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ギャング達と勝負しよう

◆ ソリテア国 南部 ジョーカーの街 ◆


「火の鳥ッ!」

「うあぁぁぁっ!」


 ボブがボールを投げる寸前に、ヒヨクちゃんが翼を炎に変えてびびらせた。その拍子にボブがボールを手放して、山なりに軌道を描く。そんな子どもでも取れそうなボールを、炎を解除して両翼でキャッチ。愛おしそうにボールに頬ずりするヒヨクちゃん。勝負あった。


「はい、取ったわ! 私の勝ちね!」

「い、今のはずるいぞ! もう一回!」

「スキル禁止のルールなんてないわよ」

「反則だぁ!」


「やめろ、ボブ」


 地団駄を踏んで悔しがるボブの肩に、バンダナ男が手を置く。涙をにじませたボブがバンダナ男を見上げた。泣くほど悔しかったのか。キャッチボールしか取り柄がないと言ってたし、よっぽど打ち込んでいたみたいだ。


「お、おれ、これしか出来ないのに、負けちまって……」

「また練習してうまくなればいい。スキルにびびって投げきれなかったのはお前の弱さだ」

「おれの弱さ……?」

「今の敗北はお前を強くする。何せ自分の弱点がわかったんだからな」

「……ナイゲルさん」


「先輩、さすがです! あのチビ、完全に先輩にびびってましたね!」


 いい空気に後輩が水を差してる。その先輩が翼の先端でボールをくるくると得意気に回して、遠回しに追い打ちをかけてた。さっきのがよっぽど頭に来たんだろうな。これだから、争いはなくならない。

 そんな二人を鋭い目つきで睨みつけていたのが、サーベル男だ。ボブとは対照的にやせ型で背が高い。一度サーベルを腰の鞘に納めると、今度はあからさまにコルリちゃんを見据えてる。


「ボブの仇を取ってやりてぇところだが、勝負がついた以上は手は出せねぇ。だから、そこの青髪の羽女」

「私ですか?」

「先輩がそんなにすげぇなら、後輩も同じだよな。もし負けちまったら、先輩の教育がなってねぇってことだけどな」

「むかっ!」


 口で「むかっ!」とか言う人、初めて見た。なるほど、街のルールは守りつつも間接的に仇をとるつもりか。でも何で勝負をする気だろう。まさかあのサーベルでぶった斬ろうってんじゃないだろうし。


「俺の名はスニール、勝負は早抜きだ」

「早抜き?」

「互いに武器を抜いて、より先に相手の体に突きつけたほうが勝ち。お前は武器はないが、その翼でいい」

「いいですけど、それだとあなたが不利では?」

「問題ない。だが、今度はスキルを禁止させてもらうぜ」


 スニールが含みを持たせた笑いで、コルリちゃんを挑発してる。何を企んでるのやら。普通に考えればあいつがサーベルを抜くよりも、コルリちゃんが腕に該当する翼を突きつければ勝ちだ。

 バンダナ男ことナイゲルは何も言わずに、腕を組んで静観してる。流れ的に、あいつと勝負するのはアスセーナちゃんだ。 


「いいですよ! やってやりましょう!」

「フ、いい度胸だ。それじゃルールを説明させてもらうが、『攻撃が当たっていたら、致命傷を与えられるか』も勝敗を分けるぜ。もちろん直接、攻撃を当てるのもなしだ」

「どういうことです?」

「つまり、お前の翼よりも俺のサーベルのほうが致命傷を与えられる。翼じゃ斬れんし突けんだろう? クックックッ」

「ず、ずるぅーいです!」

「もう遅いぜ。棄権すれば、俺の勝ちだ」


 もしコルリちゃんが、その類の攻撃が出来たらどうするんだろう。それはさておき、さすがに頭を使ってきたな。勝てれば何でもいいのか。私は何でもいい。

 スニールとコルリちゃんが向き合って、構える。居合いよろしく、スニールが意外と様になってるな。普通に戦っても、そこそこ強そう。ナイゲルが二人の間に立ち、判定をする気だ。審査員が敵かい。


