表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/201

夢島に行こう

◆ 夢島 上空 ◆


 夢島の周辺は帝国海軍が頻繁に巡回してるらしいから、布団君で近づく。一番近いマハラカ国から、かなり迂回するはめになったけど海軍と鉢合わせするよりマシだ。

 何せ第六部隊、帝国海軍は主力部隊の一つで私達が撃退した第三部隊なんかとは訳が違う。ここから見える海軍の船団を見る限りではグリディの忠告通り、避けてよかった。船同士が連結して、津波を作り出しながら猛進してる様は魔物といっても差し支えない。

 あれを率いてる隊長は"海将軍"の異名をとっていて、ロプロスにも引けを取らない実力者とグリディは語る。つまり関わる理由がない。


「あの人、あっさり話してくれたね」

「王位継承権もない上に実質、見捨てられたとなっては開き直りもするでしょうね」

「あれから帝国からの圧力がないとなったらね」


 本当に重要な人物なら、もっと必死になるはず。でもあれから何の音沙汰もなくて、グリディが手のひらを返した。

 牢獄にいながら、マハラカ王に新しい商売を持ちかけている商魂の逞しさだ。悪ささえしなければ、調子のいいおじさんだから改心してほしい。


「あれが夢島……。ものすごいガラクタの数」

「あ、あれハ」

「ちょっと!」


 ティカが我先にと夢島に降りていってしまった。こっちが上空にいるといっても、海軍だって空も見上げるはずだ。死角になりそうなところを移動していたのに、見つかったら元も子もない。

 ほぼ急降下で私達も夢島へ降りる事にした。

 一方、半ば強引に連れてきたシャードさんは相変わらず上の空だ。


◆ 夢島 ◆


 実際に上陸してみると、夢とはかけ離れた島だとよくわかる。草木なんてものはなくて、辺り一面に広がるガラクタの山。使い捨てられた魔導具もあるけど、何より驚いたのがティカと同じサイズの人形だった。それも一体や二体の話じゃない。


「なるほど。ここには帝国の歴史が刻まれているようですね。見て下さい、このティカさんと同タイプのゴーレムを……」

「どれどれ……」


――憎イ 許スマジ


「ひゃっ!」


 久しぶりに悪意のど真ん中でびっくりした。他のゴーレムも、これと同じ想いを抱いているとしたら。

見回すと、小型ゴーレム達と目が合った気がした。というより、かすかに動いてすらいる。

 ここにきて、ついに物霊使いの存在意義を失くしてしまうのか。


「ティカ、何か思い出しそう?」

「僕は……ここにいましタ」

「それってパパとママがここに来たってことかな。どうやって……」


「順を追って話しましょう」


 またなんかビックリさせてきた。ガラクタの山の頂上に何かいる。純白のフードを被り、同色のローブを着込んだ女性だ。

 足場にしているガラクタがふわりと浮いて、ここまで降りてくる。近づくにつれて、デジャブ感が強くなった。私はこの人を見た事がある。


「そちらからは初めまして……ですね」

「あの、もしかして元祖物霊使いの人?」

「記憶の中でお会いしましたね」

「ごめん。全然頭が追いつかない」


「初めまして、モノネさんの恋人のアスセーナといいます」


 まず、なんでこの人がここにいるのか。あれは大昔の話のはず。アスセーナちゃんみたいに、丁寧に自己紹介が出来るようなメンタルはない。恋人の情報は必要だったのか。シャードさんも無言で頭を下げているし、さすがは達人だ。


「お二人は初めましてですね。私はアーリア……が所有していたペンダントの物霊です」

「……という事はやっぱり本物はすでに死んでるんだね」

「はい、残念ながら……。しかし彼女の意思や力は、私が受け継いでいます。モノネさん、あなたがここに来るのを待っていました」

「うん。それはいいんだけど、バカだから本当にわかりやすく説明して」

「モノネさんはバカじゃありません!」


 お黙り。この子のノリに付き合ってる暇はない。元祖物霊使いアーリア、私の想像の遥か上をいっていたか。まさか自分の死後も見通していたとは。死後どころか、明日の事すら考えられない物霊使いがここにいるというのに。


「結論から言います。あなたに世界を救ってほしいのです」

「嫌です」

「そう言わずに。せっかく私があなたにそのスウェットをプレゼントしたり記憶の世界を見せたり、そこのゴーレム……ティカさん。その子をあなたの両親に与えて、結果的にここまで導いたのです。ですから、聞いて下さい」

「聞くけど世界は救わない」


 ダメだ、なんかアスセーナちゃんと雰囲気が似てる。記憶の世界ではしっかりとした女性というイメージだった。私という人間は、この手の同性を引き寄せる運命に置かれているのか。


「あなたが魔晶板(マナタブ)で、そのスウェットを購入できたのは私のおかげなんですよ。もちろん、あなたの力で一時的に魔晶板(マナタブ)の潜在能力が引き出されたのもありますが……」

