表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/201

人命を救おう

◆ 病院 1階の病室 ◆


 急いでレリィパパを布団に乗せて病院へ連れていって一安心。かと思いきや、病状はよろしくない。レリィちゃんが手当てをしたものの、ひどい菌に感染しているらしい。


「夫……ディドは助かりますか?」

「……このままだと危ないかもしれません。後はディドさんの体力次第ですな」


「完璧に手当てしたのに」


 一番落ち込んでいるのはレリィちゃんだ。手当てをしたものの、その後で問題ないと判断したのも彼女だから。だから冒険者ギルドや商人ギルドにまでお父さんと一緒に歩き回った。あのガハハなお父さんの事だから、一見して症状がわかりにくそう。


「うーん……これ、うーん……」


 自分の薬でも治療でも治せないと判断したから、病院に来たのかな。さっきからほとんど喋らないで唸っている辺り、やり場のない悔しさと戦っているように見える。

 レリィパパことディドさんは今はすやすやと眠っているけど、たまに苦しそうに呻く事があった。熱が上がったり下がったり、かなり危ない。


「……ちょうど今、この病院に治癒師様がいらっしゃってね。一応、お呼びしましょうか?」

「治癒師……はい」

「お待ち下さい」


 歯切れの悪い言い方をしながらも、医者は治癒師という人を呼びにいった。治癒師と聞いても、レリィママはいい顔をしない。大体想像がつく。


「レリィちゃん、治癒師って?」

「怪我や病気を治せる魔法を使える魔術師のことだよ。使える人があまりいないから、すごく皆から好かれてるの」

「俗に回復魔法と呼ばれてるわ。問題はお金。普通の人が一生かかっても払えないような金額を請求してくる事が多いらしいのよ」

「ははぁ、それじゃ貴族様だとかその辺り専用みたいなアレですか」


 お金か。金庫からくすねてくれば解決するけど、今となっては良心が痛む。見ず知らずの人の命を救うためにお金を使ったなんていったら、パパやママはどう思うかな。そんな事を言ってる場合じゃないのはわかるんだけど。


「いらっしゃったぞ」

「患者はその男か」


 医者が連れてきたのは、自己紹介や挨拶もなしにズカズカと病室に入ってくるような男だった。いや緊急時だし、そんな余裕はないか。お金の話を聞いて変な印象を持っちゃってるな、私。


「それであの、夫は治りますか?」

「誰に聞いている? そんな心配より、この額を用意できるのか」

「こ、これが代金?!」


 男が紙に書いて突きつけた金額に、おこづかいをもらって贅沢三昧していた私ですら引いた。どうしてこれだけのお金がかかるのか。事前に知っていたレリィママでさえもそう聞きたそう。


「分割でお支払いというわけには……」

「支払い能力がないと断言しているようなものだな。ならば、死ぬ行く夫を見守っているがいい」

「夫は助からないんですか?!」

「このままではな」

「お金はすぐに用意します! ですからお願いです!」

「口約束など信用できん」


「あのさ、どうしてそれだけのお金が必要なのか教えてもらえます?」


 しびれを切らして私は治癒師の男に突っ込む。整った顔立ちで、たぶんイケメンとか言われる部類の男だと思う。金髪の髪を真ん中で分けた面長で身長もだいぶ高いし、大袈裟な白衣からして普通の人は圧倒されかねない。


「魔法は安くない」

「そうじゃなくて具体的に必要経費や労力の観点でお願いします」

「お前達、素人には魔法は手軽なものと映るだろう。しかしそうではない。要求される集中力に精神力、それに魔力。そして選ばれし者による過酷な修業の成果を凡人に恩恵として与えてやるだけ、慈悲を感じてもらわないとな」

「わかりました。魔法の事はよくわかりませんし、反論する言葉も見つかりません」

「理解できたのならいい」


「レリィちゃん、お父さんを助けるのに必要な薬って作れる?」


 一度は迎合したと思った私がすぐレリィちゃんに話を振ったものだから、治癒師のイケメンもいい顔はしない。唇をわずかにつぐんで、何かを堪えていた。


「……作れる。でもわたしじゃ用意できない」

「なんだ、作れるんだ。私に頼めばいいよ、なんたって冒険者なんだからね」

「おねーちゃん……」


 さっきからお父さんの容態を覗き込んで唸っていたのは、症状と菌を特定してたからかも。見ただけで判断できるものかな。とにかく、天才児が作れると判断したからには信じてあげようじゃないか。


「そんな子どもに何ができる」


「レリィちゃん、必要なものを書いてくれる?」


 治癒師の皮肉は聞き流して、レリィちゃんに必要なものを書いてもらおう。たくさんあったらやばいなと思ったけど、書かれていたのは一つだけだった。


「エアルミナの花……」


「ハッ! エアルミナだと? あんなものが治療の役に立つなど聞いた事がない」


 いちいち治癒師がうるさい。協力する気がないなら覗き込んでくるな。こんなのに腹を立てて言い返すのも時間の無駄だから徹底して無視。時間がないから、とっとと冒険者ギルドにいって依頼を請け負おう。