「……始めッ!」

「てありゃぁぁぁ!」


 勝負は一瞬だった。スニールのサーベルがコルリちゃんに届くことはない。コルリちゃんが翼を振って、スニールを吹き飛ばして転ばしたから。

 仰向けに倒れたスニールはサーベルを持ったまま、少しの間だけ呆然としてた。すぐに我に返って跳び起きて、サーベルをコルリちゃんの鼻先に突きつける。


「て、てめぇ! 今のは無効だぜ! そもそもお前の翼は俺の体のどこにも届いちゃいねぇ!」

「いいえ、少し気分が悪くないです?」

「あぁ? あ、あれ……」

「どうした、スニール?」


 頭を抑えてスニールがふらつく。私も忘れかけてたけど、コルリちゃんの翼には毒がある。翼を振ったことで、微量の毒があいつにかかったんだ。当てるのはなしだったはずだけど、もう面倒だからコルリちゃんの勝ちでいい。


「私の翼の毒がほんの少しだけかかったみたいですね。翼を当ててませんけど、当たっていたら致命傷です」

「ひ、卑怯だぞ! こんなもの認めねぇ! ナイゲルさん!」

「そうだな……その羽女がやったことはルールに反してる。よって反則負けだ」

「ガーン!」

「故意じゃなかったとしても、こいつに毒を食らわしてるからな。これで一勝一敗、互いに後がないわけだ」


 もう突破していいですか。もはや何のために来たのか、忘れかけそうになる。コルリちゃんが、先輩に翼で包まれて慰められてた。一応、先輩としてのメンツは立ったわけか。どうでもよすぎる。


「さて、最後は俺か」

「待って。先に勝負方法を提示してよ。今みたいに後出しされちゃ敵わないからね」

「もっともだ。俺が提示する勝負は『ハートボッコファイト』だ。互いに口で攻撃して、先に心が折れた方が負けだ」

「今までの勝負の中で一番しょうもない」


 つまり悪口を言い合うわけか。不毛すぎて終わる気がしない。大体、心が折れるの基準も不明だ。悪口ごときで折れるわけあるか。いや、今までの勝負もなんだかんだ言ってあいつらが有利なものばかりだ。

 でも今回の勝負で、あいつがアスセーナちゃんに何かしないとも限らない。ここは念のため、私がいくか。


「モノネさん、ここは私がいきましょう」

「いや、私がやるよ。アスセーナちゃんはいざという時のために待機してて」

「つまりモノネさんが犠牲に……!」

「大袈裟な」

「そっちはウサギガールかい?」

「うん、私がやるよ」


 ナイゲルがドヤ顔と共に、足でステップを踏み始める。何やってんだ、こいつ。そしてノリノリで踊り初めて、なんか口ずさみ始めた。


「へいへい、やるならスタートするぜぃへい!」

「はい、どうぞ」

「トゥッ! トゥッ! トゥッ! 俺に先行譲るアホゥ!」


「で、出るぞ……ナイゲルさんのアレが」


 もう何でもいいから早くしてほしい。私がこいつを貶せばいいわけだけど、何も思いつかない。正直、興味すらない相手に何を言えというのか。ついにターンをして回転まで織り交ぜたナイゲルが、攻撃とやらを開始する。


「ヘイヘイ! ウサギスウェットに幼児が用事かい? チビに児戯! 女児の児戯! へいっ!」

「うん、へいって言われても」

「次はお前の番だぜぃ!」

「そうなんだ……」


「ぐっ!」


 なんか後ろから呻き声がした。振り向くと、アスセーナちゃんがよろめいて、胸を抑えてる。ふざけてるのかなと思ったけど、顔を見たら本気で痛そうだとわかった。苦痛を抑えつつも、ナイゲルを直視してる。


「アスセーナちゃん?」

「あ、あのナイゲルの……アビリティです……」

「ハッハッハッ! 気づいても遅いぜ俺のアビリティ! 口で撃つ、攻撃即ち口撃ぃ! メンタルダメージボディアタック!」

「つまり……あの人の言葉で傷つけば、本当にダメージを受けるんです。恐ろしいアビリティ……」

「怖いけど、なんでアスセーナちゃんがダメージ受けてるのさ」

「わ、私に構わず、あの人を……」


 誰か説明してほしい。今、私は冷静さを欠こうとしてる。いろいろすっ飛ばして解釈すると、この勝負で私に勝ち目はない。私がいくらあいつを罵っても、文字通り痛くも痒くもないからだ。

