決闘を見届けよう
◆ ランフィルドの隣の街 エイベール ◆
さすがに布団で飛んだまま街へと着陸なんてやったら危ないから、きっちり降りて門番と話す。身分証明をして街へ来た目的を話したら、あっさりと通してくれた。ランフィルドから出た事なかったから知らなかったけど、身分証明できない場合は苦労する事もあるとか。
「ランフィルドほど大きな街ではありませんが、ここにも冒険者ギルドもありますよ」
「隣の街なら流通もさほど変わらないし、食材には期待できそうにないかな……」
「ここの街の料理店に行ってみては?」
「その手があったぁぁぁぁ!」
各々、目標があってよろしい。私はというと、今日の宿をとらなきゃいけない。元々は私の王都行きの旅だし、こういうのは自分でやらないとね。
「なんだ? 布団が浮いてる……」
「あの子なに?」
ランフィルドだとだいぶ慣れ親しんでくれたけど、初見の街だとこの反応はしょうがない。だからといって自重する気はないのでそのままスイスイ移動。
宿で二階の4人部屋をとって荷物を置いて、ドア君には私達以外の人間が来ても開くなと命令。念のため、窓にも同じく命令。万が一、荷物に手をつけられそうになったらそのまま逃げろと命令。これで防犯はバッチリだ。
「今日限りだけど皆、好きなだけ街を散策していいよ」
「モノネさんは冒険者ギルドですか?」
「なんでさ。もうすでに寝たいから寝る」
「私は冒険者ギルドに用があるので後ほどー」
「いってらっしゃい」
アスセーナちゃんが出て行った後、本当に疲れが出る。たまには宿のベッドもいいかな。ちょっと眠ろう。
「……てめぇ、ろくな活躍も見せてねえんだからよ」
「そうだ。俺達の中で一番戦闘Lvも低いし、報酬はそれが妥当だろ」
宿の外が騒がしい。でも私は寝る決意をした。
「待ってくれよ。元々報酬は分割の約束だろう?」
「だからぁ! 魔物を倒したのは俺達でお前はほとんど動いてねえだろ!」
「動いた! オレの一撃がなければ、あいつはまだ攻撃してきた!」
討伐依頼の帰りかな。こういう揉め事が起こるのはしょうがない。だけど本当に別の場所でやってほしい。
「わからん奴だな。おい、もうこんなの放っておいてギルドに行こうぜ」
「あぁ」
「ま、待てよ!」
「その通り! 待つがよい!」
お、仲裁に入る人がいたか。同じ冒険者かな。出来ればここで止めてほしい。
「な、なんだお前は! き、騎士か?!」
「私の名はグッディナイト! 事情はどうあれ、共に戦い抜いたのであれば報酬分割は妥当! 何より約束は守るのは人として当然である!」
「うるせぇ! わけのわからん奴に説教されたくねえや!」
「納得いかないのであれば、私が受け持とう! 諸君らのどちらかと私で決闘し、そちらが勝てば報酬は好きにすればいい!」
「な、何だと。マジで言ってるのか?」
「ただし私が勝てば、報酬は分割だ! どうだ?」
「ふざけるんじゃねえ!」
なんか面白い事になってるぞ。寝ようと思っても、眠気が吹っ飛んでる。だけど私は寝るんだ。寝るんだ。
「なぁ、あんた。俺を庇ってくれるのは嬉しいけどさ……」
「決闘は絶対であり、神聖だ。何も遠慮する必要はない。さぁ、二人よ。どうだ?」
「めんどくせぇ。こんなの無視だ、行こうぜ」
「待て! それでも冒険者か!」
もうダメだ。寝れるわけがなかった。ベッドから布団君に飛び乗って、窓から飛び出す。二人の冒険者が歩き出した先に勢いよく降りてゆく手を塞いだ。
「うわぁぁぁ! な、なんだ! びびらせやがって! 何なんだよッ!」
「ごめんね。でも約束を破るのはよくないんじゃないかな」
「何だよ、お前は! 変な恰好しやがって!」
「こういう者です。その騎士っぽい人の決闘を断るなら、ここは通さない」
「せ、戦闘Lv26だとぉ?!」
魔晶板の情報を見せると、二人はぎょっとした。
「強行突破は許さない」
「クソッ……こんなのが26とか世の中間違ってるだろ……」
「どうする?」
布団で左右に移動しながら、絶対に通さない意思を見せつける。二人の男は私とあの騎士っぽい人を見比べて、恨みがましくまた私を見た。
「26の相手をするくらいなら、あの変な野郎と戦ってやる」
「だそうです。グッディナイトさん」
「そうか! ならば話は早い! 早速、冒険者ギルドにいって決闘の申請を行おう!」
グッディナイトの猛烈ダッシュは、あの重そうな鎧の存在を微塵も感じさせなかった。あれ絶対強いぞ。選択を間違ったと気づいた二人がうんざりしている。
