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帝国第三部隊をどうにかしよう

◆ ランフィルド 中央通り ◆


 住民の避難が課題だけど、私にそこまでの余裕はない。実は警備兵の姿がなくて、これも拉致された可能性がある。つまり今のランフィルドは無法地帯だ。割と平和な街だからよかったものの、時間が経てばすぐに治安は悪化する。

 目の前にはネオヴァンダール帝国第三部隊。その隊長と部下が数名だ。街に散っているのも含めると、ざっと200人以上。更にはフレスベルクとかいう飛空艇に更にいると考えれば、もはや私の手には負えない。


「君ィ、もしや我々に勝てると思ってないかね? だとすれば浅はかだ。このユクリッド国について、あらかた調べさせてもらったよ。王都の騎士団を含めても、我ら第三部隊だけで事足りる。知らんかね? 我ら帝国の各部隊は、小国程度なら攻め滅ぼせるほどの戦力を有しているのだ。特に第五、六、七の主力部隊ならばアバンガルド連合とも渡り合えると目算できている」

「君ィ、まで理解した」

「一介の冒険者に過ぎない君が、立ち向かえる相手ではない。私はね、こう見えても叩き上げなのだよ。このアビリティが認められたのもあるがね。少なくとも君くらいの歳には、すでに一通りの武術を叩き込まれたものだ。ここにいる者達も同じでね。帝国軍人たるもの、丸腰でも魔物と渡り合え。例え体が貫かれようとも死なず、背水とて動じず。皇帝陛下万歳を三唱せよ。貰いません、栄光を掴むまでは。ま、これは子どもの頃から誰でも教え込まれているがね」

「教え込まれているがね、だけわかった」


 無駄な帝国知識を叩き込まれてる。その間に周囲を伺うと、人だかりが出来てしまっていた。これは見世物じゃない。

 このウサギファイターのせいで、場の緊張感が薄れてしまってる可能性もある。その証拠に、私の元へ子ども達が集まりつつあった。


「まずはこの街を拠点とするのもいい。この平和ボケした者達に帝国精神を叩き込む事によって、いずれは我が国の支配下に置く」

「あの、本気で言ってる?」

「私は冗談が嫌いでね。それとも君ィ、どうにか出来るとでも?」

「いや、本当にこの街について調べたのかなと」

「フン、何を今更。警備していた者達は捕らえたし、領主も我が手中だ。これもハメルン副隊長補佐のおかげだよ」


「俺の笛の音を聴いた特定の者達は、そそくさと目的地へと歩くのさ。アビリティ"ハメルーンメロディ"……誘拐の必要すらない」


 そのネーミング基準なら私のアビリティは、モノーネコントロールだ。だからネーミングは安易にやってはいけない。


「わかるかね? 言ってしまえば、ハメルン副隊長補佐の前では戦力など無意味なのだよ。君とて例外ではない」

「いや、それはいいんだけどさ」

「ハメルン副隊長補佐! やってしまえ!」

「ハッ!」


 ハメルンを仕留めようと思ったけど即、隊長を含めた兵隊で守りを固められる。さすがにしっかりとしたフォーメーションだ。

 うまいとも下手とも言えない微妙な音色が響き渡り、街の人達が同じ場所をぐるぐると歩き出す。これは戦いに巻き込んでしまいかねない。それを見越しているのか。


「勧誘の件もあって街の人間はあえて野放しにしたがな。やろうと思えばこうだ」

「ティカ、やるよ」


 最前列にいる兵隊に魔導銃を撃ち込み、怯んだ隙に蹴りを数発ずつ入れる。前列があっという間に崩れたのを確認した後、狙いはハメルンだ。

 だけど、そうはいかない。隊長が嫌味ったらしい笑みを浮かべていた。こいつのアビリティは確か。


「ヴォンド・スプラッシュッ!」

「やばっ!」


 急いで左にかわした後、隊長の片手からスプレ―状に白い液体が放たれた。あれに当たると、くっついてしまう。殺傷力がないように見えて、必殺級の威力だ。

 しかもあの武器は片手槍か。中距離を保って牽制しつつ、あのアビリティを当てるのが戦術みたいだ。こうなるとティカの飛び道具頼みしかない。


「サンダーブラストッ!」

「カァッ!」


 片手槍で薙ぎ払うと、電撃が拡散されてしまう。何ですか、それ。大した敵じゃないと思ったら、とんだ強敵だ。言うだけはあった。果たしてウサギファイターに勝ち目はあるのか。


