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王都に向けて出発しよう

◆ 冒険者ギルド ◆


「随分と大所帯になったもんだな」


 フレッドさんがどこか呆れている。確かに当初は、私とアスセーナちゃんとレリィちゃんの予定だったはず。王都ならランフィルドで見ないような食材もあるだろうし、イルシャちゃんに軽い気持ちで声をかけた結果です。つまりメンバーは4人。これはさすがに布団に乗せられない。


「遠出になるが、準備はそれでいいのか?」

「冷魔石入りの冷蔵ボックスに食料を詰め込んだだけ」

「うーん、アスセーナさん。これでいいのか?」

「いいんですよ。王都への道は整備されていますし、途中に小さな村や町もありますから」


「うむ。道中はそこまで険しくはない。なぁ、弟よ」


 カンカン兄弟が王都から来たというし、多少の情報は得ている。さすがに街道なだけあって、危険な魔物はほとんど出ないらしい。だからこそギンビラ盗賊団みたいなのは予想外だったんだろうな。


「王都にはランフィルドよりも大きい市場があるのよ。国中や外国から集まった食材が目白押し!」

「いろんなお薬が作れるかも。でも、まずはモノネおねーちゃんの授与式だよね」

「そうそう、それがメイン。観光はその後ね」

「そうだったよね。ごめーん」


 浮かれるのはわかるけど、実は危険がいっぱいなんだ。ザイード一派にガムブルア、特に後者については話しておかないとダメかも。この子達が不用意に私達がランフィルド出身だと話しても困る。


「では船長、行ってきます」

「気をつけてな」

「あの、私達に何か不穏な事が起こるかわかります?」

「お前は明日死ぬと言われても動じないか?」

「船長に言われると動悸が激しくなりますね」

「そういう事だ。それに私のアビリティも絶対ではないから完全に信用できるものではない」

「そうなんですか。ん?」


 この言い方だと、何か起こるとも取れる。やばい、聞くんじゃなかった。船長も人が悪すぎる。私達、死ぬんですか。


「まずは隣の街を目指しましょう。ランフィルドほど大きい街ではありませんが、最低限の施設はあります」

「宿もとってきちんと休まないとね。だからこの布団ばかり当てにしないでね、アスセーナちゃん」

「えー?」


 えー、じゃない。隙あらば布団に寝そべろうとする。この布団、最大何人まで乗れるか実験してみよう。地味に大きさを変えられるようになってるから。


◆ ランフィルド北 街道 ◆


「うん、最大4人で寝れるね」

「じゃあ、布団に乗ったまま空を飛んで王都一直線じゃない? やったー!」

「そうなんだけど、一日じゃ街まで着かないから途中で野営するハメになるらしいよ」


 布団で寝ながら移動する手もあるし、私もやってる。だけど、あれはランフィルドという知ってる目的地があるから出来る。私は王都に行った事ないし具体的な場所もわからない。布団君も同じだから、今回ばかりは楽できない。


「布団、大きいね。4人でも狭くないわ」

「大きさまで変わってくれてありがたいよ」

「モノネさんのこの力って、生まれた時から備わっていたの?」

「物心ついた時から違和感なく行使してた」

「へー、羨ましい……」

「でも私からすればイルシャちゃんみたいに料理が出来たり、レリィちゃんみたいに薬の知識モリモリのほうがすごいよ」

「私は?」

「アスセーナちゃんもすごい」

「えっへん!」


 適当に褒めただけなのにご満悦。こっちは迷わないように、地上の街道を見ながら進んでいるというのに呑気だ。ひとまずは日が落ちてきたところで野営を考えよう。


「このスピードなので予定よりも早く着きそうです。今日はあそこで野営しましょう」


 アスセーナちゃんの指示した場所に布団ごと降りる。他にも野営した人がいるのか、所々にその痕跡が残ってた。


◆ ランフィルド北 野営地 ◆


 今は誰もいない。早速、皆が手早く夕食の準備に取りかかった。冷蔵庫から取り出した食材は芋、ニンジン、豚肉。なるほど、この布陣はシチューですな。


「さすがイルシャちゃん、初めてとは思えないほど野営力高いね」

「野営力って……」

「スパイス出来たよ。疲労回復と体力もりもりの効果があるから一振りしてね」

「ありがとう、レリィちゃん」


 さて、残る問題は寝る場所だ。布団君だけで一晩明かすのはさすがに怖い。ここは持ってきた簡易テントを建てましょう。ほいほいほいっと。私にかかれば人手がなくても勝手に組み立てが終わる。面倒な片付けも一瞬だ。


「ニンジンを……斬るっ!」

「ジャガイモの皮をすっぱ抜く!」

「豚肉を投入して炒めぇ……!」


 仲がよろしい事で、アスセーナちゃんとイルシャちゃんのコンビネーションが完璧だ。どういうわけか、セリフのテンポもいい。みるみるとおいしそうな匂いが漂う。


「魔物が寄ってきそう」

「魔物避けのアイテムは高いですからねぇ。しかも確実に効果があるとは限らないのが厳しいですね」

「アスセーナちゃんは普段、どうしてるの?」

「殺気と気配を読んですぐ起きられるように訓練しました」

「すごいや」

「えっへん!」


「この辺りに出る魔物が嫌うお香を焚いたよ」


 えっへんしたところで、なんと間の悪い。まぁここにいる凡人達に、殺気と気配を読むとか出来るわけないから助かった。アスセーナちゃんが、ちょっとぷるぷるして悔しそうなのがまた面白い。


