保育園にいこう
◆ 冒険者ギルド 1階 ◆
「うわぁー! ウサギいるー!」
「ウサギファイター!」
「玩具マンだー!」
せっかく楽で割のいい依頼がないか凝視して探していたのに、なんか騒がしくなった。見ればお子様達が複数人いらっしゃってる。
しかも、こんなところにまでウサギファイターが定着してる驚愕の事実まで知らせてくれた。玩具マンってなんだ、まさかティカの事なの。
「玩具マンー!」
「僕は玩具マンではありませン。ティカという名前がありまス」
「捕まえろー!」
「ちょっ……」
「これこれ、君達。玩具マンもいいけど、節操がなさすぎやしないかい?」
ティカを追いかけて走り回る子ども達を、立派なウサギファイターが注意する。屈強な冒険者達も、さすがにこのピュアな光景を見守らざるを得ない。
「すみません、この子達が迷惑をかけてしまって……」
「あなたは?」
「ランフィルド保育園の者です。子ども達がどうしても冒険者ギルドを見学したいというので来ました」
「なるほど、それは将来有望ですね」
女の人が騒いでいる子ども達を呼び集める。ルーカさんが何も言わない辺り、きっと許可はとってあるんだろうな。子どもじゃなくてもこの空間は非現実的だし、そこにいたのがウサギファイターだ。そりゃテンションも上がるよね。
「有望というか、あなたを見たいと言うものだから……」
「あ、ランフィルド食祭でお子様に人気だった覚えがある」
「冒険者ギルドに、強くてかわいいマスコット冒険者がいると評判ですから私自身も興味はあったんですけどね」
「マスコットですと」
まぁこんな格好をしてる時点で、どう受け取られてもしょうがない。ここは強くてかわいいという好意的な評価を真に受けましょうか。それよりも浮いている布団のほうがインパクト抜群だと思うんだけど、いかがでしょう。
「ハッハッハッ! 名物冒険者に目をつけるとは、さすがですな!」
「ベルドナさん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。あの、もう一名は?」
「もうすぐ来ると思いますよ」
「遅くなりました。本日は張り切っちゃいます」
ベルドナさんは前に子守りの依頼ばかり引き受けて冒険していないと言っていた人か。もう一人はよく知っているエリート冒険者のアスセーナちゃん。なんだなんだ、今日はお仕事というならウサギファイターは引き下がりましょう。
「モノネさん。ちょうどよかったです。今日は保育園の子ども達と戯れる依頼を引き受けてるんですが、どうです?」
「オレも同じさ。ただしこの依頼は常連であるオレに分があるかもなぁ。手慣れたもんよ、ハッハッハッハッ!」
「報酬が分割されて申し訳ないのでお譲りします」
「報酬は分割せずにお支払いしますので、ぜひお願いします。子ども達もよくなついているみたいですし」
こうなると思ったよ。そもそも、すでに子ども達に取り囲まれている状況じゃ断れまい。ではシルバー冒険者と熟練の子守り冒険者にお手本を見せてもらいますか。
◆ ランフィルド保育園 ◆
「アスセーナさん、お歌うまーい!」
「歌の世界も探求するから冒険者なんですよ」
早速、いい加減な事を言ってるけど大丈夫なの。とはいえ、アスセーナちゃんの歌にはまいった。歌唱力も兼ね揃えているとか、どこまで極めたのか。これは間違いなく、おっはっなーなんて聞かせられない。
「次はモノネさん、どうぞ」
「歌ばっかり聞かせてもしょうがないよ。ベルドナさん、どうぞ」
「いい子ども達ですなぁ。こりゃ先生の教育の賜物ですな」
「そんな……皆、素直な子ばかりで助かってるだけですよ」
さぼるな。しかもちょっといい感じになりやがって。まさかとは思うけど、最初からこれが目的だったんじゃ。私は真面目な冒険者だから、お仕事するよ。
「みんなー、ウサギさんとかけっこしたいー?」
「したいー!」
「じゃあ、私を捕まえてみてねー」
「待てー!」
ストルフや魔物じゃあるまいし、ちょろいちょろい。適当に逃げ回るだけでキャーキャーいって追いかけてくる。
「ピョンピョンずるいー!」
「ウサギめー!」
「にげるなー!」
かけっこで逃げるなとは。でも私は真面目な冒険者だから、ちゃんと仕事をこなすよ。少しずつ追いつめられる振りをして、適当なところで捕まろう。
「やったー! つかまった!」
「ぼくも捕まえたぞー!」
「わたしだって!」
「いやいや、皆に協力されちゃさすがに逃げられないなー。すごいよ、君ら。あぁ疲れた……」
「そうだ! みんなでつかまえたんだよ!」
「そうだね、ぼくじゃなくてみんなだよね」
ケンカにならないように誘導したつもりだけど、いい子達すぎる。それとも、先生の教育の賜物なのか。これなら確かに手がかからなそう。まさに子ども騙しなわけだけど、本当の意味で子どもでやりやすい。
「ウサギさんはどうしてお布団にのってるの?」
「魔物討伐のためにいつでも休んで力をつける為だよ」
「おうちで寝ないのー?」
「おうちでも寝るよ」
「乗せてー!」
子どもの話題と興味はすぐ変わるものなのかな。あれの次はこれと、何気に疲れる。お布団に乗せてあげたいのは山々だけど重量オーバーしないかな。一人、二人ずつだと時間がかかるし順番でケンカになる。さて、どうしたものか。