「ハハハ! あのガキ、驚いてやがる!」

「ネスクド隊長の槍さばきは全部隊一だ! あのロプロス隊長からも、一本を取ったことがあるのだからな!」

「私がロプロス隊長を知らなかったら何も伝わらない凄さ」


 知っていたからこそ、やばさがわかる。あのアビリティなら槍がどうとかいう次元じゃない気がするけど、今は気にしてられない。

 さっき先制で数人を倒したものの、まだ隊長を含めて6人いる。まずはそのうち一人のハメルンを何とかしないと。

 だけど敵はこいつらだけじゃない。この街にいる兵隊が集まってくれば、更に劣勢になる。そうなるとウサギファイターにいよいよ勝ち目はなくなるわけだ。


「皆、どうした? しっかりしろ!」

「ん……?」


 私とネスクド達が見た先には、操られてる人を抑えようとするシャードさんがいた。まだこの街にいたのか。シャードさんが街の人の体を抑えつけても、あがいて動き出してしまう。笛の音の命令は絶対なんだ。


「なんだ、あの女は」

「街の者でしょう。しかし笛の音を聴いているはずなのに、おかしいですね」

「邪魔だな。消せ」

「ハッ!」


 兵士の一人がシャードさんに近づき、剣を抜いた。シャードさんは街の人から離れようとせず、無防備だった。

 逃げればいいものを、剣が振り下ろされてもシャードさんは一歩も動かない。肝心の剣は両手で抑えられ、いわゆる真剣白刃取りだった。


「クッ……! 何なんだ、お前達は! 乱暴はよせ!」

「何だ、この女! 離せ!」

「乱暴をしないと約束すれば離す!」

「しない! しないから離せ!」

「信用できない!」


 焦った兵士がちょっと面白い。だけど見かねたネスクドが近づいて、槍を突きつける。それでも白刃取りを維持したまま、シャードさんは頑としていた。


「何故、自由に動ける?」

「その手の拘束系アビリティは攻略済みだ。それよりお前達こそ、何のつもりだ?」

「攻略済み……? バカな」

「その笛の音が原因なのだろう? それならば神経をそちらに向けなければいいだけの話だ。慣れないうちは自分の体に針を刺して、痛みで紛らわしていたがな」

「アビリティがそんな事で……?」

「ついでにいえば、そこのウサギの子も同じだろう」

「ハッ……」


 今頃、気づいたか。目くらましされようが体を封じられようが、私を動かしているのはスウェットだ。つまり私にも効かない。事の異常性に気づいたネスクドが、私とシャードさんを見比べる。苦虫を噛み潰したような顔だ。


「我が隊のアビリティが、二人に攻略されただと?」

「更に言えば、そこの男の演奏では限界がある。心に響かなければ、届かない。もう少し技術を磨くのだな」

「な、なんだって!?」


 暗に下手くそ呼ばわりされたハメルンが、思わず笛から口を離してしまう。よほど恥ずかしかったのか、顔が少し赤い。うん、そんなにうまくないのはわかってた。隊長達も薄々気づいていたのか、これにはあまり反応しない。ますます哀れだ。


「シャードさん。丸腰はまずいから、この剣を受け取ってよ」

「……それは出来ない」

「いやいや、ちょっとちょっと」


 なんでこうも頑固なんだろうか。剣を持てば無双だろうに。とはいえ、あの人を縛り付けている何かがあるはずだ。私にはわからないけど、これはひょっとしていい機会だとも思える。


「シャードさん。今から私がこの剣で、こいつらに勝つよ」

「……何?」

「この剣以外、使わない。ねぇ、だから目を離さないでね」

「お前が……何故、そこまで」


 これが正解かどうかはわからない。受け取ってもらえない以上、見せつけるしかないと思った。別に無双してほしいとか助けてほしいわけじゃない。シャードさん、達人剣を通せば放っておけなくもなる。


「シャードさんはレクアさんの事が好きなんでしょ?」

「す、好き、だと?!」

「だったらポジティブになってほしいかなって。今なら思う」

「いや、待て。それは」


 慌てふためくシャードさんが白刃取りを解く。兵士や隊長が後退して、私達に向けてフォーメーションを組み直した。要であるハメルンはさっきの一言が聴いたのか、笛を片手に持ったままだった。かわいそう。