 しかも、なぜかアスセーナちゃんがダメージを受けるという怪異まで起きてる。私、なんでここにいるんだっけ。


「だんまりおかんむり? お母ん、いないと無理?」

「ううぅっ!」

「ちょっとアスセーナちゃん……!」


 あのアスセーナちゃんが膝をつくほどの事態だ。あのアビリティ、止めないとやばい。とはいっても、あいつにダメージを与える方法なんて思いつかない。バンダナのセンス、ヒゲ剃れ、いい歳こいて幼稚な悪口。どれもしっくりこないな。

 あいつのアビリティは精神的にダメージを受けると、肉体にフィードバックする。つまりアスセーナちゃんは、私の悪口でダメージを受けてるんだ。自分のことじゃなくて、私のことで。


「アスセーナちゃん、私は何ともないからね。あんなの子どもの悪口でしょ」

「でも、わかってはいるんですけど……モノネさん、かわいいのに……。似合ってないバンダナ巻いてるくせに……」

「それ効くかな」


 いや、真っ先に思いつくような悪口だ。さすがにこんなので傷つかないと思う。


「ウサギがかわいい私もかわいい安直ファッションセンス! 外面よくして中身はこの場ニー放置!」

「ヒュウウゥゥ! さすがナイゲルさん! ハートボッコファイトであの人に勝てた奴なんかいねぇんだよ!」

「俺なんか、何度も心を折られたぜ!」

「マジですか」


 私を大切に思うからこその苦しみなんだ。どんなに幼稚な罵倒でも、悪く言われたくない。つまり、アスセーナちゃんにとって私は大切すぎる友達か。

 アホらしいアビリティだけど、誰がどんな言葉で傷つくかなんてわかるわけない。剣で斬れば誰でも傷つくけど、言葉は多種多様で変幻自在。これほどまでに誰にでも扱える凶器もなかなかない。身近にありすぎて気づかなかった。


「う、モノネ、さん……」

「いや、効きすぎ。ねぇ、ナイゲルさん。アスセーナちゃんがダメージ受けてるからやめてね」

「何の関係が? ヘイッ! お友達が傷ついてハートボッコボコ! 愛おし優しい、その裏返しは甘ちゃん!」

「おい、もう一度いうよ。やめろ」

「ヘイッ! リピート! 何の関係がっ!」


 幼稚な罵倒だろうが、傷ついてる子がいる。アスセーナちゃんがこんなにも弱ってる姿なんて、初めて見た。

 大体、こんなクソみたいな勝負なんて受ける必要がない。ましてや私の大切なお友達がこんな目にあっていて、どこに続ける理由がある。


「ヘイ、眠そう? 瞳が半開き! 野暮だぜそれは生まれつき! ジト目の――」


 黙らせた。バニーギロチンを巨大化させて、弧を描くようにしてナイゲルの足元に突き刺す。ステップも止まって危機を感じたのか、半歩だけ下がった。何度か口を開こうとパクパクさせている。あまりの事で声が出ないみたいだ。


「こ、攻撃、禁止! 口で勝てないからって――うおぉっ!」

「攻撃してないよね。当たってないもん」

「い、今のはかすった! ひぁっ!」


 耳を削ぎ落しそうな距離で振り子みたいに前後させつつ、逃げようとした先にまた突き立てる。イヤーギロチンは三人を包囲するように、完全に動きを封じていた。動けばギロチンが鼻や喉元をかする。


「こ、これは反則……よって勝ぶわぁっ! お、俺たひゃぁぁっ!」

「なんて?」

「お、俺達の勝ちひぃっ!」

「かちひー? なんて?」


 三人の周囲を周回するイヤーギロチンは、あいつらが変な動きをしたら本気で当たる。指先でもかすろうものなら、斬り落とされる。それを肌で感じたのか、三人で固まって縮こまってしまった。


「ヘイヘイ、あんた達びびってるぅ。しょうぶわ? かちひー? 私、わからない」

「わかった! お前の勝ちだ! だからもうやめあぁあああぁぁっ!」


 今のは危なかった。やめようと思ってしゅるりと刃を縮めたら、ナイゲルのズボンごと縦に斬り裂いてしまう。真っ二つに裂けて、見たくもないものが露わになりつつあったから顔を逸らす。同時に気絶したみたいだ。こんなのばっかり。


