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ランフィルド食祭を楽しませよう 1日目

◆ ランフィルド 中央通り "炎龍"ブース ◆


「ミス・アスセーナ! 何故あなたがこんな雑兵どもと行動を共にしているのか!」

「初めまして」


 早朝の開店前で忙しい時に変なのが来た。偵察に来るほど警戒してくれてるのか知らないけど邪魔。アスセーナちゃんも適当に会釈しただけだ。


「なるほど、シルバーの称号を持つ冒険者に依頼を出すとはな。しかしミス・アスセーナも安請け合いしすぎだろう。あなたにこんな汚らしい舞台は似合わない」

「イルシャさん。テーブルはこのくらいの間隔で問題ありませんか?」

「そんな感じでいいよ。欲張って詰めて置いても、混雑した時に大変だもん」

「しかし少々驕りが過ぎるようだな。いくらあなたでも、この料理という舞台で私と張り合うなど不可能だ」

「ドリンクサーバーの位置は暫定であそこに置きましょう」


 さっきから相手にされてないから帰っていいよ。それよりドリンクサーバーは私のアビリティで動かせるから、配置は悩まなくていい。そもそもお客さんに立ち歩いてもらう必要すらないかも。


「そこのバニーフードの少女よ。モノネといったか、君の事を調べさせてもらったよ」

「相手にされないからって、今度は私ですか」

「冒険者デビューして日が浅いというのに脅威の依頼達成率だ。それに戦闘Lv23、君とミス・アスセーナは雑兵などと一括りにしてはいけないな」

「貶してくるかと思ったけど意外ですね」

「誤解されるのだが、私は優秀な者には優しいのだ。つまり君のような人材もまたここにいるべきではない」

「あなたが一番ここにいるべきじゃないんで。何が言いたいかっていうと準備の邪魔」

「おっと、失礼。しかし無駄な足掻きをするものだ。私が相手では全員、皿洗い奴隷と成り下がる運命には抗えない」


「え? 皿洗いって何ですか? 聞いてないんですけど?」


 ごめん言ってなかった。悪気はないんだけど、すごい気まずい。しかもちょっと責めるようにして私の顔を覗き込んでくる。その条件に関しては私のせいじゃない、イルシャちゃんだ。


「ハッハッハッ! ミス・アスセーナほどの人物に皿洗いなど、贅沢が極まるな! ではせいぜい頑張りたまえ!」


 ストルフが機嫌よく笑い去っていった後も、アスセーナちゃんがずっと見てくる。無言で頭を下げても、穴が空くほど見てくる。顔をそむけても追跡してくる。


「私のせいです、ごめんなさい」


 イルシャちゃん、偉い。


「お、どうやら敵さんは向かい側のようだぞ」

「ホントだ!」


 イルシャパパのダリバーさんが言った通り、ストルフが向こうのブースに戻っていくのが見えた。その様相の豪勢な事。白いテーブルクロスがかけられたテーブルが並び、すでにナイフとフォークがセットされている。

 こっちの鉄板焼きとは比べ物にならないほど立派なキッチンとメンツ。ストルフ以外にもコックフードを被った人がいた。あのウェイターといい、どこから連れてきたんだ。


「皆の者、今日は記念日だ。ランフィルドに蔓延る不潔な雑兵料理店を残らず駆逐しようではないか」


 "ラビットイヤー"発動。つい最近、バニースウェットで出来る事が一つ増えた。遠く離れたところの音を拾えるという優れた力だ。おかげであっちの演説も拾えたけど、別に価値はなかった。ところで一人、キッチンを磨いているのは"満腹魔王"の店主かな。なんて扱いだ。


「いよいよ始まりますね」

「残り3秒……2……1……始まった!」


 中央通りにわんさかと人が入ってくる。人、人、人の波がブースまで押し寄せてきて中央通りがすぐに混雑状態になる。


「さぁさぁ! こちら王都の五つ星レストラン"エフェレスト"だ! 予約は一年待ち! 王族も舌を巻く絶品!諸君らにとって、本来は一生に一度とない奇跡がここにある!」


 呼び込み下手すぎか。いや、初動を取られたのは痛い。ましてやあっちにはブランドがある。言ってしまえばそれ一つだけで十分だ。


「あのエフェレストか!」

「本物?」

「いってみよう!」


 客の波があちらに流れていく。いきなり厳しい戦いになったな。開幕早々、長蛇の列があちら側に出来た。出遅れたけどこっちも営業がんばりますか。


「みなさーん、こっちに焼いたり冷やしたり節操のないメンがあるけどいかがですかー?」

「な、なんだアレ? 布団に乗って浮いてる?!」

「その一つがこれなんですけどね。んんっ……冷たいメンの喉越しがまた新感覚! お好みで具もチョイスできちゃう!」

「冷たいメン……それだけ聞くと気持ち悪いけど、あれはうまそうだな」

「汁がない焼きメンの香ばしさ! カレー味にしょうゆソース味、これ選べちゃうから迷うんだよねぇ……」

「あっちもうまそうだな」

「ちょっと食べてみるか」


 よし、掴みは成功。あっちには負けるけど、こっちにも結構な人達が流れ込んでくる。食べてもらいたいなら口八丁の宣伝よりも、実際にうまそうに食べてみせればいい。うまい、うまい。


