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仲よくしよう

◆ ランフィルド病院 病室 ◆


「兄! 兄は生きてるか!」

「病室ではお静かに。ちゃんと生きています」


 血相を変えて飛び込んできたカンカン弟ことイッカンに、病院の人にかわって私が言ってあげた。フレッドさんとシーラさんも一緒だ。私が帰ってきてから半日遅れで到着して、今はもう夜遅い。もうすぐ面会時間も終わる。


「弟よ、心配をかけたな。モノネのおかげで助かった」

「兄……よかった……よかったぁ」

「弟よ、己の実力を過信した結果がこれだ。これからは身の振り方を考えよう」

「兄よ、そうだな。オレもモノネ達にはどれだけ感謝してもし足りない」


 きちんと反省するし、感謝もする。私を囮にしようとして失敗したあの二人組とは大違いだ。慢心が強すぎただけで、実績がある冒険者だから根は真面目かもしれない。


「怪我が治ったら、お前らはどうするんだ? そもそもなんでランフィルドに来た?」

「あ、あぁ。しばらくはこの街に滞在するつもりだ」

「そうか。ザイードに何か言われたとか?」

「い、いや」


 フレッドさんの疑問に、カンカン兄ことアッカンが口ごもる。優秀なら仕事がないわけでもなさそうだし、まさかバカにする為だけに来たわけじゃないだろうし。


「兄、本当の事を言っちまおうぜ。こいつらなら笑わないはずだ」

「そうだな……。俺達はザイード一派に追いやられて居場所がなくなったんだ」

「そうか、やっぱりな。ザイードのやつ、まだそんな下らない事を考えてるのか」

「フレッドさん、ザイードって誰なの?」

「王都の冒険者ギルドで活動する冒険者だ。素行不良のせいで称号こそないが、実力は多分俺より上だ」

「目をつけた冒険者を囲ってお山の大将をやってる幼稚な男よ。モノネちゃんも、王都に行くことがあったら絶対関わっちゃダメ」


 よくわからないけど派閥みたいなのがあって、ザイードはそこのボスなわけかな。カンカン兄弟はそのザイード率いる連中に気にられなかったわけだ。


「そんなもん、冒険者の資格はく奪でしょ」

「ザイード自体は優秀な冒険者だから、ギルドもきつく取り締まれないんだろう。なんだか妙にカリスマのある奴でなぁ。慕う奴らが多いから下手に歯向かうと数の暴力でリンチされる」

「一派を物ともしない冒険者は大体、普通の依頼をほとんど引き受けないからギルドにもあまり出入りしないの。ブロンズやアイアンクラス以上は特にね」

「きちんとした目的を持って集団としてまとまってるの?」

「さぁな。ただやり口が強引すぎて問題になってるのは事実だ」


 冒険者がどうとか語れるだけの経験も志もないけど、もっと柔らかくならないものかな。好きな時に依頼を引き受けて報酬を貰って夜は食べ物をつついて仲間内で語らう。小説の冒険者はそんな風に描かれていたけど、現実は割とひどい。


「仲間だの絆だの上っ面の言葉で群れている連中なんぞ信用できない。だからこそ、お前らの行動に誠意を感じた」

「兄の言う通りだ。一派に入らなかった俺達への嫌がらせときたらな……」

「その口から出た言葉だとしても、あんた達が冒険者ギルドの皆に暴言を浴びせたのは事実だからね」

「それは本当に悪かった……。怪我が治ったらきちんと謝罪させてほしい」


 なんたら一派とかいうのはどうでもいいし関わる気もないけど、この二人も従わざるを得なかったのか。ますます王都に行きたくなくなった。ていうか王様のお膝元なんだから、きっちり取り締まってほしい。


◆ 冒険者ギルド ◆


「先日は失礼な発言をしてすまなかった!」

「ブラッディレオには手も足もでなかった! オレ達こそ未熟だった! 悪かった!」


 カンカン兄弟が全員に向かって頭を下げた。いきなり謝罪されても、ポカーンだよね。誰も何も言えない。今はいない人もいるから、溝を埋めるには時間がかかるかも。


「オレも、そこにいるモノネを見下した事がある。覚悟もないのに冒険者をやるなってな」

「本当に悪いと思ってるならいいよ。これからは仲良くしようぜ」

「い、いいのか? 本当にいいのか?!」


 誰かと思ったら、登録受付の時に何か言ってた人か。本気でやっているからこそ、半端な気持ちが許せないっていうのはこの人達もカンカン兄弟も同じだった。それで生計を立てている以上はプロだし、私みたいなのはさぞかし邪魔だっただろうな。


