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マッハキングと勝負しよう

◆ ジョーカーの街 マッハキングのアジト ◆


 通された部屋にはルーレットやダーツの的、ボードゲームが配置されてる。ギャング達が酒を片手に遊びに興じて、勝敗に一喜一憂だ。

 そんな中、中央にあるソファーに異彩を放つ人物が一人で独占していた。黄色いモヒカンが頭にラインのように3本。皮製の黒いジャケットとシャツからはみ出す胸毛。太い手足にも毛が目立つ。筋肉質というよりはやや太めの体型だ。

 あそこでだらしなくワイングラスを揺らしながら、暇そうにしているのがマッハキングか。私達が来たというのに目もくれてない。偽物のくせに余裕だ。


「くれぐれも口の利き方には気をつけて下さいよ。ボスはそういうのにうるさいんです」

「聴こえてるぞ、スニール」


 マッハキングがワイングラスから目を離さずに、スニールを牽制する。それに口をつけて一気に飲み干した後、グラスをテーブルに乱暴に置いた。姿勢を正して、私達を迎えるか。意を決して正面まで近づくと、マッハキングはようやく私達を品定めした。


「……ナイゲルのやつはどうした」

「それが気絶しちまって……そこのウサギ娘にやられました」

「そんな事を聞いてんじゃねぇよ。幹部のあいつが、そこのガキどもを素通りさせたのかよ」

「いえ、勝負で負けちまって……」

「勝負に勝ったら俺に会わせるってか?」


 無言で頷いたスニールが、もう声も出ないくらいびびってるのがわかる。ボブに至っては青ざめてマッハキングを見ようともしない。マッハキングがわざとらしく大きくため息を吐いた後、テーブルを踏んで乗り越えて二人の胸倉を掴む。


「起こしてこいや」

「はいっ!」


 二人がダッシュで部屋を出て行ったのを見送り、またソファーに座った。うん、これは舐められてる。そこへアスセーナちゃんが臆せずにテーブルの前へ出た。

 そんなアスセーナちゃんにも、マッハキングは興味すら示さない。


「マッハキングさん、私はシルバーの称号を持つアスセーナといいます。こちらがアイアンの称号を持つモノネさんとハルピュイア運送のヒヨクさんとコルリさんです。

無礼を承知ですが」

「てめぇら、死にてぇのか」

「はい?」

「ここがどこで、目の前にいるのが誰様かわかってんだろ」


 怒気をはらんでいる事は私でもわかる。ウサギスウェットを通じて、このマッハキングの実力がかすかに伝わってくるような気すらした。

 いや、待って。これは偽物のはずだ。あの拳帝の偽物も強かったけど、こっちはあれ以上としか思えない。偽物の上位互換かな。

 ボブとスニールがナイゲルを連れて戻ってきたところで、マッハキングの興味はまた移る。


「ボス、申し訳ありません。俺が負けたせい――」


 ナイゲルが言い終える前に、ナイゲルに拳が飛んだ。鼻っ柱にヒットして、鼻血をまき散らしながら倒れる。

 周囲のギャング達も、いつの間にか注目してた。それもどちらかというとナイゲルの心配じゃなくて、マッハキングだ。まるで暴れ出すかもしれない猛獣を危惧するかのように、誰一人として喋らない。


「街に入られたのはしょうがねぇ。けどな、なんでてめぇが俺の客を決めるんだ?」

「す、すみばぜん……」

「こいつらの素性も知らねぇくせに、勝手に決めて勝負して負けやがってよ。あ? どうなんだ、コラ」

「軽率でした、すみません……うぅ……」


 鼻も折れてそうだし、床を這いながらも泣きながら何度も謝罪をするナイゲルが痛々しい。ただマッハキングが正しくて、反論の余地もない。暴力で教え込ませる様はまさにギャングだ。さっきまで憎たらしかった相手なのに、こうも哀れむ事になろうとは。