「フレッド夫妻の剣と杖みたいなものか」

「さすがです。ですがあなたがこの域に達するには、まだ経験が必要ですね」

「そういうのはいいから、次の質問ね。今の話を踏まえるとあなたは私の超上位互換で、この世のあらゆる物に干渉できるんだね? よし引退」

「ダメです」

「ダメです!」


 アスセーナちゃんとアーリアさんのノリについていけないシャードさんが気の毒だ。すでにあらぬ方向を向いて、風景を鑑賞している。まだ過去を引きずってるようだから、少しでも刺激になればいいかなと思った。

 いや、私は予感していたのかもしれない。このアーリアさんから語られる真実が、シャードさんに影響を与えると。なんでそう思ったのかはわからないけど。それも全部、この不敵な笑みを浮かべるアーリアさんの思惑通りだとしたら。


「お察しの通り、私はすべてを見通してます。だからこそ、ネオヴァンダール帝国を止めてほしいのです」

「あなたなら出来るんじゃ?」

「……出来ません。事の始まりは大昔……実際に見せたほうがわかりやすいですね」

「え?」


 アーリアさん以外の風景が一気に塗り替わった。立ち位置は変わらずに、違う場所に瞬間移動したかのようだ。


◆ ガンタール帝都 空魔宮 ◆


「余は今、打ち震えておる。もうすぐ、この広き大地で血が流れる事はなくなるからだ」

「それを実現するのに戦争してちゃ世話ないよ」


 どこかの宮殿なのか。広い空間に柱が数本、そして外の色は濁っている。夕焼けのような紫のような、禍々しい雰囲気だ。目の前に女の子が二人、それに対峙している男。身なりからして王族か、王様か。


「アーリアさん、これは?」

「大昔に栄えたガンタール帝国の最後の日です。後に二度ほど改名して、ネオヴァンダール帝国と名乗ります」

「じゃあ、あれは皇帝か。あの二人は……」

「かつてガンタール帝国……皇帝ジャゲルは"全土国家統一"を掲げて、各国を脅かしていました。そこで立ち上がったのがあの二人です。運命の子と呼ばれた少女と魔族の少女……彼女達はついに皇帝の喉元まで迫ったのです」

「なるほど、ここで……あれ。なんだかこのシーンって……」


 これは瞬撃少女のラストのシーンだ。つまり私は小説の世界、いや。実在した伝説の場面を目の当たりにしている。

 となると、この後の展開もわかってしまった。この二人は皇帝に勝てない。ジャゲルは神宝珠の力で自身を化け物にして、二人を圧倒するからだ。


「ハハハハッ! 迸るぞッ! この力ァ! 素晴らしい!」


「な、なんだあの化け物は!」


 化け物へと変貌したジャゲルに、シャードさんが驚愕してる。そして反射的に剣を抜こうとするけど、丸腰のこの人にそんなものはない。癖なんだろうな。やっぱりこの人には剣士に戻ってほしい。


闇属性超高位魔法(エビルパニッシャー)ッ!」

「うわぁぁぁぁぁッ!」


「モノネさん!」


 気がつけばアスセーナちゃんに抱えられていた。記憶の世界とはいえ、それだけ今の攻撃がリアルな様子で迫っていたからだ。視界が闇一色になり、自分さえも黒に染まる感覚。

 もしこれがリアルなら、今の一撃で死んでいた。アスセーナちゃんでさえ、反応できてなかったほどだもの。


「モ、モノネさん……すみません。これ、現実じゃないのに……」

「わかるよ。それだけ迫力あったもんね」

「あ、あの二人! まずい!」


 先を知らないシャードさんが、さすがに狼狽してる。二人が瀕死の様相で倒れていた。ピクリとも動かない二人に、ジャゲルがゆっくりと近づく。余裕たっぷりで止めを刺さんばかりだ。

 わかっているのに歯がゆい。結論からいえば、この二人は助かる。


「運命の子よ。どうやらすでに雌雄は決したようだ。もはや動く事すら叶わぬだろう」

「げ、ゲホッ……ゲホッ……」

「これこそが現実。希望を託された英雄が必ず勝つ世ではない。英雄は名を残せたからこその英雄……その下でどれほどの英雄になり損なった屍があろうか」


 調子に乗ったジャゲルがご高説を垂れている。この慢心がなければ、そこの二人に止めを刺せていたものを。

 でもこの場にいながら、その後の展開を予想できるかとなれば無理だ。


「ど、ういう、こと……」


「ま、待って……バカ……!」


 すすり泣きながら、うわ言のように何かを繰り返す少女。私はわかるけど、傍から見てるシャードさんは困惑してる。

 魔族の少女ウウルが、運命の子リュクの意識に語りかけているんだ。ウウルが自分を犠牲にしてリュクを助けようとしてる。なんとも悲壮なシーンだけど問題ない。

 万事休す、といったところだけどここであの二人が来る。


「エンジェルリカバー」


 突如、現れた金髪の少女の回復魔法で二人の大怪我が嘘のように消える。

 その傍らにいるのが夢にまで見た本物、即ち瞬撃少女本人だ。ブルーのショートカットに幼さが残るやや吊り目。何より目立つのが短パンで、太ももをはだけさせている。

 その手に持っているのが、かの有名な魔剣ディスバレッドか。幻なのを良い事に、正面にまわって観察してしまった。その横にアスセーナちゃんがくっついて、何かを牽制してくる。


