最強の敵と戦おう
新作を始めました。
こちらもお読みいただけたら嬉しいです。
怪異さんの怪紀行~魔力なしの役立たずとされて奴隷に落とされたけど「霊魔術」に目覚めたので強く生きたい
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◆ 夢島 ◆
「フヒー! 完全人間とは歳は取らず病気にならず、永遠に生き続ける人間の事だ! フヒ!」
思い出したけど、これも瞬撃少女に出てきた奴だ。メタリカ国滅亡の引き金になった事件で、自らの体を完全人間にした将軍がいたっけ。その実力は瞬撃少女じゃなかったら、世界が滅亡していたほどだ。もしあれの通りの実力だとしたら、私達の手に負える相手じゃない。絶対に勝てない。
「完全人間の詳細は完全に秘匿になっているはずです。小説のほうでも、詳しい内容は省かれてました。なぜそれをあなたが?」
「フヒフヒー! ワシにかかればそんなセキュイリティなぞ無意味ー!」
「レクア、なのか……?」
「フヒ? レクア?」
フッヒーじじいことベルイゼフが、わざとらしく首を捻る。出来れば他人の空似であってほしい。そう、本物はとっくに死んでいるんだ。シャードさんだって、必死に折り合いをつけようとしてるはず。あれが本物だとしたら、こんなに惨めな事はない。
完全人間になってしまったレクアさんを元に戻す方法なんて、わかるわけがないもの。つまり、本物だと知りながらも倒さなきゃいけない。
「フヒー! そうだ! これは冒険者で一番強い奴! よくわかったな!」
「や、やはり……いや、何故だ……」
「シャードさんを保護した探索隊にベルイゼフが接触したのです。手段はご想像の通りですが、その時にレクアさんを拉致しました。そう……まだかすかに息があったと知りながら」
アーリアさんから残酷な事実が告げられる。私でさえ、頭を殴られるほどの衝撃を受けた気分だ。シャードさんに至っては何もかも整理が出来てない。よろめきながら、立つのもやっとな精神状態だった。
アーリアさんはまさか、これを知っていてわざと私達にあんな光景を見せたのか。ふざけてる。そうだとしても、私達にどうしろと。
「ウソ、だ。生きていたなんて。ウソだ……」
「ウソじゃなーい! フヒー! お前、こいつの仲間か? 再会できて嬉しいか? フヒフヒフヒー!」
「レクアをどうするのだ?」
「こいつは今までの実験体の中でも最高の出来だからな! もちろん帝国繁栄の足掛かりにさせてもらーう! フヒー!」
「レクアが望んだのか?」
虚ろな目で、シャードさんがレクアだけを見ている。怒りとも悲しみもともつかない、抑揚のない声だ。当の完全人間となったレクアさんは、シャードさんがいるのに何の反応も示さない。
これが完全な人か。病気にならず怪我もせず、死なず。そして寝る必要もない。何一つ不自由がない。戦闘能力も、私達を遥かに超えている。きっと戦争になれば大活躍だ。うん、それで?
「偉大なる帝国の繁栄に関われるとなれば、本望に決まってるー! フヒフヒー!」
「レクア本人が、そう言ったのかと聞いている……!」
「くどい! くどいぞ、お前ー! フヒフヒッ!」
「言ってない、と解釈させてもらう。モノネ、その剣を私に貰えないか?」
断る理由がない。達人剣をシャードさんに渡すと、腰をやや落として両手持ちで構えた。その刹那、ウサギスウェットを突き抜けて何かが刺してきたような感覚に陥る。空気が無数の針になる感覚、これはシャードさんの怒りだ。それが殺気になって味方の私ですら殺しかねないほど、あの人は怒ってる。
「……ベルイゼフといったな。この世に完璧なものなどないと教えてやる」
「フヒフヒッヒー! 言ったな! 言ったなー!」
「レクア……行くぞ」
殺気だけで死ぬかと思わせたほどだ。戦いが始まり、レクアさんに斬りかかった際の斬撃は空気をも両断したんじゃないかと思える。たった一撃で無数のガラクタが転がり、島全体を震わしかねなかった。
「レクア……それが今のお前の剣か」
その一撃を止めたのは、レクアさんの腕だ。それが剣になり、シャードさんの化け物みたいな一撃を凌いでいる。
アスセーナちゃんも攻勢に転じて、戦いは本格的に始まった。ティカの援護射撃、私のイヤーギロチン。逃げ場を徹底して封じて、攻撃の手を緩めない。
「イフリート・セイバーッ!」