「王都の冒険者ギルドとは大違いだな……」

「どんだけ雰囲気悪いのさ。この前もいったけど、命を預け合うんだからケンカしても得なんて無いのに」

「称号を獲得しようと躍起になってる奴もいる。結局、自分の事しか考えてないのかもしれん」

「称号ねぇ。そんなにほしいものかな」

「お前はそんなに強いのに、そういった野心はないのか?」

「あるならそれに越した事はないけど、なくても生きていけるし」


 皆、誰かに認められたり自分というものを証明したいものなんだな。皮肉じゃなくて立派だと思う。私みたいな人間は引きこもり環境がなかったら、多分野たれ死んでる。だけどそんな、もしもの人生なんて深く考えるだけ無駄だ。


「まぁ仲良くやってね。それにここにはすごい冒険者がいるからさ」

「お前やフレッド達以外にも? まさか称号持ちか?」


「ごめんくださーい。あ、モノネさん」


 ほら、入ってくるなり何より私に反応したシルバー称号ちゃんが来た。なんかタイミングいいな。


「モノネさん、また一つ実績を積んだみたいですね」

「毎回思うけどなんで私の動向を把握してるの」

「そりゃしてますよ。開示されているモノネさんの情報だって毎日チェックしてますから」

「さすがに怖いからやめて」


「こ、この子は?」


 さすがに見ただけじゃわからないか。姿形まで情報が出回ってるわけないよね。ん、それじゃいくら有名人でも目の前に現れても気づかない可能性はあるか。あの武器屋に訪れて達人剣を売った人が有名な人でも、店主が気づかない可能性はある。


「アスセーナです。お二人はこの街は初めてですか?」

「は、初めてです! あの、あなたは最年少でシルバーの称号を、か、獲得したと言われている……!」

「そうですね。そのアスセーナですね」

「はははは、はじ、はじめめまして! カ、カンカンカン兄弟です!」

「兄弟で冒険者ですか、仲がよろしくて素晴らしいですね」


 カンが一つ多いぞ。なんで手とか震えて呼吸も安定してないの。弟なんて顔を真っ赤にしてハヒハヒ言ってる。私の時とは偉い違いだ。


「この街は素敵ですね! ぼ、冒険者達も素晴らしい!」

「そうでしょう? 見る目のある方々で安心しました。たまにいるんですよね、見下しちゃう方が」

「そうなんですか! けしからん方ですな!」

「見たところ、あなた達は拳での戦闘が得意なのですね。私、体術はそこまで得意ではないので尊敬しますわ」

「しょんけいいい?!」


 得意ではないとか、いい加減にしなさい。丸腰でもその二人に完勝しそうなくせに。兄弟二人して直立姿勢ですごいな。モテる女子のパワーを初めて見た。羨ましいというより、単純にこれもスキルなのかなと思う。


「いやー! それほどでもないんだけどな、弟よ!」

「それほどでもないな、兄よ! そうだ、今度オレ達の体術を見せてあげますよ!」

「まぁ、本当ですか? 今後の参考にさせてもらいますね」

「ぜひ!」


「あ、モノネさんもぜひどうです?」


 ご遠慮します。ウサギファイターはこれより、熟睡のメニューをこなすので。


◆ ティカ 記録 ◆


きちんと 謝罪をさせるとは さすがマスター

きちんと それを 受け入れるとは さすが兄弟

強くて優秀な冒険者がいれば それだけ 生存率や 効率も上がるはズ

意地を張らずに 仲よくすれば よいのデス

広いのかもしれませんが しょせんは冒険者という カテゴリ内での話

そんな中で 上だの下だの 不毛デス

プライドを 命よりも 優先させるのは 愚か者でしかなイ


ザイード 予感ですが なんとなく マスターの 障害になりそうデス

ブロンズの称号を 得るとすれば 王都行きは 避けて通れなイ

まったく 次から次へと 愚か者が多いと いうことカ


引き続き 記録を 継続


「素手で戦う冒険者なんているんだね」

「武器を持たなくてもいいですし、この利点は大きいですね。突き詰めれば拳だけで戦えるならそのほうがいいです」

「でも武器がないと苦労する場面も多いんじゃ?」

「それはそうですね。ですが、それすらも拳で乗り越えている冒険者もいましてね」

「武器なしでそんな魔物と渡り合うとか、完全に人間じゃないよ」

「上にいくほど私達の常識では計れない方々が多いですよ」

「まぁアスセーナちゃんもその一人だよね」

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