攻撃手段を模索しよう
◆ ランフィルド武器屋 ◆
陳列された武器達の前で、かれこれ数分は悩んでる。この前のストルフ戦で遠距離攻撃がある場合のアドバンテージを思い知ったから、ちょっと真面目に考えていた。まずナイフ。軽いし敵に向かって飛ばせば飛び道具にもなるし、追尾も出来る。
でも他の武器でも同じ事が出来るだろうし、それなら威力が高いほうがいい。剣、槍、斧、ハルバート。やろうと思えばこれらを買って、浮かせてついてきてもらえればいつでも発射可能だ。
「さすがに置き場所に困るかな。他の場所に置こうにも、いちいち取りに行くのが面倒だし」
「マスターのアビリティは見えているものにしか効果がないのですカ?」
「ないみたい。忍び込んできたウェイターさんの時みたいに特定の命令で特定の行動を取らせる事は出来るけどね」
「それでは指定した時間にマスターの元に集ってもらえるようにすればよいのでハ?」
「時間指定とかめんどくさい。この前も朝に起きようと思ったら昼過ぎだった」
「マスターの生活スタイルは多様ですからネ……」
達人剣君がストルフのエアスライサーみたいなスキルを放てればいいんだけど。改めてあの人がかなりの使い手なのかを思い知る。あんなもん、普通はかわしようがない。幸い、射程距離はそこまででもなかったおかげで助かったけど。
「矢が無難かなと思ったけど、ナイフにしても刺さったっきりで使い捨てになりがちだなぁ」
「いざという時の為に何本か用意しておくのがよいのでハ? 奇襲にも使えるかト」
「そうだね。布団の中に忍ばせておけば意表をつけそう」
とりあえず矢は購入決定。矢筒でまとめて管理できるし、かさばらなくていいかな。布団から矢を発射できれば、移動式布団カタパルトの完成だ。剣や槍でも、どこか適当な場所に浮かせておけばいいんだろうけど天井に武器が浮いてる光景が嫌。
「ひとまずこれで戦いの幅が広がったのは確か。使う機会がこないのが一番いいんだけどね」
「マスターは戦闘Lv35以上のストルフに勝っていますから、もっと自信を持ってもよいはずデス」
「あの人には勝てたけど、だからって同じ戦闘Lvの相手に勝てるとは限らないからね」
「アスセーナさんの受け売りでしたネ、無粋でしタ」
こんなにも戦闘について悩むとは、もう私も立派な冒険者だね。戦闘だけが冒険者じゃないけどさ。子守りとかやろうかな。
「お嬢ちゃん、本当に矢だけでいいのかい?」
「いいんです」
「そ、そうだよなぁ」
前に来た時にも浮いている布団を見られてるし、店主も悟っていると思う。得体の知れないお嬢ちゃんが常連になりつつあってごめんなさい。もう堂々と布団に乗って店内を物色してます。
「あれが噂のウサギファイターか……」
「どういうスキルなんだろうな」
「あのストルフに勝ったなんて信じられん」
ウサギファイターで定着している事実を知ってしまったところで店を出よう。誰のせいだ。今度、アスセーナちゃんあたりを問い詰めてみる。
「マスター、魔物討伐に行きませんカ?」
「急にどうしたの?」
「いえ、少しお見せしたいものがありまス」
「珍しいね。じゃあ、楽しみにしておくね」
討伐にいかなきゃダメなのかなと思ったけど、水を差すのもかわいそうだ。ゴブリン退治くらいの難易度の依頼があればいいな。
◆ ランフィルドから少し離れた農村 ◆
「ワシがこの村の村長です。えーっと……あなたが冒険者ですか?」
「恰好はふざけてますが、こう見えても戦闘Lv23です」
「おぉ?! まだ小さいのになんという……」
おじいちゃん村長にはこのウサギファイターが冒険者に見えなかったらしい。というか見えるほうがどうかしてる。そういう時は魔晶板に表示された戦闘Lvを見せるのが一番。小さいのに、が引っかかるけど信用してもらえて何より。
「農作物を荒らす"マササビ"討伐ですね。そいつはどの時間帯に現れるんですか?」
「いつでも現れます。ワシらが非力な人間だとわかっているから、農作業中だろうと食い荒らしにくるんですわ」
「それは胸糞悪いですね。では早速退治しましょう」
マササビ、戦闘Lv12。空を飛び回るからLv以上に厄介な魔物だとか。畑に向かうと、作業中の人達が何人もいる。あのおいしそうな作物はこの村の資源だ。正義の心に火をともして、いざ魔物退治へ。
「で、出たー! マササビだ! 逃げろぉ!」
「サザァー!」
そうやって鳴くんだ。畑をめがけて滑空してきた灰色の体毛を生やした大きいマササビは、思ったより迫力がある。人間なんてお構いなしに畑に着地して、作物に目をつけた。
「たぁぁー!」
「……サザッ!!」