「わ、私は殺気と気配を読んでますから……」

「そんな意地を張らなくても」


「うぉっし! 味付け完璧すぎて店のメニューにしたいシチューが出来た!」


 鍋を囲んでの皆と食事。夜が来て虫の鳴き声しか聴こえない中、孤独なようでいてワクワクする。そういえば小説にも冒険者達の野営シーンがあったっけ。参考にしよう。


「明日のお昼くらいには次の街に着きそうです。普通はもっとかかるのに、さすがモノネさんのお布団ですよ」

「歩いて移動とか、考えただけでゾッとする。ていうか、このシチューおいしすぎる」

「味が濃厚で、栄養価も高いですね。何より全員がどれだけ食べるかを考慮した上での量です。誰がおかわりするかもよく理解していらっしゃいます。おかわり」

「アスセーナさんなら軽く4、5杯は食べると思ったの」


 食祭の合間に一緒に食事をとっただけなのに、そこまで把握するんだ。イルシャちゃんって、実はとてつもない実力の持ち主なんじゃ。ストルフなんか問題にならない逸材かも。


「まさか野営でこんなにおいしいものが食べられるなんてねぇ。イルシャちゃんを連れてきてよかったよ」

「どういたしまして。王都でいろんな食材を手に入れたら、もっとおいしいものが作れるかも」

「炎龍で出すの? 無料食べ放題の特権をフル活用して食べまくるね」

「新作が出来たら味見をお願いしようかな」

「っしゃぁ!」


 我ながら現金だなとは思う。食べるものの幅が広がるのはいいことです。


「遠くから、かすかに魔物の唸り声みたいなのが聴こえるね。レリィちゃん、信用してるよ」

「戦闘Lv5くらいの魔物ばかりだから、このお香で平気だよ」

「そのお香、売れるんじゃない?」

「たくさん作れたら売れるかも?」


 売って大儲けなんて考えてないけど、あのお香でここら辺の通行が楽になるなら皆にも活用してもらうべきだ。お香、薬、スパイスと天才っぷりをいかんなく発揮してるな。

 こんな才ある子達だからじゃないけど、連れていくからには私も責任を持って守る。その為にイルシャちゃんには普段とは違う特別製の服を着せているし、レリィちゃんも同じだ。いざという時がこないのが一番いいんだけど。


「レリィちゃん、私は気にしなくてもいいですよ。殺気と気配で起きますから」

「あ、うん。おやすみ」

「起きますからね?」

「うんうん」

「アスセーナちゃん、悔しいからってそんなに対抗しなくても」

「起きますもん!」


 テントから顔だけ出してまで主張しなくても。なんでここまで張り合うのか。エリートだから今までそんな相手がいなかったからかな。どこか楽しそうにも見える。私なんかが物珍しく見えるくらいだし、よっぽど一般とはかけ離れた人生をおくってきたんだろうな。


「ごちそうさま」

「後片付けはやっておくから、レリィちゃんはもう寝なさい。水魔石でササーっと洗浄終わり」

「それだけなら完全に二等魔石管理士ですよ、モノネさん」

「アスセーナちゃんも、いつまでも顔出してないでおやすみ」

「アスセーナさん、どけて」


 レリィちゃんと二人でゴソゴソとテントの中に入っていく。

イルシャちゃんが余った食材を片付けて、食器類は私が綺麗にまとめて道具袋に入れた。


「じゃ、私も寝るね」

「どうぞ、おやすみ」


 イルシャちゃんもテントに入り、私とティカだけが夜の野営地でぼんやりとして空を見上げている。


「いいお友達に巡り合えましたネ」

「私にはもったいない」

「マスターはそのように卑下しなければいけない方ではありませン」

「本気でいってるわけじゃないから安心して」

「そうですカ。それはすみませン」


 レリィちゃんのお香が強く香る中、確かな幸せを噛みしめる。もったいないよ。ついこの前までを考えればね。


◆ ティカ 記録 ◆


空を飛べるおかげで 一般的な旅とは かけ離れていますが これもまた 一興

料理人のイルシャさん 薬師レリィさん シルバーの称号を持つアスセーナさん

思えば なかなかの メンバー

料理も完璧 緊急時の怪我や病気にも 対応できル

足りないところはアスセーナさん

このメンバーならば 大抵のことならば 乗り越えられるはズ

加えて かゆいところに 手がとどく マスター


んん しっくりこなイ


引き続き 記録を 継続

「水魔石とかってさ、これどういう原理で水が出てきてるんだろう」

「魔力です」

「へぇ、魔力がどう作用してるのかな」

「魔力が働きかけているんです」

「どう働きかけているのかな」

(マスターにわかりやすく説明する努力を怠らないアスセーナさん、さすがデス)

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