「一刀ッ! 天ッ!」
「風車ッ!」
「サンダーブラストッ!」
各々が持つ最高の技による一斉攻撃。さすがのレクアさんも避けきれずに一撃、また一撃とダメージを蓄積させてるように思える。
だけどそれは気のせいだった。完全人間のメタリックボディは無傷だ。レクアさんが剣を伸縮自在に操り、私達を払いのける。私のイヤーギロチンと同じく、しならせる事によって軌道も思いのままか。
ハッキリとわかるのは、私一人ならとっくに死んでいた相手だ。アスセーナちゃん、シャードさんの本気の攻勢のおかげで私が隙をつけているようなものだった。
「レクアッ! 今の自分を望んでいるのか!?」
シャードさんの空走が縦横無尽に駆け巡る。レクアさんが避けても、それを追撃する軌道は魔法としか思えないほどだ。そんな技にも、レクアさんは何も反応を示さない。
ティカのフリーズガンで足首を固定したものの、一瞬で脱出。その隙にアスセーナちゃんの怒涛の連撃を受けるも無傷。
何が恐ろしいかって、あのレクアさんは攻撃を受けながらも反撃に転じられる事だ。そのせいで、シャードさんはついに一撃を受けてしまう。
「ぐはっ……!」
「シャードさん!」
「人の心配をしてる暇はないぞ……!」
忠告通り、いつの間にかレクアさんが背後にいた。イヤーギロチンで奇襲を防ぐ。負けじと久しぶりに矢で牽制するも、まったくといっていいほど役に立ってない。
私達の最高威力の技ですら、何のダメージを与えられない相手か。どう考えても、逃げたほうがいい。これはもはや国家単位で当たるレベルの脅威だと思う。
「イヤータイフーン!」
「……ッ!」
バニーイヤーを回転させて、ひとまず近寄らせない。ダメージはなくても、防波堤としては機能しているみたいだ。ガリガリとメタリックボディに当てられながらも、レクアさんは近寄れてない。
――こいつ、躊躇してるぴょん
「え?」
――殺された時の記憶があるかもしれないぴょん
「いや、正確には死んでなかったみたいだけどそれはそれとして……」
「あの方はモノネさんに対してのみ、動きが乱れる傾向にありますね」
レクアさんがイヤータイフーンに阻まれた途端、後退した。なるほど、攻めに転じない。無表情からは何の感情も読み取れないけど、もしまだ心があるなら。
「皆、聞いて。このまま戦ってもジリ貧で私達に勝ち目はない」
イヤーギロチンを回しつつ、レクアさんを寄せ付けない。踏み込んでこないところを見ると、予想はドンピシャみたいだ。
体勢を立て直して距離を取り、二人を集めて手短に相談をする。レクアさんは一定の距離を保ち、こちらの様子を伺ってるようにも見えた。これといい、心を失くした戦闘マシーンにしては妙なところがある。
「本当に心がないなら、つまり私の領分だよ。私がタッチさえすれば完封できる。でも、もしそうじゃなかったら……」
「そんな危ない事はさせません!」
「アスセーナちゃんらしくないね。それ以外に勝ち目はないってわかるでしょ。それとシャードさん、一度だけ達人剣君に触らせて。保険をかけておくからさ」
「保険?」
「フヒッ! 完全人間! 何をモタモタしている! お前の力なら、皆殺しだろう! フッヒー!」
フッヒーじじいが、レクアさんの足を蹴りまくってる。あんな仕打ちを受けているのに、レクアさんは何もしない。これ以上、ふざけた真似をさせるか。
散開して、攻めを再開する。倒せないなら、無理に当てにいく必要はない。二人が突破口を開いてくれたら、私の出番だ。
「フヒー! まーだわからんのか! ボンクラ脳め!」
アスセーナちゃんが瞬間移動のアビリティを駆使して翻弄。シャードさんが穴を埋めるようにして、包囲網は整った。そして仕上げにティカがアレの発動準備を開始していた。
「ギャラクシー砲……発射準備……」
「……!」
レクアさんの注意が上空に向いた。本能的にやばいと察知したのか。つまり、あれならダメージを与えられる可能性は高い。
アスセーナちゃんやシャードさんに阻まれつつも、レクアさんが少しずつ押しのける。あの二人の攻撃を一人で受けて優勢とか、もうね。
そしてついにアスセーナちゃんの剣が弾かれ、シャードさんがぶっ飛ばされてしまう。
してやったと安心したレクアさんは、ティカを目標にして飛ぶ。
私もレクアさんを目がけて布団君と共に上がり、突撃する。側面から奇襲されたレクアさんは剣での防御を試みるも、イヤーギロチンとぶつかり合った。