 そんな様子をアスセーナちゃんが静観してる。怒ってるともわからない、ひたすら無表情。マッハキングに対して何を思ってるんだろう。


「で、次はてめぇらだ。覚悟は出来てんだろ?」

「待って下さい。マッハキング、あなたほどの冒険者がなぜギャングのボスを……」

「なんでそんなもん、てめぇに教えなきゃならねぇんだ」

「他にも答えてほしい質問があります。私達は一歩も引きません」

「てめぇ、シルバーの称号だったか。そっちの変なのはアイアンね……なるほど、調子に乗る時期でもあるわな」


 ついにシンプルに変なの呼ばわりされた。この偽物、今回はとことん成りすましてる。称号持ちである私達を見下せるくらいの実力はあるか。依然、余裕な私のスウェットをくいくいと引っ張るのはティカだ。


「マスター、お伝えしたい事が……」

「どうしたの」

「あのマッハキングですが……どうも本物の可能性が高いデス」

「ウソでしょ?」


「街の外に来い。俺と勝負して、勝ったら何でも答えてやる」


 ティカの言葉の後でその背中を見ると、なんだかとても大きく感じる。あの『マッハ!』とか書かれたジャケットは特注だろうか。どうでもよすぎる事ばかり考えているのは、きっと現実逃避の表れだ。当然のように無言で承諾した私以外の方々が、ゾロゾロとついていく。ティカが正しいなら、この恐ろしい事実を早く伝えないと。


◆ ジョーカーの街 付近 ◆


「やばいって。あいつ、本物だよ。今から私達は本物のゴールドクラスと戦おうとしてるんだって」

「落ち着いて下さい。むしろなんで偽物だと思ったんですか?」


 私の訴えも空しく、着実に勝負の時が近づいてる。マッハキングは後から来ると言っていたけど、何をしてるんだろうか。まさか適当な理由をつけて、街の外に追い出したんじゃないか。それならそれで助かる。

 すでにバッドガイズの方々がギャラリーとして集まってるし、中には一般っぽい人もいた。あの人達も脅されてこんなところに。その割には一緒に盛り上がってる気がしないでもないけど、気のせいだ。


「おい、てめーらかぁ! ボスにケンカを売った哀れなガキどもは!」

「冒険者だか知らねぇが、ボスは過去にそんなのもぶっ飛ばしてるんだよ!」

「おい、あの金髪の女よくねーか?」

「オレはあのウサギの子がいいな」

「ゲッ、お前その趣味はまずいぞ……」


 忌憚なき意見を浴びつつも、向こうからやってくるマッハキングを見る。汚い笛の音みたいなのをまき散らしてやってきた。

 マッハキングが乗っているそれは、マハラカ国で見た魔導車に似てなくもない。稲妻をイメージした模様が車体に張り付いて、ピンクとイエローのコンボ。4つの車輪と思われるものは黒く大きい。そして音の正体は、後部からだった。ラッパみたいな筒から、センスのない演奏会のごとく鳴り響いてる。


「ねぇ、一応聞くけどあれは何?」

「あれがマッハキングたらしめるものです」


「これが俺の相棒さ。山も海も、いつだってこいつと越えてきた」


 なに言ってんだ、という突っ込みはすぐに封殺された。あの大きい車体が、その場で何回転かの後、ぴたりと停止する。それに沸き立つギャラリー達。歓声がうるさすぎて思わず耳を塞いでしまった。この熱気を作ったのがマッハキングだ。

 ここまでくれば私でもわかる。単に強いボスというだけで、こうはならない。あのサタンヘッドの火吹き野郎じゃ絶対無理だ。強さ、そしてこの人達を惹きつける魅力を兼ね揃えたゴールドの称号の冒険者、マッハキング。そんな人物に私達は大した理由もなく、挑もうとしていた。


