バカにしてきた奴らを見返そう
◆ 冒険者ギルド 1階 ◆
「皆さん、よく聞いて下さい。兼ねてから目撃情報があったブラッディレオに動きがありました」
楽に稼げて、ついでに皆からちやほやされるような依頼を漁っていた時だった。ルーカさんが神妙な顔つきでギルド内にいる冒険者にそう呼びかけてる。私は私ですごい楽そうな依頼を見つけるので忙しい。
「ついにこの時が来たか。シーラ、もちろんやるよな」
「当たり前よ。最近、歯ごたえがなさ過ぎて退屈だったもの」
「他の皆はどうだ?」
これは楽そうだけど報酬が今一、ダメ。清掃依頼か。報酬はそこそこだけど、埃を指ですくって「あら、何かしらこれは?」とか言いそうなおばさんがいたら嫌だからダメ。掃除の目安って人によって変わるんだよね。
「ブラッディレオはなぁ……俺、戦闘Lv7だし」
「俺も13だから、多分相手にもならんだろう」
「オレは結婚式の日程を決めるので忙しくてな……」
そりゃ率先してやりたがる人なんていない。戦闘Lvなんて明確な基準があるから、余計に怖気づく。無駄に死ぬよりはいいんだろうけど、皆が消極的になっちゃうのもデメリットだね。ベルドナさん、ニーナさんとのご結婚おめでとうございます。冒険者は続けるんですか。
「無理強いは出来ないな。よし、それじゃそこのウサギさん」
「これはちょっと無理そう。これも面倒、なかなかいい依頼がない。あぁ忙しい」
「ブラッディレオ討伐といういい依頼があるぞ」
「あぁー、忙しすぎる」
「あのなぁ」
ここにウサギなんていない。ウサギにライオンの相手なんてさせないで。どうせ返り血を浴びて真っ赤に染まった事から名づけられたんでしょ、ブラッディレオって。
「確かに獲物の返り血を浴びて全身が赤く染まったと言われるほどの魔物だけどなぁ。お前とならやれると思うぞ」
「当たってるじゃないですかやだー」
「当たってる?」
「おやおやぁ? どうやらここには冒険者はいないみたいだなぁ弟よ」
「無茶言うなよ、兄よ。戦闘Lvが20にすら満たないんじゃ弱腰にもならぁ」
長身の半裸男とチビの男が冒険者ギルドの入口でわざとらしく見渡している。見ない顔だ。他の街からやってきたのかな。
「おいおい、それはつまり弟よ。何も冒険していない事になるんだが?」
「言うなよ、兄よ。冒険者じゃなくても冒険者気分になりたい人間だっているだろう」
「なるほど、弟よ! 冒険者でなければ納得だな! さすがに冴えてるな、弟よ!」
「あんたら、もしかして王都から来たカンカン兄弟か?」
フレッドさんの口ぶりからして、知名度のある連中かな。すでに第一印象最悪な上に二人組だ。二人組にいい思い出がない。
「おうよ。さすがに有名なもんだな、弟よ」
「オレ達は、あのザイードからも恐れられているからなぁ。兄よ」
「あんたらが協力してくれるならありがたい」
「こいつもしかして、ブロンズの称号を獲ったとかいうフレッドか? 弟よ」
「兄よ、フレッドで間違いねぇ」
何こいつら。目の前にフレッドさんがいて話しかけているのに、自分達だけで通じ合っている。長身のツルピカ頭が兄でチビデブのほうが弟か。見た目のインパクトは確かにある。
「で、ブラッディレオ討伐をやってくれるか?」
「弟よ、もちろんだよな?」
「あぁ、兄よ。ここが冒険者気取りの集まりで助かったぞ」
「そうだな、弟よ。自分よりも弱い魔物ばかり狩り、ご近所散策で冒険したつもりになっているのだからな」
そうか、こいつらケンカ売りにきたんだ。フレッドさんにすら目もくれず、ひたすら自分達で盛り上がってる。わざわざ王都から来たってのも怪しい。まさかこんな事をするために来たのかな。
「ここに冒険者はいないようだ、弟よ。さぁブラッディレオ討伐の依頼だ」
「なぁ、俺達はいいのか?」
「ザイードより弱いくせに称号を貰っただけで勘違いしてる野郎の力なんざぁいらないよなぁ、兄よ」
「なっ……! 俺は別にそういう」
「あなた達、フレッドをバカにするなら相応の結果を出せるのよね?」
一瞬、空気を伝ってピリッとした軽い衝撃がきた気がした。皆も感じたのか、腕や頬をさすってる。シーラさんの魔力かもしれない。怒って感情が制御できなくなって魔力が暴走、みたいな。わからないけど実際、皆があの人に注目している。
「フレッドの女が何か言ってるぞ、弟よ」
「一緒にとか言ってるけどな、兄よ。カップルのいちゃつきを見せつけたいだけだぞ、兄よ」
「納得! だからここには冒険者がいないのか、弟よ!」
「ブラッディレオだか知らないがたかだか戦闘Lv20じゃ物足りないぜ、兄よ」
