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ジョーカーの街を後にしよう

 ソリテア王国軍の隊長が目を光らせて、バッドガイズのメンツを観察する。それに対してマッハキングは、運転席でリラックスしてた。私じゃないけど緊張感がなさすぎる。

 ゲラゲラトカゲ達が拘束されていく様を見ながら、ふと思った。これは私達も重要参考人として面倒な事に巻き込まれるんじゃないか。お世話になった手前だけど、これ以上は時間をかけたくない。かといってこのまま退散したら逆効果だ。

 こういう面倒な時はアスセーナちゃんを頼るに限る。よく考えれば私は怪我人。


「マッハキング、お前については調べがついてる。あいつらと派手にやり合ったようだな」

「奴らから攻めてきたんだよ。おかげで眠いぜ……ふあぁ~」

「そうだろうな。お前の冒険者としての功績は認めるが、今回の件に関しては見過ごせん」

「オレらも討伐すんのかよ」

「バッドガイズが立派なギャング組織ならば、そうなるな」


 一触即発だというのに、マッハキングは背もたれに体を預けてる。隣の女の人は未だ強張った顔だ。


「まどろっこしいんだよ。やるのか、やんねぇのか。ハッキリしやがれ」

「街に入らせてもらう。その惨状次第では考えよう。場合によっては埃も出るだろうからな」

「待って下さい。私、同じ冒険者のアスセーナです。一つ進言があります」

「何かね」

「あちらのギャングに魔術協会の人間が加担していました。そちらの理屈ならば、魔術協会も同等に扱う事になるのでは?」


 アスセーナちゃんの機転で、隊長がムッと口を噤む。あえて面倒を増やせば、どうでもよくなってくれる可能性が高い。相手はあの魔術協会で、しかも腫れもの扱いされてる過激派(アボロ)だ。

 私ならこれをやられた時点で諦める。だけど、あの真面目そうな隊長はどうだろう。


「それに私達も同じです。バッドガイズに味方をして、敵対組織を撃退しました」

「君はバッドガイズが討伐に値しないと主張したいのかね?」

「いえ、あくまで公平にお願いしたいだけです」

「では魔術協会や君達に対しても平等に……となれば、どうする?」

「甘んじて受け入れます」


 隊長の意地悪な揺さぶりにも、アスセーナちゃんはまったく動じない。きっと、そうなっても逆転できるんだろうな。面倒は増えるけど、負け筋はない。アスセーナちゃんを見てるとそう思える。

 考えてみれば、あの過激派(アボロ)が問題を起こすのは今に始まったことじゃない。その度に、今の隊長みたいに真面目に対処しているのかとなれば答えはきっとNoだ。アンガスの時もうやむやにしてきた組織だし、今回だってきっとのらりくらりとかわすんだろう。国にとっても魔術協会は大きくて脅威だから、下手に事を構えたくないはず。


「フ……君がそれほどまでにかばう理由が知りたくなった。よし、街に入らせてもらう」

「ありがとうございます」


 あちらもあちらで、見透かしてるような気がしないでもない。それなりにベテランだろうし、こういう駆け引きもやってきたんだろうな。何せゲーム大好き王国だ。騙し合いなんて得意か。それはそれとして、当人のマッハキングは運転席で船をこいでた。


◆ ジョーカーの街 ◆


「マッハキング! お帰りなさい!」

「助かったよ!」

「皆もお疲れ!」


 戦いを終えたバッドガイズを祝福する街の人達。それはまるで戦場から帰ってきた兵隊を称えるパレードみたいだった。街を恐怖で支配しているなんてイメージがまったくない。朝も早いというのに元気だ。