「お布団よりも、あそこの乗り物で空を飛んだほうが面白いよ」
「えー! あれおもちゃだから、とばないもん!」
「私のアビリ……超能力で飛ぶようになるから乗ってみて」
「ほんとー……?」
女の子の一人が、鳥の形をした遊具にまたがる。たぶん、こぐと進むタイプの遊具なんだろうな。でも私にかかれば、ほら。
「わっ! わーー!」
「しっかりとつかまってねー! どう?」
「とんでるー!」
子どもが落ちないように、しっかりと命令すれば安全。後は残っている遊具にも命令をすれば全員が飛び放題。初めての体験で皆、大興奮だね。私は布団に乗って念のため、安全を確認する。
「モノネさん、私も乗りたいです! ずるいです!」
「ちょっと、子どもみたいな事言わないで」
「アスセーナさん、こどもみたいー!」
「キャハハハー!」
「ほら、笑われてるよ」
「うぅ~~!」
涙目で真っ赤になってるし、本当にどっちが子どもなんだか。かわいそうだから乗せてあげますか。それでなくても、皆で楽しんだほうがいいはず。と思ったら、強引に布団に乗ってきた。そういえば、ずっと乗りたがっていたっけ。
「飛び立ちましょう!」
「子ども達もいるからあまり遠くにはいけないよ。ほら、下にいるカップルも心配してるし」
「あの方々はカップルなのですか?!」
「多分カップル予定」
「まー! お幸せですねぇ!」
「楽しそうだなー! こっちは心配しなくていいぞ!」
ほらね。あの人の仕事ぶりはギルドに報告しておこう。その結果次第で心置きなく、あの女の人と付き合えるでしょう。冒険者をやめれば、ここに就職する未来もあるよ。私ってば恋の求道者の資質あるな。
「この布団って絶対に落ちないようになってるんですね」
「そりゃもう。そんなのは私が許さないからね」
「この高さから、夕日を前にしての語らい……それこそカップルのムードです」
「残念ながら私達は女同士だし、まだ昼間」
「いいじゃないですか。ムードですよ、ムード」
「え、何がいいの。そういう予定入ってない」
アスセーナちゃんが寄りかかってきて、なんかカップルっぽくなってる。デートなんかした事ないけど、こういうのが定番なのかな。なんか肩に手をまわしてきたぞ。
「こうして将来を語らい合うんですよね」
「恋愛小説は読んだ事ないなぁ」
「恋愛、嫌いなんですか?」
「んー、なんか面倒」
「モノネさん、かわいいのにもったいないですよ」
「悪くはないと思ってる。ていうかアスセーナちゃんこそ、どうなの。称号持ってるイケメンとかいそうでしょ」
「あの人達は素敵ですけど、癖が強くてどうも……」
実際、かわいいとして男の子にモテて嬉しいものかな。相手を本気にさせてしまったら、断る時に辛そう。何より付き合ってなにするのかわからない。うん、やっぱり私に恋愛は無理だな。
「はえー!」
「きもちいいー!」
「街の外までいきたい!」
「保育園周辺で我慢してね。機会があったら、ちょっと遠くまで行こうね」
「ほんとう?! ぜったいだよ!」
縦横無尽に飛び回れて、さぞかし楽しめたでしょう。一通り、子ども達を降ろして私達も降りる。まだ寄りかかってきてる隣の女の子を引き剥がして、先生が子ども達を集めた。
「みなさーん、楽しかったですかー?」
「ちょうたのしかったー!」
「じゃあ、次は冒険者のお仕事のお話だな!」
「お、ベルドナさんの出番かな?」
「いや、オレの戦闘Lvは3だから大した話は出来んな。君らが話したほうが盛り上がるだろう」
ジャンとチャックみたいな戦闘Lvを引っさげやがって。といっても私も大した話は出来ない。ここはアスセーナちゃんが適任でしょう。
「ウサギさんが盗賊団を退治した時のお話をされるそうです」
「とうぞくを退治したの?!」
「聞きたい!」
「まだ冒険者になったばかりなのに、ウサギさんはとっても強いんですよ。私よりも素質があるのかもしれません」
これは私が話す流れだね。うまく持ち上げられて一番働いてる気がする。でもすでに子ども達の興味は私に集中してるから、今更引けないな。
アスセーナちゃんも、それがわかってるからこそ誘導してくれたのかも。のせられてる気がしないでもないけど、仕方ない。適当に脚色を加えて盛り上げましょうか。
「ニーナさん、実は大切なお話がありまして……」
「実は私もなんです」
どうせだから子守り冒険者を引き立たせ役にさせてもらおうかな。少し話したら後はお昼寝の時間だ。そこまでくれば私も解放される。眠い。
◆ ティカ 記録 ◆
危うく 子ども達に 玩具にされるところでしタ
バラバラにされては かなわなイ
あの子ども達を毎日 相手にしている 保育園の先生 恐るべシ
どうも 僕は 子どもが 苦手なようデス
はぁ 何もしていないのに 疲れタ
引き続き 記録を 継続
「あの子守り冒険者さん、無事プロポーズ成功したみたいだね」
「おめでたいですネ」
「私達に仕事を押し付けた感があるのは許せないけど、海よりも広い心で許す」
「人の幸せを祝うマスターの元にもきっといい人が現れマス」
「じゃあ、やっぱりギルドにあの人のさぼりっぷりを報告するかな」
「え? 何故……」




