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達人剣のルーツを知ろう

◆ ノームの国 第3区画 ◆


 地下にあるノームの国は、蟻の巣みたいに通路が入りくねっている。私達がいる3区画は、武器を初めとした鉄鋼品を製造する場所だ。そこから各店や他の国に輸出するほど、製造が盛んらしい。宿がある第2区画から程ない距離にあるここを訪れたのは理由があった。

 今、このドワーフの鍛冶師に見てもらってるのは達人剣君だ。ついでにアスセーナちゃんの剣も研いでもらったし、結果的には来てよかったと思う。


「ふーむ、これは確かにオラ達が打ったものだなぁ」

「相手が誰かわかる?」

「客の名前か? そりゃわからんべ。打ったじいさんも、ちょっと前に死んじまってなぁ」

「がっくし……」


 達人剣君の持ち主がここに立ち寄ったのは間違いない。大した手がかりにはならなかったけど、しょうがないか。諦めて帰ろうとした時、閃く。


「そうだ。そのおじいさんが使ってた鍛冶道具ってまだ残ってる?」

「あぁ、あると思うべ。そんなもん、どうするべ?」

「触らせてほしい」

「それだけか? 変な子だなぁ……。ついてくるべ」


 通路を通り、歩くこと数分。じいさんの息子と思われる人が居座ってる洞穴みたいな部屋に通された。ドワーフ特有のずんぐりむっくり体型で、無骨な顔つきをしてらっしゃる。いかにも断りそうな顔してた。鍛冶仕事の最中のようで、こちらには目もくれない。


「客か?」

「ゾゾン、この方々がお前のじいさんの遺品に触らせてほしいとよ」

「なんだと……?」


 仕事の手を止めずに、きっちり対応はしてくれる。こんなウサギまみれの小娘の変な申し出だ。断られても不思議じゃない。手ぬぐいで額の汗を拭いた後、私に顔を向けてきた。なんと、怪しさ満点だというのに何一つ驚いたような様子がない。


「じいさんの客か? それにしては若いな」

「いえ、そのじいさんがこの剣を打ったらしくて。これの持ち主について知りたいんです」

「こりゃ、えらく古いな。だが客なら俺は知らんぞ。じいさんの仕事に口出そうものなら、鉄拳が飛んできたからな」

「この剣、すごく気に入ってるんですよ。ぜひ打った人の道具を記念に触らせてほしいんです」

「なんだそりゃ……。奥に片付けてあるから、好きにすりゃいい」

「どうもです」


 一波乱があるかと思ったけど、すんなりいった。それにしても仕事に口出しをすれば鉄拳とは。私なら絶対に近寄らない。でもそんな人なら、引きこもりなんて部屋から引きずり出しそう。つくづく親に恵まれたわけか。


「モノネさん、これで確信に近づけるかもしれませんね。私も興味あります」

「うんうん。これで達人剣君も観念するしかないよね」


――まったく


 なぜこうも自身について明かされるのを拒むのか。どうもそこが鍵になってる気がしてならない。物置には使い古された鍛冶道具が陳列されてる。どれが何なのかさっぱりわからないけど、適当に触ってみよう。このハンマーっぽいのがいいかな。どれ。


「さーて、何が出て……」


 頭に濁流のように何かが流れてきて、目の前の風景が変わった。


◆ ???? ◆


「ほれ、出来たぞ」

「ありがとうございます! 名工ジャンガに打って貰えて光栄ですよ!」


 さっきのゾゾンさんのおじいさんかな。それらしき人が、鍛冶場で一人の女の子に武器を渡していた。その子がもう一人の子と互いに手を叩いて、喜びを体現してる。


「これで一安心だぞ!、シャード!」

「頼もしいな、レクア」


 一安心だな、と発言したレクアは爽やかに赤髪が目立つあどけない顔立ちの女の子だった。対してシャードはやや長めの青髪が肩までかかった凛々しい雰囲気だ。

 二人の女の子らしからぬ口調が、より厳しさを感じさせてくれた。本来、こうでなくちゃいけないのか。布団に乗ってきて、たまに抱きついてくるとかやっちゃいけない。レクアか。聞いたことがあると思ったら思い出した。

 レクア、図書館でいろいろ調べている時に嫌でも目にした名前だ。赤髪のレクア、その正体は。


「ゴールドの冒険者に恥じない武器に仕上がったな。私も誇りだよ」

「……まぁ、結局は腕一つでどうなるかだな」


 この頃はまだゴールドだったみたいだ。後のプラチナクラスの冒険者レクア。その燃えるような赤髪が特徴だ。私と大差ない年齢に見えるけど、これはかなり昔の光景かもしれない。

 だけど今も絶賛活躍中で、どこにいるかわからない事で有名だとか。そんなレアな人を目の当たりにした私だけど、別に感動とかない。この光景は、アスセーナちゃんに見せてやりたかった。


「お前ら、今度はどこに行くつもりだ?」

「獣魔の森を目指そうかと思ってね」

「あそこには悪魔がいるだろ。ほれ、ギロ……」

「ギロチンバニー。危険な魔物なのは知ってるけど、人類の未来を開拓するには危険な橋もわたる必要があるんだ」


 さすがは冒険者の最高峰だ。志が違いすぎる。恐怖よりも冒険心が打ち勝つんだろうか。人類の未来とか微塵も考えたことないし、何なら自分の未来すらもない。明日の見通しさえ立てられない人間が、これを見ていいんだろうか。