「す、好きとかそういうのはアレだが……いや、しかしな」

「まぁいいよ。じゃあ、私が勝ったらこれを手にしてくれるって約束してくれる?」

「危険な真似はやめておけ。私ごときにお前がそこまでする必要はない」


「フッフッフッ、そうだぞ。君ィ、このネスクドの実力はすでに見せただろう?」


 余裕の態度を取り戻したネスクドが、片手槍を回している。確かに無茶に思えるけど、今の私と達人剣君は以前とは違う。


――問題ない


「問題ないってさ」

「は?」


 達人剣君の評価をそのまま伝えた。あそこにいる全員がアビリティ持ちだとしても、か。つまりここで発揮するのは、かつてのレクアさんの強さ。だけじゃない。まだ剣を振るっていた頃のシャードさんも含んでいる。見せつけるのは二人の力だ。


「君ィ、大概にしろ。今からでも遅くはない。そこの女に助けてほしいと懇願するのだな」

「そっちこそ、自分の心配をしたほうがいいんじゃない? あ、来た来た」


「やぁ、モノネ君。帰ってきていたか」


 現れたダバルさんが仕事着のまま、腕をまくっていた。片手に引きずられているのは帝国兵の一人だ。あそこにいるネスクドの誤算が登場してしまった。


「駅の完成が近づいているというのに、なんて連中だよ。少しばかり痛い目に遭わせてやった」

「あっちは無事なんですか?」

「損傷はないよ。ただこっちはどうだろうねぇ……」


「た、隊、長……撤退、て、ったい、を……」


 なんかうわ言が聴こえてくる。発信源はダバルさんが片手に持っている帝国兵だ。この様子だと、他の兵隊も無事じゃない。更に別方向から、やたら賑やかなのがやってきた。


「いやぁ! 生の人間相手だと、肌に張りが出るねぇ!」

「あんたは骨でしょ、ゲールさん」

「お! ウサギちゃん! 今度、酒をついでくれよ?」

「会話しろ」


 ダバルさんに続いてアンデッド軍団の登場に、ネスクド達の理解が追いついてない。それどころか、ここにいる帝国兵以外の全滅すら認識できてないようだ。

 颯爽と先陣を切って歩いてくる英雄ヴァハールさん、そしてダバルさんが並ぶ。そう、この街はこの国で一番危険な場所なんだ。戦力が集中しているのは王都じゃない。


「ダ、ダバルにヴァハール? はて、どこかで聞いたような? 君ィ、心当たりはあるかね?」 

「も、も、もしかして拳帝では……」

「拳帝……? はてはて? あ、あぁ。あー」


 ようやく理解が追いついたのか、今になってネスクドが慌てて周囲を見渡し始めた。帝国にも拳帝の名は轟いてるのか。さすがはゴールドクラス。


「いや、拳帝が何故ここにいるのだね! 君ィ! 君ィ!」

「そんな事言われましても……」

「まったくこれだから半端な仕事しか出来ないと困る! 君ィ、後で話がある!」

「へ? いやいや! さすがにこんなのわかりっこないですよ! 拳帝の足取りなんて、ほとんど知られてないんですから!」

「言い訳をせんのが出世の秘訣なのだよ!」


 働いてミスをすれば責任と取らなきゃいけない。ヒヨクちゃんも言っていた事だし、こればかりは誰に対しても平等だ。だからこそ、働かないという選択も十分ある。この現場を見て、誰か一人でも帝国で働きたいと思うだろうか。私は帝国じゃなくても嫌だけど。


「ま、ここは私一人が相手をするからさ」

「ほっ、そうか? それならば問題はないがね」


 なんでホッとしてるのかわからない。ウサギファイターだって強いんだ。アイアンの称号だってある。そもそも、たとえ私をどうにかしても根本的な問題は解決しない。あそこの絶対的強者達に殺される未来は変わらないんだから。


◆ ティカ 記録 ◆


帝国第三部隊 あのフォーメーション 隙が見当たらなイ

隊長と笛の男を含めて 部隊の中でも 精鋭なのだろウ

サンダーブラストすら かき消す あの槍さばきは

もはや 神業ですら あル

だがしかし この街に 手を出してしまったのが 運の尽きダ

そして 僕の予想では 飛空艇フレズベルクは アスセーナさんに

占拠されていル


いや さすがにそれは 言い過ぎカ

いかに 彼女といえども 無理だろウ

化け物呼ばわりしてしまっては 失礼極まりなイ


引き続き 記録を 継続

「モノネさん。せっかく付き合ってるのですからデートしましょう」

「いいけど、何をするの?」

「一緒に食事をしたり遊んだりするんです」

「いつも通りじゃん」

「そ、そうですか? 待って下さい。デートマニュアルによれば……」

「アスセーナちゃんがそんなものに頼るとは」

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