 そんな様子を、隊長と数人の兵士が訝しんでる。脅されているんだろうと、兵士の一人の表情が疑いでみち溢れていた。


「……歓迎されてますね。演技ですかね?」

「突発の訪問だというのに、演技は無理があるだろう。そんな風にも見えん」

「で、ではどうします?」


「おい! あれってソリテア軍の兵隊じゃないか?」


 誰かが隊長達を見止めると、あっという間に囲む。さすがに圧倒されたのか、隊長達が背中合わせで街の人達と対峙した。これは何かが起こるかもしれない。


「今更、何をしに来たんだ? まさかギャングを殲滅しようってんじゃないだろうな」

「これまで何もしなかったくせによ」

「言っておくけどな。バッドガイズをどうにかしようってんなら、こっちにも考えがあるからな」

「君達はバッドガイズ……彼らと共存してるのかね?」

「マッハキングが来る前は本当にひどい有様だったんだぞ。あんたらなんかより、よっぽど頼りになるぜ」


 これじゃどっちが悪者かわからない。ますます討伐なんて言ってられない状況になったか。隊長達も居心地が悪いのか、街の人達の一体感を前にして困惑していた。

 そんなところへ、取り囲まれてる隊長達に近づく人がいる。ハリソンさんだ。相変わらず穏やかな表情を崩さず、大衆の中に割って入った。


「お久しぶりですね。ベステフ隊長」

「あ、あなたは……ハリソン伯爵?!」

「隊長、この人が伯爵とは?」

「若いお前達は知らんだろうが、ゲームなどの玩具で財を成した有力貴族だ。国内に普及しているもののほとんどは、この人の事業で作られたものだぞ」

「そ、そんな人が……」

「まぁまぁ、そんな昔話はいいでしょう」


 つまりすごい商人か。うちの両親もランフィルドでは成功したほうだけど、このハリソンさんは桁が違う。話からして、ソリテア国のゲーム文化の基盤を作ったとも解釈できる。どうして人はこんなにも差がつくのか。


「理解できません。あなたほどの方が何故ここに?」

「一言では語れませんね。あなたも定住すればわかりますよ」

「しかし、ここはギャングが……」

「あなたの目から見て、この街はどうですか? 恐ろしいギャングに支配されてるように見えますか?」

「……それは」


「かーーーっ! まーだいたのかよ! どけどけぇ! オレは寝るぞ!」


 せっかくいい雰囲気なのに、マッハキングがカトリーヌで二人の間を通っていく。隣に座っていた女の人が遠くから、そんなマッハキングを見送っていた。兵士二人が付き添っているし、あの人は保護されたわけか。

 私も眠い。ギャングどもがこなかったら、今頃まだ寝ていたはずだもの。あの人達は仕事をすればいいけど、私は寝る。布団に潜って、暖かな感触を楽しもう。


「わかった、今日のところは引き下がろう」

「おう! 二度と来るなよ!」

「隊長、いいんですか?」

「バグ・ドレッドの連中を連行して帰還する。それだけでも成果だろう。連中には聞きたいことが山ほどあるからな」


 隊長も引き下がる口実を見つけたようで何より。こうして布団から兎耳だけ出してると、いろんな音を拾えて便利だ。これは重宝する。


◆ マッハキングのアジト ◆


「モノネさん、起きて下さい。そろそろ発ちましょう」

「えぇ……」

「もうお昼に差し掛かろうとしてます。ヒヨクさんやコルリさんは出発する気満々ですよ」


 仕方ない。重い腰を上げずに、布団を移動させるか。さすがハーピィの朝は早い。いや、遅いね。うん。

 ここからでもわかるマッハキングの恐ろしいいびきを聞きながらアジトの外へ出ると、ガラの悪い連中が待ち構えていた。総勢何人くらいだろう。ボブやスニール、幹部の3人もいる。


「出発ですか。あなた達には助けられましたね。バッドガイズ一同、めっちゃ感謝してます!」

「襲撃されるかと思った。あんた、ナイゲルだっけ。そんなキャラだった?」

「恩人に無礼な態度は取りませんよ。それどころか、オレ達の中では"姉御"ですぜ」

「前にもこんな人種がいたような」


 いた気がするけど、思い出せない。どうでもいいか。


「うおぉぉ! お前らはすげぇけどなぁ! パワーだけは負けんぞ!」

「そうだね」

「だが、そんなオレが勉強をすればパワーも頭もすげぇ! お前らには負けん!」

「わかったわかった」

「ハハハ……あなた達に影響されたのはビッグボイだけじゃないんです。中には冒険者を目指そうって連中もいますよ」

「それはやめたほうがいい」


 何かに憑依されたんじゃないかってくらい、ナイゲルの態度が軟化してる。感謝されて悪い気はしない。こんな私でも誰かにいい影響を与えたなら、それだけでも来た意味があったんじゃないか。他人の人生なんてどうでもいいけど、これこそが冒険者をやっていてよかったってやつかな。


