魚寝だろうけど。こっちはこっちで布団君があるからなんだか申し訳ない。この布団、4人用なんだ。
「ワシはどの家のお世話になろうか」
「あちらのご婦人がディニッシュ様を歓迎するそうです」
「ほぉ……ゲェッ!」
私が最後に見たのはミニスカートのおばあさんが、ディニッシュさんにウィンクをしていたところだった。明日に備えて休まないといけないので、見守る事は出来ない。おやすみなさい。
◆ ティカ 記録 ◆
人間 皆 同じデス
身分の違いや 年齢 貧富ははあれど 人として 根本的なものを
見失っては いけなイ
このように 皆で 手を取り合い 助け合えば 誰かが 幸せになル
マスター また一つ アビリティに磨きを かけましタ
僕が 心を持てたのは 偶然では なかったようデス
きっと これは マスターに眠る力の一つ
つまり いつかきっと マスターは この力に目覚めるはズ
引き続き 記録を 継続
「ランフィルドみたいな大きな街は心配なさそうだけど、小さい村だと魔物に襲われたら大変だよね」
「警備兵が派遣されたらいいんですけどね。魔物避けの工夫を凝らしてる村も多いですね」
「うーん、サバイバル」
「中には村人自らが魔物と戦っている村もあるそうですよ。鍬や鎌で魔物を撃退するなんて話もあります」
「もはや軍隊じゃん……」