「何なんだよ、あいつ……。あんな変なのに負けてたまるかよ」
一番困惑しているのは、追いつめられていた人だ。もう報酬はいいから帰りたいみたいな顔をしていた。
◆ エイベール冒険者ギルド 決闘場 ◆
「モノネさん! グッディナイトじゃないですか! 私、ファンなんですよ!」
「やっぱり有名人なんだ」
いざこざあるところに現れ、その解決数を見込まれてアイアンの称号を貰った優秀な冒険者。討伐依頼を受けてないから、実際の戦闘Lvは不明。ほとんどの活動内容を仲裁や戦闘以外の依頼に費やす。一部では正義の味方的な扱いで、ファンも多い。
なるほど、これは確かに異色だ。そんな異色騎士と対峙しているのはタックという冒険者で、オーソドックスに剣を持って構えている。
「戦う前に一つ教えてやる。俺の戦闘Lvは13だ。これでも、この辺りじゃそこそこ名が通ってるんでね」
「そうか。それはいい事だ」
「殺しがないからって安心してると怪我するぞ」
「改めて名乗ろう! 私の名はグッディナイト! 我が名において正義を誓い、カルスの名誉を守ろう!」
グッディナイトがこの試合に勝てばカルスさんにも報酬が分割して渡される。
そのカルスさんはやっぱり不安そうだ。
「では始めッ!」
こっちのギルド支部長は普通のおじさんだ。船長に比べたらインパクトが足りない支部長が試合を開始させる。
「流し斬りッ!」
「フゥンッ!」
グッディナイトのスピアが、体を回転させて斬り込んできたタックの剣を受ける。ピタリと剣を止められたタックは半身を逸らして、グッディナイトの側面に回り込もうとした。だけどその最中にグッディナイトの重い体当たりによって失敗。
「ぐあぁ! し、しまった……!」
「隙ありぃ!」
そのままグッディナイトが踏み込み、スピアを振ってタックの剣に当てる。勢いでタックが剣を手放したところで試合は終わった。剣が試合場に音を立てて転がったのを、支部長が横目で確認する。
「……勝負あり! 勝者! グッディナイト!」
「よしッ!」
「ク、クソ! ふざけるな! 今のは油断しただけだ!」
「私の勝ちだ。約束は守ってもらおう。それに決闘に関する規約を知らんわけではあるまい」
「認めるかよ! 炎系下位魔法ッ!」
ちょ、観戦していたタックの仲間が魔法を放った。魔術師だったんだ。でもシーラさんの魔法に比べると小粒だ。その小さな火球をグッディナイトは避ける素振りも見せずに直撃。爆発音の後に煙が立ち昇ったものの、グッディナイトの鎧にすら何の汚れもなかった。
「き、効いてない?!」
「……私に誠意なき行為など無駄だ」
「化け物かよぉ……」
「そちらの。今の攻撃は問題だな?」
大人しいと思ってた支部長が魔法を放った男をひと睨みで萎縮させる。船長とは違う年季の入った威圧感だ。
「支部長。今のは過剰ではありましたが、彼は蚊を始末したのです」
「蚊、だと?」
「虫とて危険な病の菌を保有している事もある故、警戒したのでしょう。ましてや大切な相棒の付近、魔法でなければ間に合いません」
「そ、そうなのかね?」
かなり苦しい擁護だ。なんでそこまでしてあいつを庇うのかわからない。
「……そうです」
「そうか。ならば、報酬の件をこの目で見届ける」
「はい……」
もう実力でも度量でも負けて何か言えるはずもない。二人は項垂れたまま、この後で約束を守った。
その様子を見守っていたグッディナイトは、次は私のほうへと視線を向けてくる。
◆ ティカ 記録 ◆
正義の味方 グッディナイト 他人のために 精力的に活動できる 精神
一体 彼は 何者なのカ
不覚にも マスターを 差し置いて かっこいいとさえ 思ってしまっタ
今は 己の未熟さを 正したイ
マスターのほうが かっこいい マスターが魅力的
マスターは 美人 マスターは かわいイ
マスターがいなかったら グッディナイトは 決闘を断られていタ
よシ
引き続き 記録を 継続
「アイアンの称号って、ケンカの仲裁をしまくるだけで貰えるの?」
「普通、そんな事をする冒険者はいませんからね。それに、あの人の場合は解決数が尋常じゃないんですよ」
「なるほど、普通やらない事をやるのも次のステップに必要なものなんだね」
「モノネさんも、ぜひ検討してみて下さいね」
「私は怠惰な人間だから、ブロンズだけでおおはしゃぎしてる」