「ククッ! 涙ぐましいな! だが集客において一流ブランドに敵うものか」


 バニーイヤーで聴こえてますよ一流さん。お客さんもいるんだから、あまり滅多な事を呟かないほうがいい。これがあるからあっちが不穏な作戦を立てていても筒抜けだ。


「入口でお金を払ったら、お好きな席について下さいー! 商品はすぐ届きますので!

その後のトッピングはあちらになりまーす!」

「おいおい、こんなんでまとめられるのか?」

「多少、順番は前後しますが文句一つ言わずにお待ち下さいー! では早速、カレー味焼きメンを頼んだ人のところへ行きなさい!」

「何言ってるんだ……うわっ!」


 出来立ての焼きメンを乗せたお皿君がお客さんの前に到着。こっちにはアスセーナちゃんを含めて、4人の料理人がいる。多少の前後はあるものの、配達ラグはほとんどない。出来た順からどんどん飛んでいく。障害物なんて悠々と避ける。誰が何を頼んだかなんていうのは人間以上にお皿が把握している。

 今更だけどこうなると物そのものにも命があると考えていいかな。火や水、風にはそれぞれ精霊が宿っているというし、差し詰め"物霊"とでもいえばいいのかな。


「おかあさーん! あれすごーい!」

「あそこのおみせで食べたい!」

「なんだか不思議ね。どういう仕掛けなのかしら……行ってみましょう」


 お子さんを連れた家族にも好評だ。最初の最初は押されていたけど、少しずつこっちにも客が来てくれる。チラチラとこっちを伺っている一流がなんだかおかしい。舌打ちまでしてるし、客に聴かれちゃうよ。


「うまい! 冷たいメンってのが不気味だったけど、こっちは確かに新感覚!」

「トッピングもいいアクセントになるな! 特に卵やキュウリなんて合うのかと思ったけど、うまい!」

「こっちの焼きメンもやめられないうまさだぞ! やみつきになる!」

「次は別のスパイスで頼んでみようかな?」

「喉が渇いたらドリンクもあるし、こりゃいきなり当たりの店を引いちまったよ!」

「しかも飲み放題なんだよなぁ。こんなにサービスして大丈夫か? って、ドリンクが来たぞ?!」


「喉が詰まると思うんで、とりあえず一杯お飲み下さいー」


 食べ終わった食器は同じ要領で洗い場に帰っていく。万能のアスセーナちゃんが洗い物と同時に調理までこなしてるから頼もしい。困った時のアスセーナちゃんだね。


「あれが噂のアビリティか……ますます惜しいな。まだガキだし、適当に物で釣れば私に従うかもしれん」


 従いませんよ、一流さん。本当にいい加減にしないと客に聴かれるよ。というかいつの間にか魔法じゃなくてアビリティとして噂になってるのか。これも魔力8の成せる事象かな。


「さぁお客様、当店の料理はいかがですか?」


「んー、うまい!」

「でも、出てくるの遅すぎじゃない?」

「おーい! まだかよー!」


 あっちはあっちで微妙な流れになってる。手間をかけた上品な一皿、そこに一口で食べ終わりそうな肉らしきものが乗ってた。あれが一流の料理か。きっとすごくおいしいんだろうけど、何事にも地の利というものはあります。手間がかかる分、待ちきれなくなったお客さんがこっちに流れ始めてるからね。


「少々、お待ち下さい。その分、至上の品を提供します」


 今はよく我慢してるな。さて、あんなもんの観察よりもこっちだ。お皿君はもう私が指示しなくても、勝手に動いてくれる。ゴブリンフィギュア事件以来、指示出しっぱなしは怖くて出来なかったけど目の届く範囲ならいける。

 でもあの時以上に、私が思った通りの動きをしてくれている気がするな。どこか融通が利いてる。やっぱり私のアビリティ、成長してるかもしれない。


「あー! 喉かわいたなー!」

「あっちの店で冷たいドリンク飲み放題だってよ!」

「いいな! 行ってみるか!」


 よしよし、この日差しを考慮してよかった。この炎天下で歩き回っていれば喉も渇く。一流店でもドリンクは飲めるかもしれないけど、こっちは飲み放題な上にレリィちゃん特製だ。