「モノネさん?」

「何」

「私がいますよ。大丈夫です」

「うん」


 なんか怖い。別に好奇心以上の感情はないんだけど、この子ったら予想以上に面倒かもしれない。でもアスセーナちゃんも、目の前にいる瞬撃少女に興味津々だ。なんか剣を抜いて構えてる。


「ダメですね。お話になりません」

「何してたのさ」

「私じゃ戦いにもなりません。というか、彼女と戦いを演じられる生物がいるとは思えないほどです」

「アスセーナちゃんにそこまで言わせたか」


 作中でも一切負けないどころか、世界を滅ぼす魔物を一撃で倒しているような存在だ。ついこの前まで創作の人物だと思っていたのが、これだもの。世界は広いし、歴史も深い。

 そしてもう一人、ひょっこりと出てきた子がいた。この私よりも年下の女の子は確か。まぁ今はいいか。


「な、なぁ、にッ……!」


「冥王が怒るから、破壊しないでおいたよ。ちゃんと冥界に行ってね」


 ここからは瞬撃だ。さっき私達に死を実感させた闇の魔法すらも通じず、ジャゲルは瞬撃少女に一撃で消し飛ばされてしまう。かくして悪の皇帝は倒され、帝国も滅びを迎える。


「なん、だ? 何が起こった? 斬撃のモーションすらないが……」

「アビリティ、ではなさそうですね。月並みな発想ですが、あれは私達が認識できる斬撃ではないと考えられます」

「バカな。超速度だと言うのか?」

「瞬撃少女、ですからね」


 実力者同士が考察してる。なるほど、あの子達から見た瞬撃少女というのはなかなか新鮮だ。私なんかは瞬撃少女相手じゃなくても、初めから劣等感なんてない。むしろ勝てないなら、逃げる口実にすらなる。

 そして戦いという名の処刑を終えた瞬撃少女が運命の子リュク、魔族の少女ウウルと話し始めた。その内容は同性同士の結婚についてだ。


「お、女の子同士……ですよね?」

「うん、そうだよ? あ! でもね……一つ、大切な事があるんだ」

「大切な事?!」


 瞬撃少女が神妙な顔で、何かを明かそうとしてる。食い入るようにアスセーナちゃんが、すごい顔を近づけてた。確かにこの展開は、あの子の好物だ。今や私も人の事を言えないけど。


「実はね……女の子同士だと子供が出来ないんだ」

「知ってる」


「「……ッ?!」」


 シャードさんが、何言ってんだこいつみたいな顔をしてるのはいい。アスセーナちゃんがうな垂れているのは理解できない。あなた、わかってたでしょ。

 何はともあれ、運命の子と魔族の子は末永く幸せに暮らしたのでした。めでたしめでたし。


「あれが……瞬撃少女ですか」

「あれ、もしかして自信喪失……?」

「変ですよね。今まで私が他の方々に散々、与えたものですよ。そう、屈辱や劣等感……」

「はい、私がいる」

「モノネさん?!」


 困った時は抱きつく。私の身長じゃ、抱擁とまではいかないのが悲しい。自分がやってるくせに、やられるのは弱いのか。アスセーナちゃんが固まってしまった。


「モノ、ネ、さん……」

「なんかごめん」


「えー、コホン」


 記憶の世界で、こんなのやってる場合じゃなかった。アーリアさんがわざとらしく咳払いをする。私も段々とアスセーナちゃんに染められてるのかもしれない。


「アーリアさん。このガンタール帝国ってここで滅んだよね」

「瞬撃少女はミスを犯しました。彼女はジャゲルを完全に『破壊』すべきだったのです」

「え……というと、ジャゲルは死んでない?」

「すべてはここから始まったのです」


 めでたしめでたし、で終わった物語に続きがあるのはよくある事だ。だけど、それが現実に存在しているとなれば話は違う。アーリアさんの言葉の続きを聞かずに帰りたい。あの瞬撃少女がミスをしたなんて、私以外の皆の夢が。


◆ ティカ 記録 ◆


僕の 仲間達

なんと 痛々しい姿ダ

僕は ここにいタ

とても冷たくて 寂しかっタ

心がある 今だからこそ 何度でも いえル

マスター 僕は あなたに 出会えて よかっタ

願わくば 僕の 仲間モ


引き続き 記録を 継続

「突然、異世界に呼び出された少女は王様に戦力として期待されるけど……」

「モノネさん、次回作ですか?」

「うん。でもなーんか、これでいいのかなってね。こう、主人公がすごく残酷というか……。

読者はやっぱり正義の英雄のほうがいいのかな?」

「万人向けなのはそうかもしれませんね」

「うーん、だよねぇ。そっぽ向かれるのは嫌だ」

「なんですの、この会話……なんだかとても危ないですわ……」

「気にしなくていいよ、ジェシリカちゃん」

「メタメタってやつだなー!」

「こらぁ! ナナーミちゃん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