さすがに笑えないな。確かに私も嫌々いって討伐にいかなかった。自分の実力を考えもしないで死ににいくのはただのバカだし、それを笑うならこいつらこそ冒険者失格だ。
ここの人達には優しくしてもらったし、これ以上は見てられない。ていうかシーラさんの魔力にも動じないってことはこいつら、ある程度は強いんだろうね。
「じゃあ、ここで一番の新参である私がブラッディレオを討伐するからさ。あんた達は黙っててよ」
「なんだこいつ、弟よ。こんなふざけた格好でブラッディレオを討伐するとほざいているぞ、弟よ」
「ふざけた格好で討伐されたら、バカにしているあんた達が一番ふざけてるって事だもんね。怖くてしょうがないのはわかる」
「おい、兄よ。こいつはオレ達兄弟をバカにしているのか、兄よ」
「長年、冒険者をやってそうな口ぶりだけどなんか何もわかってなさそうだなぁ」
「弟よ、俺達の戦闘Lvを見せつけようぜ」
名前:アッカン
性別:男
年齢:25
クラス:拳闘士
称号:-
戦闘Lv:21
コメント:俺達、兄弟に倒せぬ敵はいない。
名前:イッカン
性別:男
年齢:23
クラス:拳闘士
称号:-
戦闘Lv:21
コメント:俺達、兄弟に倒せぬ敵はいない。
コメントが私とどっこいだった。戦闘Lvが高いな、こりゃ調子に乗るわけだ。これだけならフレッドさんや私達と変わらない。王都から来たといっていたし、あっちにはこんな連中がゴロゴロいそう。
「フフフ、弟よ。驚きのあまり、声も出ないようだぞ」
「無理もない、兄よ。我々兄弟、物心がついた時から共にしていたのだ。武器を買う金もない中、己の拳だけを磨き上げ続けた賜物よ」
「こんな低レベルの連中など捨ておこう、弟よ。おい女、その依頼は俺達が引き受ける」
「あの、戦闘Lvは確かにいいのですがあちらの方々と協力したほうが……」
「なんだと、この女ァ! 我ら兄弟を見くびるのかぁ! 弟よ! この田舎ギルドは熟練の冒険者にすら口出しする無能だぞ!」
「まったくだな、兄よ! 女ァ! とっとと受け付けせんかぁ!」
「わかりました」
さすがはルーカさん。あの強面二人に罵声を浴びせられても、まったく動じない。それどころか、じゃあ勝手に死ににいって下さいとすら言ってるようにも見える。レベルだけならあいつらで問題ないんだろうけど、なんだろうな。ちょっと嫌な予感がする。
「弟よ、腰抜け探検隊は我々の朗報をここで待ちわびるハメになったな」
「あぁ、兄よ。Lv20の獅子狩りごときに臆する玉なしどもに本物を見せつけてやろう」
ノシノシと歩いてギルドから出ていく二人をかったるく見守った。強いのは事実だし、これで獅子狩りが成功すればそれでいいんだろうけど。
「フレッドさん、あいつらって有名なの?」
「王都じゃそこそこ目立っていたな。あんな性格だが実力は確かだぞ。二人がかりなら俺でも勝つのは難しいだろうな」
「私が一緒に戦えば勝つわ」
「おっと、そうだな」
さすがにあいつらにバカにされて堪えたのか、皆が沈痛な面持ちだ。確かに戦闘Lvじゃあいつらより低いかも知れないけど、人の役に立つなら何だっていいはず。働いている人達は何かしらそうだ。冒険者の子守りだって立派な仕事だし、何なら結婚してもいい。
「フレッド夫妻、私も討伐に向かうよ」
「お、やる気になってくれたか!」
「単純にあいつらがムカついたからね。冒険者としての矜持みたいなのじゃない」
「それでいいのよ。私も出来るなら、魔法で消し飛ばしてやりたいもの」
「さすがにハッキリ言う」
こうしてフレッド、シーラ、ウサギのパーティが結成された。魔術師のシーラさんの魔法が少し楽しみだったりする。本当は魔法でババーンとやっつけるのがかっこいいなーって思ってた。はい、魔力8なのはかなりショックでした。
◆ ティカ 記録 ◆
ブラッディレオ とうとう 動き出しましたカ
今まで 被害が出なかったのは 幸い
ネームドモンスターではないとはいえ 21の二人が 余裕をもって 相手にできるはずがなイ
弱腰とはいいますが 自然界では 臆病な生き物ほど 生き残るものデス
それだけ 命への危機に 敏感という事
そういう意味で あの二人 真の実力者であれば 討伐も 終えられると思いますが 見物デス
しかし あの二人が口にしていた ザイードという人物 気になりまス
面倒な事に マスターが 巻き込まれなければいいが 一応 警戒の必要があル
引き続き 記録を 継続
「なぁ、その布団に俺達も乗せてくれよ」
「いいけど乗れるかなぁ。フレッドさん、結構ガタイがいいよね」
「座るだけなら問題ないだろう?」
「私が寝る分には問題あるんだよね」
「そ、そうか。すまん」
「いや、乗せてあげるけどさ」