「かぁぁぁ! なんか気分爽快!」

「暑さが吹っ飛びそうだ!」


「飲めば暑さも吹っ飛ぶ冷たいドリンクはいかがですかー」


 営業も忘れない。一流の店から客を取るだけじゃなく、道行く人もきちんと誘惑しよう。何せあっちのほうが単価は上だ。だけどこの暑さの中で、お上品にテーブルについて高級料理を食べたがる人なんてそんなにいない。そんな状況でちらりとストルフの顔を見たら、とてつもない形相になってた。


「クソッ、この雑兵どもが……。一流の味を理解できんとは、クソッ。オイ、皿洗い! ぼさっとしてないで呼び込みをしてこい!」

「はいいぃ! さぁ皆さん、本来は我々が一生かかっても味わえない料理がここにあります!」

「バカ! そんな呼び込みがあるか!」


「なにあれ……バカにしてんのか?」


 すでに皿洗いにまで降格された満腹魔王の店主が、慌ててブースの入口で声を張り上げる。一流のノウハウが活かされた素敵な呼び込みだ。向こうにも洗い場の設備があるのか。他の店は使い捨ての紙の皿だったり串焼きにしたり手渡しにしたり、なるべく水を使わないように工夫をしている。水魔石の調整が難しかったりして、洗い場の設備設置はかなり難しいからね。

 本来は三等魔石管理士クラスの知識がないと魔石を使っての給水もままならないんだけど、私にかかれば魔石君に何でもさせられる。魔石管理士になろうか。


「カレー焼きメン!」

「ソース焼きメン!」

「野菜ましまし冷やしメンにしよう!」

「おい! 押すな!」

「まだか! まだか!」


 これだけの人数、真面目に人海戦術でやってたらとても捌けない。夕方頃になると落ち着いて、祭り一日目の終わりが近づく。

 皆が汗だくになっているのに、私だけ布団に乗って指示を出したり出さなかったり。そういえばこのスウェット、全然むし暑くならないな。これも物霊の力かな。


「イルシャちゃん達、お疲れ様。なんか私だけ楽してるみたいでごめんね」

「いいのよ、予め決めていた事じゃない。それにモノネさん一人で何人分もの仕事をしてくれてるのよ」

「そうですよ。私なんかもう本当に疲れちゃって。ハーッ、レリィちゃん一杯お願いできます?」

「はい」


 アスセーナちゃんが言うと疲れてる演技にしか見えない。実際、ほとんど汗かいてないし。ダリバーさん達が運営に売り上げの報告を済ませ、私達全員で一息ついてドリンクを飲む。何度も飲んだけどこれは癖になるうまさだ。


◆ ランフィルド 中央通り ◆


「それでは一日目の売り上げランキングの発表です!」


1位 炎龍

2位 ピザキャップ

3位 麗しの雌鶏亭

4位 ドラゴンブレス

5位 満腹魔王

6位以下省略


「やったぁぁぁ! うちが1位だって!」


 順位が書かれた看板が中央通りに立てかけられる。あのピザキャップに勝てるとは思わなかった。それ以外も名の知れた店ばかりなのに、善戦どころか快勝している。イルシャちゃんが一番飛び跳ねて喜んでいるし、私以上に嬉しいんだろうな。


「こ、こんなバカな結果があるか! おい、店主!」

「はいいぃ!」

「貴様の呼び込みが足らんからだ!」

「申し訳ありません!」

「おのれ、腐れ三流未満どもが……! おい!」

「ハッ!」


 ストルフが部下をブースの裏側に呼び出してる。どれどれ、バニーイヤー全開。


「奴らの店の食材を台無しにしろ。手段は問わん。それと適当な奴を雇ってだな……」

「え?! いや、さすがにそれは……」

「なんだ? 貴様、自分の立場がわかっているのか? 今すぐにでも辞めてもらってもいいんだがな」

「そんな事をしなくても、明日には必ず勝ちます……ご自身の腕をどうか信じて下さい」

「黙れ。たかが運び係ごときに何がわかる。やらないなら、とっとと消えろ」

「……わかりました」


 承りました。お待ちしております。


◆ ティカ 記録 ◆


僕も 微力ながら お手伝いをさせていただきましタ

お皿を 一つ 運ぶだけで お子様たちからの 支持が熱イ

しかしながら ぺちぺちと 触られるわ 叩かれるわ 壊れるかと思いましタ

あんな騒がしい子達を育てている 親御さんは さぞかし 苦労されている事でしょウ

今日の勝利は 皆さんの 結束の力デス


引き続き 記録を 継続

「冷やしメン、本当においしいね。焼きメンもうまい」

「マスター、あまり食べるとお体によくありませン」

「平気だって。引きこもっていた時もよく食べてよく寝て育ったから」

「見た目は変わらなくても、体脂肪率というものがありますからね。油断すると死を招きますよ」

「こ、このエリートの説得力よ」

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