「エアルミナの花? いや、待てよ。もしかしたら……」


 治癒師とは違って、医者は何か思い当たるものがあるらしい。顎を引いてブツブツと呟いている。


「おねーちゃん、わたしも連れていって」

「そうだね。採取なんて初めてだし、現地にいって困る事もあるだろうからね」


 了承した途端、布団に飛び乗ってきた。単にこれに乗りたかっただけじゃ、と思わなくもない。


◆ 冒険者ギルド 1階 ◆


「エアルミナの花採取、誰か一緒にいってくれる人はいませんか?」


 パーティは苦手なんて言ってる場合じゃない。難易度が高いらしいし、強い魔物がいるんなら私だけじゃ不安だ。だからこうして呼びかけているんだけど、誰も乗ってこない。フレッドさんカップルもまたこういう時に限っていない。


「エアルミナって確か……採取場所にはアレがいるだろ」

「一応、コツがあるらしいがな。ただ失敗した時点で戦闘Lv20超えの化け物と戦闘確定だからなぁ」


 採取場所の近くを縄張りにしているのは"うろつく番獣"という魔物で推定戦闘Lv23らしい。なんとフレッドさんが散々こだわっている、あのブラッディレオよりも高くてビックリ。毛皮と肉に高い値がついてるけど、強すぎて割に合わないという評価も。


「よければそのコツを教えて下さい」

「採取に成功した奴が話していたのを聞いただけで俺自身は試してないがいいか?」

「いいです」


 誰となく呼びかけたら、近くに座っていた冒険者が応じてくれる。どうも薄々感じていたけど、冒険者達が怖がる戦闘Lvがわかってきた。ここの人達の半分くらいが戦闘Lv10以下、それ以上となるとフレッドさん達くらい。

 アスセーナさんがいう戦闘Lv10もあれば安心というのは、あくまでこの人達の活動範囲に限定した話だった。ブラッディレオはなんか特別な事情がありそうだけど、うろつく番獣はアンタッチャブル的な扱いで本来戦うような相手じゃない。そんな認識で大体合ってると思う。


「うろつく番獣を見かけたらまず背中を見せろ。敵意がない事を伝えるんだ」

「その時点で怖い」

「わかるがな。うろつく番獣が正面に回り込んでこようとするが、それに合わせて背中を見せろ」

「お布団でクルクルまわります」

「もう一つ。武器を見せるな。奴は賢いから武器を持っていた時点で自分を狩る可能性があると判断する」

「お布団に剣を隠します」

「三つ。気づかれないように採取しろ、これが一番難しい。背中を見せていても採取がバレると襲ってくる」

「無茶振りすぎる」

「だから難しいんだよ……」


 なんで未だにこの依頼が達成済みになっていないのか、よくわかる。こんなもん誰もやりたがるわけない。それでも依頼があるのはエアルミナの花に価値があるからだろうけど。


「レリィちゃん、聞いた通りでかなり危険だけどいい?」

「うん」


 オオサラマンダー討伐に向かう両親についていったくらいだから、ある程度の覚悟はあるか。この歳で本当にたくましいし、頼りになりそう。でも私がしっかり守らなくちゃね。だからうろつく番獣君、襲ってこないでね。


「場所は魔晶板(マナタブ)で確認したし、行こうか」

「フィータル草原、広いから迷わないように気をつけないとね」


「あ、布団に乗るのはさすがにうろつく番獣もいい顔しないかもな」


 魔物のご機嫌取りも楽じゃない。私だって自分の部屋に誰かが入ってきたらいい顔はしないし、うろつく番獣君を責めないよ。ただちょっとだけそこに生えているものがほしいだけ。人の命がかかってるからね。


◆ ティカ 記録 ◆


誰かのために 自分から 何かをしようとするマスター

やはり 僕が見込んだマスター

アビリティも 魔力も 人の為に使う姿は 美しイ

余計なプライドあっての 輝きはないと 断言できまス

あの治癒師 少々 思い上がりが 過ぎまス

せめて 誰かのために 動こうとする 意思を 貶す姿勢は 許せませン

マスターに免じて 対処は 見送りましょウ


冒険者達 命が惜しいのは わかりますが

自分よりも 年下で 経験も浅い マスターが

向かおうとしているのに なんとも 情けなイ

戦う力がない レリィさんは 父親のためとはいえ 勇気を出したというのに

マスターとて アビリティがあるとはいえ ついこの前まで 戦いとは無縁の方でしタ

このティカ 出来る限り マスターを 支えまス


引き続き 記録を 継続


「レリィちゃんの両親の話だと、王都には凄腕の冒険者が集まってるんだっけ?」

「うん。でもあまりいい雰囲気じゃないから好きじゃないっていってた」

「そうなんだ、それなら私も行きたくないな。行く機会もないだろうけど」

「おねーちゃんなら大丈夫だと思う」

「ありがと、でも行かないに越した事はないよ」

「わたしはおねーちゃんといつか行きたいな」

「旅行くらいなら、いってもいいかもね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