「ナ、ナイゲルさん?! しっかりしてくださいよぉ!」

「さっきまでのキャラじゃないですぜ!」


 チンピラ二人に同意しながらも、痛みに堪えてたアスセーナちゃんの背中をさする。うっすらと涙を浮かべて、申し訳なさそうな顔だ。こういう時、どうしたらいいんだろう。


「モノネさん、私、足手まといに……」

「いやいや、アスセーナちゃんのおかげで強引に突破できたんだよ。だってあいつ、負けを認めたもん」

「本当、ひどい姿ですね……フフ」


 やっと笑ってくれた。そんな姿を見て思い出す。アスセーナちゃんがいつも私にしていることを。機嫌がいい時は、いつもこうしてくれた。


「モ、モノネさん!?」

「いつものお返し」


 アスセーナちゃんの腰に両手を回して、ぎゅっと力を入れる。二人の体がくっついてお返し完了。身長差のせいで、アスセーナちゃんの肩に顎を乗せてしまった。慣れないことはするものじゃない。

 慣れないついでに、アスセーナちゃんがリアクションに困ってる。微動だにしないし、なんだか体温が高い気もする。ちらりと顔を見ると、頬が紅潮してた。まだダメージが効いてるのかな。熱でも出たら危ない。


「うう、うぅ~~~~!」

「ど、どうしたのさ」

「だって、だってぇ! うう~~!」

「何その声」


 泣いているようにも聴こえる珍妙な声を出し始めた。その途端、逆に強く抱きしめられて思わず息が止まりかける。

 そして膝裏から抱えられて布団に運ばれた。そして覆いかぶさるようにして、私を真上から見下ろしてくる。


「ア、アスセーナちゃん?」

「モノネさん……」


 熱っぽい瞳を向けてきて、いつもと様子が違う。四つん這いになったアスセーナちゃんが、顔を近づけて――


「あのね! あいつらがボスのところへ案内してくれるみたいよ!」

「ヒ、ヒヨクちゃん。そうだった」

「はっ!?」


 アスセーナちゃんが後ろに飛び跳ねるようにして離れる。唇を手で抑えて、何かモジモジしていた。後ろを向いて、今度はこっちを見ようともしない。ここ一連の奇行に、私の理解も追いつかなかった。

 でもヒヨクちゃんの言う通り、今はこんなことをしてる場合じゃない。そしてスニールとボブが、手揉みをしながら今度は低姿勢だ。


「へ、ヘヘ、ナイゲルさんがこんな状態でしてね。俺達がボスのところへ案内しますよ」

「さっきと偉い違いね」

「そりゃもう、へへ……ところで、あのお二人はそういう関係なんすか?」

「そういう関係?」

「いえ、何でもないっす」


 スニールが意味のわからない発言をする。ボブが顔を赤くして、私達を凝視していた。気がつけばギャラリーが集まっていて、熱冷めぬ興奮状態だ。そんなにゲーム勝負が面白かったか。途中から破棄したようなものだけど、楽しんでもらえたならよかった。


「ね、そういう事は後でね」

「なに、ヒヨクちゃん」


 どいつもこいつも、きちんとわかるように言ってほしい。ボスのところに着くまで、一定の距離を保っていたアスセーナちゃん。

 まさか嫌われてはいないだろうけど、私が下手を打った可能性が高い。どうフォローしようか。それにしてもさっきのは何だったんだろう。いつもの奇行よりも、本当に奇行だった。本人に聞こうにもあんな状態じゃ、答えてはくれないか。


◆ ティカ 記録 ◆


ギャングとの勝負は 終わってみれば 呆気なかっタ

初めから こうすれば よかったのでハ

得意分野であろうと マスター達の 敵ではなイ

あのナイゲル 言葉で 人を直接 傷つけるようだが

場合によっては 眉間を 撃ち抜いていタ

下衆の分際で マスターを あそこまで 貶すとは

自分を棚に あげた 見下げた 奴ダ

マスターの温情で 今回は見逃すが 次は なイ


今 ようやく 理解しタ

マスターに 相応しい相手が 誰なのかヲ

だが しかし これは 生物の理として いいのカ

一番 大切なのは 互いの気持ちなのは わかル

しかし しかし


引き続き 記録を 継続

「フレッド夫妻からお手紙がきたよ。戦闘Lvが48に更新されたってさ」

「すごいですね。どこにいらっしゃるんでしょう?」

「アズマという国で、のんびりしてる。山を歩いていたらうっかり遭難して、白い狐に助けてもらったらしいよ」

「それは恐らくダイガミ様ですね。アズマの守り神です」

「そんなのがいるんだ。ユクリッド国にもそんなのいないかな」

「ツクモちゃんはどうです?」

「ちょっと頼りないかな……」

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