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ハルピュイア運送にいこう

◆ モノネの部屋 ◆


 ベッドの上でゴロゴロ、午前中はずっとコレだった。なんたって今日、届くはずの新刊を待ち望んでいたから他の事なんて手につかない。


「遅い」


時間に正確なハルピュイア運送に限って、こんな時間まで配達してこないなんて。あまりに待ちきれなくてティカとカードゲームをしたら連敗した。その後、接待プレイされたけど、もうやめた。


「すみませン。もう少し配慮を利かせたプレイを心掛けるべきでしタ」

「もういいって。あ、魔晶板(マナタブ)に何か表示されたな」


============

お知らせ

空路の途中に怪鳥が巣作りを始めた為、発送の遅れが生じています。

総力を挙げて対処に当たっていますが、討伐の目途は立っていません。

ご迷惑をおかけしてごめんなさい。

                 ハルピュイア運送 広報課

============


「ごめんなさいって、はーたん。それはしょうがないよ」

「今度は怪鳥ですカ。物騒ですネ」


 これは多分、討伐依頼が出ているな。でもその前にハルピュイア運送のランフィルド支部に行こう。私の新刊発送の遅れが知りたい。それにもしもはーたんに何かあったらと思うと。


◆ ハルピュイア運送 ランフィルド支部 ◆


「ごめんなさいね。今調べるから」


 はーたんこと、ハーピィ族は腕が翼で下半身が鳥のそれという種族だ。大昔は魔物として分類されて差別されてたらしいけど、今は立派に人間社会に溶け込んでいる。そんな彼女達が白い羽をまき散らしながらも、発送の遅れを把握するのに手間取っていた。

 あの羽腕でよく細かい作業が出来るな。羽をつけペンみたいにして書類作業もしているから器用だ。


「モノネさん宛ての荷物の発送担当をしている子は、まだ隣町から出ていないみたい」

「えー!? それじゃいつになるかわからない?」

「そうだね。本当にごめんなさい」

「いやいや、はーたんのせいじゃないから」

「今、どの程度で配達できるようになるか調べるから待っててね」


 お客さんだからといって敬語を使わないところがいい。羽を広げて広い室内を低空飛行していった。抜け羽が所々に落ちていて掃除が大変そう。


「大変そうですネ。あちらでも苦情処理に追われていまス」

「これはさすがにかわいそうだな。でも怪鳥かー……」


「お待たせ。討伐の目途が立たないうちは、早くても2週間後ね」


 戻ってきたはーたんに絶望的な事実を告げられた。空路を大幅に迂回すると、そうなるらしい。おのれ、怪鳥め。


「討伐依頼を出したけど、いつになるやら……あ、そうだ。うちからも二名、討伐に向かわせる予定なの」

「え? はーたん自らが戦う感じ?」

「身を守る為に戦う時もあるからね」

「これじゃいよいよ、待っているわけにはいかないなー」

「まさかあなた、冒険者?」

「見えませんよね、そうですよね」


 人間もはーたんも初見で私を冒険者と見抜く人はいない。しかも強そうに見えないから余計に心配される。ほら、視線が痛い。


「あの子達も腕が立つから、ね?」


 ほら、遠回しに無理するなって言われた。


「今、聴こえたわね? 私達を噂する声が」

「聴こえました、先輩!」


「ひゃっ!」


 左右からスィーって現れてビックリした。二人のハーピィが顔を合わせてなんか言ってる。赤いロングヘアーに翼の色も赤。青いポニーテールに翼の色も青。流れからして、この子達が討伐に向かうはーたんかな。


「勤続4年目のヒヨク!」

「今年度入社のコルリ!」

「討伐課の力を見せてやるわ!」

「頼もしいですね」

「リ、リアクション薄い……コルリ! もっと私達のすごさをアピールしなさい!」

「すごい先輩がアピールしたほうがより伝わるかと!」

「そっかぁ!」

「わかりました。立ち会うだけでその実力を肌で感じますよ」

「ほー! 見どころがある!」


 まずは延々と続きそうなやり取りをストップさせる。強そうな人がいいそうなセリフをチョイスしただけでも、この二人は満足してニヤけた。


「お二人は怪鳥討伐に?」

「もちろんよ。新人研修も兼ねて、今回はコルリメインで戦ってもらうの」

「えっ」

「えっ、とか言ってますけど」

「コルリにはまず冒険者登録をしてもらうわ」

「そこからなんですか」


 待て、待て待て待て。新人研修で怪鳥討伐っておかしい。空路変更を余儀なくさせる魔物相手に、何をおっしゃっているのか。よくよく考えたら4年目ってすごいベテランってわけでもないし、絶対これはやばい。引きこもりの分際だけど、これは突っ込ませてもらう。