布団君を足場にして、レクアさんと刃の押し合いになる。もちろん押される結果になるけど、眼前にきたレクアさんの刃に指で触れる。
「レクアさん! 攻撃をやめなさい!」
「……ッ!」
レクアさんが私を攻めていた姿勢のまま落下した。ぎこちない動きで立とうとするも、次の行動に転じれないでいる。アスセーナちゃんとシャードさんは警戒を解かず、レクアさんを挟み撃ちの形で距離を取っていた。
「な、なにぃ!? フヒー! どうした!」
「レクアさん。自分が誰なのか、思い出しなさい」
「……ぅ」
レクアさんが初めて声を出した。これでうまくいけばいいけど、どうも完全には命令を聞いてくれない。やっぱり物というには無理があるのかもしれない。今のところ、半々といったところか。
シャードさんが一歩踏み出して、達人剣を水平にして向ける。
「レクア……強いな。お前が私に嫉妬していたのはわかっていた」
「ぅ、ぁ……」
「それでも、私はお前と共にいたかった。荷物持ちだろうと影であろうと……それで幸せだった」
「シャ……ド」
シャードさんは剣を維持したまま、目を閉じる。明らかに隙だらけだ。襲いかかってきたら一溜りもない。その自虐的な言葉通り、死に急いでいるようにも思える。
「だが、今のお前はどうだ。私よりも遥かに強い。もし……お前が今の自分に満足しているなら、心から祝福しよう。他ならない友の幸せだ。だがな……」
また一歩、シャードさんはレクアさんに詰め寄る。レクアさんはまったく動かない。
「もし、そうでないならこれほど悲しい事もない。望まない力を手に入れてしまったのだからな。努力を惜しまなかったお前にとっては、何よりの苦痛だろう」
「ぅ、ぅぅ……」
「その涙は肯定と受け取っていいのか?」
「うああああぁぁ! うおおおぉッ!」
レクアさんが再び暴れ始めた。やっぱり私の力じゃ完全に抑えきれない。私なりに解釈すると、あれはレクアさんであって物じゃないからだ。
シャードさんが刃をかわしてから、苦しそうなレクアさんを目に涙を溜めて見つめている。
「フヒー! いいぞ! いいぞー! テラよ、そのまま殺せぇ!」
「アァアァ、ウウ……!」
「ダメなのか……? 嫌だ、せっかく会えたのに!」
私の力でも足りないとすると、もうあれに賭けるしかない。ただし、その賭けに負ければ私達の全滅という結末だ。レクアさんに心が残っているとすれば、後は一押し。何としてでも、完全に思い出してもらうしかない。
だけどそれは私の力じゃ無理だ。出来るのは――
「シャードさん。その剣をレクアさんに渡して」
「こ、これを?」
「その剣には二人の思い出が詰まってる。レクアさんの動きもね」
「そうか……!」
シャードさんが躊躇なく、剣をレクアさんに差し出す。苦しむレクアさんがピタリと止まり、剣に釘付けだ。意味がさっぱりわかってないベルイゼフは、相変わらずおおはしゃぎだった。
「フッヒー! なーるほど! 最後は潔く自分の武器で殺してほしいのか! いいぞー! そういう奴は大好きだ! フヒーヒー!」
「科学者のくせになんだその見解」
あんなのに突っ込んでる場合じゃない。レクアさんの剣になっていた腕が元の形に戻る。そして少しずつ手を伸ばして、達人剣に触れた。弱々しく、だけど次第に強く握る。ここでレクアさんが斬りかかってきたら、私達の負けだ。完全人間を倒す術は私達にはない。
一度退いて援軍を頼むという手もあるけど、そうなればあのフッヒーじじいを野放しにしてしまう。逃げられたら、見つけ出せる保証もない。つまりここが正念場だ。
「ううぅ……う、あぁぁ!」
「レクアッ!」
レクアさんが剣を掲げる。瞬速で駆け出して達人剣で一閃すると、血しぶきが飛び散った。斜めに斬りあげられて、思わぬダメージに狼狽を隠せない。
「フ、ヒィッ! あ、あぁぁぎゃあぁぁぁ! なあぁあんだぁぁ!?」
「敵は、ここ、か」
レクアさんの攻撃で大きくダメージを受けたフッヒーじじいが、ふらふらと後退して尻餅をつく。剣を構えたレクアさんが向ける敵意の先は一目瞭然だった。
「私、は……そう、だ。何をしていたんだ……今まで……」
「レクアー!」
「シャード……」
夢島に響き渡らんばかりに、シャードさんが叫ぶ。もう確信したはずだ。レクアさんは心を取り戻した。その瞳には光が宿り、今度こそ意志を感じる。
