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村に泊めてもらおう

◆ 王都側 洞窟前 ◆


「復旧に必要な人員と資材をこちらで手配しよう」

「ありがとうございます!」


 王都側の入口で作業に当たっていた人達とディニッシュさんが話している。当初の日数は一ヶ月だったけど、そのおかげで数日程度になるそうでよかった。また崩落しないように十分な強化費用も捻出するとか、太っ腹貴族だ。


「ふー、やれやれ。久しぶりに一仕事したわい」

「お疲れ様です。では出発しましょう」


 当たり前だけど礼儀正しい護衛達と共にまた出発。せっかくだからキゼル山を越えた皆を王都まで護衛しよう。ディニッシュさんがこの件をギルドに報告してくれるというから、また一つ実績を積んだ事になる。


◆ 王都への街道 ◆


「その歳で冒険者デビューして短期間でブロンズの称号授与だと? 信じられん……」

「私も信じられない」

「俺なんか物心ついた時から実践経験を積んで、ようやく専属騎士になれたのに……」

「そう言われると耳が痛いです」


 さっきから護衛の人達に質問されまくってる。他の冒険者や商人も私に興味津々だ。ここには物珍しい最年少シルバーの称号持ちがいるんですけど。そして、イルシャちゃんやレリィちゃんが嬉しそう。


「み、皆さんの戦闘Lvはどのくらい?」

「戦闘Lvって冒険者ギルドのアレか? 登録してないからわからん」

「オレは7」

「俺は9」

「12」

「10だけど実質15までなら狩れる。本気出してないだけ」


 話題を変えようとして逆に質問したけど、反応できなくて変な空気になった。26がこんな質問しても嫌味にしか聞こえないでしょう、モノネさん。


「幼少の頃から鍛えてるのか?」

「た、多少は」

「へぇ、どんな風に?」

「こう、トレーニングとか」

「実戦経験はいつから?」

「ちょっと覚えてないかな」


 なんかわざとボロを出させようとして質問してきてるとしか思えない。タネがわかってるアスセーナちゃんなんか、笑いを堪えてる。イルシャちゃんは相変わらずニコニコしてるし、レリィちゃんに至っては布団にのぼってきて寝そべってた。自由すぎる。


「その装備は見たところ、耐久性はなさそうだが動きやすさを重視してるのか?」

「まぁそんなところ」

「布団は魔力で浮かせてるのか?」

「やっぱりわかりますか」

「そりゃな。でも猿どもとの戦いでは魔法を使ってなかったな」


「うーむ。素晴らしいな……こんな上質な生地は見たことがない。それに汚れがまったくないぞ」


 ついに商人っぽい人まで加わってきた。意地でもアビリティのおかげだとバラすわけにはいかないよ。自分の手の内が広まっていい事なんてない。スウェットと剣がないと何も出来なくなるなんて情報が広まったら、面倒どころじゃないもの。


「これを売る気にはならないか? 今ならこれくらいで買い取るぞ」

「すみません。売れません」

「ならば、このくらいで」

「金額とかじゃなくて、思い出も詰まってるので売れません」

「なるほど、それなら仕方ないな……」


 思い出という人情を刺激するワードで何とか回避。商魂たくましいな。そういえば私も商人の娘だっけ。最近は特に自覚がなくなってきた。

 そういえばパパとママ、いつ帰ってくるのかな。王都に行ってる間にパパとママが帰ってきてもいいように書置きだけは残した。書置きといえばティアナさんだ。今頃、どこで何をしてるんだか。


「つい最近、冒険者デビューしたばかりといってたな。それ以前は何をしてたんだ?」

「それ私も気になる!」


 イルシャちゃん、食いつかないで。さすがにこの大勢の前で、引きこもりをカミングアウトするのは無理だ。どう答えよう。さっきの答えと矛盾がないように慎重に言葉を選ばないと。


「冒険者になるのが夢で、12歳まではひたすら鍛えてた」

「ほー! 夢に対して真剣だったんだな!」

「偉い!」

「うちの息子にも聞かせてやりたいもんだ! 夢も持たずに、短期の仕事ばかりやっていてなぁ」


 この賞賛の嵐よ。どちらかというと、仕事をしている息子さんのほうが立派です。誰もが夢を持って生きろなんて難しすぎるし、自分のペースで生きたらいいんじゃないかな。さすがに親の迷惑も考えないで、引きこもりはどうかと思うけど。