「ヒヨクさん、実は私も怪鳥討伐に行くんだよね」

「ほー! それは研修熱心ね!」

「いや研修とかじゃなくて私、冒険者なんで」

「そうなの!? ウソォ!」


 両方の翼を口に当てて、本当に驚いてる。むしろこの風体で冒険者じゃなかったら、尚更何だろうと思う。4年目先輩のフォローも兼ねて、ひとまず冒険者ギルドに同行しよう。


◆ 冒険者ギルド ◆


「あの、登録料金が足りません……」

「マジでかぁ!」


 大丈夫ですか、4年目先輩。呆然となるのはわかるけど、この後どうするんですか。


「……こういう事態も想定しておくのよ」

「はい、先輩!」

「で、そこからどうするの」

「冒険者というのは時として命を預け合う事もあるの。つまりは助け合い、後はわかるわね?」

「面倒なんで私が立て替えますね。後でハルピュイア運送に請求するんでよろしく」

「という風に乗り切るのよ」

「さすが先輩! 勉強になります!」


 だんだん腹立ってきたから、とっとと依頼を受けよう。今のところ、誰も引き受けてないな。さすがに相手が相手だから、慎重にもなるか。当然のように私のところに直接、依頼されてるし問題ないね。


・苛烈なる空長討伐 推定戦闘Lv26


「あぁ、やっと引き受けてくれる方が! モノネさん、信じてました!」

「これはネームドモンスターな感じですか」

「バッチリとネームドですね。そちらの方々は?」

「ハルピュイア運送のヒヨクよ。討伐課は全員、冒険者登録しないといけない決まりなの」

「コ、コルリです! 先月入社したばかりですが、がんばります!」

「うーん、ヒヨクさん。さすがにこの子にネームドモンスターはまだ早いのでは……」

「討伐課の戦力底上げに一丸となって取り組んでるのよ。26程度に尻込みしてちゃダメなの」


 さらっと26程度って言っちゃった。ハーピィ族はやっぱり強い。だからこそ運送なんてやってのける。空も飛べて強いなら、この上ない適任だ。


「平気ですよ! こう見えても私、村で一番強かったんです!」

「私が見込んだ後輩だからね!」

「私を見込むとは、さすが先輩!」


 なんか他人事じゃないやり取りだ。はーたん達がそんなに強いなら、私も安心できる。後は入念に情報収集をすれば完璧だ。空中戦になるならマササビの件もある。戦闘Lvに気を取られていると、足元をすくわれるからね。ん、待てよ。何も無理に空中戦を挑まなくてもいいんじゃ。


「まずは鳥公の頭を足の爪で掴んで捻りちぎればいいのよ」

「なるほど! それなら一撃必殺ですね! 先輩、すごいです!」


 大丈夫なの、討伐課。人選ミスじゃないの、これ。4年目の研修をやり直したほうがいいんじゃないの。

いやいや、あのアスセーナちゃんだって行動と言動だけなら負けてない。上っ面だけで判断するのはよくない。

 そうだ、まずは戦闘Lvだ。先輩の戦闘Lvを、あれ。カバンから冒険者カードが見えてる。物がたくさん入ってるせいだ。今にも落ちそう。どれどれ。


名前:ヒヨク

性別:女

年齢:内緒

クラス:ハーピィ

称号:-

戦闘Lv:4

コメント:精一杯がんばります!


「さーて、準備を済ませたら向かいましょうか!」


 いろいろ聞きたい事があるので待ちなさい。


◆ ティカ 記録 ◆


ハーピィ族 かつては 人間の男性を 拉致しては 子どもを

作っていたという 噂がありましたが 真偽のほどは不明

何しろ 全員が 女性なので そんな噂が囁かれても 不思議ではありませン

戦闘能力は高めで 空中こそが 彼女達の主戦場

魔法を扱える者もいるので 彼女らがその気になれば 人間を脅かす事も出来まス

ですが そんな素振りはなく 人間と 共存していル

なんでしょウ

当たり前の事なのに 妙に 感動している僕が いル

よくわかりませン


引き続き 記録を 継続

「今更だけど冒険者ってさ、副業でやってる人もいるんだね」

「ハルピュイア運送の討伐課のように、登録して仕事をすれば依頼もこなせて一石二鳥ですからネ」

「ストルフも本職は料理人だし、片手間に冒険者稼業できるってすごいよね」

「そうですネ。世の中には能力が高い方々がたくさんおられまス」

「能力があっても、あえてやろうとするところがすごい」

「あぁ、そういうことですカ……」

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