ありゃ。先手必勝とばかりに攻撃したけど、また飛び立たれる。バサバサと飛び回って、私を警戒しているな。ウサちゃんダッシュ攻撃をかわすとは、なかなかの勘とスピードだ。それならこっちも空に行ってやりますか。布団君に乗って、マササビを追おう。
「サザァ!」
「おやおや? 逃げ回るなんて、臆病風に吹かれたなー?」
攻撃を仕掛けてこないで、ひたすら飛び回っている。もしかして私が諦めていなくなるのを待つ気か。接近攻撃して倒せなくもないかな? しかし今日の私は一味違う。
「矢達! あのマササビを射抜けぇ!」
布団カタパルトから矢が一斉に発射されて、マササビを追う。逃げても無駄さ、当たるまで追いかけるからね。と思ったけど、なかなか粘るな。こっちの攻撃に困惑しているものの、必死にかわし切っている。
「サッザァアァッ!」
「よし! ようやく全部当たった!」
「サッザァァァ!」
「おぉ、まだ元気か!」
「魔導銃、発射」
ティカが何か呟いた直後、光の玉が放たれてマササビの胴体を貫通する。
「サザッ?!」
「なかなかしぶといですネ。次は頭部デス」
「ザガッ……!」
何本も矢に刺された上にティカの謎の攻撃で止めをさされたマササビが、ついに力尽きて地上に落下する。危ないから刺さっている矢に命令して、マササビの死体を支えながらも優しく降ろしてもらった。
「ふー、以外と面倒だったな。ティカ、今の攻撃は?」
「魔導砲の魔力を抑えた魔導銃デス。魔導砲ほどの威力はありませんが、発射までのラグもなくて連発も可能デス」
「いつの間にそんなのを。もしかして見せたかったものってそれ?」
「ハイ。ですが、マスターだけでも倒せましたネ。いらぬ手助けデシタ」
照れくさそうにティカが俯く。私がほしいのは謙遜でも自慢でもない。
「何言ってるの。よくわかんないけどティカが成長して、私のためにやってくれたんでしょ?」
「ハイ……」
「自分の為に何かをしてくれたってだけで嬉しいに決まってるじゃん」
「本当デスカ? お役に立てましたカ?」
「立ちまくりだよ。もっと自信をつけてもらうために、こう言おうか。ありがとう!」
「マスター……」
小さい体をふるふると震わせて、私の胸に飛び込んできた。泣けないけど、感情的には泣いているんだろうな。
「今までマスターにばかり戦わせてしまって、どう思われてるかと不安デシタ……」
「そんなの気にしてたんだ。マスターなんて呼ばせてるけど、気持ちだけでも嬉しいからね?」
「なんとお優しイ……」
こうなってくるとさすがにむず痒い。誰かに慕われるほどの人間じゃないし、こっちこそ恐縮したいよ。私が生まれもった力のおかげで、たまたまこの子が自我を持てたってだけで本来は偉そうにできる立場でもない。上とか下なんて煩わしいだけだし、私はティカを対等に見ている。
でもマスターと呼ぶな、なんてそれこそ押しつけがましい。相手に無理矢理、態度を改めさせるほうがストレスだ。
「冒険者様、ありがとうございます! これで農作物の被害がなくなります! 大した報酬も用意できないのに引き受けて下さって本当に……」
「いえいえ、これからもおいしい作物を作って下さいね」
「あの報酬だけじゃ心苦しいので、ぜひこちらの作物をお持ち下さい」
「いいんですかやったー!」
とはいっても料理はあまりしたくない。気づいたけど、いくらイルシャパパの調理器具でおいしいものが作れても面倒という現実は避けられない。この性分がどうにかならないものかと思うけど、どうにもならないからすぐ考えるのをやめる。寝て起きれば悩みなんて消えるんだ。
「派遣された警備兵ですら手に負えなかった魔物を、あんな子がなぁ」
「布団を浮かせて戦うなんて初めて見たぞ」
「それよりあのウサギフードだろ。あの見た目なのに、負けた魔物は屈辱だろうな」
こういうのを聴いても寝ればすぐ忘れる。こればかりは得だと思う。
◆ ティカ 記録 ◆
以前から 感じていた 力の高まり
ようやく それを 発揮できましタ
マスターが どう感じているかは わかりませんが
僕にとって マスターは 恩人デス
振り返ると 意思がない頃は 孤独でしタ
思い出したくもなイ
マスターの周囲にも たくさんの人々がいて 僕自身も いい刺激になりまス
こんな僕に 感動を与えてくれた人を マスターと呼ばずして なんと呼ぶのカ
僕は 何があろうと マスターと共に 歩みまス
引き続き 記録を 継続
「マスター、マササビに刺さった矢は回収したのですカ?」
「回収したよ。汚れないし使い回せるなら使わないとね。物は大切にしないと」
「刺さった状態でまた命令すれば次の標的に向かいますし、相手にとっては嫌な攻撃ですネ」
「でもマササビも即死させられなかったし、魔物相手だと威力不足かもね」
「命令を繰り返して何度でも刺すしかないですネ」
「あんた、案外えげつない事思いつくね」