「マッハ! マッハ! マッハキィーングゥッ!」

「キィング! キィング! キィィィィングッ!」

「快速爆速珍速ぅ!」

「オレ達のボスは最強だぁぁぁ!」


「相棒"カトリーヌ"、こいつがいれば俺は誰にも負けねぇのさ」


 あの車体にして、カトリーヌだ。センスからしてぶっ飛んでる。前にアスセーナちゃんが、ゴールドの称号を持つ冒険者は癖が強いのが多いと言ってたのを思い出した。

 なるほど、まともな人なら関わろうとすらしない類だ。そんな私の心中を読んだかのように、ラッパがよりうるさい騒音で答えた。


「ちょっと、あんなの持ち出すとかありなの?」

「剣士が剣を使うように、こいつが俺にとっての武器であり相棒だ」


――相棒、か


 達人剣君が感傷に浸り始めた。そういえば、ランフィルドの武器屋に置いていかれたんだっけ。持ち主は武器の意思なんて感じようがないけど、それでも愛着はなかったんだろうか。拳帝ダバルさんをも凌ぐ凄腕がどうして。いや、そんな謎の前にあれに轢殺されかねない。


「達人剣君、あいつに勝てる? ブオウを子ども扱いしたんなら、いけるよね?」


――初めて見るタイプの相手だ。未知数故に何とも言えない


 そりゃあんなのが何人もいてたまりますか。萎縮した私を見抜いたのか、マッハキングがニカッと笑いかけてくる。意外と綺麗な歯だ。


「勝負方法はシンプルだ。てめぇら全員でかかってきて、この車体に少しでも攻撃をかすらせたら勝ちでいい」

「私達の実力も知らないのに、大きく出ましたね」

「そりゃこっちのセリフだ。調子に乗った後輩を躾けるなら、このくらいがいい」

「後輩……まだ冒険者としての矜持はあるんですね」

「勘違いすんなよ。その鼻っ柱をへし折って、二度と冒険者なんぞやらねぇようにしてやるからな」


 そうなっても、こっちとしてはそれほどメンタルにダメージはない。だけどアスセーナちゃんは別だ。何をやっても手ごたえがない人生だったあの子が、ようやく見つけた自分の居場所だもの。その証拠に、大先輩がギャングのボスをやってると聞いてここまでやってきた。スズメちゃんの居場所はきっと口実だ。


「アスセーナちゃん、逆に鼻っ柱をベキベキに折ってやろうね」

「モ、モノネさん……」

「冒険者、好きでやってるんだもんね」

「はいっ!」


 いつもみたいに抱きついてこなくてよかった。むしろここでそれをやったら、いろいろと台無しだ。何せ目の前にいるのは、化け物揃いと言われたゴールドクラスの一人。

 だけどアスセーナちゃんは言わずもがな、今回はヒヨクちゃんとコルリちゃんがいる。あの見た目からして、空はさすがに無理なはずだ。


「制限時間は?」

「ねぇよ。てめぇらが折れたところで負けだ」

「なるほど……では、始めましょうか」


 不快な音をまき散らしてるカトリーヌと一定の距離を保ち、それぞれが配置につく。マッハキングを囲むように展開して、ターゲットを逸らすのが目的だ。私も布団君で空に退避すれば、一気にやられることはない。


「では心の準備はいいか? 判定はオレ、ジャジーが行う。こう見えても公平な男だから安心しな。それじゃ……スタートッ!」


 開始と同時にマッハキングが消えた。私の思考が追いつかないのはどうでもいい。スウェットや布団君にすべてを任せてから、激突音を認識する。

 ヒヨクちゃんとコルリちゃんが羽をまき散らして、今まさに地上へ落下しようとしてたところだった。


「まーず二匹っと」

「ヒヨクちゃんッ! コルリ――」


「お次はてめぇだよ。変なの」


 マッハキングが空にいる私の真正面に――


◆ ティカ 記録 ◆


ゴールドの称号を持つ マッハキング

口が悪く 粗暴で 短気

それなのに 手下どころか 街の一般の方々にも 人気があル

単なる ギャングでは ないのカ?

その性格が功を成したのか 最速での依頼を 達成できたのカ


戦闘Lvは 脅威の133 しかも それはあのカトリーヌに

乗っていなかった時の 数値ダ

風貌に似合わず あのワイングラスの 飲料水は ジュース


いざ 戦闘開始 ターゲットオン フリーズガ――

「猫ってかわいいよねー」

「モノネさんのほうがかわいいですよ」

「でも一番はウサギかな」

「モノネさんが一番ですね」

「ね、さっぱり噛み合ってないけど大丈夫なの?」

「いつもの事だよ、イルシャちゃん」

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