「英雄ヴァハールをも打ちとった悪魔だぞ……。レクア、本当に行くのか?」

「あぁ!」

「……獣魔の森を踏破したら、今後はどうする?」

「え? ううん……まだ決めてないな」

「そうか……」


 見通しが立ってなかった。目先の冒険の事で頭がいっぱい、そんな感じか。冒険に心を躍らせる様は、子どもみたいに純粋だ。冒険者レクア、私には眩しすぎる。共通点は同じ女というだけだ。


「もし踏破したら、少し休まないか? 休息にはうってつけの場所を見つけたんだ」

「へぇ、どこ?」

「ユクリッド国のランフィルドという街だ。まだ発展途上だが、あそこの領主はいい手腕をしている。きっとすごい街になるぞ」

「へぇ、お前がそこまで言うのか。少し考えてみるか」


 ここでまさかの地元が出てくる。レクアはここでランフィルドを知って、剣を売りに来たのか。名工と呼ばれる人物に打ってもらった剣なのに、手放す理由がわからない。もっといいものを見つけたとか?

 今も活動中みたいだし、その可能性が高い。となると、持ち主の候補として除外したのは早計だった。剣を手放しても、戦いをやめたとは限らない。


「持つか?」

「余計なことを気にするな。力仕事は私の領分だろう」

「そうか、それなら頼ろう」


 淡々とした二人だ。仲良しという雰囲気でもないのかな。アスセーナちゃんも、本来はこんな風に真面目な子だと思うんだけど。たまにネジが外れるのか、理解不能な奇行に走る。

 シャードが荷物を背負って、レクアの後ろについて鍛冶場を出ていく。


「……難儀なもんだな。素直じゃねえってのは」


 ジャンガおじいちゃんが意味深な事を言ってる。どういう意味だろう。聞きたいけど、こっちの声は届かない。また次の仕事に取り掛かるおじいさんの背中を見ながら、これ以上は得られるものはないと思った。


◆ ノームの国 第3区画 ◆


「モノネさん!」

「ぎゅえっ!」


 ハンマーから手を離したと同時に、圧死を覚悟するほど抱きつかれた。前に戦争の風景を見た時もそうだけど、私はどういう状態なんだろう。眠っているような感じかもしれない。

 頬ずりしてくる子を引き剥がしながら、見たものの説明をする。プラチナの冒険者レクアと付き人のシャード。この剣の持ち主がレクアの可能性があること。すべてを話すと、アスセーナちゃんが考え込む。


「話を聞く限りでは、剣の持ち主はレクアさんである可能性が高いです」

「だよね」


 達人剣君、いや。達人剣さんと言うべきだろうか。改めて握りしめてみる。


「あんたはレクア?」


――私は剣だ


 もっともな反応が返ってきた。あくまで本人じゃないのはわかってたのに。仮に持ち主がレクアだとして、言いたくない理由があるとすれば何だろう。プラチナに相応しくない行為をしたとか、考えられる。

 でも今のところ、そんな汚名みたいなのはわかってない。いずれにせよ、プラチナクラスの実力なのは確かだ。


「プラチナクラスならさ、マッハキングもさくっと倒せたよね」


――そう甘くない。それに称号が実力に直結するとは限らない


「何でもいいけどさ。これからは本気で戦ってもらうよ」


――善処する


 この固さは持ち主由来なんだろうか。レクアもシャードも、淡々としていて冗談とか通じなさそうなタイプだった。

 だけどこれで達人剣君は、レクアが持ち主だと自白したようなものだ。前なら称号について語るなんてあり得なかったもの。それだけ心を開いてくれた証でもあるんだろうけど。


「アスセーナちゃんはレクアについてあまり詳しくないの?」

「噂でしか知りません。大体、ゴールドの方々ですら滅多に会えないんですよ」

「マッハキングが実証済みか。コーヒー屋に偽装してるおじさんもいるし……」

「もしレクアさんが持ち主なら、モノネさんはプラチナクラスなんですよね」

「称号が実力に直結するとは限らない」


 もしプラチナに相応しい実力なら、これから先はもっと楽をさせてほしい。レクアみたいに真面目になるから、とは誓えないけど活動はきちんとしているはずだ。プラチナなんて欲しがりません。欲しいのはお金と惰眠だけ。


◆ ティカ 記録 ◆


ノームの国 ドワーフという種族は 温厚らしいが

ゾゾンの祖父は 厳しい方のようダ

仕事に対する 厳しさカ

マスターとは きっと 相容れなイ


プラチナの冒険者レクア その実力は 達人剣が

証明していル

問題は なぜレクアは 剣を 手放したのカ

これに 尽きル

僕は ここに大きな鍵が あるように思えル

もしかすると 僕達の想像も つかない真相かも

しれなイ


引き続き 記録を 継続

「マッハ! マッハ! マッハキーング!」

「どうしたの、アスセーナちゃん。趣味の悪い歌を歌ってさ」

「テンポがよくてハマっちゃうんですよね。こういうイメージソングを作ってみませんか?」

「いや、あれはギャングどもが勝手に歌ってただけでしょ」

「モノネさんのファンが作ればいいんですよ。つまり私がキュート! キュート モッノッネ」

「はいボツ不許可」

「なんでですかぁ!」

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