達人剣君が、レクアさんに教えたんだ。あの人ならどう行動するか。それがレクアさんに伝わってくれた。
「な、何だ?! フヒー! 何なのだぁ!」
ただ一人、何も理解できずにうろたえてる奴がいる。仮にも科学者のくせに、本当に何もわからないとは。完全人間になったはずのレクアさんの頬に、液体が流れる。
物霊使いである私がティカに心を与えたように、完全人間にも心を与えた。いや、心を呼び戻せたみたいだ。
「私は……一体」
「レクア、私はここにいるぞ」
「私もここにいる……」
「よく、戻ってきてくれたッ!」
その途端、達人剣がまばゆく光った。レクアさんとシャードさんを包み込まんばかりの光だ。眩しくて目を開けた時には、二つの変化があった。
一つは達人剣が見違えるほどの新品同様の剣になっていた事。もう一つは、レクアさんの肌がメタリックじゃなくなっていた事。ただしこの場合は全裸なので、次のフォローをしないといけない。
「ううぅ! シャードッ!」
「レクア……!」
「フヒィィ?! 完全人間!? なぜだ! フヒフヒフヒイイイ!」
レクアさんが剣を持ったまま、膝をついて号泣した。そんなレクアさんを、シャードさんが抱擁する。
布団君の毛布をレクアさんに被せて、最低限のフォローはした。ここにいるのは完全人間じゃない。判断を誤りもすれば、悲しければ泣く。紛れもない完全な人間だった。
「あ、あの二人……ついに、再会できたんですね」
「アスセーナちゃんまで泣いてどうするのさ」
「だってぇ!」
まだ敵はそこにいるんだけど、アスセーナちゃんの緊張の糸がほどけてしまったみたいだ。人形を扱うかのごとく、私を後ろから抱きしめる。
「シャード、私、謝らないと……」
「そんなものはいい! いいんだ!」
「でも……」
「いいと言ってる! 誰も悪くない! 私も自分を責めない! だからお前も堂々としろ!」
「う、ん……」
涙を腕で拭いて立ち上がり、シャードさんがレクアさんの肩に手を添える。地団駄を踏みまくってるフッヒーじじいだけが、この場で浮いていた。
「フヒ、フヒッ! こんな不条理があって、許されて、たまるかッ! フヒーーー!」
「ベルイゼフといったな。レクアが随分と世話になった」
「礼を言われる筋合いなどなーい! フヒー! おのれ、皆殺しだ! みなごろーし! フヒフヒイイイアアァァァ!」
ベルイゼフが猛り狂って、腕や足がボコボコと変化を始める。頭から足先に至るまで何一つ人間の痕跡を残さずに、なんとも形容できない化け物へと変貌した。
全身に目玉が張り付き、手がドラゴンの頭部みたいになってる。極め付けに顔面も目だらけだ。裂けた口には無数の鋭利な牙を覗かせている。
「フヒィ! 失敗作を処分するハメになるとは思わなんだ! このワシのアビリティを目の当たりにして、全身から汁を垂れ流して驚愕するのは確定事項であるからにしてぇ!」
ドラゴンハンドの口をパクパクとさせて、何か威嚇してくる。大きさだけでいえば、私達の数倍はあった。それが私達を見下ろして、各目玉をあらゆる方へ向けている。
「ワシが完全人間以下だと思うか! この七魔天最強のベルイゼフ・クルイマンのアビリティを手土産に、冥界へと落ちるのだぁ!」
「……言いたいことはそれだけ?」
「なぁにぃ?!」
「あんたさ、科学者のくせに何もわかってないよね」
気持ち悪い目玉を総動員して、何かを探っている。私が言わんとしてる事が本気で理解できないらしい。仮にこいつが完全人間以上だとしても、ここにいるのが誰だと思ってる。
「レクア、託せるか?」
「あぁ」
「はぁぁぁん?!」
最強の冒険者が復活した上に、何を手にしているか。あれはもはや未知数すぎて想像もしたくない。
◆ ティカ 記録 ◆
ギャラクシー砲 いつでも発射可能
だが 不要かもしれなイ
レクアさん 戦闘Lv 今の段階で 200を
越えていル
マスターのおかげで 正気に戻った レクアさん
喜ぶのは まだ早いとは 思うが
何故だろう ここにきて もう危機を感じる必要も
ないというカ
引き続き 記録を 継続
「瞬撃少女の戦闘Lvっていくつくらいだと思う?」
「さぁ……もはや数値で評価できる段階ですらないかと」
「9999999みたいな?」
「一周回って1に戻るとか?」
「え? どういうこと?」
「もしくは表記がヂェ¨ヲヱゥヰとか?」
「なんて?」