「ボスもすげぇけど、あんたらもすげぇ!」

「そうだな! ボスには勝てねぇけどな!」

「勝ってるけどね」


 ギャングどもが口々に私達を賞賛してる。この街に着いた時、こんな展開になるとはアスセーナちゃんすら予想してなかったと思う。

 冷やかしみたいな口笛が飛び交う中、一人の無口そうな男がヒヨクちゃんに近づく。腰に携えているのは二丁魔導銃か。目立たないけど幹部のガイラークだ。地味に戦ってたのを覚えてる。


「あんたらバルバニースに行くんだってな。だったら忠告してやる。獣人は今でこそ人間に友好的だが、ひとたび怒らせると手がつけられない。どの強国も長年もの間、あそこだけは侵略してないんだ。あの魔術協会の連中ですら、あの国には滅多に近よらない。まぁ大人しくしてればいいが、万が一ってこともある。獣王に気に入られると、いろいろと動きやすいかもな」

「あ、はい」

「獣王はバルバニースを治める王だ。その咆哮だけでドラゴンすらも逃げ出すほど恐ろしい奴という話もある。一方で情に熱い一面もあってな、気に入った相手にはとことん尽くす。弱小国なんかはそれを狙って媚びを売りにくるらしいがな。そういう連中は大抵、失敗して叩き出されてる」

「あ、はい」

「連中、見た目は人間受けするがな。安易に触ったりするなよ。そういうのを嫌う奴もいる。特にもふもふとかなでなではやめておけ。プライドを刺激する可能性があるからな」

「あ、はい」


 なんかものすごい勢いで喋り出した。仲間ですら、そんなガイラークに唖然としてる。普段、無口な人が喋り出すとこうなるのか。特に詳しいことに関してはやたらと饒舌になるのかもしれない。

 それはそれとして、忠告はありがたく受け取っておこう。急に行きたくなくなった。


「小難しいことは言えないがよ。道中、気をつけてな!」

「またいつでも遊びに来いよ!」

「おい、羽女……ヒヨク! ボール勝負するなら歓迎するぜ!」

「おっと、忘れていた。隣国のノームの国はドワーフという種族がいて……」


 なんかまたガイラークのスイッチが入った。これはどこのスイッチを押せば止まるんだろう。有益な情報なら受け取りたいけど、時間だけが過ぎる。手下達に止められたのを確認しつつ、布団でギャングの街を後にした。

 ジョーカーの街か。カードでいえばジョーカーは究極の切り札になる。それと同時に敵に回せば怖い。あの街はどうだろうか。マッハキングを筆頭として、良くも悪くもジョーカーな連中かもしれない。これからどう転ぶかわからないという意味でも。


◆ ティカ 記録 ◆


ソリテア軍 ようやく本腰を入れたようだが

あのジェラルドさんの おかげでも あるのカ

彼を慰めた アスセーナさんのおかげかもしれなイ

最初は 憎たらしかったが 根は悪くない人物

マッハキングも そうだっタ

出会いは いつでも いいものとは 限らないが

時として かけがえのないものと なる事もあル

マスターにとって 今回の冒険は どうだったカ

僕には それが 重要ダ


引き続き 記録を 継続

「あのガイラークってさ、イルシャちゃんに似てるよね」

「あ、わかります。料理となるとすごい早口になりますよね」

「そうそう。話をしているというより、ただ喋ってるだけなんだよね」

「彼の場合、コミュニケーションというよりそっちに近いですね」

「そう、それはぜひお会いしたいわね」

「ひっ! なんでいるの?!」

「今更どうしたのよ」

「いや、なんでもない。そうか、まぁいるよね」

「危ない話題なので、ここら辺で終わりましょう」

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