「面白いなぁ、君は。ワシとチェスでもやらんか?」

「いえ、遠慮します」

「そうか。だが貴族からの依頼をこなせば、実績としてかなりたかーく積み上がるぞ?」

「正式な依頼なら考えますけど、私チェスとかルール知らないしゲームは大体弱いです」

「さっきまでは口ごもっていたのに、饒舌になったな? ほほっ」

「え? 気のせいかと」


 この貴族め。油断してるとすぐこれだ。全力ですっとぼけたけど、なんか隠してるのを悟られたかな。いい人そうだけど完全には信用してない以上、ばれるわけにはいかない。


「キゼル山を越えるのにだいぶ手間取ってしまったな。もう日が沈みかけておる」

「当初の予定では夜に王都に着く予定でしたが、このまま歩けば明日の朝です」

「これだけの人数で野営となるとな」

「それでしたら、少し歩きますが村がありますよ」

「アスセーナが言うなら、そうしよう」


 アスセーナちゃんの一声で決定した。村にこんな大人数でいって大丈夫かな。私が村人だったら帰れって言う。


◆ 王都より南の村 ◆


「このくらいの金しかないが、一軒につき一人の割合で泊めて貰えんかね」

「こ、こここんな大金を?! ぜひ!」


 貴族が金の力であっさり解決した。やっぱり世の中、お金だね。村長の目が完全に硬貨になってた気がした。


「せっかくだから、村人達に食材を持ち寄ってもらって何か作るわ。大人数で食べたほうがおいしいでしょ」

「さすがイルシャちゃん。期待してるよ」

「モノネさんは休んでいていいよ。出来たら呼ぶから」

「胸が高鳴る」


 イルシャちゃんが村人を集め始めるのを眺めていたら、どっと疲れが出た。食事まで寝ようかな。


「……マスター。お疲れのところ、申し訳ありませんが緊急事態デス」

「ウソォ!」

「すみません、やはり止めておきますカ?」

「やめないで」

「近隣にブラッディレオが5匹ほど近づいてまス」

「なんでそんなもんが来てるの」

「わかりませン」


 皆に知らせようか。せめてアスセーナちゃんくらいには手伝ってもらう。ブラッディレオって、この辺にも生息してるものかな。だとしたら、失礼だけどこんな村なんてとっくに滅んでいそうなものだけど。何にせよ、ここは慎重に判断しないと。


「私とモノネさんだけで向かいましょう。村の警備も疎かにできませんし」

「そうだね」


 急いでブラッディレオとの遭遇ポイントに移動しよう。和気藹々と食事の準備をしているし、あのムードだけは壊したくない。何より一番不安になるのは村人だ。厄介になっておいて、そんな思いをさせるのは心苦しいからね。


◆ 村から離れた森林近く ◆


ここは遠目に村が確認できる位置だ。赤い獅子達が疾走してくる。これ、完全に村を狙ってるな。こんなにピンポイントに向かってくるなんて、あり得るの?


「気をつけて下さイ! 5匹とも戦闘Lvが27程度デス!」

「レオちゃんって20だよね」

「個体差による違いはありますが、ここまで極端に差が出るのは稀ですね」


 5匹がそれぞれ左右に跳び、挟み撃ちするように飛びかかってきた。何このトリッキーな動き。ますますおかしい。こんなのに時間なんてかけてられない。バニースウェット&達人剣、全力!


「てやぁぁぁ!」

「ギャオッ!」

「せいっ!」

「グォッ!」


「「はぁぁっ!」」


 私とアスセーナちゃんがそれぞれブラッディレオの首筋を斬る。急所狙いで短期決戦、達人とアスセーナちゃんの考えが一致していた。


「おっと、ヒット&アウェイはさせないよ!」

「ガァッ……!」

「狙いが定まりましタ!」

「グフォッ……!」


 引こうとしたブラッディレオに間髪入れずに追撃、跳んで上からの首狙いでまた一撃。ティカが獅子の眉間を正確に打ち抜いて瞬殺。え、ちょっとこの子すごすぎる。


「ガ、ガゥ!」

「逃げる気だね」

「情けはいりませんよ。襲ってきたくせに逃げるなんて、私は許すとでも?」

「奇遇だね。やろうか」


「「はぁぁぁぁぁっ!」」


 逃げる獅子を二人で追って、アスセーナちゃんが足を斬って動きを止める。倒れ込んだところを、私が跳んで容赦のない急所への突き刺しで残り一匹が絶命した。


「……全力だとあっさりだったかな」

「ウフフフ」

「なに、気持ち悪い」

「最後のほう、私達はもってませんでした?」

「え? はもってないけど?」

「はもってました!」

「う、うん。だとしたら何?」

「ウフフ」


 何この子。照れくさそうにモジモジして。相変わらず読めないな。でも共闘も案外、気持ちがいい。息が合った時なんか、ガッツポーズものだね。


「生体反応一つ、ロストしましタ」

「はい?」

「いえ、恐らくですがこの魔物達をけしかけた主だと思われまス。一瞬で消えたので、引き際をわかってる強者デス。追いますカ?」

「生体登録したんだよね?」

「ハイ」

「それならいいよ。逃げたところで正体がわかったようなものだからね。それに今、深追いしている場合じゃない」

「了解しましタ」

「さすがモノネさん……私が言おうとした事を。もう私なんて……」

「そういうのいいから」


 いいって言ってるのにいじけ始めたアスセーナちゃんの手を引っ張って、布団に乗せる。途端に元気になるし、ちゃっかりしてる。

 しかし、ブラッディレオをけしかけた奴か。ランフィルドに出たブラッディレオと無関係と考えるほうが不自然だ。村を狙ったんじゃなくて私達を狙った? それとも他に狙いがあったのかな。


「モノネさん、この件は内密にお願いします」

「うーん、どうしたらいいのやら」


 考えているうちに眠くなってきたから、考えるのをやめた。まずは食事だよね。村のほうから段々といい匂いがしてくるし、まずは腹ごしらえだ。


◆ ティカ 記録 ◆


マスターに 興味を持つ方が 多いデス

それはいいのですが 何でしょう この何ともいえない 感覚

見ていると ハラハラというか モヤモヤというカ

僕も まざりたいというカ


ブラッディレオを放った存在 この人物 この戦闘Lvは一体

ううむ わからなイ

どのようにして ブラッディレオを けしかけたのカ

ランフィルドのブラッディレオといい 恐らくハ


引き続き 記録を 継続

「モノネさん、今さ。手をつかわないでフードをおろしたよね?」

「うん。手を使わなくても何でもできるよ。イルシャちゃんには見せてなかったか」

「まさか手をつかわないで脱いだり?」

「できるよ。着替えが楽すぎてね。はい、スルっと」

「うわっ」

「引かないで」

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